◇図画工作科 学びを創り続ける図画工作科の授業 ~主体的に発想・構想の能力を働かせるための教師の役割について~ 新居 奈津子・大和 明日香 はじめに 昨年度は、子どもが主体的に発想・構想の能力を働かせる授業 をテーマにおいて、授業の“はじめ” を主眼として研究に取り組んだ。授業の“はじめ”とは、 「授業を始めるまで」と「授業の導入」と 捉えた。その結果、授業の“はじめ”では、題材名の工夫や自らの発想・構想を具体化できる場の 工夫をすることで、子どもが主体的に発想・構想の能力を働かせることにつながった。例えば、め あてや活動内容を子どもと教師、子どもと子どもが共有した後、話し合う場を設定することは、子 どもたちが主体的に発想・構想の能力を働かせるのに効果的だったと考える。自分が表そうとして いたことがより明確になったり、1人では表せそうなことを思いつかなかった子が、話し合いのな かで表せそうなことを見つけ、主体的に発想・構想の能力を働かせたりできたからである。しかし、 子どもたちの学びを創り始める姿は見られたが、活動途中になると自分の表したいことの手ごたえ が見つけられず、活動が止まっている姿も見られた。そこで今年度は、子どもたちが学びを創り続 けるために昨年度の研究の成果をふまえ、子どもが活動に手ごたえを見つけて取り組むことができ る教師の役割についての研究を進めていく。 1.図工科における学びを創り続ける子ども像 本校図画工作科では、自ら対象に働きかけ、気づき、思いを膨らませ、学びをくり返す中で、自 分の表したいことを形や色などを通して表す子どもの姿を目指している。子どもたちが、材料・用 具に自ら関わりながら、「いいこと考えた。」「こうしてみたらどうかな。」と考えついたことを試し 始め、自分なりの意味や価値を見出しながらイメージを広げていく。そして自らの気づきや発想・ 構想を加え、友だちとの学び合いやこれまでの経験を活かしながら、子どもたちは学びを創り続け ていると考える。また、この学びは1つの題材のみに留まるのではなく、題材を超えて発想・構想 の能力や創造的な技能として発揮される。 さらに、この学びを創り続けている姿の中には、どの学年でも子どもが自分の活動に手応えを感 じて、いどみ続けようとする場面がある。このように、子どもが、自分の思いや願いを表現しよう といどみ続けることを図画工作科では、<こだわり>とよぶことにした。このこだわりをもって活 動に取り組む姿こそ子どもが意欲的に活動に取り組み、没頭している姿だと考える。 2.学びを創り続ける姿を見取る 図画工作科では、こだわりをもって活動に取り組んでいる姿を見取っていくことが学びを創り続 ける姿を見取ることにつながる。本年度は、以下の2つの手立てで子どもがこだわりをもって活動 に取り組んでいるかどうか見取っていく。 (1)授業中のコミュニケーション 子どもの活動と作品を見ることでこだわりをもって取り組んでいるかどうか見取る。しかし、指 導者がそのこだわりを見逃したり、こだわりはないが、作品にあらわれているものを誤って見取っ たりすることを授業中のコミュニケーションによって防ぐことができると考える。 例えば、黙々と活動に取り組む子どもがいたら、活動を見てこだわりをもっているかどうかを見 極め、ここまでの活動の経緯や、これからの活動の見通しを聞くことで、確実にこだわりをもって 活動に取り組んでいるかどうかを見取ることができる。さらに、活動が止まっている子どもがいた ら、その原因を聞くことで、単に見通しやイメージがもてていないだけか、こだわりをもって活動 をする上で困難な課題に取り組んでいるかを見極めることができる。 このようにして、授業中のコミュニケーションによって、こだわりをもって活動しているかどう かを見取る。そして、その見取りは、学びを創り続ける授業づくりへと活かしていく。 (2)図工ブックの活用 本校では、題材の終わりに自分の活動を振り返るため、図工ブックに工夫したことや、友だちの 作品のよかったところなどを記している。本年度は、その図工ブックを活用し、子どもがこだわり をもって活動に取り組めたかどうかを見取っていく。子どもがその題材での最後で活動を振り返り やすくするための工夫をする。例えば、毎回の授業の最後に活動への思いや願いを振り返りカード に書き、記録して残しておくことで、図工ブックにまとめる時に、自分の活動を振り返りやすくす る。そのようにすることで、子どもにとっては、自分の活動や思考の変容が見取れ、学びを明らか にすることができる。また、図工ブックは、6年生まで活用していくので、次の学びを創る時に今 までの学びを振り返るためのものになる。教師にとっては、活動内容の変化からこだわりをもって 活動に取り組むことができたかを見取ることができると考える。さらに振り返りカードから、子ど もの思いや願いを見取り、その題材での学びを創り続ける授業づくりへと活かすことができる。 3.学びを創り続ける授業づくり (1)表現の違いにあわせた題材設定 ①発達における表現の変化における題材設定 子どもの表現をその発達から捉えると成長があり、表現が変化すると考える。