参議院平和安全法制特別委員会の中央公聴会で、意見を陳述する首都大学東京の 木村草太准教授(中央) (7月13日/東京・国会内)提供時事 条文を個別に検討しよう 論も重要ですが、 それとは別に、 成立 した法律を、従来の法律を含めて、 したと言われる、改正後の自衛隊法 条の ﹁存立危機事態﹂ 条項について 条文には、﹁我が国の存立が脅かさ れ、国民の生命、自由及び幸福追求 これまでは、日本自身が攻撃を受 ふつうに読めば、日本自身が武力攻 険がある事態﹂ と書かれていますが、 の権利が根底から覆される明白な危 けた武力攻撃事態ないしはそれが切 撃を受けている場合以外にありえな 考えてみます。 改正する必要があるのか、あるいは 迫した事態の時には自衛隊が出動し い よ う な 事 態 を 言 っ て い る、し た 個別に精密に議論していく姿勢が大 廃止する必要があるのかという議論 武力行使ができるとされてきまし がって従来の武力攻撃事態の一種で 成立 を詰めていくということです。政府 た。武力行使ができるのはそれらの あると解釈するのが自然です。 安保法案 与党の側は、抽象的な問題提起をさ 場合に限られていたのですが、法改 条文を読む限りでは、〝個別的自衛 ︱ 木村 今回の安保法案には、憲法違 反の部分とそうではない部分がある れても対応しないしできないでしょ 正によって、存立危機事態、つまり 権の行使でも説明がつく場合に、集 切です。どの法律のどの条項をどう のですが、これまでは法律が一本に う。安保法制に反対の側がそのアク 外国への武力攻撃によって我が国の 団的自衛権を認めてもいい〟という 法案 束ねられていたので、個別に可決否 ションの要求や目標を明確にするこ 存立が脅かされる明白な危険が生じ 内容になっている、言い換えれば集 、現時点 、 決ができず、法案全体を否決せざる とです。大きな話をするのも大切で た事態でも、防衛出動して武力行使 団的自衛権の行使はそれ自体として しかし、法律が成立して以降は、 ? を得ないと私も言ってきましたし多 すが、細かい話もきちんと詰めてお ができるとされました ︵※註1︶ 。 は認められていないと解釈すること 捉 くの人たちもそう考えてきました。 くよう心がける必要があります。 この新たな規定は、日本自身が武 個別に問題点を修正できるようにな そうした解釈が定着するのであれ ば、この条文について改正しなくて も良いと理解することもできるかも 文を集団的自衛権の行使を可能にし は、政 府 内 の 誰 が 答 弁 を す る か に さ ら に 問 題 な の は、 現 在 の 政 府 しれません。 た条文と解釈するのが自然かどうか がありますが、まず今回成立した条 こうした理解にはいくつか疑問点 ています。 を認めたものであると政府は解釈し もできるし、むしろそれが自然な解 。 、 力攻撃を受けていない場合の武力行 りました。法律のこの条文だけを変 検討 釈だと思います。 個別 使になるので、集団的自衛権の行使 ︱ 点 集団的自衛権を認める 条文になっているか? 更するという形で部分的な改正がで きる、違憲の疑いが強い部分にター ゲットを絞って個別に検討すること ができる環境になったということで す。 法案を丸ごと廃止しようという議 木村 集団的自衛権の行使を可能に よって説明が変わる、つまり解釈が 旨の説明をしていました。これに対 つながる場合に適用されるという趣 ズ海峡が封鎖され石油価格の高騰に 初、日米同盟が揺らぐ場合やホルム えば、この条文について、政府は当 一定しなかったという点です。たと という問題があります。 木村 草太 ※ 註 1 自 衛 隊 法 条( 武 力 行 使 の 要 件 ) に新たに次の条文が加わった。 「二 我が国と密接な関係にある他国に対 する武力攻撃が発生し、これにより我が国 の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び 幸福追求の権利が根底から覆される明白な 危険がある事態」 しては野党から、文言の解釈として 不自然ではないか、現実性という点 で不自然ではないかという批判がな されました。 このように説明が一貫していない 点をとらえて、私はその条文の内容 自体が不明確なので、憲法9条に違 反しているという以前に、曖昧不明 瞭ゆえに憲法違反であると説明をし てきました。 ホルムズ海峡以外では 行使しないという言質 木村 そういうやりとりを経て、国 会の最終盤、9月 日に横畠法制局 いう説明をしました︵ ※註2︶。 ルムズ海峡封鎖という事態だけだと うのはほぼない、あったとしてもホ れによって集団的自衛権の行使とい 事態とほぼ重なるものであって、そ 長官が、存立危機事態とは武力攻撃 14 ※ 註 2 9 月 日 の 公 明 党 山 口 代 表 の 質 問に対する横畠法制局長官の答弁(抜粋) 「 い わ ゆ る ホ ル ム ズ 海 峡 の 事 例 の よ う に、 他国に対する武力攻撃それ自体によって国 民に我が国が武力攻撃を受けた場合と同様 な深刻、重大な被害が及ぶことになるとい う例外的な場合が考えられるということは 否定できませんが、実際に起こり得る事態 というものを考えますと、存立危機事態に 該当するのにかかわらず武力攻撃事態等に 該当しないということはまずないのではな いかと考えられると思います。」 14 首都大学東京法学系准教授 安保法案をめぐる議論は強行採決によって幕が閉じた。成立した法律は どのようなものか。国会内外の議論は何をもたらしたのか。注目の若手憲 法学者、木村草太氏に聞いた。 (聞き手 編集部) 76 安保法制の国会審議で得た 大きな成果を活かそう 2 きむら・そうた 1980年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業、同助手を経て、現在、首都大学東京法学系准教授。 著書に『平等なき平等条項論』 『憲法の急所』 『キヨミズ准教授の法学入門』 『憲法の創造力』 『テレビが伝えない憲法の話』 『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』ほか多数。 2015.12 3 76 検証・安保法案反対の闘い
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