更新日:2016/7/21 調査部:竹原 美佳 中国国有石油企業の対外投資トレンド 2016 ~規模拡大から“一帯一路”や国内供給な ど政策反映型に~ 国有石油企業(NOCs)は 2009 年~2013 年頃まで高額の国外資産・企業買収(M&A)を展開。特に 国内における成長に限界がある Sinopec や CNOOC は国外 M&A による規模拡大を図ってきた。し かし 2014 年以降NOCs による M&A は急減速。主な要因は低油価、汚職取り締まり、政策の変化(国 外投資の質的向上、国有石油企業改革)にあると思われる。 NOCs による国外上流M&A の投資額は 2015 年に最盛期の 4 分の 1 に低下、2016 年も低迷。NOCs の投資対象はロシアなど“一帯一路(One belt-One road)”に集中。 低油価下環境の下、中国 NOC の対外投資は抑制傾向。当面 “一帯一路”や中下流インフラ整備を 含むパッケージ投資など、政策や国内供給に資する事業に対象を絞り取り組むと思われる。 はじめに. 中国は 1993 年に石油純輸入国に、天然ガスは 2006 年に純輸入国となった。政府は第 8 次五か年計 画(1996~2000 年)においてエネルギーについて二つの資源・市場の活用を奨励、いわゆる“走出去” (国外進出奨励政策)を打ち出した。中国の三大国有石油企業(CNPC、SINOPEC、CNOOC、以下 NOCs)は CNPC を中心に 1990 年代に国外上流投資を開始した。しかしその規模・進出地域は 2004 年 頃までは限定的であった。 1998 年 3 月に全人代で承認された国有企業改革において NOCs は三つの改革を実施した。一つは 「政企分離」(国営企業から行政機能を分離)、次に CNPC と SINOPEC の垂直統合と二大石油集団(グル ープ)の設立(CNPC・SINOPEC の上流<探鉱開発>~下流<精製販売>資産の相互譲渡による垂直統合 ならびに総公司から傘下に子会社を有する持ち株会社化への組織改編)である。CNOOC は総公司の まま存続が認められた。最後はもっとも重要な民営化・組織の国際標準化への改革である。石油産業は 外国企業に対し競争力のある産業の形成と国外における株式上場を目指すパイロットケースと位置付け られた。NOCs は国際会計基準に基づく経営を行う中核子会社(PetroChina、Sinopec、CNOOC Ltd)を 設立し、2000~2001 年にかけて米国・香港等で新規株式公開(IPO)を実施した。社債発行による資金調 –1– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 達が可能となるなど資金調達能力が向上したことで彼らの国外上流投資は2005年頃から1件当たりの規 模・金額が増大した。特に 2009~2013 年の 4 年間は Sinopec の Addax や CNOOC の Nexen 買収など 大型の企業買収が相次ぎ国外上流資産・企業買収(M&A)投資額は年150~250 億ドルに達した。しかし 2014 年以降 NOCs の国外上流投資は急減速した。投資減速の主な要因は低油価、汚職取り締まりにあ ると思われる。本稿では NOCs の上流投資の現状と今後の対外投資の方向性について分析を行う。 NOCs国外投資 開始 ‘93 需給 NOCs国外投資 活発化 ’05~ 08 NOCs NY・香港等 でIPO ’00~‘01 政策 ‘90s NOCs国外投資 資産・企業買収 減速 ’14~ ガス純輸入国 ’06 石油純輸入国 ’93 走出去 (国外進出 奨励)’96~ NOCs国外投資 資産・企業買収 急拡大 ’09 ~’13 石油産業 改革(二大 石油集団、 IPOへ)‘98 パッケージ投 資(Loan For Oil)’09~ 国有企業 改革’13~ パッケージ 投資(一帯 一路)’13~ ‘10s ‘00s 図 1:中国 NOCs の国外上流投資のトレンド 各種資料に基づき JOGMEC 作成 1.中国 NOCs 国外上流投資のトレンド ~2014 年以降低油価、汚職取り締まり等で急減速~ (1)3 社の 2015 年の国内外原油・天然ガス生産体制 NOC3 社の中核子会社(PetroChina、Sinopec、CNOOC Ltd)事業は中国国内の探鉱開発、精製事業 である。本稿では上流(探鉱開発)について述べる。 CNPC グループ全体の生産量は 5,212 千 boed でそのうち国外生産比率は 28%である(表 1)。CNPC は中核子会社 PetroChina とは別にグループ傘下の中国石油天然気勘探開発公司(CNODC)、CNPC ス ーダン、南米(ベネズエラ)、イラン、カザフスタン、イラクなどが国外で探鉱開発を行っており、国外生産 比率 28%のうち PetroChina の比率は 11%でグループの方が国外で多く生産している。 