最終頁に続く (54) 【発明の名称】 アンチワインドアップコントローラ

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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 所定の制御範囲を超えたとき飽和特性を
有する制御対象をフィードバック制御するアンチワイン
ドアップコントローラであって、前記制御対象の状態量
を検出する状態量検出手段と、該状態量検出手段で検出
された状態量の値を帰還させ目標値と比較し、第1の偏
差を出力する第1偏差出力手段と、該第1偏差出力手段
で出力された第1の偏差を帰還信号と比較し、第2の偏
差を出力する第2偏差出力手段と、該第2偏差出力手段
から出力された第2の偏差に対し積分を含む演算を行
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い、補償信号を出力する補償手段と、該補償手段より出
力された補償信号から高周波成分を除去するフィルタ
と、該フィルタの出力信号が所定の制御範囲及び飽和特
性に基づく制限を受けた後、前記制御対象に入力される
飽和要素と、該飽和要素の出力信号を前記補償手段の出
2
力信号と比較し、第3の偏差を出力する第3偏差出力手
段と、該第3偏差出力手段の出力信号に対し定数倍及び
/又は所定の伝達要素を掛け、前記帰還信号を出力する
増幅手段とを備えたことを特徴とするアンチワインドア
ップコントローラ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はアンチワインドアッ
プコントローラに係わり、特に制御対象に飽和特性が存
在するために生じるワインドアップ現象を抑制可能なア
ンチワインドアップコントローラに関する。
【0002】
【従来の技術】フィードバック制御システムでは、追従
性を確保するために、積分演算を含む補償器を使用す
る。ところが、通常、補償器の後段に配置されるアクチ
(2)
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ュエータや駆動回路の飽和特性により、ワインドアップ
と呼ばれる振動や行き過ぎ現象が引き起こされる。
【0003】この現象は、例えばアクチュエータ等を制
御中に制御可能領域から飽和領域に移行したような場
合、制御対象が指令値に追従出来ず、このためいくら指
令値が大きくなっても、検出信号は飽和値を維持し続け
ることになる。従って、指令値と帰還された検出信号
(飽和値)との間に偏差を生じ、この偏差は、補償器の
積分演算によりどんどん累積してしまう等により生ず
る。
【0004】ここに、その対策を施した補償器をアンチ
ワインドアップコントローラ(UWC)と言う。従来か
ら知られている代表的なアンチワインドアップコントロ
ーラには2種類のものがある。
【0005】1)積分を停止する方法
飽和要素が飽和した時点で積分演算を停止する方法であ
り、積分器への入力を0にすれば実現できる。
【0006】2)フィードバックを用いる方法
従来のアンチワインドアップコントローラのこの方法に
基づく回路例を図2に示す。図2において、加算器3で
は、信号発生器1より出力された目標値Rと制御対象
(Plant)5から検出された観測出力Dの偏差e1
を求める。この偏差e1は加算器7に入力され、帰還信
号F1との間で偏差e2が求められる。
【0007】偏差e2はPID制御等を用いた補償器9
に入力される。この補償器9では、例えばPID制御を
用いる場合には、偏差e2が定数倍された数値1と、偏
差e2が時間積分された後に他の定数が乗じられた数値
2と、偏差e2が時間微分されたのちに、また別の定数
倍された数値3が演算され、この数値1、2、3を全て
加算した数値4が補償器出力される。
【0008】また、補償器9における微分演算は偏差e
2の高周波成分を無限に増幅してしまうことから、数値
4をローパスフィルタ11に入力する。ローパスフィル
タ11の出力は飽和要素13を経て制御対象5に入力さ
れる。
【0009】通常のアクチュエータやアクチュエータの
駆動回路には、前述のように、必ず出力最大値が存在
し、その値を越える出力を出すことはできない。これが
飽和要素としてシステムに作用する。
【0010】そして、この飽和要素13の入力からは、
帰還信号F2が抽出され、飽和要素13の出力からは、
帰還信号F3が抽出される。加算器15では、この帰還
信号F2と帰還信号F3の偏差e3が算出される。偏差
e3には、増幅器17で飽和要素13の前段の補償器全
体のDCゲインの逆数が乗じられる。
【0011】この増幅器17の出力信号は、帰還信号F
1として加算器7に負帰還される。図2において、点線
で示した範囲がアンチワインドアップコントローラ10
である。このとき、補償器9の積分回路の入力が0に収
