航空業界の再生可能ジェット燃料への取組状況(2)

JPEC レポート
平成 27 年 7 月 10 日
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第
第 1100 回
回
222000111555年
年
度
年度
度
航空業界の再生可能ジェット燃料への取組状況(2)
世界の航空分野での温室効果ガス
(GHG、Green House Gas)のCO2換算
排出量は、IATA(The International Air
Transport Association、国際航空運送協
会)の報告では2012年 6億8,900万トン、
2013年 7億500万トンで、世界のCO2全
排出量約 360億トンの約2%に相当する
量となり、2050年にかけて排出量増加が
予想されている。
5.バイオジェット燃料の製造状況
5-1 BTL FT-SPK
5-2 HEFA SPK
5-3 SIP 燃料
5-4 ATJ 燃料
5-5 HPO
5-6 Green Diesel の混合
6.日本のバイオジェット燃料の開発状況
7.その他の動向
8.バイオジェット燃料供給体制
9.後編まとめ
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IATAおよび国連専門機関のICAO
(International Civil Aviation
Organization、国際民間航空機関)を総合的な調整の場として、世界で多くの関連機関
が航空機の燃料効率向上およびGHG排出量の削減を目指し、導入が不可欠な再生可能ジ
ェット燃料の商業化および安定供給の確保に積極的に取組んでいる。
前編では航空業界のGHG削減への取組み状況、航空ジェット燃料の規格および主要航
空会社の取組み状況に関して報告した。今回は、バイオジェット燃料の製造および供給
体制状況を報告する。なお、GHG削減率は、特に断らない限りは従来型石油燃料との対
比である。また、目次番号は、前篇からの続きとして採番している。
5. バイオジェット燃料の製造状況
現在 ASTM D7566で従来型燃料への混合が認められているドロップイン型のバイオ
ジェット燃料は3種類である。ASTMで認証検討中のものも含め、分類毎に最近の状況
をまとめて報告する。
ASME(The America Society of Mechanical Engineers)の資料では、SPK燃料
(Synthesized Paraffinic Kerosene)は芳香族炭化水素の含量が少なく、燃料各媒体の
性状が異なるためシール材材質の選定に注意すべきである。
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2012年11月 DOE(米国エネルギー省)レポートの「HEFA and F-T jet fuel cost
analyses」によれば、大豆油を原料とするHEFA燃料(Hydroprocessed Esters and Fatty
Acids)価格は、1米ガロン当り約4米ドルで、精製処理に掛かるコストが1米ドル強に対
し、大豆油のコストが約2.5米ドルとなり原料油価格の影響が大きいと報告している。ま
た、F-T技術を用いたBTL (Biomass-to-Liquids)の場合では、前提条件により振れ幅
は大きいが、標準的な条件では150米ドル弱/bbl(1米ガロン当り約3.57米ドル弱)と報
告されている。
航空業界の目標達成『1米ガロン当り3.5米ドル』には、いかに安いバイオ由来原料を
確保するか、また建設コストをいかに抑えるかが重要と考えられている。
5-1 BTL FT-SPK (Fischer-Tropsch based on biomass)
バイオマスを原料としてBTLにより製造されたジェット燃料基材BTL FT-SPKは、
ASTM D7566(Aviation Turbine Fuel Containing Synthesized Hydrocarbons)に
含まれ、従来品へ最大50%の混合が承認された。
この製造プロセスを用いた多数のプロジェクトが進行中であり、2016年から順次供
給量が増えると思われる。代表的なプロジェクトを下記報告する。
① Red Rock Biofuels(米国)
Red Rock Biofuelsは、オレゴン州Lakeviewに年産1,600万米ガロン(約6万kℓ )
のバイオリファイナリー(能力1,100 BPD)を建設中で、2016年末までには完成予
定である。
プロセスは、森林廃材などの幅広い木質系バイオマスを原料(年間17.5万乾燥ト