SINOPEC グループ全体の生産量は 2,056 千 boed でそのうち国外生産比率は 3 社中もっとも高い 44% –2– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 である。SINOPEC も CNPC と同様に中核子会社 Sinopec とは別に中国石化国際石油勘探開発有限公司 (Sinopec International)などが国外で探鉱開発を行っており、国外生産比率 44%のうち Sinopec の比率は 11%でグループの方が国外で多く生産している。 CNOOC は上場子会社 CNOOC Ltd が国内外の探鉱開発事業を行っており、生産量は 1,407 千 boed でそのうち国外生産比率は 34%である。 また同国の石油・天然ガス生産は 3 社の寡占状態にある。3 社は 2015 年の国内原油生産(431 万 b/d) の 9 割、天然ガス生産(13,348MMcfd≒234 万 b/d)の 8 割を占めている(図 2)。 表 1:国有石油企業 3 社の国外権益生産量と主な生産地域(2015 年) 親会社 (略称) 上場子会社 (略称) 上場子会社生産量 千boed 中国石油天然気集団公司 (CNPC) 中国石油天然気股份有限公司 (PetroChina) 4,093 中国石油化工集団公司 (SINOPEC) 中国石油化工有限責任公司 (Sinopec Corp) 1,293 中国海洋石油総公司 (CNOOC) 中国海洋石油有限責任公司 (CNOOC Ltd) 1,407 3,535 558 1,146 148 884 473 50 中国 国外(権益生産量) 国外のうちEquity Method investees 上場子会社の国外生産比率 上場子会社の主な生産地域 上段:国内 下段:国外 子会社の生産がグループ全体 の生産に占める比率 グループ生産量 千boed 12% 10% 34% 中国国内:東北、西部陸上 中国国内:東部、西部陸上 中国国内:海洋 国外:アルジェリア、イラク、チャ 国外:アンゴラ、ロシア 国外:イラク、インドネシア、英国 ド、カザフスタン、ペルー (北海)、カナダ、豪州、ナイジェ 中国 国外(権益生産量) グループ全体の国外生産比 率 親会社の主な国外生産地域 上場子会社の国外生産がグ ループ全体の生産に占める比 率 備考:親会社の主な国外上流子 会社 79% 63% 5,212 2,056 3,767 1,444 28% 1,168 887 44% 100% 34% イラク、エクアドル、オマーン、カ アンゴラ、イラン、カナダ、ガボ ザフスタン、シリア、トルクメニス ン、コロンビア、ロシア タン、南スーダン、ベネズエラ、 ペルー 11% 7% - 中国石油天然気勘探開発公司 中国石化国際石油勘探開発有 (CNODC) 限公司(Sinopec International) CNPCスーダン、南米(ベネズエ ラ)、イラン、カザフスタン、イラク 各社ウェブサイトに基づき JOGMEC 作成 –3– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 国内生産(天然ガス,2015年) 国内生産(原油,2015年) 陝西延長 6% 外資他 4% 外資等 19% 陝西延長 1% CNOOC 5% CNOOC 18% PetroChina 51% Sinopec 15% Sinopec 21% PetroChina 60% 新華社China OGP、国際石油経済、BP統計に基づき作成 図 2:国有石油会社の国内生産 (2)国外投資資産・企業買収急拡大とその後の急減速 2009 年から 2013 年にかけて SINOPEC の Addax 買収(2009 年合意、88.19 億ドル)や CNOOC の Nexen 買収(2012 年合意、179 億ドル)など高額の国外上流資産・企業買収(M&A)が相次ぎ、M&A 投資 額は年 150~250 億ドル、世界の上流 M&A 総額の 10%前後に達した。 特に SINOPEC が積極的な M&A を展開した(図 3)。同社の国内保有資産は東部の成熟油田中心で、 国内成長の限界により、国外の開発・生産中資産や企業の買収による性急な規模拡大を図った側面が あると思われる。しかし高額の国外上流M&Aは 2014 年以降急減速した。投資減速の主な要因は低油価 と 2013 年に始まった中国国内の汚職取り締まり(NOC 経営幹部ならに同対外事業部門幹部が多数更 迭)にあると思われる。 –4– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 CNPC SINOPEC CNOOC ・Eniの東アフリカ資産 (Area4権益20%を含 む)42.1億ドル(2013 年) ・Kazmunaigasから Conocophillipsのカシャ ガン権益8.3% 50億ド ル(2013年) ・Addax買収 88.19億 ドル(2009年) ・Galpのブラジル子会 社株式51.8億ドル (2011年) ・ConocoPhillipsのオイ ルサンド資産 46.5億 ドル(2010年) Repsolブラジル資産の 40% 71億ドル(2010 年) ・加Nexenを179億ドル (2012年) 図 3:国外投資資産・企業買収急拡大(’09~’13) 各種資料に基づき作成、買収金額(負債を含む場合もある)、時期は合意段階 ① 低油価による減益、投資抑制 投資減速の主な要因として2014年下期以降の油価下落とその後の低迷によるNOCsの収益悪化があ げられる。 PetroChina の純利益(2015 年)は前年比 65%減の 6,691 百万ドル、Sinopec は同 9%減の 7,077 百万ド ル、CNOOC Ltd は同 67%減の 3,219 百万ドルであった(図 4)。低油価が特に上流比率の高い PetroChina と CNOOC Ltd の収益を直撃していることがわかる。 また 3 社はいずれも上流投資額を削減している。PetroChina の上流投資額(2015 年)は 2014 年比30% 減の 25,103 百万ドルで 2016 年予算は 2015 年比 9%減 22,730 百万ドルである。Sinopec は 2015 年が同 33%減の 8,702 百万ドル、2016 年予算は 2015 年比 12%減の 7,619 百万ドルである。CNOOC Ltd は 2015 年が同39%減の 10,476 百万ドル、2016 年予算は 2015 年比13%減の 9,135 百万ドルである(図5)。なお、 CNOOC Ltd は他の 2 社と異なり国外探鉱開発事業を全て中核子会社が行っており、投資額も国内と国 外の探鉱と開発それぞれが公表されている。2015 年の国内探鉱開発投資額は前年比 46%減の 5,520 百 万ドル、国外探鉱開発投資額は同 29%減の 4,956 百万ドル、2016 年予算は国内が 2015 年比 16%減の 4,627 百万ドル、国外が同 9%減の 4,508 百万ドルである。3 社全体で 2015 年は 2014 年比 33%減(217 億 ドル減)、2016 年予算は 2015 年比 11%減(48 億ドル減)である。 –5– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 中核子会社はグループ全体の売上・純利益の 7 割前後を占めており(表 2)、また中核子会社の上流 投資抑制はグループ傘下の技術サービス、エンジニアリング、ロジスティクス部門の受注減につながるこ とからグループ全体の収益・投資に影響する。これまでのような高額の国外上流投資は中核子会社、グ ループ全体を問わず当面縮小、絞り込むと思われる。 上流投資額推移(2013~2016 年予算,百万ドル) 純利益推移(2013~2015年,百万ドル) 25,000 40,000 20,000 30,000 -65% 15,000 -9% 10,000 -67% 10,000 5,000 0 PetroChina Sinopec 2013年 2014年 Corp. CNOOC Ltd. 2015年 -39% -13% -33% -12% 20,000 0 PetroChina 2013年 Sinopec 2014年 2015年 CNOOC Ltd 2016年(予算) 図 4:NOCs の純利益(2013~2015 年)・上流投資額(2013~2016 年予算)の推移 各社年報に基づき作成 探鉱開発投資額推移(百万ドル) 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 国内探鉱開発 国外探鉱開発 図 5:CNOOC Ltd の探鉱開発投資額推移 出所:CNOOC Ltd 年報に基づき作成 表 2:中国国有石油企業の事業 –6– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ①グループ全体 CNPC 売上 純利益 SINOPEC 売上 純利益 CNOOC 売上 純利益 ②中核子会社 (①に占める比率) 320,629 8,941 ②の主な事業分野 274,313 探鉱開発、精製、輸 (86%) 送、販売 5,647 (63%) 技術サービス、エンジニ アリング、ロジスティクス、 (地域油ガス田、製油 海外事業、R&D、調査、 所、パイプライン輸送、 出版他 石油製品販売) 459,449 320,967 探鉱開発、精製、輸 (70%) 送、販売 7,178 5,157 所、石油製品販売) (72%) 67,739 6,561 ②以外の主な事業部門 (地域油ガス田、製油 27,255 探鉱開発 (40%) (地域油ガス田) 3,219 (49%) エンジニアリング、海外 事業、R&D、調査、金融、 出版他 海洋技術サービス(掘削、 物理探査等)エンジニア リング、Gas & Power (LNG)、精製石化、販売、 R&D、金融、保険他 ② 汚職取り締まりによる対外投資への影響 2013 年8 月に 元CNPC 会長の蒋潔敏(Jiang Jieming)国有資産監督管理委員会(Sasac)主任が汚職 取り締まりの対象となり更迭された。その後寥永遠(Liao Yongyuan)CNPC 総経理の他、CNPC の海外事 業関連幹部が複数更迭された。CNPC は一定レベル以上の幹部の代行を配備、決められた時間に連絡 のつかない幹部の業務は速やかに代行の者に引き継ぐなど業務に支障がないように配慮していた模様 だが、国外上流事業責任者の更迭により国外上流投資の意思決定が保守的かつ政府の意向を強く意識 したものになった模様である。 表 3:汚職取り締まりで更迭された幹部 【CNPC】 2013 年 8 月、CNODC 総経理薄启亮(Bo Qiliang) 2013 年 10 月、CNPC インドネシア総経理魏志剛(Wei zhigang) 2014 年 4 月、CNPC イラン公司総経理張本全(Zhang Benquan) 2014 年4月、CNODC 総経理閻存章(Yan cunzhang) 2014 年7月、CNODC 副総経理宋亦武(Song yiwu) 2014 年7月、CNPC カナダ李智明(Lizhiming)、賈暁霞(Jia xiaoxia) 2015 年 3 月、寥永遠(Liao Yongyuan)CNPC 総経理 他 【SINOPEC・CNOOC】 2014 年 11 月、CNOOC Gas & Power GM 羅偉中(Luo Weizhong) 2015 年 4 月、CNOOC 副総経理呉振芳(Wu Zhenfang) –7– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 2014 年 12 月、Sinopec 石油工程服務公司(エンジニアリング)副会長・総経理薛万東(Xue Wandong) 2015 年 4 月、SINOPEC 王天普(Wang Tianpu)社長 (企業リリースまたは報道による) 2.中国 NOCs2015 年の国外上流投資 (1)中国 NOCs2015 年の国外上流投資額 2015 年の中国による国外上流 M&A 投資額は把握できているもので約 25 億ドル程度ある。この他政 府系ファンドの外貨準備金活用としてシルクロード基金がロシアとカザフスタンの油ガス事業向けに計30 億ドルの出資を行うことについて合意しておりそれを含めると 55 億ドルとなる(表 4)。年間投資額が 150 ~250 億ドルに達したピーク時(2009~2013 年)に比べ大幅な減速である。IEA によると 2009 年のグロー バル石油・ガス M&A1,440 億ドルの 13%を中国企業が占めたが、IHS によると 2015 年は 5%未満に低下し ている。また 25 億ドルのうち NOCs による取得は半分(全て SINOPEC)で残りの投資は民間の Blue Whale、Geo-Gade などが行っている。2015 年の対象は Blue Whale による米 Permian シェール資産取得 を除き全てロシア・中央アジア地域である。 表 4:2015 年の国外上流投資 権益取得・資産買収:約 21.5 億ドル ・6 月(合意):Sinopec、露 Lukoil から Caspian Investment Resources の JV 権益 50%(10.7 億ドル) ・9月(合意):Sinopec、露Rosneftと東シベリアYurubcheno-Tokhomskoye field、ヤマル-ネネツ自治管 区 Russkoye field における共同開発について覚書(HoA)を締結。 企業買収(株式取得):3.4 億ドル ・8 月(合意):Geo-Jade Petroleum、カザフスタン KoZhan Joint Stock Company 買収(3.4 億ドル) ・9 月(合意):Sinopec は露 Rosneft 傘下の East Siberian Oil and Gas Co.