(54) [発明の名称】 硬化コンクリート調査法

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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】硬化コンクリートに穿孔によって孔を形成
する第1手順と、前記穿孔された孔の内壁に蛍光定量用
試薬を噴霧または塗布する第2手順と、特定波長の励起
光を前記孔壁に照射し反射光強度を測定する第3手順
と、予め得られている反射光強度と塩化物含有量との相
関に基づいて塩化物含有量を求める第4手順と、からな
ることを特徴とする硬化コンクリート調査法。
【請求項2】前記特定波長の励起光はレーザ光であり、
前記蛍光指示薬は蛍光染料溶液である請求項1記載の硬 10
化コンクリート調査法。
【請求項3】前記塩化物含有量測定をコンクリート深さ
方向の複数箇所にて行い、深さ方向の塩化物含有量分布
を求める請求項1、2いずれかに記載の硬化コンクリー
ト調査法。
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【請求項4】前記ドリル穿孔による孔の径は20mm以下
である請求項1∼3いずれかに記載の硬化コンクリート
調査法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、土木、建築等にお
ける新設コンクリート構造物または既設コンクリート構
造物などの硬化したコンクリート中に含まれている塩化
物含有量を簡易に測定し得るとともに、深さ方向の塩化
物含有量分布をも容易に知り得る硬化コンクリート調査
法に関する。
【0002】
【従来の技術】コンクリート構造物の維持管理を適切に
行うには、対象とするコンクリート構造物の健全度を妥
当な方法で判定し、それに見合った最適の対策を講じる
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ことが重要となる。
【0003】コンクリートの健全度を正当に判定するに
は、ひび割れや剥離など可視的損傷を調査することはも
ちろんであるが、自然電位の測定により鉄筋の腐食程度
を把握したり、コンクリートの中性化深さを測定するこ
となどに加え、塩化物含有量を測定することが不可欠と
なる。
【0004】コンクリートの表層部に付着した塩化物
は、経時的に徐々にコンクリート深部へ浸入し蓄積され
る。コンクリート中の塩化物濃度が高くなると、これが
鉄筋を著しく腐食させる原因となる。
【0005】現在行われている塩化物含有量の測定方法
は、主にコア抜きによる方法とドリルによる簡易測定方
法とに大別される。前者のコア抜きによる方法は、図6
に示されるように、採取したコンクリートコア50を試
験室に持ち帰ったならば、このコンクリートコア50を
幾つかにスライスし、スライスしたコンクリートコア5
0A、50B…毎にクラッシャによる一次破砕および粉
砕機による二次破砕を行い、ビーカ内の硝酸溶液に浸漬
し煮沸によって塩化物を抽出した後、各ビーカ毎に電位
差滴定法等の塩分分析法によって塩化物含有量を測定す
る方法であり、測定された各結果をグラフ上にプロット
すれば、表面から深さ方向の塩化物含有量分布を知るこ
とが可能となる。他方、後者のドリルによる簡易測定方
法は、ドリルによって穿孔を行い、その際に発生するコ
ンクリート粉を採取し、前述の塩分分析法によって塩化
物含有量を測定する方法である。
【0006】さらに簡易な方法として、コア抜きによっ
て採取したコンクリートコアまたはドリル穿孔によって
採取したコンクリート粉に硝酸銀溶液を噴霧し、塩化物
の浸透深さ(所定深さ位置での塩化物浸透の有無)を判
定する方法(硝酸銀噴霧法という。)もある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記コ
ア抜きによる方法の場合には、先ずコンクリートコアの
径が50mm∼100mm程度と比較的大きく、現状のコン
クリート構造物に与える損傷を考えると安易には採択し
得ないとともに、構造的な理由から採取位置が限定され
たり、コア抜きの際に鉄筋を切断してしまうことがある
など問題が多い。さらに、コンクリートコアを試験室に
持ち帰って試験を行った後でないと測定結果を知ること
ができない。1スライス片当たり1点しか測定できずバ
ラツキなどがあった場合の判断が困難となる。また、分
析に多大な費用が掛かるとともに、手間と時間が掛かる
などの問題もある。
【0008】他方、ドリルによる簡易測定方法の場合に
は、穿孔径を小さくすることができ既存コンクリート構
造物に与える損傷は比較的少なくて済むが、粗骨材の粉
も混入することになるため、コア抜きによる方法と比べ
ると測定精度が劣るとともに、塩化物の浸透分布を把握