ン)として、高温ガス化による合成ガスの製造し、F-T合成法を用いての液体燃料
の製造をする。さらに改質・精製工程を経て、ジェット燃料、ディーゼル油、ナフ
サが製造される。F-T合成工程の設計・建設はVelocys(英国)が、ガス化に関して
はTCG Global(米国)の技術と報じられている。価格目標は、1米ガロン当り3.5
米ドル以下である。
② Solena Fuels Corporation(米国)
Solena社は、英国のロンドン近郊で都市ゴミからのメタンリッチガスを原料に、
ジェット燃料、ディーゼル油などの液体燃料を製造する「GreenSky London」プロ
ジェクトを推進している。
計画では、独自の高温プラズマガス化技術とVelocys社のF-T合成技術を用いて、
ポストリサイクル廃棄物(年間約58万トン)を原料に、年間約12万トンのクリーン
燃料を製造する。1基目の商業装置は、英国の東部(Essex County)の製油所跡地
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に建設する計画で、2017年に操業開始予定で
ある(図3参照)。同プロジェクトには、British
Airwaysがパートナーとして参加しており、同
社が生産するジェット燃料基材全量(年間5万
トン)をBritish Airwaysが長期購入する契約
になっている。
図3 GreenSky London(出典:Solena Fuels)
③ Fulcrum BioEnergy(米国)
Fulcrum社は、ネバダ州Renoの郊外において家庭ごみなどの埋立てゴミ(年間約
20万トン)を原料に、年間1千万米ガロン(約3.8万kℓ )以上のバイオジェット燃
料を製造する計画である。
プロセスは、ガス化工程で都市ゴミから合成ガスを製造し、合成ガスをF-T合成
によりF-T合成油とする。さらにF-T合成油は、改質されてジェット燃料となる。同
プラントの運転開始は、2017年の第3四半期を予定している。なお、GHG削減率は、
80%以上と報告されている。
④ Cool Planet Energy System(米国)
Cool Planet Energy Systemは、ルイジアナ州に商業設備の建設を進めている。
プロジェクト名称は「Project Genesis」で、稼動は2016年末を計画している。装置
の製造能力は、年産1,000万米ガロン(約3.8万kℓ )である。プロセスは、廃材など
を原料に熱分解でガス化、触媒反応によりバイオ燃料混合基材を製造する。
⑤ The BioTfueL プロジェクト(EU)
Totalなどフランス5社とUhde(ドイツ)の共同プロジェクトで、2020年までに
藁や森林廃材を原料にBTLプロセスにより、バイオディーゼルとバイオジェット燃
料を合計して年間20万トン製造することを目的として技術開発中である。
5-2 HEFA SPK (Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)
HEFA SPK は、2011年7月にASTMの承認済みで従来あり、石油系ジェット燃料
へ50%混合が可能なドロップイン型燃料である。
① Neste Oil (フィンランド)
Neste Oil は、フィンランド(2ヶ所)、ドイツおよびシンガポールの計4ヶ所で
バイオ燃料の商業生産(合計年産198万トン、約1,597万bbl/年)を行っている。
Neste Oil では原料油種の拡大に取り組んでおり、今までに多数の原料を評価し
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している。その中でパーム油(食用油)は、マレーシアとインドネシアの特定の農
園から認証を受けたものを直接購入しており、市場を通じて調達しないことでサプ
ライチェーンを明確にしている。
一方、Neste Oil では、原料として廃動物油脂や廃魚油および残渣物の割合が増
えており、2013年には原料の52%(120万トン以上)を占めている。同社では、微
生物油、農業収穫残渣やバイオマス、藻類油を今後増やしていく計画である。同社
が製造した燃料は、2011年からLufthansa航空グループ各社で使用されている。
② AltAir Fuels Refinery(米国)
AltAirは、2009年からUnited Airlinesと提携しており、ロサンゼルス近郊で年産
4,000万米ガロン(約15万kℓ /年)規模のバイオ燃料精製プラントを運転している。
また同社は、Alon USA Energyと提携し、Alon社のCalifornia製油所の遊休設備
