6 多変数関数の積分(重積分)

多変数関数の積分(重積分)
6
6.1
はじめに:1変数関数の積分との関係(半分復習)
1変数関数の積分の理論では、筋書きの中心となるのは次の2つであった。
• 積分(定積分)を面積(正確には、関数のグラフと座標軸等の直線が囲む図形の面積)としてとらえ、極
限の概念を用いて厳密な定義を与える。
• 定積分の上端を変数とする関数(不定積分)を考え、そこから「解析学の基本定理」を導く。
ただし「解析学の基本定理」とは簡単に言ってしまえば「微分と積分は互いに逆演算であること」、また
「(連続)関数 f (x) には原始関数 F (x) が存在する」、さらには
∫ b
f (x)dx = F (b) − F (a)
ただし F ′ (x) = f (x)
a
などの形で表されるものを指す。
第1点では積分の概念が微分とは独立に定義されることがポイントであり、しかもそのように定義された定
積分は「逆微分としての(不定)積分」より広い概念となっている。一方、第2点は微分と独立に定義された
積分が、
(連続性という前提のもとで)微分と密接な関係にあることを言っている1 。これ自体、著しい結果で
あるのは確かだが、これが積分の具体的な計算法を与える点で、実用的にも極めて重要である。つまりごくふ
つうの関数については積分を逆微分として扱うことにより、積分の計算が微分の計算に関連づけられる、具体
的には、積分の計算公式のほとんどが微分の計算公式から導ける。これにより、積分本来の定義にしたがって
いてはとてもできないような複雑な計算が、微分公式を経由することによって簡単にできてしまうようになる。
この点こそが、基本定理をもって解析学の誕生と言われる理由である。
• 注 1: 定義が互いに独立とは言っても、微分・積分のいずれも極限概念に基づいているという点ではもと
もとつながりがあったとは言える。もっとも極限と言っても、微分の場合には単に x → a といった数値
としての極限であったのに対し、積分の場合には「分割を細かくしていった極限」という、はるかに複
雑で多様なものになっているという違いはある。
• 注 2: 高校の微積分の筋書きは上とは異なる。むしろ正反対である。高校ではまず逆微分(=微分の逆演
∫ b
算)として不定積分を導入し、そこから定積分
f (x)dx = F (b) − F (a) を定義する。そしてそれが面
a
積を表すことを直観的に証明する。この方法は手軽に扱いやすいといった利点のある反面、いろいろな
問題点がある。
そういった問題点はともかくとして、学問としての数学の高校数学に対する大きな違いの1つは、個々
の関数だけでなく、関数全体の集合、あるいは特定の条件を満たす部分集合といった総体的・俯瞰的な
観点をとる点にある。微積分とのつながりで言えば、関数は以下のような包含関係による階層に分類で
きる。下のほうの集合は、すべて上のほうの集合の真部分集合になっている。
関数全体の集合
∪
(ルベーグ積分可能な関数の集合)
∪
(リーマン)積分可能な関数の集合
∪
原始関数が存在する関数の集合
∪
連続関数の集合
∪
微分可能な関数の集合
1
後で見るように、実際には「連続」というのは十分条件であり、もう少し弱めた形でも成り立つ。
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上のような関係は(ルベーグ積分を除けば)「解析 I」の授業から読み取れることなのだが、それはきち
んと認識できていただろうか ?(「そんなことはわかっている」と言える人は、解析学で扱っている内容
を十分自分のものに咀嚼できていると言える。)
たとえば「連続関数には原始関数が存在する」というのは「解析学(微分積分学)の基本定理」そのも
のだし、上はさらに、原始関数が存在する範囲はもっと広いこと、さらには積分可能でも原始関数が存
在しない場合があることを言っている。原始関数を微分すればもとの関数になるから、これを逆に見れ
ば「微分可能だが導関数が連続でない関数が存在する」ことにもなる。微分可能で導関数が連続な関数
を C 1 級と呼んだわけだから、上の「微分可能な関数の集合」の下にはさらに
微分可能 ⊃ C 1 級 ⊃ C 2 級 ⊃ · · · ⊃ C ∞ 級
といった階層を続けることもできる。
話を戻して、最初に掲げた2つのポイントが2変数の積分にどう当てはまるかを見ておこう。
第1点の「積分=面積」については、2変数では「積分=体積」とするのが自然な拡張だろう。話としてはそ
∫ b
れだけだが、平面図形に比べると立体図形は形状が複雑なことが問題となる。簡単に言えば:
f (x)dx は
∫
∫∫ a
f (x, y)dxdy(教科書の記法では
f (x, y)dxdy )
「底辺 [a, b] の上にある図形の面積」であり、対応して
K
K
は「底面 K の上にある図形の体積」ということになる。ところが [a, b] は単なる線分であったのに対し、K
のほうは長方形、三角形、一般の多角形、円、楕円、さらには任意の曲線で囲まれた図形など、様々な場合が
出てくる(詳しくは後で述べる)。
第2点のほうはもう少し微妙である。積分領域 K が
K = {(x, y) | a ≤ x ≤ b, g1 (x) ≤ y ≤ g2 (x) }
のような単純な形をしている場合
∫
∫ b ∫ g2 (x)
f (x, y)dxdy =
dx
f (x, y)dy
K
a
∫ b∫
g2 (x)
(教科書の記法では
g1 (x)
f (x, y)dydx)
a
g1 (x)
が成り立つ。左辺のほうは定義にしたがった重積分であるの対し、右辺は1変数関数を積分を2回行う「累次
積分」になっている。これは部分的には
∫ b
f (x)dx = F (b) − F (a)
a
の拡張と言えるが、直接的な、また理論的に完全な意味での拡張というわけではない。
たとえば重積分では1変数関数の不定積分(原始関数)にあたるものは存在しない(これは全微分が1つの
関数で表されないというのと同じような話である)。教科書に直接の記載はないが、基本定理の高次元へ自然
な、また直接的な拡張となっているのはガウスの定理(ないしストークスの定理、グリーンの定理等々:実質
的に同じ内容の定理がいくつかあり、それぞれに人の名前がついている)のほうであり、これは「ベクトル解
析」の中心をなす。これについては 6.8 で簡単に取り上げる。
6.2
重積分の定義と積分可能性
注: 以下の記載は教科書とは構成や内容が違っている(こちらのほうが簡便でもある)。また積分の理論をき
ちんと学ぶ上では基本的で重要だが、本授業の範囲ではあまり深入りはしないので、教養として目を通してお
いてほしい。
6.2.1
重積分の定義
xy 平面上の領域 K における2変数関数 z = f (x, y) の積分(重積分:今の場合、(2変数関数だから)2重
積分)とは、直観的に言えば「K の上で、xy 平面と関数の曲面とが囲む立体の体積」を言う。
55
• 注 1: 「体積」であれば f (x, y) ≥ 0 でなければならないが、以下の定式化では f (x, y) の正負は
影響しない。1変数関数の積分と同様、f (x, y) < 0 の場合には「負の体積」として扱う。
• 注 2: 多重積分(2変数以上の関数の積分)では「6.6 変数変換」のところで見るように、積分値
の符号が変わる要因がもう1つある。
• 注 3: 「重積分」という言い方は、「線積分」などと対比した用語である。直観的には微分の場合
の偏微分、(全)微分の対比に相当する。「偏微分 ↔ 線積分」、「全微分 ↔ 重積分」である。
1変数関数の場合と同様、K に対する分割 ∆ を考える。つまり K は ∆ によっていくつかの小領域(形は
任意:長方形とは限らない)に分割する。1つの小領域の面積を wi 、小領域内の1点 (ξi , ηi ) における関数値
f (ξi , ηi ) に対し、
vi = f (ξi , ηi )wi
は底面積が wi 、高さが f (ξi , ηi ) である柱体の体積を与える2 。したがってこれらを足し合わせた
∑
∑
Σ∆ =
vi =
f (ξi , ηi )wi
i
i
は K 上で z = f (x, y) で囲まれる立体の体積の近似値となる。Σ∆ を分割 ∆ による「リーマン和」という。
ここで分割の仕方を細かくしていったとき、どのような極限のとり方によっても Σ∆ が特定の値 J に収束す
るなら「f (x, y) は K 上で積分可能」といい、J を
∫
∫
∫∫
f (x, y)dw,
f (x, y)dxdy,
f (x, y)dxdy
K
K
K
などと書く(ただし dw = dxdy :後述)。
定義としては上のようなものなのだが、上の中には言葉の定義や意味が未確定な部分がいくつかあるし、教
科書にある積分の定義とも違っている。また上の定義だけから、f (x, y) や K を具体的に与えられたとき、そ
れが積分可能かどうか、また積分値は何になるかを求めるのは難しい。
そこでいくつかの段階に分けて考えていくことが必要となる。
6.2.2
ダルブーの定理と積分の定義との関係(教科書記載なし)
前項では各柱体の高さを f (ξi , ηi ) と見積もった。各小領域 wi(領域そのものもその面積と同じ記号で表す)
内の任意の点 (ξi , ηi ) で
mi ≤ f (ξi , ηi ) ≤ Mi
であるなら、体積の見積もりとして高さを mi にすれば最小限の、Mi にすれば最大限の見積もりが得られる。
∑
s∆ =
mi wi
S∆ =
i
∑
Mi wi
i
をそれぞれ、分割 ∆ に対する下ダルブー和(過少和)、上ダルブー和(過剰和)と呼ぶ。s∆ , S∆ はそれぞれ
上(下)に有界だから、あらゆる分割を考えたとき、それぞれの上限、下限が存在する:
s = sup s∆
∆
S = inf S∆
∆
明らかに
s∆ ≤ Σ∆ ≤ S∆
s∆ ≤ s ≤ S ≤ S∆
が成り立つ。このとき、どのような仕方であろうと、分割を細かくしていった極限では
2 柱体とは平面図形を底面とし、これを(ここでは図形と垂直に)平行移動して得られる立体図形を指す。底面が長方形なら直方体、三
角形なら三角柱、円なら円柱などになる。
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s∆ → s
S∆ → S
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (☆ )
が成り立つ。これが「ダルブー (Darboux) の定理」(の2次元版)である。
このダルブーの定理を使えば:
• s = S であるなら f (x, y) は K 上で積分可能である。
実際、分割を細かくした極限では過少和 s∆ 、過剰和 S∆ は共通の極限(s = S )に収束し、したがって
間に挟まれたリーマン和 Σ∆ も同じ値に収束するからである。
• s ̸= S 、すなわち s < S であれば積分可能でない。
リーマン和として値が s にいくらでも近い分割、S にいくらでも近い分割がそれぞれとれるから、値が
1つに収束しない。
ということがわかる。したがって s = S と、「リーマン和が1つの値に収束」という意味での積分可能性は同
値になる。
ここで「分割を細かくする」の意味を明らかにしておく必要がある。まず、
「分割された小領域の数が無限に
多くなる」では明らかにダメである(1つだけ大きな領域をとり、残りの部分をどんどん細かくしていっても
個数はいくらでも大きくなる)。また「各小領域の面積が 0 に収束する」というのも不十分である(縦の長さ
が一定の長方形の横の長さを 0 に近づけると面積は 0 に収束する。しかしこれは図形としては線分に収束し、
有限の広がりを持つ)。
気持ちとしては「各小領域を小さくしていった極限では1点に収束する」ということを言いたいのだが、そ
の1つの表現としては「(すべての)領域の周の長さが 0 に収束する」というのがある。これだと一応十分な
のだが、一般の(曲線で囲まれた)領域を考えると、「周の長さ」の定義・存在が問題になる。対象を長方形、
もう少し一般的に多角形に限っておけば問題はないし、「縦幅・横幅とも 0 に近づく」のような言い方でも十
分になる。
なお上から次のことが言える。
特定の分割の系列
∆1 , ∆2 , ..., ∆n , ...