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することが困難であるなどの問題がある。
【0009】最も簡易な硝酸銀噴霧法の場合には、浸透
深さのみは把握可能であるが、塩化物含有量の定量的な
測定は出来ず、外部から浸入した塩化物か海砂等による
塩化物かの判定が困難な場合がある。
【0010】そこで、本発明の主たる課題は、硬化した
コンクリート中に含浸している塩化物含有量を現地にお
いても、コンクリート構造物に与える影響を最小限に止
めながら簡単かつ精度良く測定可能とするとともに、深
さ方向の塩化物含有量分布をも精度良く容易に知ること
ができるなどの利点を有する硬化コンクリート調査法を
提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため
の本発明は、硬化コンクリートに穿孔によって孔を形成
する第1手順と、前記穿孔された孔の内壁に蛍光定量用
試薬を噴霧または塗布する第2手順と、特定波長の励起
光を前記孔壁に照射し反射光強度を測定する第3手順
と、予め得られている反射光強度と塩化物含有量との相
関に基づいて塩化物含有量を求める第4手順と、からな
ることを特徴とするものである。
【0012】この場合において、前記特定波長の励起光
としてはレーザ光が好適に使用され、かつ前記蛍光指示
薬としては蛍光染料溶液が好適に使用可能である。ま
た、上記塩化物含有量測定をコンクリート深さ方向の複
数箇所で行うことにより、簡単に深さ方向の塩化物含有
量分布を求めることが可能となる。
【0013】なお、前記ドリル穿孔による孔の径は、コ
ンクリート構造物に与える損傷を考慮し20mm以下とす
るのが望ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る塩化物含有量
測定方法を測定手順に従いながら詳述する。
【0015】先ず、図1に示されるように測定対象コン
クリート構造物1の所定箇所に対してドリル2を用いて
穿孔を行う。穿孔深さLは深さ方向の塩化物含有量分布
を調べたい場合に概ね100mm程度、鉄筋位置での塩化
物含有量のみを知りたい場合にはかぶり分の3∼5cm程
度とし、穿孔径dはコンクリート構造物1に対する損傷
を考慮し20mm以下とするのが望ましい。使用するドリ
ル2としては、アンカー打込み用下孔などコンクリート
の孔あけ専用のドリルを用いるのが望ましく、周囲に与
える悪影響を最小限とするために、極力、打撃を掛けず
に回転によって穿孔を行うようにする。
【0016】穿孔により小孔3を形成したならば、エア
ガン等により穿孔時のコンクリート粉を取り去った後、
小孔3の内壁に深さ方向に均一に蛍光定量用試薬を噴霧
する。作業は図2に示されるように、小孔3形成部位に
機器設置台4をアンカーボルト5,5によって固定し、
この機器設置台4上に噴霧管7を所定速度で送りや引き
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戻しが出来るようにした噴霧管送り装置6を設置し、小
孔3内壁に均一に蛍光指示薬を噴霧する。前記噴霧管7
はその後端部にスイベル7bが設けられ、先端に噴射ノ
ズル7aが設けられたものである。なお、前記噴霧管送
り装置6は噴霧装置の一例を示しただけで、蛍光定量用
試薬を均一に噴霧できるものであればどのような構造の
ものであっても良い。場合によっては図4に示されるよ
うに、ロングノズル8aを有する手動式噴霧器8を使用
することにしてもよい。また、前記蛍光定量用試薬は要
は後壁に付着させればよいため噴霧する方法以外に、塗
布による方法としてもよい。
【0017】前記蛍光定量用試薬として使用出来る薬剤
としては、種々のものが挙げられるが、たとえばローダ
ミンB、ローダミンF5G、キシレンレッドB、フルオ
レセントイエローY、アルベルトイエロー、ポートマッ
クイエロー〔いずれも商標名〕などの蛍光染料が、蛍光
効率および明度などの点から好適に使用される。
【0018】孔壁に対する蛍光定量用試薬の噴霧が完了
したならば、図3に示されるように、先端にレーザ照射
部9を備えるとともに、検光子およびフィルタよりなる
蛍光光度センサ10を備える蛍光測定管11を挿入し、
レーザ発振・蛍光測定装置12から出力用光ファイバ1
5を介して送られた特定波長のレーザをレーザ照射部9
より測定箇所に向けて照射するとともに、レーザ照射に
よって励起された蛍光(反射光)を蛍光光度センサ10
によって計測する。計測された反射光は入力用光ファイ
バ16によって蛍光測定装置12に取り込まれ電気信号
に変換された後、さらにA/D変換され分析用コンピュ
ーター13内に取り込まれる。分析用コンピューター1
3では、図5(B)に示される所定波長の反射光強度(nA)
3
と塩化物含有量(g/m )との相関データに基づいて測定