を改造し活用している。Honeywell’s UOPの開発した技術で、再生可能なジェット
燃料とディーゼル油を製造する。原料は非食用の天然オイルと農業残渣である。
同ジェット燃料は、ドロップイン燃料として使用が可能である。United Airlines
への納入は、同社とWorld Fuel Services(米)が協力して行う。
③ Dynamic Fuels(米国)
2013年 Dynamic Fuelsは、廃調理油を原料としたバイオジェット燃料をKLM
(オランダ)供給し、使用されたと報告されている。
④ Sinopec(中国石油化工集団、China Petroleum & Chemical Corporation)
2014年2月 中国民用航空局(CAAC)は、Sinopecに中国初の航空ジェット燃料の
商業運用を許可した。過去2年間、中国東方航空のAirbus A320のテストフライトな
どによりデータを蓄積した成果としている。
2015年3月 Sinopecが製造したジェット燃料(バイオ燃料を50%混合)を用いて、
海南航空およびDragonairがデモ飛行を実施した。原料の廃調理油は、北京のレス
トランから集めたものである。
⑤ Sunchem Holding Ltd(イタリア)
Sunchem社は、South African Airways(南アフリカ)、
SkyNRG、Boeingなどと共同で、バイオ燃料製造検討
に取り組んでいる。同社は、南アフリカの北東部で約
50haの土地に新ハイブリッド品種のタバコの木
「Solaris」を栽培している(写真1参照)。
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写真 1. Solaris
(出典 Boeing)
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Solarisは、気候や土壌への適応性があり、特に食用作物の生産に適さない限界耕
作地での栽培が可能である。
Solarisは、1haの栽培面積から年間4~10トンの種子(約40%の油分含む)が収
穫でき、低温圧搾工程により33~34%の植物原油と65%のタンパク質固形物が得ら
れる。なお、タンパク質固形物は、バイオマス燃料および動物飼料として使用可能
である。2015年には、同バイオ由来燃料(石油系ジェット燃料に対してCO2を80%
削減)を使用したテスト飛行実施を計画中である。
⑥ SBRC(UAE)
SBRC(Sustainable Bioenergy Research Consortium、アブダビ)は、塩水でも
育成できる植物の量産に関して取り組みを進めている。なお同社は、Masdar科学
技術研究所(アブダビ)、Boeing、Etihad Airways(エチオピア)とUOPが創設
した団体である。
Salicornia(塩生植物)は、荒地や高塩分の場所でも栽培可能で、水産養殖池の
廃水を利用しバイオマスの生産と排水の浄化を進めることが可能である。同植物の
油分含量は、約30%(ジャトロファは約40%)である。
5-3 SIP 燃料(Synthesized Iso-Paraffinic)
SIP燃料(2014年6月にASTM D7566 Annex3)は、Amyris(米国)とTotal が共
同開発した技術を用いる。製造工程は、サトウキビなどを原料に変性酵素と微生物を
用いて発酵により得られたFarneseneを製造し、更に水素化処理して、バイオジェッ
ト燃料混合基材のFarnesane(長鎖分岐炭化水素)を製造する。同基材の混合比率は
10%まで可能で、GHG削減率は最大80%と報告されている。
Amyris は、GOL航空(ブラジル)と協力関係にあり、2014年7月末にBoeing 737
で商業フライトし、バイオジェット燃料を使用開始した。ブラジルにおいても2014年
12月に使用承認が得られ、同社は現在 世界で販売中としている。
5-4 ATJ燃料(Alcohol-to-Jet)
エタノールやブタノールなどを原料に、ジェット燃料グレードの炭化水素を製造す
る。現在 ASTMにおいて審査中で、承認は2015年後半と報じられている。複数の企
業がATJ燃料の開発に取組んでおり、各社の情報を報告する。
① Gevo, Inc. (米国)
Gevo社は、ミネソタ州に商業製造設備を持っている。年産能力は、イソブタノー
ル1,800万米ガロン、エタノール2,200万米ガロンである。
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同社のバイオジェット燃料製造プロセスは、各種バイオマスを原料から酵素発酵
