カンボジアのエネルギー事情と離陸前の石油産業

JPEC レポート
2015 年度
第 29 回
平成 28 年 2 月 29 日
カンボジアのエネルギー事情と離陸前の石油産業
2015 年 8 月 カンボジア王国(以下カンボジア 2 1 カンボジア経済の発展
2
と略)は、東南アジア諸国連合(ASEAN)経済
2 エネルギー需給
3
共同体発足(AEC、2015 年 12 月末)を前に、今
2-1 1 次エネルギー消費
3
後 10 年の産業政策の方向性を定めた産業開発政
2-2 最終エネルギー消費
3
策(Cambodia Industrial Development Policy
3 エネルギー資源
5
2015-2025)を発表した。
3-1 石油・天然ガス資源
5
3-2 石炭資源
6
カンボジアでの長期戦乱が終結して約 25 年が
3-3 水力資源
6
経過し、同国では経済発展の新たな歴史の始まり
3-4 バイオ資源
6
を宣言したものである。同国は、この政策により
4 石油開発
6
後発開発途上国から中所得国(GDP 3,000~1 万
4-1 海洋鉱区
7
US ドル)への飛躍を目指している。
4-2 陸上鉱区
8
4-3 タイとの共同開発鉱区
8
カンボジアに隣接するタイおよびベトナムでは、 5 製油所建設計画
9
かなりの量の石油および天然ガスが商業生産され
5-1 Kampong Son 製油所建設計画 9
ている。一方 同国では、現在に至るも両エネルギ
5-2 その他建設計画
10
ー資源の商業生産は皆無である。
6 バイオエタノール
10
7 まとめ
11
しかしながら、日本企業も参画する海洋鉱区に
おいて商業規模の石油資源が発見されており、開発に向けた準備が現在進められている。
こうした海洋鉱区の探査に続いて、
陸上鉱区でも本格的な探査が開始されている。
さらに、
長期にわたって凍結されている、タイとの領海未確定エリア(OCA:Overlapping Claims
Area)の探査も両国間で交渉再開に向けた動きも出てきている。
またカンボジアでは、かつて小規模な製油所があったが先の戦乱で破壊されて久しく、
同国は石油製品需要の全てを近隣諸国からの輸入に依存している。同国では、こうした状
況を改善するため、中国の協力を得て製油所の建設を計画している。
カンボジア政府は、これら石油産業の本格的な離陸を前に、国営石油会社の設立を検討
するとともに、石油法の草案作成を急いでいる。日本では、世界文化遺産である「アンコ
ールワット」で有名な同国であるが、本稿では初の油田開発と製油所建設に向かう同国の
エネルギー需給と開発計画を紹介する。
1
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1 カンボジア経済の発展
カンボジアの国土面積は、
日本の 2 分の 1 弱である。
同国の人口(約 1,500 万人)は、ASEAN 10 ヶ国の中
では第 7 位と少ないが、戦乱終結から 2 倍以上に急増
している。また、長期内戦の影響により、30 代以上の
人口が極端に少なく国民の平均年齢 24 歳という圧倒
的に若い構成になっている。同国の前述した人口構成
は、今後の労働人口の大幅な増加および市場の拡大に
つながると期待されている(図 1 参照)
。
図 1 カンボジアの人口構成(2016 年)
(出所:国連)
1992 年 国際連合カンボジア暫定統治機構(UNTAC)による統治開始を経て、1993 年
の議会選挙実施で、Ranariddh 第一首相(フンシンペック党)と Hun Sen 第二首相(人
民党)
の連立政権が 23 年ぶりに統一政権として誕生した。
1998 年 第 2 回選挙で Hun Sen
首班連立政権(第 1 次)が成立し、その後は 18 年に及ぶ長期政権が継続している。
1999 年 カンボジアは、ASEAN 最後(10 番目)の加盟国となった。また、2004 年 同
国は、ベトナムに先んじて 148 カ国目の世界貿易機構(WTO)加盟を果たしている。
2000 年代に入り、カンボジアは、農業、縫製業、製靴業および観光業などの発展および
輸出拡大、積極的な外資導入などにより 2004~2007 年まで年率 10%以上の経済成長を達
成している。