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束するため、収束後の積分演算を停止させる働きを持
つ。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】ところで、従来の1)
及び2)に述べた方法では次のような欠点があった。
1)の方法は、原理的には最も有効とされているもの
の、積分器入力である偏差eを突然に0と見立てるた
め、不連続演算が実施される。また、再度、積分を開始
する際にも積分器の入力を0から突然に偏差eに変更す
るために、やはり不連続演算を行うこととなる。
【0013】積分機能により、両者は連続に変化する結
果となるが、最終的に求められる補償器の出力はこの積
分結果を含むものである。制御入力、即ち、補償器出力
は可能な限り、連続かつ滑らかに変化することが、制御
対象に振動を誘起させないために望ましいことが知られ
ており、そのことから1)の方法は欠点を持つ。
【0014】一方、2)の方法は、1)の欠点を補う特
性を持ち、飽和要素が飽和すると、積分入力が漸近的に
0に収束し、また、飽和から解除されるとやはり漸近的
に偏差eに収束する働きを持つ。
【0015】しかしながら、本方法は、積分入力が0に
収束するまでの間、積分器は積分演算を続けるため、積
分停止時には、過大な積分出力値を持つこととなる。前
述した通り、積分結果は補償器出力に含まれるために、
補償器出力も過大な値となる。このことから、ワインド
アップ現象は改善はされるものの、なくならない。
【0016】本発明はこのような従来の課題に鑑みてな
されたもので、制御対象に飽和特性が存在するために生
じるワインドアップ現象を抑制可能なアンチワインドア
ップコントローラを提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】このため本発明は、所定
の制御範囲を超えたとき飽和特性を有する制御対象をフ
ィードバック制御するアンチワインドアップコントロー
ラであって、前記制御対象の状態量を検出する状態量検
出手段と、該状態量検出手段で検出された状態量の値を
帰還させ目標値と比較し、第1の偏差を出力する第1偏
差出力手段と、該第1偏差出力手段で出力された第1の
偏差を帰還信号と比較し、第2の偏差を出力する第2偏
差出力手段と、該第2偏差出力手段から出力された第2
の偏差に対し積分を含む演算を行い、補償信号を出力す
る補償手段と、該補償手段より出力された補償信号から
高周波成分を除去するフィルタと、該フィルタの出力信
号が所定の制御範囲及び飽和特性に基づく制限を受けた
後、前記制御対象に入力される飽和要素と、該飽和要素
の出力信号を前記補償手段の出力信号と比較し、第3の
偏差を出力する第3偏差出力手段と、該第3偏差出力手
段の出力信号に対し定数倍及び/又は所定の伝達要素を
掛け、前記帰還信号を出力する増幅手段とを備えて構成
した。
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【0018】状態量検出手段では、制御対象の状態量を
検出する。状態量は、例えば温度や圧力等である。第1
偏差出力手段では、状態量検出手段で検出された状態量
の値を帰還させ目標値と比較し、第1の偏差を出力す
る。第2偏差出力手段は、第1偏差出力手段で出力され
た第1の偏差を帰還信号と比較し、第2の偏差を出力す
る。
【0019】補償手段は、第2偏差出力手段から出力さ
れた第2の偏差に対し積分を含む演算を行い、補償信号
を出力する。補償手段は例えばPID制御である。フィ
ルタは、補償手段より出力された補償信号から高周波成
分を除去する。
【0020】飽和要素では、フィルタの出力信号が所定
の制御範囲及び飽和特性に基づく制限を受けた後、制御
対象に入力される。第3偏差出力手段では、飽和要素の
出力信号を補償手段の出力信号と比較し、第3の偏差を
出力する。
【0021】このように、補償手段の出力信号と比較す
るようにしたのは、従来のように、フィルタの出力信号
と比較する場合には、このフィルタの伝達特性による位
相の遅れが生ずるため、偏差の収束がその分遅れること
が想定されるためである。
【0022】増幅手段では、第3偏差出力手段の出力信
号に対し定数倍及び/又は所定の伝達要素を掛け、帰還
信号を出力する。伝達要素を通すことで、一層の偏差の
収束の迅速化を図ることが出来る。
【0023】以上により、制御システムの即応性が向上
し、安全性をも向上させる働きを持つ。また、従来のア
ンチワインドアップコントローラと比して、コントロー
ラの入出力信号が安定かつ滑らかに変化する他、飽和要
素の入力が飽和値を大きく超えないために、飽和状態か
ら非飽和状態への遷移が短時間で、よりスムーズに行わ
れる。
【0024】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態について