によりイソブタノールを製造し、第二段階としてイソブタノールを脱水 ⇒ オリゴ
マー化 ⇒ 水素化処理工程を経てバイオジェット燃料を製造する(表5参照)。
表5 Jet A-1とATJ燃料の性状一覧
規格
ASTM 規格
JIS 規格
英国規格
芳香族炭化水素分 vol%
全イオウ分 wt%
メルカプタンイオウ分 wt%
蒸留点 ℃
引火点 ℃
発火点 ℃
密度 (15℃) g/cm3
析出点 ℃
動粘度(-20℃) mm2/sec
真発熱量 MJ/kg
煙点
熱安定度
Breakpoint ℃
圧力差(260℃)mmHg
管堆積物
JET A-1
UOP
カメリナ原料
Bio-SPK
Gevo
Bio-SPK
0.3 未満
0.001 未満
0
0
163
242
42.0
45~50
ASTM D-1655
JIS K2209-1991-1
DEF STAN 91-91
25.0 以下
0.30 以下
0.0030 以下
10%留出 205.0 以下
終点 300 以下
38.0 以上
210 以上
0.7750~0.8400
-47 以下
8.000 以下
42.80 以上
25.0 以上 or19.0 以上
325 以上
25 以下
3 未満
0.753
-63.5
3.33
44.0
0.76
-78.0
44
350 以上
0.0
1 未満
Gevo社は、2010年からASTM認証取得の取組みを開始し、複数のテスト飛行に
よりデータを蓄積してきた。2015年1月 米国海軍のF/A-18を使ってATJ50%ブレ
ンド燃料のテスト飛行を実施した。2015年3月 NASAは、再生可能ジェット燃料を
テスト用に購入している。2015年5月 Alaska Airlines は、同社と戦略的提携契約を
締結し、ATJ燃料を商業フライトに使用する計画である。
② Cobalt Technologies(米国)
Cobalt 社は、非食用バイオマス原料からバイオブタノールを製造し、同ブタノ
ールからバイオプラスチックや合成ゴムなどの再生可能化学品とジェット燃料を製
造する技術の事業化を進めている。
2010年11月から米国海軍と連携しバイオジェット燃料の取組みを行っており、
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2012年末にはテスト飛行も実施済である。表6に同社が公表している納入時の実績
データを示す。
2013年4月 同社は、ノルマルブタノールの100kℓ 以上の発酵槽での商業運転に
成功したと発表した。2014年7月 同社は、Andritz Inc.(米国)と排他的な国際協力・
供給契約を締結したと報じている。同社技術とAndritzの設計力およびバイオマス
処理供給システムの融合により、効率的で価格競争力のある製造設備を開発できる
としている。
表6 米国海軍向けColbalt社製 ATJ燃料 (出典:Colbalt社)
規格
芳香族炭化水素分 vol%
蒸留点 ℃
10~90 留出温度差
引火点 ℃
密度(15℃) g/cm3
析出点 ℃
真発熱量 MJ/kg
環状パラフィン分 wt%
元素組成
%
0.5 以下
Cobalt 製
海軍用 Bio-Jet
0.1
25 以上
49.6
60 以上
0.760~0.845
-46 以下
42.80 以上
30 以下
H 13.4 以上
67
0.777
-82 以下
44.1
0
C85、H15
ATJ-5
③ Lanza Tech(米国)
Lanza Tech社は、CO2を含む工場排ガスやバイオマス由来の合成ガスを原料に、
バクテリア(通称 Acetogen)を用いて嫌気性発酵を行い、エタノールを製造する
技術を保有している。ATJ燃料の製造に関して、Virgin Atlantic(英国)とHSBC
(英銀行)の支援を受けて取り組み中である。
④ Byogy Renewables, Inc.(米国)
2014年4月 Byogy Renewables社は、Avianca Brasil(ブラジル)とASTMの認
証取得を目指すことで合意した。同社技術は、エタノールなどの低価格アルコール
を原料に脱水 ⇒ 触媒合成・分子量調整 ⇒ 分留 ⇒ ジェット燃料仕上工程を経て
製品とするものである。2012年4月 Qatar Airways(カタール)は、同社への出資
と長期購入契約の締結を発表している。
なお、原料はAusagave社(豪州)が生産するAgave(非食用植物、糖分濃度がサ
トウキビの2倍、繊維には65~78%のセルロースを含む)を使用する。Agave のバ
