ペルシア語母語話者と日本語母語話者の儀礼場面での言語計画 アキバリ・フーリエ 1 研究の背景と目的 これまでの研究では、実際にターロフ発話行為が自然に起きていた儀礼的な会話内での 相互行為に焦点をあてた。ターロフ場面の特徴として考察した、 「隣接ペア」や「発話連 鎖」が自然場面においても同様に見られることを明らかにした。特に、ペルシア語母語話 者であるイラン人同士の自然会話における儀礼場面での言語行動を分析の対象とした。そ そこから、ペルシア語母語話者のターロフの使用は、上下関係だけではなく、相手に対し てのポジィティブ・フェイスを維持したいことから、ある程度親密な関係であれば相互行 為の中で連鎖的に使われていることが明らかになった。また、ターロフインターアクショ ンは意図的・非意図的の二つに区別できると考えた。 今回の調査においては、日本に長期滞在しているペルシア語母語話者が日本語母語話者 と自然会話をしている儀礼場面において、どのような言語規範を重視するかを考察した い。また、接触場面においてどの機能で最も逸脱が生じるかを明らかにしたい。 2 研究方法 本調査では、フィールドワークを通して、ターロフ場面の調査を実施した。接触場面調 査に当たっては、イラン人が出入りする現場に出向き、自然会話を記録した。場面や状況 におおじては、IC レコーダーを被験者に渡し被験者自ら録音を頼んだ。今回、被験者を主 に大きく二つのカテゴリーに分類した。まず、日本語を自然習得したグループと、次に学 習を通して日本語を学んだグループである。記録には IC レコーダーを使用し、調査後宇佐 美の文字化形式で文字化話分析をした。最終的には、フォローアップ・インタビューを実 施した。合計 36 の接触場面での自然会話を録音した。 3 結果 本調査の結果、(1)イラン人は儀礼的な場面において、日本社会の規範に属する待遇表現 や敬語の使用より、母語規範のターロフを会話で重視する傾向があることが明らかになっ た。また、母語規範を完全に維持できないことから、接触場面規範を調整しがちである。 (2) 日本語を自然習得のみではなく語学として学んだペルシア語の語話者の場合、日常の 経験と語学の理解から高い「接触場面能力」を持っている。したがって彼らは、実際の会 話の中で意図的にターロフ定型表現を維持している。(3) 自然習得のみで日本語を習得し た被験者の場合、日本人との会話において自らの逸脱に留意しておらず、非意図的にター ロフを使用していることが明らかになった。 4 今後の課題 今後は、儀礼場面において各自が調整するネガティヴ・ポライトネスやポジィティヴ・ ポライトネスが接触場面と母語場面とではどのように相違しているかを考察したい。最終 的には、イラン人と日本人のみの儀礼場面だけではなく、一般的に儀礼場面においてどの ような、言語行動や相互行為の調整が行われているのかを明らかにしたい。 5
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