がいくらでも細かい分割になっていくとき、過少和と過剰和が同じ極限値に収束する、つまり:
lim s∆n = lim S∆n = J
n→∞
n→∞
であるなら関数は積分可能であり、積分値は J である。
つまり実際には「すべての分割」を考えなくても、特定の分割(系列)について過少和と過剰和の極限が一致
しさえすれば、積分可能性が言えることになる。
6.2.3
K が長方形の場合
最も簡単な場合として、領域 K が x 軸、y 軸に平行な辺を持つ長方形の場合、つまり
K = {(x, y) | a ≤ x ≤ b, c ≤ y ≤ d }
と表される場合を考えてみる。ここで分割としては、x 軸方向、y 軸方向それぞれの分割:
∆x = { x0 = a, x1 , ..., xn = b }
∆y = { y0 = c, y1 , ..., ym = d }
を考え、それを縦、横の辺とする小長方形群として K の分割 ∆ を考えるのが自然だろう。図式的に書けば:
∆ = ∆ x × ∆y
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ということである(ここで × は直積の意味:下図)。
y
y
j
w
ij
j−1
↑∆
y
x
i−1
x
i
→∆x
左から i 番目、下から j 番目の長方形を wij 、その面積を ∆wij (ただし i = 1, ..., n, y = 1, ..., m)と書
くと:
∆wij = ∆xi ∆yj
ただし
∆xi = xi − xi−1 ,
∆yj = yj − yj−1
したがって上下ダルブー和、リーマン和は
s∆ =
S∆ =
Σ∆ =
n ∑
m
∑
mij ∆wij =
i=1 j=1
n ∑
m
∑
i=1 j=1
n ∑
m
∑
Mij ∆wij =
n ∑
m
∑
mij ∆xi ∆yj =
i=1 j=1
n ∑
m
∑
Mij ∆xi ∆yj
i=1 j=1
n ∑
m
∑
f (ξi , ηj )∆wij =
i=1 j=1
n ∑
m
∑
=
n ∑
m
∑
=
mij (xi − xi−1 )(yj − yj−1 )
i=1 j=1
n ∑
m
∑
Mij (xi − xi−1 )(yj − yj−1 )
i=1 j=1
f (ξi , ηj )∆xi ∆yj
i=1 j=1
f (ξi , ηj )(xi − xi−1 )(yj − yj−1 )
(ただし xi−1 ≤ ξi ≤ xi , yj−1 ≤ ηi ≤ yj )
i=1 j=1
のように書ける。mij , Mij はそれぞれ wij における f (x, y) の下限、上限である。
この場合、分割を細かくしていくというのは各長方形の周の長さが 0 に収束すること、つまり ∆x , ∆y の
それぞれの分割における幅の最大値が 0 に収束することに対応する。
この際、「f (x, y) が K で連続なら、K にて積分可能である」が成り立つ。証明は簡単で、分割を細かくし
ていけば f (x, y) の連続性により、上の mij , Mij が同じ値に収束することによる。
• 例 f (x, y) = xy が領域 [0, 1] × [0, 1]、つまり点 (0, 0), (0, 1), (1, 0), (1, 1) を4つの頂点とする正方形の領域
で積分可能であること及びその積分値を直接計算してみる。分割としては x, y 両方向とも n 等分したものを
∆n とし、n → ∞ という極限を考える。この場合、
i
(0 ≤ i ≤ n)
n
j
(0 ≤ j ≤ n)
yj =
n
1
∆xi = ∆yj =
n
xi =
となる。また f (x, y) = xy は第1象限では x, y それぞれについて単調増加(ただし x 軸、y 軸上では 0 のま
ま)だから、各小長方形の左下端で最小値、右上端で最大値をとる。つまり:
mij = f (xi−1 , yj−1 ) = xi−1 yj−1 =
ij
Mij = f (xi , yj ) = xi yj = 2
n
(i − 1)(j − 1)
n2
したがって上下ダルブー和は
58
s∆n
n ∑
n
∑
n ∑
n
n
n
n−1 n−1
∑
(i − 1)(j − 1) 1 1
1 ∑∑
1 ∑∑
=
mij ∆xi ∆yj =
(i−1)(j−1) = 4
ij
· · = 4
n2
n n
n i=1 j=1
n i=0 j=0
i=1 j=1
i=1 j=1
S∆n =
n ∑
n
∑
Mij ∆xi ∆yj =
i=1 j=1
n ∑
n
n
n
∑
ij 1 1
1 ∑∑
·
·
=
ij
n2 n n
n4 i=1 j=1
i=1 j=1
となる。
ここで一般に
∑∑
i
ai bj =
(
∑

) 
∑
ai · 
bj 
i
j
j
である。これは
(a1 + a2 )(b1 + b2 ) = a1 b1 + a1 b2 + a2 b1 + a2 b2
という展開公式を一般化したものであり、上の右辺は
n
m
∑
∑
ai ·
bj = (a1 + a2 + · · · + an )(b1 + b2 + · · · + bm )
i=1
j=1
である一方、左辺は ai bj の項をすべての i, j について足し合わせたものであることによる。これを上に当て
はめると、
(
)2
(
)2
n−1 n−1
n−1
n−1
1 ∑∑
1 ∑ ∑
1
n(n − 1)
1
1
s∆n = 4
ij = 4
i·
j= 4·
= · 1−
n i=0 j=0
n i=0 j=0
n
2
4
n
(
)
(
)2
n
n
n
n
2
1 ∑∑
1 ∑ ∑
1
n(n + 1)
1
1
S∆n = 4
ij = 4
i·
j= 4·
= · 1+
n i=1 j=1
n i=1 j=1
n
2
4
n
となる。
1
4
だから、積分可能であるとともに、積分値が 1/4 であることがわかる。
上を後の累次積分による計算:
∫ 1 ∫ 1
dx
xydy
lim s∆n = lim S∆n =
n→∞
0
n→∞
0
と比べてみよ(練習)。この程度の問題でも直接定義から計算しようとするとかなりの計算量になるし、ちょっ
と複雑になるともうお手上げだが、累次積分の公式を使うと様々なケースがはるかに簡単に計算できる。
6.2.4
K の上下を曲線にした場合
y = g1 (x), y = g2 (x) を [a, b] での連続関数(ただし [a, b] で g1 (x) ≤ g2 (x))とする。このとき x = a, x = b
という2直線と、上下を g1 (x), g2 (x) とで囲まれた領域:
K = {(x, y) | a ≤ x ≤ b, g1 (x) ≤ y ≤ g2 (x) }
を考える(下図)。
d
y=g2(x)
K
y=g1(x)
c
a
b
59
ここでも上と同様、長方形による分割を行う。今度は上下が(一般には)曲線で囲まれているため、長方形分
割では K をぴったり覆いきることはできない。[a, b] での g1 (x) の最小値を c、g2 (x) の最大値を d としよう
(閉区間の連続関数だから、最大・最小値が存在する)。
K ∗ = [a, b] × [c, d] = {(x, y) | a ≤ x ≤ b, c ≤ y ≤ d }
として、K ∗ に上と同じ長方形分割を考えると、各小長方形は
• 完全に K に含まれる。
• (K ∗ には含まれるが)K には全く含まれない。
• K の境界にまたがる、つまり K に含まれる部分と含まれない部分の両方がある。
のいずれかになる。
ここで長方形分割のほうをいじってジタバタするよりは、関数のほうを分割に合わせることを試みよう。
{
f (x, y) ((x, y) ∈ K)
f ∗ (x, y) =
0
((x, y) ∈
/ K)
という関数 f ∗ (x, y) を定義すると、(K ∗ には属するが)K に属さない部分では関数値が 0 だから積分値には
影響しない。f ∗ は K の境界線上では一般に不連続になることに注意しよう。
f ∗ が K ∗ 上で積分可能なら、f は K 上で積分可能であり、
∫
∫
f (x, y)dxdy =
f ∗ (x, y)dxdy
K∗
K
が成り立つことはすぐ確かめられる。
前節の拡張として:
「f (x, y) が K で連続なら、K で積分可能」が成り立つ。これは f ∗ が K ∗ 上で積分可
能というのと同値である。証明は省略するが、K の境界上で f ∗ が不連続になる部分の処理がポイントにな
る。証明では、K の境界にまたがる小長方形群は、分割を細かくしていくと面積が 0 に収束すること(ここ
で g1 (x), g2 (x) の連続性を使っている)、したがってその上でのリーマン和、ダルブー和も 0 に収束し、その
収束、したがって積分可能性に影響しないことを用いている。
• 注: 実際には g1 (x), g2 (x) は連続でなくても、不連続点が密集していない(孤立点である)などの「タチの
よい不連続」であるなら、不連続箇所で領域を分割し、6.3 の「積分領域の公式」などを使って積分可能性が
示せる。
6.2.5
参考:面積の定義
「連続関数は K で積分可能」の証明自体は分割を細かくしていった極限で Σ∆ , s∆ , S∆ が積分値 J に収束
することを言っているが、実際には K が長方形など、単純な形の領域である場合しか扱っておらず、また領
域(閉領域)であることを暗黙に活用していた。
実際、K として領域ではなく、一般の点集合を対象とした場合、これが成り立つのは自明なことではない。
それどころか、f (x, y) 自体は(R2 で)連続であっても、勝手な点集合 K に対して積分値が存在するとは限
らない。そこで:
{
c(x, y) =
1
0
((x, y) ∈ K)
((x, y) ∈
/ K)
としたとき、前節のように K を囲む長方形領域 K ∗ において c(x, y) が積分可能なら、
∫
∫
∫
J=
dxdy =
c(x, y)dxdy =
c(x, y)dxdy
K
K
K∗
が K の面積になる。正確に言えば K を底面とする高さ 1 の立体の体積だが、それを高さ 1 で割れば底面の
面積、というわけである。c(x, y) を領域 K の「特性関数 (characteristic function)」と呼ぶ。
そこで任意の図形(点集合)K の「面積」をここでは次のように定義する:
60
上の K ∗ で c(x, y) が積分可能なとき、すなわち
∫
∫
dxdy =
c(x, y)dxdy
K
K∗
存在するとき、K は「面積を持つ(あるいは面積確定)」と言い、その値 J を K の「面積」と定
義する(仮に「Riemann 測度」と呼んでおく)。積分可能でないときには K は面積を持たないと
言う。
∫