イオマス収量は、1ha当り最大500トンと言われ、食用作物の栽培に不適当な限界耕
作地での栽培も可能である。
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5-5 HPO(Hydrogenated Pyrolysis Oils)
HPOの製造工程は、前段工程で収穫したバイオマスを微粉砕し、500℃前後の反応温
度で、短時間での熱分解をすることによりバイオ原油を製造する。後段工程では、水素
化処理によりアップグレーディングを行い、ガソリン、軽油、ジェット燃料などの輸送
用燃料を製造する。
特徴としては、原料として幅広いバイオマスを使用できること、比較的小規模で製造
が可能、原料の確保のための輸送コストなどが抑制できるメリットがあるとしている。
なお、原料水分量が反応に大きく影響するため、10%の水分量にする必要がある。
HPOの製造法は、UOPとEnvergent Technologiesの開発したプロセスが良く知られ
ている。豪州では、Renewable Oil Corporation がVirgin Australia との間で再生可能
航空燃料の共同開発契約を締結している。
5-6 Green Dieselの混合
2014年12月 Boeingは、Neste Oilの「NEXBTL冬季グレード再生可能ディーゼル燃
料」を航空燃料の混合基材をBoeing 787 を用いてフライトテストを実施した。
同燃料15%混合油を1基のエンジンに供給して実施したが、飛行性能は石油系ジェッ
ト燃料と同等の結果が得られた。同混合燃料は、ASTMの航空燃料としての承認待ちで
ある。承認を受ければ、今後のバイオジェット燃料の供給拡大が可能になる。
Green Dieselの性状は、HEFA航空バイオ燃料と類似している。同燃料の製造能力は、
米国、欧州、アジア合計で年産8億米ガロン(約300万kℓ )有するため、航空業界の再
生可能ジェット燃料の目標達成が容易になる。なお、ジェット燃料留分を増産するため、
水素化分解などの設備高度化が不要なため、燃料油製造コストが下がるメリットもある。
6. 日本のバイオジェット燃料の開発状況
2012年5月 日本で藻類油研究開発を行っている3社(JX日鉱日石エネルギー、IHIお
よびデンソー)が発起人になり、民間企業10社を主体とする微細藻燃料開発推進協議会
が設立された。藻類油の実用化に当って、培養、油分抽出、燃料化といった各工程の技
術開発の課題を解決し、2020年度までに同燃料の一貫生産システムの確立を行うために
産官学のオールジャパンでの取り組みを行う。藻類由来および非食用植物由来のバイオ
ジェット燃料に関するグループ各社の取組みを報告する。
1) ユーグレナ
JX日鉱日石エネルギー、日立プラントテクノロジー、ユーグレナおよび慶応義塾大
学は、共同研究プロジェクト「微細藻類由来のバイオジェット燃料製造に関する要素
技術の研究開発」で、2018年度の実用化を目指している。
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2015年2月 ユーグレナは、Chevron Lummus Global(米国)との契約締結が終了
した。
同社は、
これによりバイオジェット燃料事業の実現性が高まると報告している。
国内の建設場所および設備稼働開始時期は今後発表される予定である。一部報道では
2018年稼働予定で、全日本空輸が最初に購入する計画である。
2) シュードコリシスチス(藻類)
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として「微細藻類を使
ったCO2吸収・バイオ燃料化の研究」にデンソー、大阪大学、マイクロ波化学の3社共
同で取組んでいる。同グループの目的は、効率良くバイオ燃料に変換するプロセスを
開発することである。
シュードコリシスチスは、池や温泉にいる新種の藻で、光合成でCO2を吸収してデ
ンプンと油分を製造する。目標は、自動車用燃料ディーゼルとしての利用で、2020年
ごろの実用化を目指している。技術の特徴は、主成分がトリグリセリドの藻類原油を
マイクロ波を用いて処理することで、バイオ燃料の脂肪酸メチルエステル(FAME、
Fatty Acid Methyl Ester)に変換することである。
3) ボツリオコッカス(榎本藻)
NEDOの委託事業として「戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業」
に2011年からIHI、神戸大学およびネオ・モルガン研究所で取組んでいる。2015年4
