プロローグ「日本の岐路に立って」 さきの戦争が終結して70年が経ちました。「政府の行為によって再び戦争 の惨禍が起こることないように」 (日本国憲法前文)との決意は、戦争や武 力では、多くの悲しむを生みこそすれ、何も解決しない、として新しい日本 の進む道を宣言したものです。今も生命力を持つ、世界史上初めての試みで す。 安倍政権は、地球のいずれの地域へも自衛隊を出動させようと、2014年7 月1日の閣議決定で集団的自衛権行使に踏み出す見解を、私たち国民と世界 に対して表明しました。 国際紛争や地域紛争は、確かに、収まる気配がないように見えます。 私たちの愛する日本が、そうした中で、戦争の惨禍を繰り返すことに反対 し、平和外交で役割を果たすのか、戦争する国に逆戻りするのか、岐路に立 っています。 自由法曹団は90年の歴史を持つ法律家団体です。先の大戦のときから戦争 と貧困に反対してきました。自由法曹団大阪支部は、現下の情勢に働きかけ るために、2014年9月29日に松井芳郎先生(国際法・名古屋大学名誉教授) 、 10月6日に森英樹先生(憲法・名古屋大学名誉教授)をお招きし、国際法と 憲法の基本理念を学ぶ機会を持ちました。 国際法と憲法の基本理念の到達点は、次のように理解されているのです。 ① 第1次・第2次世界大戦を経て、国際法の常識は、明確に戦争は違法で ある、武力によっては紛争は解決しない、との理念を確立している。 ② 国連憲章と日本国憲法は、戦争を違法視する理念を実践する真摯な決意 に基づいて制定された。 ③ この日本国憲法を持つ日本国民は、世界に率先して「国際紛争を解決す る」手段としては「戦争と、武力による威嚇又は武力行使」を永久に放棄 する、と宣言した。 この講演録を編集し、ブックレットを作成しました。講演当時から情勢は 変化している面がありますが、情勢の変化を踏まえても普遍性を持つものと 考えます。 このブックレットが、皆さんの学習と、平和を守る国を作る行動の力にな ることを願い、ここに送ります。 2015年5月1日 自由法曹団大阪支部・本書出版委員会 6 第1章 国際法学から見た集団的自衛権 (松井芳郎名古屋大学名誉教授 講演録より) Q1 戦争と自衛権は、国際法において、歴史的にどのように 扱われてきたのですか? A 伝統的国際法、つまり第一次大戦頃まで妥当していた国際法で は、戦争や武力行使は禁止されていませんでした。少なくとも自 助、つまり自国の権利が侵害されたとき、その回復を図るために武力を 使うということは違法とは考えられていなかったのです。したがって、 そのときにわざわざ違法性阻却で自衛権を主張する必要はなく、この時 期にも自衛権の議論が少なからずあったのですが、これはいわば政治的 ないし道義的な意味しかなかったと考えていいだろうと思います。 その後、戦争ないし武力行使が違法化されるにつれて、違法性阻却事 由としての自衛権がクローズアップされていきます。 本格的に自衛権が議論されるようになるのは、1928年の不戦条約を契 機としてです。戦争の違法化は、1919年の国際連盟規約で初めて本格的 第1章 国際法学から見た集団的自衛権 7
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