ふつうに考える図形のほとんどすべては面積を持つ。しかし面積自体は1変数の積分:
b
f (x)dx を用いて
a
導けたのに、なぜ2変数積分を持ち出して定義する必要があるのだろうか ? またそちらで言う面積と、ここで
の面積とは一致するのだろうか ? 結論だけ言えば:
• K が面積確定なら、1変数の積分で得られる面積とここで定義した面積とは値が一致する。つまり
K = {(x, y) | a ≤ x ≤ b, 0 ≤ y ≤ f (x) }
に対し、
∫
∫
dxdy =
K
b
f (x)dx
a
となる。
• 1変数関数として積分可能でなければ、その図形は面積を持たない。
例えば Dirichlet 関数:
f (x) = 0 (x は有理数),
= 1 (x は無理数)
は区間 [0, 1] で積分不能で、したがって点集合 K :
K = {(x, y) | x は無理数、0 ≤ y ≤ 1 }
は面積を持たない。
• さらに、1変数関数の概念では捉えられない場合もある。
例えば上を応用した:
K = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1, 0 ≤ y ≤ 1, x, y ともに無理数 }
など。この場合、下ダルブー和 s∆ は常に 0、上ダルブー和 S∆ は常に 1 であり、両者は一致しないの
で、K は面積を持たない。
• 参考 1(Jordan 測度)
面積を重積分(=体積)に訴えずに、もっと直接的に定義することもできる。前節同様、領域 K を囲む長
方形領域 K ∗ とそれに対する長方形分割 ∆ を考えよう。小長方形のうち完全に K に含まれているものの全体
(からなる図形)を k∆ 、K に一部でも懸かっているものの全体を K∆ とする。つまり k∆ は完全に K に含ま
れており、K∆ は逆に完全に K を含んでいる。
k∆ , K∆ のそれぞれの面積を m∆ , M∆ としよう。これは実質的には上の c(x, y) での s∆ , S∆ にあたる。そ
こで m∆ の上限を m、M∆ の下限を M と書き、それぞれ、K の「(Jordan-)内測度、外測度」と呼ぶ。こ
の場合、面積確定である定義は「分割を細かくしていった極限では m∆ , M∆ は同じ極限に収束する」であり、
これは「m = M 」と(ダルブーの定理を介して)同値である。この収束値を「K のジョルダン (Jordan) 測
度」と呼ぶ。これは実質的には上の Riemann 測度と同じことだが、もう少し直接的な表現になっている。
• 注: k∆ , K∆ は 「面積の値」は K (の面積)に収束するが、図形(点集合)としては K に収束するとは
限らない。たとえば g1 (x) ≡ g2 (x)、つまり K が「幅」を持たない曲線の場合、k∆ は常に空集合であり、K
には収束しない。しかし m∆ は常に 0 であり、M∆ → 0 だから面積は J = 0 に確定する。
• 参考 2(Lebesgue 測度)
面積の定義としての Riemann 測度と Jordan 測度は実質的に同じものであり、上で見たように図形によっ
ては面積確定でないものもあった。これを実質的に拡張したものとして「ルベーグ (Lebesgue) 測度」がある。
61
詳しい定義はここでは述べないが、わかりやすい入門書としては「志賀浩二「ルベーグ積分 30 講」(朝倉書
店)」などがある。ルベーグ測度を用いれば、上の Dirichlet 型領域の面積も確定する(上の例の場合、1、つ
まり正方形の面積そのものになる)。
• 参考 3(測度という言葉)
「測度 (measure)」という言葉は(たぶん)ルベーグが最初に用いたもので、長さ、面積、体積などの総称
(及び一般化)と思ってよい。つまり1次元の測度は長さ、2次元の測度は面積、3次元の測度は体積といった
具合である(もちろん、4次元以上にも測度を考えることができる)。
第1章で述べた「点は長さがないのになぜ点が集まった線は長さがあるか」という「よくある疑問」は、実
はこの測度の概念と密接に関係する。実は点を単に無限に集めただけでは長さ(や面積)があるともないとも
言えず、問題はどのような配置の点をどう集めるかに懸かっている。どのような集め方だとどのように長さが
生じるかを扱うのが測度の概念である。
6.2.6
参考:K が一般の場合
領域とは限らない、一般の点集合 K の上での積分可能性を扱うのがここでの話である。ポイントとなるの
は次の2点である:
• K が面積確定かどうか。
• 分割をここまでやってきた長方形分割でなく、任意の形の小領域への分割とするとどうなるか。
結論を言えば、K が面積確定であれば、分割された小領域の各々も面積確定にとることができ、そのとき
• K 上で f (x, y) が積分可能 ⇐⇒ K ∗ 上の長方形分割による f ∗ (x, y) が積分可能(記号は 6.2.4 参照)
• 積分可能な場合、両者の積分値は一致する。
ここでのポイントは、K ∗ やその上での長方形分割による積分の定義は十分に一般性を持つ、という点であ
る。証明については省略。
• 例: 極座標で表された関数の場合、長方形分割の代わりに原点を中心とする同心円、及び原点から放射状に
延びる直線によって小領域への分割を行っても、得られる積分値は長方形分割の場合と同じになる(下図)。
90
1
120
60
0.8
0.6
150
30
0.4
0.2
180
0
330
210
240
300
270
6.2.7
参考:
「積分する」の意味
1変数の場合だが、
「f (x) を(x で)積分する」というのは正しい言い方ではない、という主張がある。
「f (x)dx
を積分する」というのが正しい、というわけである。あまりこだわる必要はないと思うが、言っていること自
体は一理あるので少し解説しておこう。
積分の定義に戻ると、リーマン和
∑
Σ∆ =
f (ξi )∆xi
i
62
で分割を細かくした極限が積分になるのだった。「積分」という言葉は、「分割したものの総和をとり、その分
割を細かくした極限を考える」というのが直接的な意味である。リーマン和で和がとられるのは f (ξi )∆xi で
あり、極限移行によって
∑
f (ξi ) ∆xi
i
↓
∫ b
↓
↓
f (x)
dx
a
という対応が成り立つから、
「積分される」のは f (x) ではなく、f (x)dx ということになる。直観的に言えば、
「無限に小さい区間 dx 上での長方形 f (x)dx を無限個足し合わせたもの」ということになる。
2変数関数では
∑
∑
Σ∆ =
f (ξi , ηj )∆wij =
f (ξi , ηj )∆xi ∆yj
i,j
i,j
が極限移行で
∫
∫
f (x, y)dw =
f (x, y)dxdy
K
K
になるから、dw = dxdy であり、これが「無限に小さい長方形の面積」に対応する。これを「面積素片」と呼
ぶこともある。これに f (x, y) という「高さ」を掛ければ直方体の体積になる、というわけであり、それを足
し合わせるのが重積分、ということになる。ここでもやはり、
「積分される」のは f (x, y) ではなく、f (x, y)dw
ないし f (x, y)dxdy ということになる。
なお、より一般的に重積分を定義する場合には dx と dy を掛ける順番に意味が生じ、dxdy と dydx とは同
じではなくなる(符号が逆になる)。この一端は変数変換のところで現実問題として現れてくる。
6.3
積分領域に関する公式
1変数関数の積分での公式:
∫ a
f (x)dx = 0
∫a b
∫ c
∫ b
f (x)dx =
f (x)dx +
f (x)dx
a∫
c
∫ab
a
f (x)dx = −
f (x)dx
a
b
に対応する重積分の公式をまとめておこう。これらは実際の計算を行う上で頻出する。
∫
• K の面積が 0 なら、 f (x, y)dxdy = 0
K
これは K が点や線、あるいはその和集合である場合にあたる(一般にはそれ以外の場合もあるが、省略)
。
∫ a
証明は、リーマン和の ∆wij = ∆xi ∆yj が常に 0 であることからしたがう。これが
f (x)dx = 0 に対応す
a
る公式である。1変数では「1点の上での積分」だったのが、ここでは「点や線の上の重積分」に拡張された
ことになる。
• f (x, y) が K1 , K2 上で積分可能なら、
∫
∫
∫
f (x, y)dxdy =
f (x, y)dxdy +
K1 ∪K2
K1
∫
f (x, y)dxdy −
K2
f (x, y)dxdy
K1 ∩K2
特に K1 と K2 が共有点を持たない、つまり K1 ∩ K2 = ∅ の場合、あるいは共有部分があってもその面積が
0 の場合は(前項の公式から)
∫
f (x, y)dxdy = 0
K1 ∩K2
63
になるから(K1 ∩ K2 = ∅ のとき K1 ∪ K2 を K1 + K2 と書くことにすれば)、
∫
∫
∫
f (x, y)dxdy =
f (x, y)dxdy +
f (x, y)dxdy
K1 +K2
K1
(教科書 定理 5.4)
K2
となる。これは「積分の加法性」の公式で、1変数関数の
∫ b
∫ c
∫ b
f (x)dx =
f (x)dx +
f (x)dx
a
a
c
に対応する。
証明はやはりリーマン和に戻って示すことになるが、ここでも境界線部分の扱いに気をつける必要がある。
この加法性により、積分領域をいくつかの部分に分けて計算できることが保証される。たとえば積分領域が、
半径 1 の円 x2 + y 2 = 1 の外側と、
4x2 + y 2 = 4
つまり x 方向の短軸の長さが 1、y 方向の長軸の長さが 2 である楕円の外側との共通部分であるとしよう(下
図)。
2
K
1.5
1
1
0.5
K
K
3
4
0
−0.5
−1
−1.5
K
2
−2
−2
−1.5
−1
−0.5
0
0.5
1
1.5
2
この場合、積分領域 K は
{(x, y) | a ≤ x ≤ b, g1 (x) ≤ y ≤ g2 (x) }
の形には表せないが、
• x 軸を境として、上下2つの領域に分割し:
√
√
K1 = {(x, y) | − 1 ≤ x ≤ 1, 1 − x2 ≤ y ≤ 2 1 − x2 }
√
√
K2 = {(x, y) | − 1 ≤ x ≤ 1, −2 1 − x2 ≤ y ≤ − 1 − x2 }
∫
とすれば K = K1 + K2 となり、
• 楕円内と円内の領域をそれぞれ
∫
∫
=
K
∫
=
K1 +K2
となる。
+
K1
K2
K3 = {(x, y) | 4x2 + y 2 ≤ 4 }
K4 = {(x, y) | x2 + y 2 ≤ 1 }
∫
で表すと、K = K3 − K4 となり、
∫
K