月より鹿児島市で試験運用が開始される。試験には、増殖性に優れたボツリオコッカ
ス株を活用して、安定的な藻体量産技術の確立、燃料製造コスト低減に向けたプロセ
ス全体の改良を行う。
株種は、神戸大学の榎本教授が顧問を務める会社が所有する高速増殖型(同種の藻
に比べ1000倍のスピードで増殖)のもののため、橋本藻の別名がある。
4) ジャトロファ(非食用植物)
出光興産は、2011年からペトロベトナムオイル(ベト
ナム)と共同で、バイオディーゼル燃料の原料の一つで
あるジャトロファの試験栽培をベトナムで開始している
(写真2参照)。ペトロベトナムの製油所内にジャトロフ
ァからバイオディーゼル燃料を製造する設備を建設する
計画で、2020年以降に年間10万kℓ のバイオディーゼル
燃料の製造・販売を目指すと報じられている。なお、水
素化分解の2次処理により、一定量のジェット燃料の製造
も可能である。
写真2. ジャトロファ
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7. その他の動向
今までの項目分けには当てはまらない関連情報を下記報告する。
1) ITAKAプロジェクト(欧州)
ITAKA(Initiative Towards sustainable Kerosene for Aviation、EU補助有)プロ
ジェクトは、欧州での再生可能ジェット燃料の商業化をサポートしている。なお、バ
イオ燃料の供給は、Neste Oil が担っており4,000トンを同プロジェクトのために生産
する計画である。
原料はスペイン産カメリナが主で、一部廃調理油を使用する計画である。再生可能
ジェット燃料は、EUの認証システムで合格したもので、ASTM規格に適合するよう
に50%ブレンドで製品化され、欧州内の空港に配送される。
2) Honeywell’s UOP(米国)
2008年末 UOPは、同社プロセスにより製造したバイオジェット燃料(Honeywell
Green Jet Fuel)を用いて、民間航空会社や米国海・空軍でのテストフライトを多数
実施している。このテストには、Air New Zealand、KLM、日本航空、Continental
Airlines などが参加している。これらのテストの結果、2011年7月には天然油由来の
ジェット燃料がASTMに営業用航空バイオ燃料として承認された。
バイオジェット燃料製造の代表プロセスは、UOPとENI(イタリア)で開発した
Ecofining プロセスとRenewable Jetプロセスを組み合わせたものである。第二世代
原料である天然油や油脂類を原料に、脱酸素 ⇒ 選択水素化 ⇒ 製品分留工程を経て
製造する。製品は、水素化植物油でBio-SPKに位置付けられる。なお、バイオジェッ
ト燃料を最大収率で製造する場合は、選択的接触分解工程のRenewable Jetプロセス
も用いる。
2008年 UOPとEnsyn Corporationは、森林・農業残渣を再生可能液体燃料にする
RTP(Rapid Thermal Processing)技術を推進するEnvergent Technologiesを立ち上
げた。
技術的には、微粉砕したバイオマスを接触熱分解(高温触媒を充填したライザー反
応管)により軽質化し、同反応管出口のサイクロンセパレータで熱分解生成物と固体
の触媒や未反応物などを分離し、
熱分解生成物を冷却してバイオクルードが得られる。
この後は、
精製プロセスでアップグレード処理した後に分留されグリーン燃料となる。
分離した触媒と未反応物などは、触媒再生塔で処理され、高温の触媒はライザー反応
管に送られ循環使用される。この燃料は、GHG削減率で最大90%が期待できる。
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8. バイオジェット燃料の供給体制
バイオジェット燃料の供給体制の確立は、GHG削減効果を明確に把握するためにも必
須である。既にEU地域内では、欧州指令によるバイオディーゼルの導入などが進んで
おり、原料の種類と育成に関する持続性可能認証、精製処理、運送、石油系燃料との混
合使用による認証および消費までの管理が行われている。
バイオジェット燃料の製品品質保証に関しては、GHG削減効果の認証を受ける為に複
雑な証明取得が必要である。しかし、証明取得済みのバイオ燃料混合基材に関しては、
石油系燃料との混合場所の制約を受けないとされている。
世界的な供給体制を有する企業としては、SkyNRG およびBioJet Corporation(米国)
、
Neste Oilなどがある。下記に最大手であるSkyNRG の動向について紹介する。
