東京アメリカンセンター・ERINA 共催 講演・討論会 エネルギー獲得競争の拡大−BRICs 経済の台頭と経済安全保障− 日時:6 月 23 日(金)16:00∼17:30 場所;東京アメリカンセンターホール 講師:米議会調査局外交・国防・通商部アジア問題担当分析官 エマ・チャンレット=エーバリー(Emma Chanlett-Avery) 司会:ERINA 調査研究部研究員 伊藤庄一 講演要旨:北東アジアにおけるエネルギー安全保障:米国外交政策の関心 (Energy Security in Northeast Asia: U.S. Foreign Policy Interests) (2 つのアプローチ) エネルギー安全保障の問題は、多国間協力という観念的なアプローチと、競争が拡大す る中での現実的なアプローチがある。石油の枯渇がささやかれる一方、次の 10 年の生産能 力は 25%増加するというケンブリッジ大学エネルギー研究所の分析もある。少なくともま だ世界に石油は残存している。生産国にも消費国にも開かれたエネルギー市場への協力と 参加はウィン=ウィンの関係をもたらすが、多くの政府はゼロサム・アプローチをとり、 政治的緊張の中で不安を増している。 中国やインドなど発展途上国の需要増により、エネルギー安全保障は国家安全保障と同 様に論じられるようになってきた。米国指導層は伝統的に、エネルギー分野でも市場原理 アプローチをとるべきだと主張している。エネルギー安全保障を経済的な要件として捉え ることは、米国の軍事パワーを反映するものだ。 (北東アジアの状況) 中国は劇的な経済成長によりエネルギー需要が急増し、海外資源に依存するようになっ てきた。日中とも中東依存を軽減し、多様化しようとしている。ロシア極東から膨大な未 開発資源の提案があり、エネルギー供給の健全な市場を形成しようという動きが浮上して きた。 しかし東シベリア・パイプラインへの入札競争は、地域協力メカニズムを生むどころか、 北京と東京の不信を増し、地域を不安定な対立に陥れているように思われる。 (北東アジアのエネルギー競争に対する米国の外交政策) 米国では、ガスの平均価格が 2002 年から今日までに 200%上昇した。人権問題や地政学 的な懸念から、米国政府は単純な市場原理アプローチをとっているわけではない。急増す るエネルギー需要を満たすため、中国がスーダン、ベネズエラ、イランなどとパートナー シップを求めたことに対し、ゼリック国務副長官は、国際社会における「責任ある当事者 (responsible stakeholder)」たれと喚起を促した。中国は、米国企業が活動できない地域 からエネルギーを得ようとしている。 ワシントンはまた、テヘランの核問題に対する世界的な懸念が深まる中、日本とイラン との経済関係について、日本企業によるイラン南西部のアザデガン油田開発に難色を示し てきたが、日本はこのプロジェクトからの撤退が中国に門戸を広げる恐れもあるとして調 印に踏み切った。小泉・ブッシュ会談を前に、この日米の不一致を、どう見るか。 エネルギーに関連する東シナ海の領域問題、ロシア極東資源へのアクセス問題などの日 中競争や靖国問題などに対し、米国はどちらかの立場に立ったり、コメントをしたりして いない。北朝鮮問題、台湾問題という火種に対して、米国のプライオリティは、東アジア におけるパワーの均衡をとることにある。 (北東アジアのエネルギー競争に対する米議会の役割) 米国の外交政策は大統領の管轄にあるが、そこに真空状態が生まれたり、それほど大き な利益を代表するものでなかったり、人権や貿易の問題などでは、議会の役割が大きい。 北東アジアのエネルギー安全保障では、中国海洋石油(CNOOC)による米国エネルギー 企業 UNOCAL 買収の入札問題が特筆される。CNOOC の入札は、中国の需要増による石 油価格の高騰、中国の台頭と安全保障の問題、米中貿易赤字、国際貿易ルールの遵守、知 的財産保護、通貨価値の抑制など多くの問題と関係するもので、米国議会が示した懸念は CNOOC の断念に大きなプレッシャーになったと聞いている。 2 月に発行された財務報告は、入札に重要なのは経済的中立性であり、中国が米国企業の 入れない地域でエネルギー取引を追及するならば、世界の石油備蓄量は増加してしかるべ きだと指摘した。