演題「邦楽の今、そして未来を考える」 講師 邦楽ジャーナル 田中編集長 1.楽器のこと 糸、バチ、紅木の三点について話された。邦楽の糸は元々 絹糸であるが、絹の弱さと価格面で今はテトロンが主流に なっている。本来の絹糸の弱さを研究し、強い糸が開発さ れ市場で売られている。テトロンと比べまだ高価であるが、 新開発の絹糸を業者の方々に知ってもらい、絹糸本来の音 色を普及させて貰うために昨年の5月に講習会を行った。 バチの材質は象牙で、今は象牙の輸入が規制され密輸が横行している。そのた め輸入が難しくなってきたため、象牙に変わる新素材の開発を始めたところで ある。小さな象牙では大きなバチが作れない。先生方が従来の形状にこだわら ず小さめのバチを使うとお弟子さん方も使いやすくなるので、演奏家の方々も 考える時期にきている。 紅木も乱獲により採れなくなってきた。楽器も外国で作られるようになり、日 本メーカーも少なくなり原木を在庫しているメーカーはあるが、60~70年 代は作れば売れる時代であったが、今は簡単に売れる時代ではない。 楽器屋さんの仕組みは、メーカーから卸屋そして小売と繋がっている。楽器の 修理となると小売からメーカー、直るとその逆で戻ってくる。また手直しとな るとまたその繰り返しで非常に時間が掛かるのが現状で課題でもある。尺八の ように「作って売る」現場商人のようになっていない。 2.コンクールの動き 二年前に北海道のコンクールの審査をさせてもらったが、こんなに歴史のある コンクールは全国的に珍しく素晴らしいことである。私的には全国規模にして はと思っている。それにより北海道の入賞者は少なくなるかもしれないが、長 い目で見るとそれが大きなプラスになると思う。 募集も全邦連(全国邦楽器商連盟)のネットワークを利用すると簡単にできる。 コンクールの今の実態は、個々がバラバラで動いている。ネットワークを使っ て接点をみつけ動けば大きな力になり、マスコミだって動かすことができると 思う。 私の夢でもあるが、全国規模でジャンルを問わず壁を作らないで取組めば、マ スコミ、メディアは「何が始まったのか?」と目を向けてくる。 つまり、少しずつ結びつくことで一つの大きな力となって、うねりを作り上げ ていけば、マスコミが動き国も動いてくれると思う。 全国各地のコンクールを見ているとやり方も色々であるが、行政と実行委員会 の疎通を密にしていかなければ上手くいかない。 私がいつも思うのは、なぜ実行委員に若い人がいないのか?と言うことです。 若い人を出させる仕組みが大切で、若手を育てるということが一番大事だと思 っている。 3.演奏団体の動き 全国総文祭(全国高等学校総合文化祭)を毎年行っているが、なぜか愛好人口 に繋がらない。 逆に上手くやっている例もあります。徳島邦楽集団は高校生、大学生は合奏を 楽しみ大合奏のコンサートを実施している。 社中単位でなく、違う組織・楽しめる団体が一緒になって、若者は合奏をやり たがっている。若者を繋ぎとめるその受け皿を作ることが大切だと思います。 私が卒業した大学のOB、OGも毎月一回集まり、飲み会が楽しみで尺八の合 奏を楽しんでいる。就職してしばらく止めていた人達が何かチャンスがあれば、 「じゃ、やってみょうか?」って思っている人達が沢山いる。 それと公民館活動も盛んになってきている。気軽に気楽に楽しめる大事な場所 であり、カルチャーセンターが縮小傾向にある。 社中にも属しているが、自由に活動できる人達は社会人で経験も豊富で物凄い 能力を持っている。そのような「やる気」のある人達が沢山いる。隠れ奏者を 含めるとかなりの人口になると思う。 このような人達やOB、OGが動くと凄いパワーになり、今後は公民館活動も 大切な場である。 4.邦楽教育の動き 学校教育の良い例として、品川区は教育員会が小中学校の音楽体験授業を邦楽 器店に委託して実施している。楽器店に委託しているのは、貸楽器を持ってい てメーカーが全て段取りしてくれる。教える側の演奏家は大変助かっている。 ボランティアで自分達が楽器を運んでセッティングすることは大変なことであ る。 つまりこれからは楽器店と組むことで、学校教育の邦楽授業を活性化させるこ とが大切である。 全邦連について話をすると、全国に21の組織があり「和楽器文化」を毎月発 行している。 そして強みは全邦連(全国の楽器屋さん)はネットワークを持っていることで す。北海道は吉崎楽器店が行っている。このネットワークを上手に利用したら 良いと思う。 今、全邦連では「全邦連がお勧めする箏曲100選」のアンケートを取ってい る。今、なにが不足しているかと言うとソフトが少ないことです。楽器屋さん にアンケート用紙を置いているのでご協力をお願いしたい。 時間の関係で全て話すことができませんでしたが、皆さんに一つ知っておいて もらいたいことがあります。 それは楽譜の違法コピーです。 先日、あるコンサートで発覚し10年遡って著作権料を払うという事態が発生 しました。今は簡単に手軽にコピーが出来る時代です。何の罪悪感もなくコピ ーしていますが、このような事が起こらないよう注意したいものです。 最後に、私が言いたかったことは「外の世界を知って、利用出来るものは利用 して、連携しあってもっと大きな力を付ければ、出来ないことも少しずつ出来 るようになり、その能力を持っている人は沢山いる」と言うことです。 平成27年2月15日 ホテル札幌ガーデンパレスで開催。 札幌三曲協会主催の講演会を要約し掲載しました。 中 島 聖 山
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