SkyNRG社は、KLMが中心になって立ち上げた再生可能ジェット燃料の普及促進を
図ることを目的とする会社で、世界20社以上の航空会社に再生可能ジェット燃料を供給
している。同社は、円卓会議(RSB、Roundtable of Sustainable Biomaterials)から
再生可能ジェット燃料の供給に関して承認を受けた世界で唯一の会社である。
SkyNRG社の主な顧客としては、KLM、Air Canada、LAN、Air France、Finnair、
Virgin、Etihad、Air Canada、全日本空輸、Thai Air、Qantas、Alaskaなどがある。
同社は、最も持続可能性に優れ、価格競争力のある技術を提供するように努力している。
オランダでは、Schiphol空港をバイオ空港のモデルにする取り組みが進んでいる。
SkyNRG社は、政府のサポートを受けながらKLM、Neste Oil、同空港、ロッテルダム
港湾局の組織が協力して取り組んでいる。
2013年4月 SkyNRG社は、Brisbane空港を豪州初のBio-Airportとする事業化検討の
覚書をVirgin Australiaおよび同空港会社と締結している。
2014年6月 SkyNRG社は、Statoil Aviationと合弁でKarlstad空港(スウェーデン)
に欧州初のバイオジェット燃料専用タンクを設置した安定供給基地を建設した。同空港
では、2015年から全てのフライトにバイオジェット燃料が供給される予定である。
9. 後編まとめ
航空運送業界ではCNG2020(炭素中立成長)を実現するため、燃費効率の高い機体
への更新、ジェットエンジンの改良、航空管制技術の高度化による効率的運航による燃
料効率改善に取組んでいる。また、合わせて温室効果ガス(GHG)削減にも積極的に
取組んでおり、削減効果の大きいバイオ燃料の商業使用拡大を進めている。
石油系の従来型ジェット燃料から代替バイオジェット燃料に切り替えるには、安定供
給可能でかつ価格競争力がある燃料の製造が必要となっている。この代替ジェット燃料
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原料は、持続的に入手可能、非食用、かつ安価な天然油やバイオマスの確保が経済性に
大きな影響を及ぼす。この為、世界各地で原料確保の検討が継続しており、価格面でも
生産者と航空業界の双方が満足できる状況を達成できる可能性は高い。
バイオジェット燃料の製造は、欧米を中心に大量供給への製造設備の新設および改良
の取組みが進んでいる。しかしながら、グローバルでは供給能力は未だ十分とはいえず、
世界各地の空港での供給体制の整備に時間が必要と思われる。
Boeing社は、2016年までに持続可能ジェット燃料を世界のジェット燃料需要の1%(6
億米ガロン、約230万kℓ )を確保する目標を立てている。DOEの発表している実績数
字と比較すると少なめな需要予測ではあるが、代替燃料確保の当面の目標と言える。
対策が先行している欧米の取組みのように、国家機関の連携による生産者への手厚い
サポートがあれば、今後 新規参入企業も増え開発も加速すると考えられる。また、欧
米に比べて遅れている日本も、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでの使用
開始に向け体制整備が急がれている。欧米も含め、バイオジェット燃料に対する、これ
からの取組みに対し注視が必要である。
≪出典および参考資料≫
http://www.iata.org/Pages/default.aspx
http://www.icao.int/Pages/default.aspx
http://www.astm.org/
http://www.united.com/web/ja-JP/content/company/globalcitizenship/environment/alternative-fuels.as
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本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、
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次回のJPECレポート(2015年度 第11回)は「赤道以南のアフリカ主要国の石油と天然
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