箇所の塩化物含有量を求める。
【0019】前記所定波長の反射光強度(nA)と塩化物含
3
有量(g/m )との相関は、予め行われる予備試験によっ
て得られたものである。所謂、蛍光は基底一重項状態
(最低エネルギー状態)にある分子が励起光の照射によ
って励起一重項状態(相対的に高いエネルギー状態)に
励起され、その直後に基底状態に遷移(失活)する際に
放出する光である。この光は含まれる微量の不純物およ
びその量(本例の場合は塩化物量)によって、充満帯と
伝導帯との間に形成される励起状態準位と密接な関連性
を有し、励起エネルギーを得た電子が幾つかの段階を経
て基底状態に遷移する仕方が前記塩化物含有量によって
異なるようになる。その結果、失活の際に放出する蛍光
のスペクトルに違いが生じ、反射光強度(nA)と塩化物含
3
有量(g/m )との間に相関が生ずる。
【0020】前記反射光強度(nA)と塩化物含有量(g/
3
m )との相関を求めるには、図5(A)に示されるよう
に、所定濃度の塩溶液に対して蛍光定量用試薬を混合
し、特定波長(λ)のレーザ光を照射し蛍光スペクトル
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を計測する。そして、所定波長(λ1 )の対応する反射光
強度(ζ1 )を求める。この試験を各種濃度の塩溶液に
対して行うと、図5(B)に示される所定波長の反射光強
度と塩化物含有量との相関図を得ることができる。な
お、前記レーザ光の波長(前記特定波長)は、強い蛍光
が得られる波長範囲内の波長が任意に設定され、当然に
上記予備実験と本計測とで同じ波長を用いる。また、前
記所定波長(λ1 )は蛍光スペクトルの値がある程度以上
に大きくなる範囲内で任意に設定される。
【0021】使用可能なレーザとしては、He-Neレー
ザ、CO2 レーザなどの気体レーザ、YAGレーザなどの固
体レーザ、半導体レーザなど種々のものがあるが、本装
置としては可搬性の点より小型化が可能な固定レーザや
半導体レーザなどが好適に用いられる。レーザの波長
(特定波長)は対象元素によってその好適値は異なる
が、本塩化物測定の場合には概ね500∼650nmの
範囲内に設定される。なお、現状ではレーザ光が励起光
として最も好ましいが、水銀ランプおよびキセノンラン
プ、或いはこのようなスペクトル線を持った強力な光源
であれば代用することも可能である。
【0022】前記レーザ照射並びに反射光計測を小孔深
さ方向の複数箇所にて行い、最終的に図5(C)に示され
るような深さ方向の塩化物含有量分布を得る。この計測
は、図3に符号14で示される蛍光測定管用送り装置1
4を設け、自動化することも可能である。
【0023】ところで、本発明では特にコンクリート中
に含浸している塩化物の含有量を測定対象としている
が、本測定方法は計測原理より他の不純化合物の定量も
可能である。また、既存コンクリート構造物の健全度判
定の他、アルカリ骨材反応の検査のための使用骨材の分
析や、竣工時のコンクリート検査などにも応用が可能で
ある。
【0024】
【発明の効果】以上詳説のとおり本発明によれば、硬化
したコンクリート中に含浸している塩化物含有量を現地
において、簡単にかつ精度良く測定可能になるととも
に、従来のコア抜きによる方法と比べると格段にコンク
リート構造物に与える影響が少なくて済むようになる。
また、深さ方向に任意点数だけ測定が可能となり、深さ
方向の塩化物含有量分布をも精度良く容易に知ることが
可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る塩化物含有量測定方法の第1手順
図である。
【図2】その第2手順図である。
【図3】その第3手順図である。
【図4】蛍光定量用試薬の他の噴霧方法を示す図であ
る。
【図5】塩化物含有量決定までの手順を示す、(A)は蛍
光スペクトル図、(B)は反射光強度と塩化物含有量との
(4)
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相関図、(C)は深さ方向の塩化物含有量分布図である。
* 孔、4…機器設置台、5…アンカーボルト、6…噴霧管
【図6】従来のコア抜きによる塩化物含有量測定手順を
送り装置、7…噴霧管、7a…噴射ノズル、7b…スイ
示す図である。
ベル、9…レーザ照射部、10…蛍光光度計、11…蛍
【符号の説明】
光測定管、12…レーザ発振・蛍光測定装置、13…分
1…測定対象コンクリート構造物、2…ドリル、3…小*
析用コンピューター
【図1】
【図3】
【図2】
【図5】
【図4】
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【図6】
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