巡回セールスマン問題

 今回は,スマートフォン等を用いて
「巡回セールスマン問題」
(Traveling Salesman Problem,
TSP)を一瞬にして解き,その経路を地図上に表示してくれる「Concorde TSP」
(http://www.
math.uwaterloo.ca/tsp/index.html)を紹介する。TSPとは,対象となる都市の全ての2地点間
の移動コスト
(距離,時間,運賃など)
が与えられている時,全ての都市を一度ずつ訪れる巡回
路に対して,移動コストが最小となる経路を求める問題であり,組み合わせ最適化問題の中で
も最も古典的な問題として知られている。
例えば,旅行の計画を立てる際,お目当ての観光地をできるだけ効率的に回るためには,ど
のような経路を選べばよいのか考えてみる。一見単純な問題のように見えるが,n個の観光地
を巡るのに,取り得る全ての経路の数は
(n-1)
!個存在することから,観光地の数が大きくな
るほど組み合わせ爆発を起こすことが分かる。そのため,これまでに大規模な問題に対して,
数理計画法を用いて最適解を厳密に求める取り組みやヒューリスティックスを用いて近似解を
高速に求めるためのアルゴリズムの開発が進められてきた。
今回紹介する
「Concorde TSP」は,カナダ・ウォータールー大学のWilliam Cook教授により
提供されており,スマートフォン等
(2015年5月公開のバージョン1.5では,Apple社iOS 8.3以
降と互換性あり)を用いて1,000点以上の都市に対して最適解を求めることが可能である。Cook
教授らの研究グループは,2004年に世界記録である24,978都市の最適解を厳密に解くことに成
巡回セールスマン問題
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功しており,まさに世界最高水準のプ
ログラムであると言える。最も実用的
な機能として,地図上で訪問したい都
市をクリックし,その最短経路を地図
上 に 表 示 す る こ と が で き る「Map
Router」が挙げられる。移動コストに
ついて,直線距離の他に,画面右下の
「i」ボタンを押すことで選択が可能で
ある。そして,10都市までの小規模な
問題に限られるが,Apple社 Map Kit
Frameworkを利用して,世界各地で
の道路ネットワークでの移動距離や移
動時間を用いた計算を行い,その経路
を道なりに表示することも可能である。
また,教育的な効果も非常に高く,ラ
ンダムな点やベンチマーク問題の他に,
座標を入力することで自分の解きたい
問題にも対応している上,これまでに
提案されてきた様々なヒューリス
ティックスの解法による近似解を表示
することも可能である。更に,取り込
んだ写真から点を抽出してTSPを解く
「TSP Art」のような遊び心のある機能
もあり,TSPをとことん愛するCook
教授ならではのユーモアがあふれるア
プリである。
(東京海洋大学 渡部大輔)
地図上での最適な巡回路の表示
THE JOURNAL OF SURVEY 測量 2015.8 19