説明する。本発明の実施形態は、本発明を冷凍システム
における温度制御に応用した例を示すものである。冷凍
システムは、例えば可変容量型の気体圧縮機を用いて車
室内の温度を制御するような場合である。図1に、本発
明の実施形態の構成図を示す。尚、図2と同一要素のも
のについては同一符号を付して説明は省略する。
【0025】図1において、制御対象5は、4次系等、
高次の伝達関数に近似される。ローパスフィルタ11の
入力より帰還信号F4が抽出され、加算器15に入力さ
れる。加算器15では、この帰還信号F4と帰還信号F
3の偏差e4が算出される。
【0026】偏差e4には、増幅器27で補償器9のD
Cゲインの逆数が乗じられ帰還信号F1として加算器7
に負帰還される。あるいは、DCゲインの他に伝達要素
を加味し、補償器9等を通過することに伴う位相遅れを
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相殺する等してもよい。
【0027】この偏差e4は、飽和要素13の入力値が
飽和値を越えない範囲では、0となる。入力値が飽和値
を越えると飽和要素13の出力である帰還信号F3は一
定の飽和値に固定されるが、他方の帰還信号F4は固定
されない。
【0028】両者の偏差e4が定数倍または、伝達関数
を経由して、加算器7の入力に負帰還され、補償器9へ
の入力を0に収束させる。このとき、ローパスフィルタ
11の入力より帰還信号F4を抽出したことで、ローパ
スフィルタ11による位相遅れがない状態で信号帰還さ
せることが出来る。
【0029】図1において、点線で示した範囲がアンチ
ワインドアップコントローラ20である。アンチワイン
ドアップコントローラ20は、上記構成を採用すること
により、飽和要素13が存在するために生じるワインド
アップ現象を抑制する働きを有し、そのために、制御し
たい物理量が過大に変化したり、振動的に変化すること
を抑えるものである。その結果、システムの即応性が向
上し、安全性をも向上させる働きを持つ。
【0030】また、従来のアンチワインドアップコント
ローラと比して、コントローラの入出力信号が安定かつ
滑らかに変化する他、飽和要素の入力が飽和値を大きく
越えないために、飽和状態から非飽和状態への遷移が短
時間で、よりスムーズに行われる。
【0031】なお、カーエアコンにおける外部容量制御
型圧縮機を有する冷凍システムでは、熱負荷の変動が大
きく、高い熱負荷では、最大容量で飽和し、低熱負荷で
は、最小容量で飽和する。このような飽和は極めて頻繁
に生じるため、本発明は、システムの安定性を維持する
ために特に有効である。
【0032】また、本発明は、ロボット、工作機械、ス
テッパー、ハードディスクドライブ、DVD等のメカト
ロ機器や科学プラントや冷凍システム等の温度制御、圧
力制御等のフィードバック制御が用いられるあらゆる機
器に適用可能なものである。
【0033】なお、アンチワインドアップコントローラ
20における演算アルゴリズムはコンピュータ上で動作
するプログラムとして実現されるか、電子回路により実
現される。前者の場合に、演算アルゴリズムは、メモリ
回路、ディスク、CD、DVD等の記録機器に保存され
る。
【0034】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、第
3偏差出力手段で飽和要素の出力信号を補償手段の出力
信号と比較するように構成したので、制御システムの即
応性が向上し、安全性をも向上させる働きを持つ。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態の構成図
【図2】 従来のアンチワインドアップコントローラの
(4)
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回路例
【符号の説明】
1 信号発生器
3、7、15 加算器
5 制御対象
9 補償器
20 アンチワインドアップコントローラ
特許3513450
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* 11 ローパスフィルタ
13 飽和要素
27 増幅器
R 目標値
D 観測出力
F1、F3、F4 帰還信号
*
e1、e2、e4 偏差
【図1】
【図2】
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フロントページの続き
(56)参考文献
特開 平2−58102(JP,A)
特開 昭62−236002(JP,A)
特開 平6−203498(JP,A)
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(58)調査した分野(Int.Cl. ,DB名)
G05B 11/36
B60H 1/32