∫
−
=
K3
となる。
K4
どちらの方法(領域の和をとるか、差をとるか)が計算しやすいかは場合による。
この公式の系として、次のことが成り立つ。
f (x, y) が閉領域 K で積分可能なら、そこから境界点を一部またはすべて取り除いた K にといて
も積分可能で、
64
∫
∫
f (x, y)dxdy
f (x, y)dxdy =
K
K
となる。
つまり境界線のあるなしは積分値には影響しない。
∫
なお、
∫
b
f (x)dx に相当する公式については「変数変換」のところで取り上げる。
b
a
6.4
a
f (x)dx = −
累次積分
領域 K が 6.2.4 で述べた形、つまり
K = {(x, y) | a ≤ x ≤ b, g1 (x) ≤ y ≤ g2 (x) }
(g1 (x), g2 (x) は [a, b] で連続)
の場合を考える。これは K について、x = c (a ≤ c ≤ b) とした y 方向への断面が線分(y : [g1 (c), g2 (c)])に
なることを意味する。
• 注: 前節の「円+楕円」のような場合には断面は2本の線分になるが、そこで述べたように領域
を分割すれば上の形にできる。
f (x, y) が K 上で積分可能なら、
∫
∫ (∫
b
g2 (x)
f (x, y)dxdy =
K
)
f (x, y)dy dx
a
g1 (x)
になる(教科書 p.181 定理 5.7)。まずこの左辺は前節 6.2 で定義した重積分である。一方右辺は1変数関数の
積分を2回やる形になっている。積分を繰り返し行うという意味で、これを「累次(るいじ)積分」と呼ぶ。
この定理の言っているのは、左辺の重積分が右辺の累次積分によって計算できる、ということである。
• 注: この定理自体は極めて重要だが、どうも決まった名前がないようである。ここでは「累次積分
の定理(ないし公式)」と呼んでおく。これをルベーグ積分に拡張したものには「フビニ (Fubini)
の定理」の名前がある。リーマン積分の場合もそう呼んでしまうことも多い。
• 累次積分の意味・計算方法
右辺の累次積分は次のことを表しており、これがそのまま計算手順になる。
∫ g2 (x)
• 内側の積分:
f (x, y)dy は、x を定数とみなし(つまり y についての断面 f x (y) とみなし)、y に
g1 (x)
ついての1変数関数としての定積分を行う3 。
f x (y) の不定積分(=原始関数)を F x (y) とすると、
∫ g2 (x)
f (x, y)dy = F x (g2 (x)) − F x (g1 (x)) = F (x)
g1 (x)
となる。x は定数と見なすから、一般には原始関数の F x (y) にも登場するし、積分の上端・下端も一般
には x の関数である。その2重の意味でこの積分は x の関数になる。それを上の右端で F (x) と置いた。
• 外側の積分はしたがって
∫ b
F (x)dx
a
ということになる。これはそのまま、ふつうの(1変数の)定積分として実行できる。その結果として
得られるのが左辺の重積分の積分値である。
3 f x (y) という記法については 4.3 の「関数の断面」を参照のこと。簡単に言えば、
「f (x, y) で x を定数と見なして、y の1変数関
数として考える」という意味である。
65
以下に例を示す。
}
∫ 2 {∫ 1
2
2
•
(x y − y + x − 1)dy dx
0
0
まず:
∫
[
1
(x2 y − y 2 + x − 1)dy =
0
1 2 2 1 3
x y − y + xy − y
2
3
]y=1
=
y=0
1 2 1
1
4
x − + x − 1 = x2 + x −
2
3
2
3
上で積分の上下端を単に 0, 1 ではなく y = 0, y = 1 のように書いたのは、積分変数、つまり上下端の値
が代入される変数が(x でなく)y であることを強調するためである。もちろん 0, 1 だけでもいいのだ
が、x, y を混同したりしがちなので、始めのうちは用心のためにこのように書いておくことを勧める。
また y に対する定数部分、つまり x − 1 の不定積分の xy − y にもうっかりミスがよく見られるので注
x2
− x とか x − y などとしないように。
意。これを
2
あとは上を x について積分すればいいから:
]2
)
[
∫ 2(
1 2
8 4 8
2
4
1 3 1 2 4
x +x−
x + x − x = + − =
dx =
2
3
6
2
3
6
2
3
3
0
0
なお上では y, x による積分を別々に書いたが、まとめて計算式を書いていってしまってもよい(以下で
はそうする)。
∫
1
(∫
)
x
•
cos ydy dx
0
0
今度は内側の積分の上端に x が入っている。
)
∫ 1 (∫ x
∫ 1[
∫ 1
∫
]x
cos ydy dx =
sin y dx =
(sin x − sin 0)dx =
0
0
0
0
1
0
1
sin xdx
0
= [− cos x]0 = − cos 1 − (− cos 0) = 1 − cos 1 (= 0.459...)
∫
1
(∫
)
x2
•
y
xe dy dx
0
0
∫
1
(∫
)
x2
∫
1
y
0
0
[
=
∫
2
(∫
1 x2 1 2
e − x
2
2
=
0
∫
1
∫
2
(xex − xe0 )dx =
0
1
2
(xex − x)dx
0
1
1
{(e − 1) − (1 − 0)} = (e − 2)
2
2
)
2x
•
0
]1
x2
[xey ]0 dx =
xe dy dx =
2
y dy dx
1
x
∫
2
1
∫
1
{∫
(∫
)
∫
y 2 dy dx =
2
}
1
•
[
]2x
∫
1 3
1 2
y
dx =
{(2x)3 − x3 }dx
3
3
x
1
1
x
∫
35
7 [ 4 ]2
7 2 3
=
x dx =
x
=
3 1
12
4
1
2x
(4x − 3x )dy dx
3
0
2
0
∫
1
{∫
0
1
}
∫
(4x3 − 3x2 )dy dx =
0
• 累次積分の記法
累次積分は上のように
)
∫ b (∫ g2 (x)
f (x, y)dy dx
a
1
∫ 1
[
]1
]1
[
(4x3 − 3x2 )y dx =
(4x3 − 3x2 )dx = x4 − x3 = 0
0
0
0
0
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (♡)
g1 (x)
66
などと書くのが一番確実だが、実際には他のいくつかの記法がある。中には互いに矛盾する書き方もあるので、
実際にどの意味で使われているかは注意が必要である。
• 記法 1
∫
∫
b
g2 (x)
dx
a
∫
f (x, y)dy
g1 (x)
∫
b
dx ×
これは
a
g2 (x)
f (x, y)dy の意味 ではなく、上の (♡) のように計算を行う、という意味である。
g1 (x)
この記法は x による積分の上端・下端と y のそれとの対応がわかりやすいのが利点であり、本資料では
これにしたがう。難点は上記のように「積分の掛け算」と混同されることで、掛け算の場合には上のよ
うに × を入れる、あるいは各積分をカッコで囲うなどの工夫が必要になる。
• 記法 2
∫ b ∫ g2 (x)
f (x, y)dxdy
a
g1 (x)
これがおそらく一番ふつうの記法で、
『解析概論』などもこれを採用している。もっともやや古い書き方
かもしれない。 ∫
∫
ここでは最初の
が dx に、2番目の
が dy に対応する。y の上端・下端が x を含んでいれば混乱
することはないが、これが定数であった場合、たとえば
∫ 1∫ 2
f (x, y)dxdy
0
0
となると、どちらがどちらに対応するかがわかりにくくなる問題がある。dx, dy の現れ方が上の (♡) や
次の記法 3 と逆になっている点に注意。
• 記法 3
∫
b
∫
g2 (x)
f (x, y)dydx
a
g1 (x)
∫
(♡) のカッコを省略した形で、今度は
と dx, dy との関係が入れ子の対応(内側は内側、外側は外側)
になっている。
教科書もこの流儀であり、新しい資料だとこの形式が多いようである。対応が記法 2 と正反対になって
いるので、それと混同しないことが必要である。その意味では記法 1 のほうが紛れはない。
実はこの記法 3 はもう少し本質的な意味で、(累次積分でなく)重積分本来の意味を考えると問題があ
る。これについては 6.6 の「参考:ヤコビアンの符号」を参照。
• 累次積分の図形的意味
第1の積分:
∫ g2 (x)
f (x, y)dy
g1 (x)
は、x を一定に保ったとき、区間 [g1 (x), g2 (x)] での f (x, y) の x による断面の面積になっている。つまり上の
記法で F (x) は、各 x 座標での x による(したがって y 方向の)断面積を表している。第2の積分はこれを
x について積分するのだから、
∫ b
立体の体積 =
(x における断面積)dx
a
という意味になる。つまり、「断面積を(それと垂直な方向に)積分すれば体積になる」というわけである。
このことは高校数学でもすでに利用していた。たとえば「回転体の体積」の公式は、
∫ b
π{f (x)}2 dx
a
67
だが、この被積分関数は半径を f (x) とする円の面積に他ならない。高校では「体積=断面積の積分」を暗黙
に認めて使っていたかもしれないし、これを直接に示すことができるが、この累次積分の公式によって初めて、
このことが厳密にかつ一般的に正当化されたわけである。高校時代、「積分=面積」は認めても「断面積の積
分=体積」がなぜ言えるのかを悩んだ経験のある人は、ある意味ではよい数学的センスを持っていると言えよ
う。
• 補足:積分変数の順序について
ここでは
K = {(x, y) | a ≤ x ≤ b, g1 (x) ≤ y ≤ g2 (x) }
の形で表される領域の積分を考えたが、逆に
K ′ = {(x, y) | c ≤ y ≤ d, h1 (y) ≤ x ≤ h2 (y) }
のように、y を主にして表される領域についての積分も全く同様に考えることができる。それには累次積分の
公式の x, y を入れ替えればよい(教科書 p.184)。
領域によってはこの K, K ′ のどちらの方法で表せるものもある。また下のような領域の場合、x を主にす
ると領域を分割して扱わなければならないが、y を主にすれば分割なしに、上の K ′ の形で表せる。
上の図で、半円のほうを x2 + y 2 = 1、半楕円のほうを x2 + 4y 2 = 4 とすれば、半楕円上での積分値から半円
