第9講 企業の社会的責任

経営学入門Ⅰ
第9講
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第9講 企業の社会的責任
企業の社会的責任と社会貢献(テキスト pp.318-320)
◆ 企業の社会的責任(social responsibility of business,corporate social responsibility)
=
企業をとりまくステークホルダーや社会や環境に対して企業が果たすべき責任
→「企業と社会」論(Business and Society)の一領域
= 現代資本主義社会における企業の社会的影響力に焦点を当て,
企業と社会の相互作用
企業の社会的役割
や
について解明しようとする学問分野
1. 社会的責任論
(1) 社会的責任の概念
◆
権力・責任均衡の鉄則
= 社会的責任は社会的権力に伴うものであり,企業は様々な権力を保有しているが故に,
その権力に伴う責任が存在する。そして,もし,社会的責任を果たさない場合,長期的
には企業の持つ社会的権力の喪失へと導く(Davis,1960)
。
→ 企業は社会的な権力を持っているがゆえに責任を果たさなければならず,長期的に企業
が存続・成長するためには,
企業の持つ権力に見合った社会的責任
を
果たさなければならない。
=
◆
社会的責任肯定論
社会的責任否定論
= 企業は
(positivism)
(negativism)
株主に対する経済的責任のみを持つ
のであり,それ以外に関しては
法律に任せるべきである(M.Friedman,F.A.Hayek)
【論拠】
(Carroll,1996 より)
1. 企業が社会的責任を果たすためのコストを負担することは,市場メカニズムを阻害し,社
会全体の経済的効率が低下する。
2. 企業は社会問題の専門家ではなく経済活動の専門家であり,企業経営者が政府をさしおい
て社会問題に対応する政治的合法性は存在しない。
3. 企業が非経済的領域まで権力を拡大することは,企業に無責任な権力を与えてしまう。
【否定論に対する肯定論の反論】
1. 市場メカニズムは完全ではなく,外部不経済が存在する。
2. 法律は制定されるまでに時間がかかり,その間は社会からの要求を無視することになる。
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3. 法律が制定されたとしても,法の解釈を行う際に企業の姿勢が問われることになり,法律
によって企業の活動を完全にコントロールすることは不可能である。
◆ 社会的責任肯定論と社会的責任否定論の関係
◇ 社会的責任否定論 = 企業権力の無秩序な拡大を抑制,企業を経済活動のみに
集中させることを主張
→
権力・責任の法則とは矛盾しない
→ 社会における企業の望ましい役割と,その役割に必要な権力を
先に想定し,それに対応した責任のみを企業に負わせようとする
=
権力・責任の縮小均衡
◇ 社会的責任肯定論 = 現実に存在する企業の社会的影響力に着目し,その企業の権力
に見合った責任を担うことを主張
→ 企業が社会とかかわりを持たずに経済活動を行うことはできない
→ 企業権力を経済的な影響力のみに限定して,社会的責任を担う
ことを否定するのは非現実的
=
権力・責任の拡大均衡
社会的責任肯定論と否定論の比較
(2) 企業の社会的責任の類型
具体的に求められる責任の指針となる原則
→ チャリティ原則(charity principle)
,スチュワードシップ原則(stewardship principle)
◆
チャリティ原則
= 社会の富を持つ人間は,恵まれない人間に貢献しなければならない→ 企業に適用
→ 企業であっても一市民として恵まれない人間に貢献しなければならない
=
企業市民(corporate citizenship)
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フィランソロピー(philanthropy)
= 企業の慈善活動・寄付行動
→ 少数の個人に富が集中されているときは,個人がフィランソロピーの中心
であったが,個人から企業へと富の所有が移った今日,企業が市民として
の役割を担うのは当然
◇
企業メセナ(Mecenat)
= 企業が積極的に研究活動やスポーツや芸術活動を支援していくこと
◆
スチュワードシップ原則
= 企業経営者は社会に対して広範かつ多大な影響力を持っているため,企業の持つ
資源を株主だけでなく,社会全体の利益となるように用いなければならない
→ 企業の行う活動が社会全体の利益となることを要求
→ 社会と調和した企業経営の必要性
=
(enlightenment self-interest)
啓発された自利
⇒ 社会全体を考慮しつつ自らの利益を追求する
⇒ 単に短期的な利益を得るための利己心ではなく,長期的な視野に立った利己心
◆ 社会的責任の内容
→ 上記の 2 つの原則から導かれており,現在では
・
経済的責任
(economic responsibility)
・
法的責任
(legal responsibility)
・
倫理的責任
(ethical responsibility)
・
社会貢献
(corporate philanthropy)
の 4 つに分類されることが多い
◇
経済的責任 = 社会が望む財やサービスを生産・販売し,利益を獲得する責任
◇
法的責任
◇
倫理的責任 = いまだ法として明文化されていないが,社会から望まれている
= 企業が様々な活動を行う際に,法を犯さないという責任
規範に沿って企業活動を行うという責任
◇
社会貢献(裁量的責任) = 道徳や倫理として求められているわけではないが,
社会が企業に担ってほしいと望む役割を自発的に
遂行する責任
スチュワードシップ原則 → 経済的・法的・倫理的責任
チャリティ原則 → 社会貢献
◆ 社会的責任の優先順位
(1) 経済的・法的責任 → (2)倫理的責任 → (3)社会貢献
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⇒ 長期的に見ると,企業の果たす責任の具体的な項目は増大する傾向にある
⇒ さらに,倫理的責任に分類されていた項目が,より優先度の高い法的責任
へと移行することがある
2. 企業社会的応答論
ステークホルダーマネジメント
→ 社会的責任論に基づき,企業経営を行うためには,企業は社会をどのように認識
すればよいのであろうか
◆
ステークホルダーモデル
(stakeholder model)
(Freeman,1984)
= 社会をステークホルダーの集合体として捉え,企業は様々なステークホルダー
に囲まれているという視点から企業を捉える(テキスト p.23 図表 2-4 参照)
⇔
株主モデル
(stockholder model)
◆ ステークホルダーマネジメント(stakeholder management)
= ステークホルダーモデルという企業モデルに基づいた経営のあり方
→ 経営者は企業に影響を与えるグループを考慮するだけでなく,企業によって影響を
受けるグループにも配慮した経営を行う必要がある
※ ステークホルダーマネジメントには,統一したマネジメントツールは存在していない
→
ステークホルダーの認識
,
ステークホルダーの企業への影響力
ステークホルダーの利害の把握
,
などが議論の中心
3. 注目されるトピック
◆
選択的購買
(selective buying)
= 社会的責任を果たしている企業を支援するために,その企業の商品を買うことを
推奨する運動
→ 従来のボイコット運動に加え, バイコット(buycott) と呼ばれる積極的な購買
をも含めた運動
◆
社会的責任投資(SRI)
= 社会的責任を果たしている企業の株主となることで企業を支援する活動
→ 社会的責任を果たしている企業は社会からの批判を受けにくいため,より安全な
投資先であるとして,年金基金等の大口の投資家から選択されるケースもある
⇒ 企業は単にステークホルダーによって取り囲まれているだけでなく,現在では,
ステークホルダー同士が複雑にネットワークを形成し,企業の批判・支援を
行っている
⇒
「社会的責任とは企業の責任だけでなく,投資家の責任をも問うている」