および Tyumenneftegas 株式 49%買収 政府系ファンドの外貨準備金活用 30 億ドル ・12 月:シルクロード基金、Yamal LNG の権益 9.9%を 11 億ドルで取得 ・12 月(合意):シルクロード基金は、カザフスタンの油田生産および関連投資向けに 20 億ドルを出 資、中国・カザフ生産能力協力特別基金を設立 各種報道、企業発表に基づき作成 参考①:「シルクロード基金」(Silk Road Fund;SRF) 「シルクロード基金」1は 2014 年 12 月設立、資本金 100 億ドル、外貨準備から 65 億ドルを出資、残りは 1 シルクロード基金 http://www.silkroadfund.com.cn/enwap/27363/index.html –8– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 中国輸出入銀行(The Export-Import Bank of China、;中国輸銀)、中国投資有限責任公司(China Investment Corporation China ;CIC)が各 15 億ドル、中国国家開発銀行(China Development Bank; CDB)が 5 億ドルを出資した。同基金の投資は「一帯一路( Belt and Raod)」の枠組みにおいて中国と相 手国の開発戦略に合致するものを対象とし、市場原理に基づき中長期の安定・合理的な投資回収を目 指すとある。 参考②:一帯一路(Belt and Road) 2013 年 9 月に習近平国家主席が「シルクロード経済ベルト構想」を発表。2015 年 3 月には国家発展改 革委員会、外交部、商務部が「一帯一路構想の原則・枠組み・協力優先分野・メカニズムに関する行動計 画」を発表。一帯は陸上のシルクロード経済ベルトを指し、ロシア・中央アジア地域の資源の確保や欧州 市場へのアクセスの円滑化、輸送回廊の建設を通じ市場の取り込みを図る。一路は海上のシルクロード 経済ベルトを指し東南アジアからスリランカ、ケニア、ギリシャ欧州・アフリカに至る港湾や工業団地他イ ンフラ整備を通じ市場の取り込みを図ることが目的とされる。しかし一帯一路のカバーする範囲について 明確ではなく、中国政府による公式の地図は存在しない(電中研上野 2016 他)。 (2)政策の変化の国外上流投資への影響 検証することは難しいが、習近平政権による石油産業や国有企業政策の変化は NOCs の投資に影 響を及ぼしているのではないかと思われる。 中国共産党第 18 期 3 中全会(2013 年 11 月)で採択された「混合所有制(国有企業への国有〈異 業種〉 、集団、民間企業による資本参加) 」政策に基づき Sinopec は製品小売事業を再編した。 PetroChina はパイプライン、ガス小売り、エンジニアリング事業の再編を行っている。一連の国有 石油企業改革による事業再編は国外投資の制約要因となっているのではないかと思われる。 また 2015 年頃から政府による国有石油企業再編構想(3 社を 1990 年代の上流、下流、海洋専業 に再構築)やエネルギーセキュリティの観点から NOCs の国外権益原油(現在はその多くが国際市 場で販売)の中国国内への持ち込みの奨励を検討しているという噂により新規投資に心理的な抑制 が働くのではないかとも思われる。 (3)国外権益原油・天然ガス生産と自主開発比率(推計) NOC3 社の国外権益生産量(2015 年)は前年比 9%増の約 276 万 boed である。2005 年の 50 万 boed –9– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 に比べ 5.5 倍、2010 年の 144 万 boed に比べ約 2 倍増加した。中国には自主開発石油・天然ガス引き取 り量の定義や統計は存在しないが、中国企業の生産量(国内原油・天然ガス生産量および国外原油・天 然ガス権益生産量推計)が中国の需要量(国内原油・天然ガス生産量および原油・天然ガスの純輸入量 の合計)に占める比率という前提で計算すると、原油・天然ガスの自主開発比率は 2010 年以降 61~65% で推移しており 2015 年は 64%であった(図 6)。 さらに原油・天然ガスに分けると、原油の自主開発比率は過去 5 年間 55~61%で推移しており 2015 年 は 59%であった。天然ガスは原油より高く 2010 年は 100%を上回っていたが、国内の天然ガス消費量の増 加とともに比率は徐々に下がり 2015 年は 84%であった(図 7)。 