上での積分値を引けば斜線部の積分値が得られる。y を主とする形で書けばこれは
√
√
K = {(x, y) | − 1 ≤ y ≤ 1,
1 − y2 ≤ x ≤ 2 1 − y2 }
と書けるが、x を主にすると:
√
√
K1 = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 2, −2 1 − x2 ≤ y ≤ 2 1 − x2 }
√
√
K2 = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 2, − 1 − x2 ≤ y ≤ 1 − x2 }
∫
∫
と分割した上での K1 − K2 での積分を考えなければならない(つまり
−
K1
を計算する)。さらに領域
K2
を分割した和集合として扱おうとすれば:
√
√
K1 = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1,
1 − x2 ≤ y ≤ 2 1 − x2 }
√
√
K2 = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1, −2 1 − x2 ≤ y ≤ − 1 − x2 }
√
√
K1 = {(x, y) | 1 ≤ x ≤ 2, −2 1 − x2 ≤ y ≤ 2 1 − x2 }
∫
∫
∫
という3つの部分に分けての
+
+
を計算することになり、相当にうっとうしい。
K1
K2
K3
なお念のため:上のどの方法で計算しても、特に主とする変数を x にしても y にしても結果は必ず同じに
なる。これは重積分が累次積分として表せることの証明に戻って考えてみればわかる。
一般に、x, y のどちらを主にした形で累次積分を行うかは、領域の表し方、計算の手間に大きく影響する。
したがって実際の計算にあたっては、どちらを選ぶかをよく考える必要がある。理想的には両方でやって結果
を比べれば、互いの検算にもなる。
68
6.5
重積分の計算手順
重積分の計算は、特殊な場合を除いては累次積分の計算に帰着される。実際の計算にあたってはいろいろ考
慮すべき点や選択肢が多いので、的確な判断で計算を進めていく必要がある(もっとも「的確な判断」ができ
るというのはある意味では計算力そのものであり、ある程度の訓練を経ないと身につかないとは言える)。
問題を解くだいたいの手順の一般論は以下の通り。もちろん、すべてが必要というわけではないし、順番も
この通りとは限らない。
• 被積分関数を確定する
計算問題の場合には被積分関数 f (x, y) は直接与えられるのがふつうだが、応用問題の場合にはその f (x, y)
自体を自分で定義する必要がある。その際、関数自体の形はもちろんだが、座標をどのように選ぶか、原
点をどこにおくかなども後の計算の難易に大きく影響する。
•例
• 円錐の体積を求める(もちろん回転体の体積として求めることもできるが、xy 平面上に底面をおく
と側面はどのような式で表されるか)。
• ドーナツ型の体積を求める。ただしドーナツの中心となる円の半径を a とし、切り口の半径を b と
する(当然、a > b)。
• 半径が a の2つの円筒が直交するときの共通部分の体積。
• 積分領域を求める
これも下のように領域が直接、式の形で与えられていれば話は簡単である。
K = {(x, y) | a ≤ x ≤ b, g1 (x) ≤ y ≤ g2 (x) } . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (♠)
しかし領域が図形として定義されていたり、領域が満す条件が方程式や不等式の形で与えられていたり
する場合には、そこから上のような積分に使える形で領域を表す必要がある。これは実際にはかなり難
しいことも少なくない。直観的にわかりにくい場合は、領域の図を書いてみるなどをするとよい。
•例
• 領域が与えられた3点を頂点とする3角形である。
• f (x, y) ≥ 0 となる領域で f (x, y) を積分する。
• コメント
実際の場面で問題を解く必要があるときは、この最初の2点を処理する必要が必ずある。しかし反面、学
生が苦手とするのもまさにこれらの点で、
「機械的な計算はできるが応用力がない」と言われる所以であ
る。だがこの言葉通り、ここから先は機械的な計算で、それこそコンピュータにもできるものである。そ
の前の段階こそ人間でなければできないものであり、難しいと同時に楽しみもあると思うのだが。
• 変数を選ぶ
必要に応じて、計算しやすい変数の組に変数変換を行う。変数変換については本格的には次の 6.6 で扱
うが、簡単な場合としては平行移動、つまり
x → x − a,
y → y−b
というものがある(平行移動しても積分値が変わらないのは明らかだろう)。変数変換一般に言えること
だが、変換によって被積分関数が
f (x, y) → f ∗ (x, y) = f (x − a, y − b)
と変わること、積分領域が変わることによるメリット・デメリットを比較することが重要となる。
69
∫
∫
3
• 例:
3
f (x, y)dy の場合:
dx
1
1
• x = X + 1, y = Y + 1 という変換で、積分は
∫ 2
∫ 2
dX
f (X + 1, Y + 1)dY
0
0
となり、下端が 0 となる分は計算しやすくなる。
• x = X + 2, y = Y + 2 という変換で、積分は
∫ 1
∫ 1
dX
f (X + 2, Y + 2)dY
−1
−1
となり、偶関数、奇関数の対称性が使える可能性がある。
もっともいずれの場合も、被積分関数が複雑になることのデメリットとの得失がある(もちろん、かえっ
て簡単になることもある。その場合には無条件に変換したほうがよい)。
• 積分領域、積分の順序を設定する
ここでのポイントは次の2点である。
• 2つの変数のいずれを主たる変数とするか。(♠) の場合、x が主たる変数であり、積分は y から先
に行われる。
• 領域が単独で (♠) の形に表せないとき、どのように分割するか。
一般には、主たる変数には積分領域が単独の累次積分で表され、領域を分割する必要のないほうを選
んだほうが計算は簡単である。もっとも必ずしもそうとは言い切れない場合もある。たとえば領域が
K = K1 + K2 と分割され、
∫
∫
∫
∫ b1
∫
=
+
=
dx
K
K1
K2
a1
∫
g2 (x)
g1 (x)
∫
b2
f (x, y)dy +
g3 (x)
dx
a2
f (x, y)dy
g1 (x)
となるような場合、f (x, y) = f x (y) の y についての不定積分は1回やれば何回でも使えるし、上の g1 (x)
のように共通の上下端があれば、代入結果も共通に使えるからである。y を主たる変数とすると
∫
∫ d ∫ h2 (y)
=
dy
f (x, y)dx
K
c
h1 (y)
のように1つの積分で表せるとしても、不定積分の計算や、上下端を代入した y の関数が複雑になる場
合などは、前者のほうが楽ということになる。
もちろん、x, y どちらを主にしても単一の積分で表せる場合や、逆にどちらの場合も分割が必要な場合
などは、他の観点から計算が簡単になりそうなものを選ぶ必要がある。
• 第1の積分を行う
積分領域が (♠) のように表される場合、つまり主たる変数が x で y から先に積分が行われる場合で考
えよう。これは前節で述べたように:f (x, y) = f x (y) の不定積分 F x (y) を求め、
[
F x (y)
]y=g2 (x)
y=g1 (x)
= F x (g2 (x)) − F x (g1 (x)) = F (x)
を計算するだけのことである。
しかし学生の書いたものを見ていると、どの変数で積分するか、上下端でどの変数に代入するかなどにま
ちがいが多く見られる。F x (y) の中には x も y も登場するが、代入は y にするのであって、x はそのま
まにしておくことを強調するためには、上のように上下端を y = ... の形で書いておくのが確実である。
• 第2の積分を行う
∫
上で得られた F (x) について、
b
F (x)dx を計算すればよい。これは単なる定積分だが、被積分関数が
a
簡単な場合でも上下端の x の関数が複雑だと F (x) はかなり複雑になることもあるので、計算の工夫を
行ったり、計算ミスをしないように注意する必要がある。
70
• 特殊な場合の工夫
被積分関数や積分領域が特殊な条件を満たしている場合には、それを利用して計算を簡略化できる。こ
こではいくつかの例を示すにとどめる。実際の証明は自分でやってみること(レポート問題や試験問題
として出題する可能性もあり)。
• f (x, y) が対称関数、つまり f (x, y) = f (y, x) の場合。
これは関数が直線 y = x について対称ということである。積分領域 K も y = x について対称な
ら、上半分での積分値と下半分での積分値は一致する。逆に、上半分ないし下半分での積分値は全
体の積分値の半分になる。
∫ 1 ∫ 1
• 例:
dx
f (x, y)dy で f (x, y) は対称関数とする。積分領域は [0, 1] × [0, 1] の正方形の上半分
0
x
であり、正方形全体での積分値の半分になるから:
∫ 1
∫ 1 ∫ 1
∫
1 1
dx
f (x, y)dy =
dx
f (x, y)dy
2 0
0
x
0
になる。右辺の積分は上下端が定数である点、左辺の積分よりは簡単になる。
• 例: f (x, y) = xy は対称関数だから:
∫ 1 ∫ 1
∫ 1 ∫ x
∫
∫ 1
1 1
dx
xydy =
dx
xydy =
dx
xydy
2 0
0
x
0
0
0
• f (x, y) が y についての偶関数である場合、つまり f (x, y) が x 軸について対称すなわち
f (x, y) = f (x, −y) の場合、
∫ b ∫ g(x)
∫ b ∫ g(x)
dx
f (x, y)dy = 2
dx
f (x, y)dy
a
−g(x)
a
0
• f (x, y) が y についての奇関数である場合、つまり f (x, y) = −f (x, −y) の場合、
∫ b ∫ g(x)
dx
f (x, y)dy = 0
a
−g(x)
• なお、f (x, y) が x についての偶関数である場合の
∫ a
∫ g2 (x)
∫ a ∫ g2 (x)
dx
f (x, y)dy = 2
dx
f (x, y)dy
−a
g1 (x)
0
g1 (x)
や奇関数である場合の
∫ a
∫ g2 (x)
dx
f (x, y)dy = 0
−a
g1 (x)
は一般には成り立たない。