CNOOC 問題は国有企業の問題であり、国の支援のない米国企業より高 値をつけることが許されうることかという問題である。ロシアについても同様であり、米 国議会ではグローバルなエネルギー市場に関して激しい議論が続けられるだろう。 その後も議会指導層は、中国やインドを含む主要エネルギー消費国の協力を促進する法 案を導入した。ルーガー上院外交委員長は「エネルギー外交と安全保障行動」で、中国と インドを国際エネルギーシステムに引き入れる協調的メカニズム形成の必要性を強調した。 国務省へも、こうした問題に対するリーダーシップを発揮するハイレベルのコーディネー ターを求めた。 しかし、議会は選挙区の審判に応え、再選へのキャンペーンを張るものである。米国エ ネルギー戦略はまさに政治的問題であり、フロリダ沖やアラスカの資源開発、風力発電所、 水力ダムなどには常に異議の声が上がっている。エネルギー安全保障にリーダーシップを 発揮することは、チャレンジなのだ。結局、エネルギー安全保障の問題を外交政策に組み 込むとき、議会が指導的役割を担うことはないだろう。 (対立緩和へのイニシアチブ) エネルギー安全保障の地政学的な観点から、より協調的で安定的なアプローチがある。 1970 年代のオイルショックを受けて設立された国際エネルギー機関(IEA)は、メンバー 国のエネルギー政策を調整し、ハリケーン・カトリーナの際にも効果的なイニシアチブを 発揮した。 また、アジア太平洋パートナーシップはエネルギー安全保障、クリーン開発、気候変動、 代替エネルギーなど多岐にわたる多国間協力を含み、いっそうの協力が期待される。 米中 2 国間では、ゼリック国務副長官のイニシアチブによる米中高官対話、米国エネル ギー省と中国国家発展改革委員会による米中エネルギー政策対話がある。 BRIC 諸国の消費量増大に伴い、中国とインドを IEA に含めるというアイデアが浮上し ている。IEA 加盟国は経済協力開発機構(OECD)に加盟し、民主的な政府、人権の保護、 さらに 90 日間の戦略石油備蓄(SPR)が求められている。政治的な観点と SPR 不足のた め、中国の加盟は難しい。中国は備蓄量増を表明しているが、記録的な原油価格の上昇の 中で 90 日間の備蓄という数字は、しばらくは到達不可能であろう。中国を G8 あるいは同 様の組織に組み込む案もある。 消費国としての日中韓、生産国としてのロシアを含む北東アジアでは、いくつかの地域 協力の枠組みが 6 カ国協議を代替するものになろう。北朝鮮の核問題は解決に至っていな いが、地域の主要パワーが定期的に会する意義は大きい。楽観的に見れば、この地域に欠 けていた安全保障フレームを形成することになるだろうし、地域協力としてのエネルギー 安全保障への関心を共有できるだろう。 日中間の技術協力は、エネルギー安全保障がゼロサムゲームであるというような不信感 を改め、信頼醸成に寄与するものであろう。日本は対中 ODA に関し、米国を含めた 3 国間 協力などを含め、環境とエネルギーに絞るべきだという提案もある。 このようにグローバルで、地域で、2 国間でイニシアチブが発揮されれば、エネルギー市 場のグローバル化は不安定な対立を緩和していく。そう専門家は信じている。 (まとめ) 政治的安定の観点から、政策立案者はアジアにおけるエネルギー安全保障に関する地政 学的な懸念が現実にあることを認め、不安定要因を減らすため協力メカニズムを推進すべ きであり、刺激策と信頼醸成策は重要な手段となる。 多国間協力フレーム構築のためには、リーダーシップと政治資本、技術的ノウハウが必 要で、日米両国は重要な役割を果たせる。米議会もまた、ルーガー法案のように、この問 題への取り組みを示し、促進することができる。 エネルギー安全保障と外交政策がいかに左右しあうかを考えるより先に、国際的議論は 進んでいく。小泉・ブッシュ会談でイラン問題がどのように扱われるか、7 月の G8 サミッ トでロシアがエネルギー安全保障に関し何を表明し、他の諸国がどのような対応を見せる か、注目される。 (英語スピーチを ERINA にて要約)
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