万boed 中国自主開発比率推計(2010~2015年) 300 100% 250 80% 200 60% 150 40% 100 20% 50 0 0% 2010年 2011年 2012年 2013年 国外権益(原油・ガス) 2014年 2015年 自主開発(原油・ガス) 図 6:中国の自主開発比率推計(2010~2015 年) 出所:各社年報ならびに海関統計、China OGP、国際石油経済、BP 統計に基づき JOGMEC 推計 中国に自主開発比率の石油・天然ガス引き取り量 の定義や統計は存在しないが、生産量(中国企業の 国内生産+国外権益生産量)/需要量(国内生産+純輸入量)で計算 – 10 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 万boed 中国自主開発比率推計(2010~2015年) 300 100% 250 80% 200 60% 150 40% 100 20% 50 0 0% 2010年 2011年 国外権益(原油) 2012年 国外権益(ガス) 2013年 2014年 自主開発(原油) 2015年 自主開発(ガス) 図 7:中国の自主開発比率推計(原油・天然ガス 2010~2015 年) 出所:各社年報ならびに海関統計、China OGP、国際石油経済、BP 統計に基づき JOGMEC 推計 自主開発比率:中国に自主開発比率の定義や統計は存在しないが、生産量(中国企業の国内生産+国 外権益生産量)/需要量(国内生産+純輸入量)で計算 日本の自主開発石油・天然ガスの引き取り量(平成 27 年度)は 146.4 万 boed、自主開発比率は 27.2%であるが、中国の場合権益生産量の国内持ち込み量は不明である。 自主開発天然ガスの引き取り量は CNPC がトルクメニスタンの保有鉱区で生産した天然ガスを、 中央アジアパイプラインを通じ輸入しているので比較的高いと思われる。 しかし原油の引き取り量は天然ガスほど高くは無いと思われる。原油は市場流動性が高く、世界 中で販売することが可能であり、政府は持ち込み義務を企業に課さず、企業は経済合理性に基づき 生産した原油を処理していると思われる。SINOPEC や CNOOC はナイジェリアや英領北海に生産 中の油田資産を保有しているがそれらの国からの輸入は限定的という指摘がある(PIW16/6/27) 。 ナイジェリアからの原油輸入量(2015 年)は 1.3 万 b/d(輸入全体の 0.2%) 、英国からは 3.9 万 b/d (輸入全体の 0.6%)である。 – 11 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 3.中国 NOCs 対外投資の方向性 2016 年以降の事例を見ると、一帯一路やインフラ・サービスパッケージ輸出など政策に合致したプロ ジェクトが進行中(その多くは枠組み合意)である。中国 NOC は低油価のもと国内の高コスト、成熟化し た油田生産を止めるなど投資抑制、絞り込みを進めている。NOC は基本的に長期的視野に立ち投資を 行い、保有資産の売却は行わないが国外新規投資については一帯一路など政府の意向に合致し、国 内への供給に資する事業などに対象を絞り取り組む可能性がある。 表 5:2016 年の中国対外投資事例 事例① 2016 年6 月、プーチン大統領が訪中し中露首脳会談後両国はインフラ整備及びエネルギー開発など 30 以上の合意文書に署名。 ・Beijing Enterprise と Rosneft:Verkhnechonsk プロジェクト ・CNPC と Gazprom:天然ガス地下貯蔵や中国におけるガス火力発電の協力 ・Sinopec は Rosneft:東シベリアにおけるガス処理・石油化学施設の建設(共同でプレ FS 実施)につい て枠組み合意 事例② 2016 年 6 月、ナイジェリア代表団が訪中し国営 NNPC は中国の複数企業と石油・ガスインフラ投資に 関する初歩的な協定(provisional agreements)を締結(China North Industries Corp<Norinco>., ChemChina, Sinopec、CNOOC を含む) 協定の範囲は老朽化した製油所の改修、ガスパイプライン建設などナイジェリアのエネルギーインフ ラ全て。総額 800 億ドルとされるが詳細未詳。 (報道、各種資料に基づき作成) 参考③:中国政府と国有石油企業 埋蔵量評価、探鉱 ライセンス プロジェクト、 産業政策、 価格 貿易、契約関連 経営 環境影響評価 – 12 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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