たとえば f (x, y) = x は x についての奇関数だが、
∫
∫ 1 [ ]x
∫ 1
∫ 1
∫ x
x2 dx = 2
xy dx =
xdy =
dx
−1
0
−1
0
−1
1
x2 dx ̸= 0
0
である。つまり x のほうの偶奇性は上下端の g1 (x), g2 (x) に依存して決まり、f (x, y) 単独では決
まらない。しかし上下端が定数である場合は
∫ a
∫ d
∫ a ∫ d
dx
f (x, y)dy = 2
dx
f (x, y)dy (f (x, y) は x の偶関数)
−a
c
0
c
などは成り立つ(より一般には、g1 (x), g2 (x) が偶関数であれば、f (x, y) の偶奇性は保存され、し
たがって上の公式が成り立つ)。
• 特に f (x, y) が x, y 軸のいずれについても対称で K もそうである場合、つまり
f (x, y) = f (−x, y) = f (x, −y) = f (−x, −y)
K = {(x, y) | − a ≤ x ≤ a, −g(x) ≤ y ≤ g(x) }
の場合、積分値は1つの象限での積分値の4倍、つまり
∫
∫ a ∫ g(x)
f (x, y)dxdy = 4
dx
f (x, y)dy
K
0
0
71
• 例:K = {(x, y) | |x| + |y| ≤ 1 } で表される領域で f (x, y) も x, y について対称な場合、
∫
∫ 1 ∫ 1−x
f (x, y)dxdy = 4
dx
f (x, y)dy
K
0
0
つまり第1象限部分での積分値を4倍すればよい。
• 練習:これを確認せよ。またこれを用いて底面が1辺 a の正方形、高さが h である四角錐(ピラ
a2 h
ミッド型)の体積が
であることを計算せよ(ヒント: f (x, y) はピラミッドの側面を表す平面
3
の方程式になる)。
• f (x, y) = g(x)h(y) の形の場合:
∫ b ∫ d
∫ b ∫
dx
f (x, y)dy =
dx
a
c
a
(∫
d
b
g(x)h(y)dy =
c
) (∫
g(x)dx ·
a
)
d
h(y)dy
c
つまり累次積分は1つの1次積分の積になる。ここでは上下端はすべて定数でなければならない。
∫
1
∫
1
• 例:上に出てきた:
dx
xydy の場合、
0
0
(∫
)
(∫ 1
)
∫ 1 ∫ 1
1
1 1
1
dx
xydy =
xdx ·
ydy = · =
2
2
4
0
0
0
0
6.6
積分の変数変換
はじめに簡単な例を考えてみよう。K = [0, 1] × [0, 1] の上での定数関数 f (x, y) = 1 の積分を考える。これ
は1辺が 1 の立方体の体積だから、値は当然 1 である。そこで u = 4x, v = 3y (つまり x = u/4, y = v/3)
という変数変換を考える。これは x 方向への縮尺を4倍、y 方向へは3倍したことにあたる。対応して、K は
uv 座標では K ∗ = [0, 4] × [0, 3] になり、この面積は 3 × 4 = 12 である。被積分関数は uv 座標でも常に 1:
f (x, y) = f (u/4, v/3) = f ∗ (u, v) = 1
なので、この直方体の体積は 12 × 1 = 12 になる。これは当初の立方体の体積 1 の 12 倍だから、結果を合わ
1
1
せるには
=
倍しなければならない:
3×4
12
∫
∫
1
f (x, y)dxdy =
f ∗ (u, v) · dudv
12
′
K
K
これが積分変数の変換の基本である。
一般に線型変換:
x = au + cv
y = bu + dv
を考えよう。このとき uv 座標での単位ベクトル
(
1
) (
0
,
(
に対応するから、uv 座標での単位正方形 [0, 1] × [0, 1] は
0
)
(
a
) (
c
)
は xy 座標でのベクトル
,
1
b
d
) (
)
a
c
,
を2辺とする平行四辺形に対応す
b
d
る。単位正方形の面積は 1 なのに対し、平行四辺形の面積は
(
)
a c
det
= ad − bc
b d
になる。正確に言えば、面積の場合には「0 以上」という条件がつくから、絶対値をつけた |ad − bc| である。
これは uv 座標系から xy 座標系に移るとき、面積が |ad − bc| 倍されたことを意味する。
単位正方形と平行四辺形の点は1対1対応しているから、その上での被積分関数の値も(平行四辺形に移る
ときに形はゆがむが)同じように分布している。したがって積分値を合わせるには面積比の |ad − bc| を掛け
てやる必要がある。これから、
72
∫
∫
f (x, y)dxdy =
K∗
K
f ∗ (u, v)|ad − bc|dudv
になる。ただし K ∗ は xy 座標系での領域 K を uv 座標系に移したもの、f ∗ (u, v) は f (x, y) の変数を u, v に
移したもので、今の場合:
f ∗ (u, v) = f (au + cv, bu + dv)
である。ここで
∂x
,
∂u
∂y
,
b=
∂u
a=
∂x
∂v
∂y
d=
∂v
c=
であることに注意しよう。
一般の変数変換:
x = φ(u, v)
y = ψ(u, v)
の場合、φ, ψ が微分可能であれば、局所的な変化は偏導関数の1次式で近似できること:
∆x = φu (u, v)∆u + φv ∆v
∆y = ψu (u, v)∆u + ψv ∆v
を認めれば、面積は
(
∆x∆y = det
φu
φv
ψu
ψv
)
∆u∆v
となって、線型変換の場合と同じ形の面積比を得る。あるいは最初から微分形式で考えてしまえば:
(
)
φu φv
dxdy = det
dudv
ψu ψv
である。
(
J(u, v) = det
φu
ψu
φv
ψv
)
= φu ψv − φv ψu
をこの変数変換の「ヤコビアン (Jacobian)」と呼ぶ(教科書では pp. 158–165 参照)。
• 注 1: すでに注意したように、(行列式でなく)行列のほうをヤコビアンと呼ぶこともある。
ここでは変換行列を単に J と書いて表そう。
• 注 2: ヤコビアンの記号として、上の J(u, v) もよく用いられるが、
D(x, y)
D(u, v)
さらには
∂(x, y)
∂(u, v)
といった記法もある(前者は「解析概論」など、後者は教科書 pp.158–165)。このほうが「変数の
dy ∂z
,
などと
組が何から何に変わったか」がはっきりしているし、ライプニッツ流の微分記号
dx ∂x
の相性もよい。一方では記号が複雑になるというデメリットもある。
• 注 3: 逆変換、つまり (u, v) → (x, y) の変換行列はもとの変換行列 J の逆行列 J −1 であり、し
D(u, v)
たがってヤコビアンはその行列式になる。これは注 2 の記法では
と簡単に表せる。一般
D(x, y)
に行列 A に対し、
det A−1 =
1
det A
だから、
D(u, v)
1
=
D(x, y)
D(x, y)
D(u, v)
73
になる。ただし、右辺は u, v の関数として表されているので、これを x, y を変数とする形に直さ
なければならない。
ここで極限移行した
∆x∆y → dxdy
∆u∆v → dudv
をとれば(あるいは最初から微分形式として考えれば)、上で「近似式」だったものが厳密に成り立ち(それ
を証明することが変数変換公式のポイントだが、ここでは省略)、
∫
∫
f (x, y)dxdy =
f (φ(u, v), ψ(u, v))|J(u, v)|dudv
K∗
K
という、積分の変数変換の公式が得られる。ここでもヤコビアン J(u, v) に絶対値がついていることに注意。
• 参考:ヤコビアンの符号: ヤコビアンの符号が正になったり負になったりするのは、座標系その
ものの性質、正確に言えば、変換される座標系どうしの関係による。
座標系には本質的に2種類あり、一方を鏡に写す(つまり鏡映をとる)ともう一方になる。2次元
座標の場合、x 軸の左右を逆にする、あるいは y 軸の上下を逆にすれば、鏡映の座標軸が得られ
る。3次元座標の場合、右手あるいは左手の親指、人差し指、中指の3本を互いに直角に延ばし、
順に x 軸、y 軸、z 軸とする。ふつうに用いている座標系は右手の場合であり、これを「右手系」
と呼ぶ。左手の場合は「左手系」である。
2つの右手系の座標軸は、適当に回転すれば一方を他方に互いに重ね合わせることができる。一方、
左手系はこれと鏡映の関係にあり、右手系と左手系を回転によって重ね合わせることはできない。
この区別は、座標系に依存して空間そのものに「向き」がつけられていると言うこともできる。こ
の「向き」を「オリエンテーション (orientation)」などと呼ぶ。
互いに鏡映の関係にある座標系では変換のヤコビアンが負になる。つまり空間そのものの向きが逆
転し、符号が変わるのもそのためである。本来なら面積や体積そのものにも「向き」をつけて考え、
向きが逆転すれば符号も逆転するようにすれば、ヤコビアンの符号の逆転と相殺して問題はなくな
る。しかしこの授業で扱っている範囲では面積や体積の向きは考えていないので、ヤコビアンによ
る符号の逆転が起きないよう、絶対値をつけておくのである(なおヤコビアンが 0 になるのは変換
が縮退した場合、たとえば2次元が1次元や0次元につぶれる場合で、変換としての実質的な意味
がなくなるので考慮の対象外になる)。
もう少し厳密に言えば、面積素片の dxdy は、ここでは dx · dy という、普通の意味での掛け算と
して考えている。その意味で考えれば dxdy = dydx である。一方、向き付きの面積として考える
なら、普通の掛け算ではなく、「外積」dx^dy として扱う必要がある。詳しい説明は省くが、外積
の場合には dx^dy = −dy^dx と符号が反転し、ヤコビアンによる反転と相殺される。たとえば
x ↔ y
と x, y を逆転するとヤコビアン J(u, v) は −1 であり、向き付きの面積で考える、つまり dxdy を
外積と考えれば:
dxdy = J(u, v)dydx = (−1)(−dxdy) = dxdy
となって符号が相殺され、同じ積分値が得られる。したがって J(u, v) に絶対値をつける必要がな
∫ b
∫ a
くなる。1変数関数の場合の
=−
という公式も、本質的には同じ理由によると考えること
a
b
ができる。
このような外積代数や微分形式への入門書としては、志賀浩二:
「ベクトル解析 30 講」
(朝倉書店)
がわかりやすく、お薦めである。。
積分を計算する立場からの変数変換の意義は、それによって計算が大幅に簡略化される(可能性のある)点