子どもの表現に目 をこらすと、低・中・高学年の大まかな違いを見つけることができた。 低学年は、一つ一つつくることが興味の対象となり、集めたり、並べたりする活動が中心になる。 例えば、「おもしろいかたち・いろ、いっぱい」では、長い木の枝を迷路のように長く並べてみた り、きれいな色の花びらを集めたりすることに夢中になって取り組む姿が見られた。 中学年は、表現方法を工夫したり、対象と距離をおいて場所と組み合わせたりすることに興味が 高まってくる。「短冊を つないで つないで」では、つなぎ方を工夫して、立体的な花や電車を つくってみたり、場所と組み合わせて部屋のかざりをつくってみたりする姿が見られた。 高学年は、表現を選んだり拡げたりすることに興味が高まる。例えば、 「どこでもカメレオン」で は、その場所にとけこむように、カメレオンの形をした画用紙に色をつける。自分の表現したい場 所を選んだり、その場にとけこむような道具や表現方法を選んだりする場面の設定をすることで 主体的に活動に取り組む姿が見られた。 このような子どもの発達における表現の変化をふまえた上で題材を設定することにより、こだわ りをもって取り組むと考える。 ②表現の広がりのある題材の設定 題材の中における子どもの表現パターンは、いくつかのパターンがあるように思える。同じ題材 でも異なる表現パターンが見られる。例えば、「ある部分を埋める、重ねるなどを意識して表す」、 「視覚を通して内在する映像的イメージを意識して表す」、「順序やきまりを決めて表す」などがあ る。このような表現に広がるような題材の設定をすると、子どもたちそれぞれが「こんなことがで きそうだ!」と自分の表したいことを見つけやすくなり、その表したいことを表現しようといどむ ようになる。いどむ中で、自分の活動に手応えを感じはじめ、自分の思いや願いを表現しようとこ だわりをもって活動に取り組むと考える。しかし、この表現パターンは固定してその子の表現を決 めつけるものではない。あくまでもその題材の中で語られるものである。同じ子どもであっても、 題材によって表現パターンは変わってくるので、毎回特定のパターンにあてはまるものではない。 例えば、題材「すてきなペーパー職人」では、第一次でもようを作り、第二次でそのもよう紙を 切って画用紙にはっていった。子どもの行為を見ると、その時に上記のような表現パターンがいく つか見られた。一つ目は、図8-1のように、模様を重ねる、埋めるなどを意識して表そうとして いる。模様を三角形に切って画用紙に敷き詰めたいと思い、模様を重ねて敷き詰めることにこだわ りをもって活動に取り組む姿が見られた。二つ目は、図8-2のように、鳥、太陽など目に映るも のをより視覚的に表そうとしている。鳥がとんでいく様子を表したいと思い、映像的なイメージに あわせることにこだわりをもって活動に取り組む姿が見られた。三つ目は、図8-3のように自分 なりの順序やきまりを強く意識して表そうとしている。同じ模様をグラデーションにして広がるよ うに貼っていきたいと思い、模様の色の順序にこだわりをもって活動に取り組む姿が見られた。 このように表現パターンを広げて題材設定することにより、子どもたちが自分の表したいことを 見つけ、こだわりをもって取り組む姿が見られた。つまり、表現の広がりのある題材設定にするこ とにより、子どもがこだわりをもって取り組むことができると考える。 図8-1 図8-2 図8-3 模様を重ねる、埋める 映像的なイメージにあわせる 模様の色の順序やきまりを意識する (2)対話や交流の組織化による板書での視覚化 活動の初めに、子どもが、表したいことを見つけられないと、活動に集中できなくなり、こだわ りはうまれない。そこで活動をする前に、表したいことを見つけられるように、視覚を通して内在 する映像的なイメージや実際の操作に直接結びつくイメージを交流し、板書に整理する。 例えば、題材「コンテのひみつを見つけよう」では、導入時にコンテに触れて気づいたことや、 試してみたいことを交流し、板書に記すことで、子どもは用具からイメージされる表現方法を考え ることができた。また、終末の活動を振り返る場では、次への思いを大切にしながら板書に記すこ とで、子どもはイメージ・発想の多様さがそれぞれ違うことに気づくことができた。 また、活動が進む中で、どのように表したらいいか試行錯誤しても分からなくなると、活動が止 まり、こだわりをもてなくなる。そこで活動の途中で、子どもが見つけた表現方法の工夫を交流す る時間をとり、板書に整理する。そして自分や友だちのよさ、作品の独自さに気づく振り返りとし ての鑑賞によって、活動全体を振り返る対話も大切である。その表現方法の工夫からより表したい ことを表せるようになり、自分の活動の状況や友だちの多様さに気づき、子どもがこだわりをもっ て活動に取り組むと考える。 図8-4 板書での視覚化
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