この章で学ぶこと 1. 労働市場の役割 2. 失業や様々な格差の発生 第7章 労働市場 3. 格差を解消するための政策 1.はじめに (労働市場とは) 賃金や雇用量はどう決まる 労働市場では 労働サービスが取引される 労働市場の機能 • 労働供給:仕事がほしい • 労働需要:労働者がほしい 需要と供給の調整 • 均衡雇用量 • 均衡賃金 アルバイトは労働サービスの供給 時給は労働サービスの価格 財市場と同じ 労働市場の限界 2.労働市場の機能と限界 失業 労働供給 • 働きたいのに働けない人がいる • 仕事がほしい、働きたい • 市場は需要と供給をうまく調整してくれるはずなの に、なぜだろうか? • 賃金が高いほど、働きたい人は増える 様々な格差 労働需要 • 学歴・性別による格差 • 労働者がほしい • 正規雇用と非正規雇用 • 賃金が高いと、あまり働かせたくない • 市場は公平性を達成できない • 労働需要曲線は右下がり • 労働供給曲線は右上がり 1 賃金と雇用量の決定 賃金と雇用量の決定 財市場と同じように、労働供給曲線 と労働需要曲線の交点で、 均衡雇用量と均衡賃金が決まる 均衡賃金において • 働きたいと思う人は全員が働いている • 企業にとってほしい人数が雇用されている 失業 失業の発生 働きたいと思う人は全員が 働いている 本当か? 働きたいのに働けない人 (非自発的失業者)も いるのではないか? 失業の発生 労働市場と独占力 均衡賃金よりも賃金が高いときに 失業が発生する 買い手独占 財市場における需要不足 • 労働は派生需要である。 製品が売れないのに労働者を雇うことはし ない。 • 財市場の需要不足 製品の価格が低下 • 製品の価格に比べて賃金が高い 失業 • 労働力の買い手である企業が、価格(賃金) 決定力を持つことがある • たとえば、田舎で付近に工場がひとつだけ しかない場合 • 企業は賃金を引き下げる • ふつう賃金が引き下げられれば、 その工場を辞めて他の工場で働けばよい。 しかしこの例では近くに他の工場がない。 2 買い手独占 勤続年数と賃金の関係 2007年賃金構造基本統計調査 一般労働者の所定内給与額 熟練 もう一つの理由 勤続年数が増えると賃金が増える 年功序列賃金 なぜだろうか? 考えてみよう 企業は労働者に長く働いて欲しい 一つの理由は熟練 勤続年数が長くなるほど、賃金が 上昇することを約束すればよい • 仕事を続けることで仕事に慣れる • 仕事を効率的に行う工夫ができるようになる • 急なトラブルにも対処できるようになる 3.さまざまな格差 • 熟練から得られる利益 • 企業のために一生懸命働いて欲しい • 労働者にとって、賃金が低い勤続年数が短い間に、 会社が倒産したり解雇されることが最も困る • 企業のために一生懸命働く 非正規労働者の増加 非正規労働者の増加 • パートタイム労働者・派遣労働者など 原因 • 柔軟な雇用を労働者自身が望んだ • 解雇しやすいので雇用量の調整が簡単 問題 • 雇用が不安定で賃金が低いことが多い • 熟練労働者が育ちにくい • 正社員への仕事の集中 労働力調査 3 世代効果 男女間格差 転職を繰り返しても 正規労働者になれない • 中途採用市場が十分に整備されていない • 熟練による技術の蓄積がない • 就職失敗組というレッテル貼り • 就業意欲の喪失=ニート・フリーター たまたま学卒時に景気が良かったかどうかで 長期的に挽回不可能な格差が生じる M字曲線 2005年国勢調査 学歴間格差 女性の労働参加率 • 20代後半から30代前半にかけて低下 結婚・出産・育児による離職 子供が手を離れた頃に復帰 • 熟練に向けての技能形成の断絶 • 復帰しても働き続けた場合と比較して賃金の低い職に つく場合が多い 女性だけの問題ではない • わが国の半数の労働者の技能形成が断絶 • 少子化の原因にもなる 学歴間格差 採用時点で格差 勤続年数とともに格差は拡大 2007年賃金構造基本統計調査 男性一般労働者所定内給与額 5.労働市場を補完する政策 格差には努力を引き出すという面も あって、必ずしも悪ではない • 昇進のスピードに差がある 能力の違いだけだろうか • 大卒だから、○○大学の卒業者だから、という理由だ けで賃金や昇進が決定される • 労働者個別の事情を考慮するには費用がかかるため 、観察しやすい性質で差をつける しかし、新卒時の景気の状態など、 必ずしも労働者個人の責任と 言えない理由で長期的に格差が固定化 されることが問題 • 統計的差別 4 非正規雇用の増加 最低賃金規制 中途採用市場の拡大 • 学卒後一定期間は新卒とみなす 働いても最低限度の生活が維持できない =ワーキングプア • 再チャレンジ支援 • 全世帯の15.2%(2007年) ワークシェアリング・ワークライフバランス • 正社員への仕事の集中、 サービス残業や過労死 • 正規・非正規の間で仕事を再配分 低賃金労働をなくすため最低賃金を 上昇させてはどうか • 賃金が高いと失業が生じる • 新規採用の抑制につながる 同一労働同一賃金の原則 逆効果になる可能性 出産育児期の女性の離職 育児休業中の技術の維持 政府 • 保育所の整備,社会全体での子育て支援 企業 • 産前産後休暇・育児休業の制度を活用 • 休業中の技術の断絶を防ぐ研修 • 企業内保育所 家計 写真提供: 神戸大学医学部付属病院 • 夫の家事育児への理解と協力 この章で学んだこと この章で学んだこと • 労働市場も他の市場と同じく、 一定の条件の下で、効率的な資源配分と 社会厚生の最大化を達成する 公平性の視点で望ましい状態が 達成されるわけではない • 競争市場の前提がみたされなければ 社会厚生は最大化されない ⇒買い手独占 • 派生需要という労働の性質から、 財市場の需要不足が失業を生む • さまざまな格差が発生している 格差解消に向けて、どのような 改善策があるかを議論した 5 考えてみよう 1 考えてみよう 2 長期雇用のメリットとデメリットを 考えてみよう 勤続年数が長くなるほど 賃金が上昇するのはなぜか 考えてみよう • メリットとデメリットを列挙してみよう • 企業に取ってのメリット・デメリット、労働者にとって のメリット・デメリットに分類してみよう • 熟練は当然一つの理由 • 長期雇用は日本型雇用慣行のひとつ、 メリットがあるから採用されていたはず、 しかし、近年では日本型雇用慣行が崩れてきたと 指摘されている。何が変化したのか? • 賃金は労働生産性と 等しくなくてもよいのだろうか? • それ以外にも理由がないか考えてみよう 考えてみよう 3 次に読んで欲しい本 パートタイム労働者の賃金を上げる と、どのようなことが生じるか考えて みよう 「仕事の経済学(第3版)」 • 市場に政策介入を行うと、逆効果をもたらす 場合があることに注意しよう 「若者はなぜ3年で辞めるのか」 • ここでの逆効果とは何か 小池和男 東洋経済新報社、2006年 城繁幸 光文社文庫、2006年 • 発展:解雇規制を強化すると、どのようなこと が生じるか? 次に読んで欲しい本 「脱貧困の経済学 ー日本はまだ変えられる」 飯田泰之・雨宮処凛 自由国民社、2009年 6
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