である。変数変換 x = φ(u, v), y = ψ(u, v) によって積分は:
74
• 被積分関数が変わる。
f (x, y) → f (φ(u, v), ψ(u, v)) = f ∗ (u, v)
ただし f ∗ (u, v) は f (x, y) を u, v の関数として表したものである。たとえば上の線型変換の場合、
f (x, y) = xy なら f ∗ (u, v) = (au + cv)(bu + dv) = abu2 + (ad + bc)uv + cdv 2
になる。
• 積分領域が K (xy 座標)から K ∗ (uv 座標)に変わる。
(
) (
)
a
c
上の線型変換の場合、そこで見たように、xy 座標では
,
を2辺とする平行四辺形は、uv
b
d
座標では単位正方形 [0, 1] × [0, 1] になる(どちらがどちらに変わるかに注意)。
• ヤコビアン |J(u, v)| が加わる(これをよく忘れるので要注意!)。
第3点のヤコビアンが加わるのはともかくとして、最初の2点は必ずしも相いれない場合がある。つまり積
分領域(累次積分の上下端)は簡単になるが被積分関数は複雑になる場合や、その逆の場合がありうる。両方
とも簡単になるなら問題はないのだが(そして両方とも複雑になるなら論外だが)、そうでない場合には得失
を考える必要がある。繰り返しになるが、どちらがよいかの判断はその場その場に依存する。
• 代表的な変数変換の例
代表的な変数変換の例としては上の線型変換、極座標変換がある。他に、極座標変換の変形である「楕円座
標変換」とでも呼ぶべきものがある。他の変換例は個別に考える必要がある。
• 線型変換
上で述べたように
(
) (
x
a
=
y
b
c
d
)(
u
)
v
の場合で、|J(u, v)| = |ad − bc| になる。積分領域は
K = {(x, y) | a ≤ x ≤ b, g1 (x) ≤ y ≤ g2 (x) }
の形で与えられている場合、u, v を代入して
K ∗ = {(u, v) | a ≤ au + cv ≤ b, g1 (au + cv) ≤ bu + dv ≤ g2 (au + cv) }
ではあるのだが、
• ヤコビアンの符号によっては g1 , g2 の不等号が逆向きになる場合がある。
• 上をさらに
K ∗ = {(u, v) | a∗ ≤ u ≤ b∗ , g1∗ (u) ≤ v ≤ g2∗ (u) }
などの形に直さないと u, v による累次積分ができない。
などの問題があるため、むしろ図形的に考察して直接 K ∗ を求めたほうがよい。
線型変換の適用が有効なケースとしては:
• f (x, y) = f ∗ (px + qy) と表せる場合。
この場合、u = px + qy とおき、v にはこれと線型独立な適当な変換を選ぶ。たとえば b ̸= 0 なら
v=x
( など。このとき
) (
)(
)
u
p q
x
=
v
1 0
y
でこの行列の行列式は −q であり、実際の変換行列はこの逆行列だからヤコビアンは |J(u, v)| =
になる。このとき f (x, y) = f ∗ (px + qy) = f ∗ (u) だから、積分領域が
75
1
|q|
K ∗ = {(u, v) | a ≤ u ≤ b, g1 (u) ≤ v ≤ g2 (u) }
の形で表せるなら、積分は
∫ b ∫ g2 (u)
∫
du
f ∗ (u)dv =
a
g1 (u)
b
f ∗ (u)(g2 (u) − g1 (u))du
a
となって、u だけの積分で済む。g1 (u), g2 (u) が定数(関数)ならさらに簡単である。
• f (x, y) = f ∗ (px + qy, rx + sy) と表せる場合。
上と同様に
(
) (
)(
)
u
p q
x
=
v
r s
y
1
となり、|J(u, v)| =
である。
|ps − qr|
n
たとえば f (x, y) = (px + qy) (rx + sy)m の場合、
f (x, y) = f ∗ (px + qy, rx + sy) = f ∗ (u, v) = un v m
となって、被積分関数が簡単な形になる。
• 積分領域が三角形や平行四辺形の場合。
(
)
(
)
a
c
上述のように、積分領域が
と
を2辺とする三角形ないし平行四辺形である場合、
b
d
x = au + cv
y = bu + dv
という変数変換によって積分領域は平行四辺形であれば単位正方形に、三角形であればその半分の
直角二等辺三角形に移る:
K△ = {(x, y) | 0 ≤ u ≤ 1, 0 ≤ v ≤ 1 − u } (三角形の場合)
K□ = {(x, y) | 0 ≤ u ≤ 1, 0 ≤ v ≤ 1 } (平行四辺形の場合)
したがって累次積分の上下端が簡単な形になるし、領域分割の必要もなくなる。もっとも被積分関
数のほうは複雑になる可能性があるので、その得失は考える必要がある(逆に上の2例の場合には、
積分領域がどうなるかが問題となる)。
• 極座標
x = r cos θ
y = r sin θ
による変換で、ヤコビアンは J(r, θ) = r になる(練習)。
極座標が有効なのは積分領域が円、あるいはその延長として、円の一部である扇形や、2つの同心円の間
に挟まれたドーナツ型の領域などである場合にだいたい限られる。逆に正方形などの多角形の積分領域
を極座標で表そうとするのは大変である。被積分関数を簡単にする場合も考えられないではないが、あ
まり現実的ではない。
積分領域が原点を中心とした半径 a の円である場合、極座標では
{(r, θ) | 0 ≤ r ≤ a, 0 ≤ θ < 2π }
となる(これで円内の点が過不足なく表せることを確認せよ。ただし r = 0 の場合は θ は不定になる)。
扇形の場合には、θ の範囲の [0, 2π] を適当に変えればよい。また同心円で挟まれた領域の場合、たとえ
ば半径 a と b の円の間の部分なら、a ≤ r ≤ b になる。
• 楕円座標
楕円座標というのはここだけの呼び方だが、(x, y) → (r, θ) で、
x = ar cos θ
y = br sin θ
76
という変換を指す。これのヤコビアンは J(r, θ) = abr になる(練習)。
楕円座標は積分領域が
x2
y2
+
=1
a2
b2
という楕円形(またはその一部)である場合には有効である。
極座標はこの楕円座標の a = b = 1 の場合であり、その意味では「円座標」という言い方もできる。
具体例
6.7
• f (x, y) = 2x2 y + 3xy − 2x2 + 4y を次の各々の領域で積分する。
はじめに x, y による不定積分を求めておく。
∫
∫
2
3
2
f (x, y)dx = (2x2 y + 3xy − 2x2 + 4y)dx = x3 y + x2 y − x3 + 4xy
3
2
3
∫
∫
3 2
2
2
2 2
f (x, y)dy = (2x y + 3xy − 2x + 4y)dy = x y + xy − 2x2 y + 2y 2
2
上に見られるように、y による積分のほうが簡単なので、他の条件が同じなら y から先に計算したほうが楽に
なる。
• K1 = [0, 1] × [0, 2]
先に y のほうから積分すれば
∫
∫ 1 ∫ 2
f (x, y)dxdy =
dx
(2x2 y + 3xy − 2x2 + 4y)dy
K1
0
0
]2
∫ 1[
3 2
2
2
2 2
dx
=
x y + xy − 2x y + 2y
2
0
∫0 1
=
(4x2 + 6x − 4x2 + 8)dx
∫0 1
[
]1
=
(6x + 8)dx = 3x2 + 8x = 11
0
0
x のほうから積分すると:
∫
∫ 2 ∫ 1
f (x, y)dxdy =
dy
(2x2 y + 3xy − 2x2 + 4y)dx
K1
0
0
]1
∫ 2[
2 3
3 2
2 3
=
x y + x y − x + 4xy dy
3
2
3
0
)
∫0 2 (
2
3
2
=
y + y − + 4y dy
3
2
3
0
)
[
]2
∫ 2(
2
37 2 2
37 4
37
y−
dy =
y − y =
− = 11
=
6
3
12
3 0
3
3
0
今の場合、y からの積分では途中で分数が消えてしまうということも加わって、こちらのほうがだいぶ
計算が簡単になっている。
• 別解
今の場合は不定積分を先に求めてあるから上のままでもよいが、先ほどの
∫ b ∫ d
∫ b
∫ d
dx
g(x)h(y)dy =
g(x)dx ×
h(y)dy
a
c
a
c
を使えば:
∫
∫
∫
∫
∫
2
2
4ydxdy
2x dxdy +
3xydxdy −
2x ydxdy +
f (x, y)dxdy =
K1
K1
K1
∫ 1
∫ 2 K1
∫ 1
∫ 2
∫ 1K1
∫ 2
∫ 1
∫
=2
x2 dx ×
ydy + 3
xdx ×
ydy − 2
x2 dx ×
dy + 4
dx ×
0
0
0
0
0
としても計算できる。
77
0
0
2
ydy
0
∫
1
∫
1
3
x2 dx =
∫0 2
1
1
2
xdx =
∫0 2
ydy = 2
∫
1
dx = 1
0
dy = 2
0
0
だから、上は
1
1
1
4
4
2 · · 2 + 3 · · 2 − 2 · · 2 + 4 · 1 · 2 = + 3 − + 8 = 11
3
2
3
3
3
となる。
• K2 = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1, 0 ≤ y ≤ 1 − x }
上の「y の不定積分のほうが簡単」を参照して、y からの積分だけを示す。
∫
∫ 1 ∫ 1−x
f (x, y)dxdy =
dx
(2x2 y + 3xy − 2x2 + 4y)dy
K2
0
0
]1−x
∫ 1[
3 2
2
2
2 2
dx
=
x y + xy − 2x y + 2y
2
0
)
∫0 1 (
3
=
x2 (1 − x)2 + x(1 − x)2 − 2x2 (1 − x) + 2(1 − x)2 dx
2
)
∫0 1 (
5
3
3
2
4
=
x + x − 2x + x + 2 dx
2
2
[0
]1
1 5 3 4 2 3 5 2
1 3 2 5
79
=
x + x − x + x + 2x = + − + + 2 =
5
8
3
4
5
8
3
4
120
0
これだけの積分でも結構計算は大変であり、分数計算などの工夫も重要である。
• 練習: x から先に積分してみよ。
• K3 = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1, x − 1 ≤ y ≤ 1 − x }
このまま計算する、あるいは上の結果を利用して
∫
∫
∫ 1 ∫ 0
=
+
dx
f (x, y)dy
K3
K2
0
x−1
として後の積分だけ計算してもいいのだが、ここでは対称性の利用を考えよう。
積分領域は y について対称だから、奇関数部分については 0 になり、偶関数部分については y ≥ 0 の部
分の2倍になる。y の奇数次の項は皆 y についての奇関数だからその項は消えてしまい、
∫
∫ 1 ∫ 1−x
f (x, y)dxdy =
dx
(2x2 y + 3xy − 2x2 + 4y)dy
K3
0
x−1
∫ 1 ∫ 1−x
=2
dx
(−2x2 )dy
0
0
のように非常に簡単な形になる。あとは
]1
[
∫ 1
4
1
1 3 1 4
2
=1− =−
= −4
x (1 − x)dx = −4 x − x
3
4
3
3
0
0
でおしまいである。
• K4 : 3点 (0, 0), (1, 1), (2, 1) を結ぶ三角形内の領域
これを y から積分しようとすると、
K = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 2, g1 (x) ≤ y ≤ g2{(x) }
x (0 ≤ x ≤ 1)
1
g1 (x) = x
g2 (x) =
2
1 (1 ≤ x ≤ 2)
となって g2 (x) に折線が生じるから、領域を分割しなければならない。分割してもいいのだが、その場
合でも、x = 1 を境に左右に分割すると式が面倒になる。ここは引き算の分割として、
∫ 2 ∫ 1
∫ 1 ∫ 1
dx
f (x, y)dy −
dx
f (x, y)dy
0
x/2
0
x
としたほうが簡単だろう(これはどういう領域の計算をしているか ? )。
78
一方、x から積分するなら
K = {(x, y) | 0 ≤ y ≤ 1, y ≤ x ≤ 2y }
となって分割せずに済む。
それで計算すると(各積分の結果だけ示す)。
∫ 2y
14 4 1 3
(2x2 y + 3xy − 2x2 + 4y)dx =
y − y + 4y 2
3
6
y
)
∫ 1(
14 4 1 3
89
9
y − y + 4y 2 dy =
= 2 40
3
6
40
0
となる。
• 線型変換の例
f (x, y) = xy
K = {(x, y) | 0 ≤ x ≤ 1, x ≤ y ≤ 2x }
これは直接計算できて:
∫
∫
f (x, y)dxdy =
K
∫
1
∫
2x
dx
1
xydy =
0
x
0
3 3
3
x dx =
2
8
(
わざわざ変換する必要もないのだが、練習の意味でやっておくと:積分領域は
1
1
)
(
と
1
2
)
を2辺とす
る三角形であるから:
x=u+v
y = u + 2v
という変換をすれば、|J(u, v)| = 1 となり、積分領域は点 (0, 0), (1, 0), (0, 1) を頂点とする直角二等辺三角形
だから:
∫
∫
f (x, y)dxdy =
K
∫
1
0
∫
1−u
du
0
∫
1
(u + v)(u + 2v)dv =
1−u
(u2 + 3uv + 2v 2 )dv
du
0
0
3
を得る(練習)。
8
これはわざわざ積分を複雑にしたようなものだが、同じ積分領域で
となる。これを計算すれば上と同じ
f (x, y) = (y − x)(2x − y)
とすれば、
f (x, y) = f ∗ (u, v) = uv
となって、今度は積分領域だけでなく、被積分関数も簡単になる(まあ、わざとらしいと言えばわざとらし
いが)。
• 練習: これを xy 、uv それぞれについて計算して、結果が
1
になることを確かめよ。
24
• 底面の半径が a、高さが h の円錐の体積
1
結果が πa2 h になることはすでに(小学校で ? )習った。またこれは「回転体の体積」として求めることも
3
できるが、ここでは重積分の問題として考えよう。
底面を xy 平面におき、中心を原点にとる。したがって底面は x2 + y 2 ≤ a2 を満たす (x, y) の集合である。
頂点の座標は (0, 0, h) になる。そこで側面を関数 z = f (x, y) として表すことを考えよう。
円錐の側面は、頂点と底面の円周を結ぶ直線を円周に沿って1周することで得られる。したがってここでは
極座標で考えたほうが簡単となる。rz 平面で考えれば、これは (r, z) = (0, h) と (a, 0) を結ぶ直線だから、
79
z=
h
(a − r)
a
になる。 これがそのまま側面を表す関数(を極座標で表したもの)で、方向の θ には依存しない。円錐の体
積 V は、底面を積分領域とし、側面の関数を積分すれば得られる。底面の円は極座標では
K = {(r, θ) | 0 ≤ r ≤ a, 0 ≤ θ < 2π }
と表すことができ、側面は
z = f (r, θ) =
h
(a − r)
a
である。そこで ヤコビアンの J(r, θ) = r を忘れずに入れて
∫
∫ a
h 2π
dθ
(a − r)rdr
f (r, θ)rdrdθ =
a 0 [ 0
K ∫
]a
a
h
2πh a 2 1 3
2πh a3
πa2 h
= · 2π
(a − r)rdr =
r − r
=
·
=
a
a
2
3
a
6
3
0
0
∫
V =
• 練習: 上の積分式を直交座標 (x, y) で表してみよ。できればそれを計算せよ。
また回転体の体積として計算し、結果を比較せよ。
• 極座標で、f (r, θ) = θ で表される曲面と xy 平面が囲む体積
まずそもそもこれがどういう曲面になるかを考える必要がある。f (r, θ) は r には依存せず、θ だけの関数だか
ら、r 方向、つまり原点から放射状に延びる方向では一定値になる。また θ が増える、つまり回転するにした
がって増加するから、螺旋階段を滑らかにしたような形である。
• 注: グラフはわざと示さないので自分で想像してみよ。あるいは Mathematica, matlab などのグ
ラフ作成ソフトで描画してみよ。
積分領域は半径 1 の円内(ただし原点を除く)、つまり
K = {(r, θ) | 0 < r ≤ 1, 0 ≤ θ < 2π }
としよう。原点を除くのは、関数が原点で不連続(そもそも不定)になるからだが、積分の計算には影響しない。
しつこく言うが、極座標の計算ではヤコビアン r を忘れずに!これは面積素片が
dxdy = rdrdθ
であることによる。
∫
∫ 1 ∫ 2π
f (r, θ)rdrdθ =
dr
rθdθ
K
0
∫0 1
∫ 1 [ 2 ]2π
rθ
rdr = π 2
dr = 2π 2
=
2 0
0
0
となる。
• f (x, y) = cos x cos y で原点を含み、f (x, y) ≥ 0 である領域の体積
まず境界線:
f (x, y) = 0
になる点を求める必要がある。cos x cos y = 0 になるのは cos x = 0 または cos y = 0、したがって
x=±
π
π
または y = ±
2
2
のときであり、その外側では f (x, y) は負になるから、領域としては
[ π π] [ π π]
− ,
× − ,
2 2
2 2
80
とすればよい。
• 注:正確に言うと、cos x cos y ≥ 0 の領域は市松模様のように周期的に分布しており、たとえば
( π2 , π2 ) という点で次の領域につながってはいるのだが、ここではそれは考えない。
したがって体積は
∫ π/2
∫ π/2
∫ π/2
∫ π/2
dx
cos x cos ydy =
cos xdx ·
cos ydy
−π/2
−π/2
−π/2
−π/2
(∫
)2
(∫
)2
([
π/2
π/2
]π/2 )2
=
cos xdx
=4
cos xdx
=4
sin x
=4
−π/2
0
0
となる。
参考: 解析学の基本定理の拡張とガウスの定理
6.8
1変数関数の場合の解析学の基本定理をもう一度考えてみよう。ただし後での都合により、ここでは
∫ b
f ′ (x)dx = f (b) − f (a)
a
の形で書いておく。これの2次元(以上)の重積分への拡張を考えたいわけである。
上の左辺を計算するには、区間 [a, b] におけるすべての点での f ′ (x) の値の情報が必要である。これに対し、
右辺は両端での f (x) の値だけでこの積分値が決まることを意味している。言い換えると、左辺は区間、つま
り「線分」という1次元の世界での話であるのに対し、右辺は「点」という0次元の世界、しかも区間の境界
での話になっている。
これを一般化して言えば、「領域内での(f ′ (x) の)積分値は、境界上での(f (x) の)値だけで決まる」と
いうことになる。これを変数を増やした2次元(以上)の場合に適用すれば、「ある領域に対し、その境界上
での f (x, y) の値がわかれば、その導関数の領域内での積分値がわかる」という形に拡張される。
まさしくそれを言っているのがガウスの定理であり4 、2次元の場合には:
∫
∫
fx (x, y)dxdy =
f (x, y)dy
C∫
∫Ω
fy (x, y)dxdy = −
f (x, y)dx
Ω
C
∫
という形で表される。ただし Ω は積分領域であり、C はその境界線で、 f (x, y)dy は C 上での(y による)
C
線積分を表す。曲線 C がパラメタ t によって (x(t), y(t)) と表すことができ、t が a から b まで変化する間に
1周するなら、
∫
∫
f (x, y)dy =
C
b
f (x(t), y(t))y ′ (t)dt
a
となる。(累次積分に出てくる「x を定数と見なしての y での積分」とは違うものなので注意)。
x の場合と y の場合とで符号が違うのは、座標軸のオリエンテーションに起因している。簡単に言えば、境
界線 C をぐるっと1周するときの x 軸と y 軸との「見え方」が違うわけである。普通にはこれを1つにまと
めて:
∫
∫
(f (x, y)dy − g(x, y)dx)
(fx (x, y) + gy (x, y))dxdy =
Ω
C
のような形で表す(この形なら、変数変換してもそのまま等式が成り立つ)。
この場合には領域 Ω という2次元の世界が境界線 C という1次元の世界での話に集約されており、上の意
味での拡張になっているだろう。3次元以上の場合にも同様の拡張が可能である。
ガウスの定理は「ベクトル解析」の中心的話題ではあるが、この授業の範囲ではそこまで踏み込むことはで
きないので、詳しくは教科書・参考書を見てほしい。
4 ストークスの定理、グリーンの定理などとも言う。厳密には、それぞれに文脈や表現形式は異なっているための別名だが、内容的に
は同等で、一方から他方が導ける。
81