2009 年の世界同時不況により成長率は 0.1%に落ちたが、
翌年は再び年率 6%
に回復し、2011 年からは 7%を超える高成長の波に乗っている(図 2 参照)
。また、同国
では、市場経済の基盤整備の一環として、経済財務省と韓国証券取引所の合弁でカンボジ
ア証券取引所(CSX)が設立され、2012 年 4 月より取引を開始している。
(経済成長率:%)
図 2 カンボジアの国内総生産(GDP)と経済成長率の推移
(出所:IMF)
図 1.カンボジアの国内総生産(GDP)と成長率の推移
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カンボジアの第 2 次産業の GDP に占める比率は 24%と小さく、
縫製業が製造業の 60%
以上を占めている。同国では、労働集約型産業が大半であり、企業規模も小さいなど構造
が脆弱であると指摘されている。このため、2015 年 8 月 カンボジア政府は「産業開発政
策 2015-2025」において、同国の産業を労働集約型から技術駆動型に転換させていく計画
を発表している。この計画では、GDP に占める第 2 次産業の比率を 24%(2013 年)⇒
30%(~2025 年)に、輸出に占める縫製品以外の製品比率を 1%(2013 年)⇒15%(~
2025 年)に引き上げを目指している。
具体的には、投資環境整備、経済特区開発による投資拡大、中小企業育成による近代化
と拡大および輸出拡大などを進める方針である。特に、投資拡大を促進するため、2018
年までの優先政策として、電気料金の引下げおよび電化地域の拡大、南部経済回廊の交通・
物流インフラ整備、多目的経済特区の開発、生産効率向上および労働環境改善など多くの
目標を掲げている。
2 エネルギー需給
2-1 1 次エネルギー消費
カンボジアの1 次エネルギー消費は、
1995 年以降 年率平均3.3%程度で増加している。
同国では、現状 石油の国内生産は開始されておらず、フランス企業がかつて建設した小規
模な製油所も内戦で破壊され、石油製品需要の全量を輸入に依存している。このため、現
在でも 1 次エネルギー消費の 70%近くは、バイオマスエネルギー(薪、木炭、稲わら、も
み殻等)および廃棄物が使用されている。バイオマスに次いで使用されてきたのが石油で
あり、同国 1 次エネルギーの 30%程度に拡大している。
今後 20 年間で、カンボジアの 1
次エネルギーは、年率 3.7%程度
の増加をするとされており、2035
年には 13.4Mtoe に達すると予測
されている。なお同国では、石油
に続いて石炭が発電用燃料として
急速に拡大し、また水力発電も
徐々に比率を上げてくると予測さ
れている(図 3 参照)
。
図 3 カンボジアの 1 次エネルギー消費の推移と予測
(出所:Lieng Vuthy , Ministry of Mines and Energy)
2-2 最終エネルギー消費
カンボジアは、1995 年以降 最終エネルギー消費(産業部門、民生部門、運輸部門など
の各部門で実際に消費されたエネルギー消費を指す)が年率平均 3.1%の増加を示してい
る。今後も同 3.5%程度の増加が見込まれており、2035 年には 11.0Mtoe に達する見込み
である。
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最も高い成長率を示すのは、輸送部門であり年率平均 5.3%になる。なお、産業用は 3.9%、
その他エネルギー用が 4.0%と予測されている(図 4 参照)
。
カンボジアでは、各地で発電所の建設が急ピッチで進められており、2035 年までに電力
消費量は年率 10.6%の上昇を示すと予測されている。これにより電力消費量は、2035 年
には 2.6Mtoe に急拡大すると見込まれている。
カンボジアの石油製品消費は、年率 5.3%で伸び 2035 年には 4.8Mtoe になると予測さ
れている。このように電力および石油製品がエネルギー需要拡大の大半を占めており、一
方 バイオマスの伸びは僅かである(図 5 参照)
。
図 4 カンボジアの分野別エネルギー消費推移と予測
(出所:Lieng Vuthy , Ministry of Mines and Energy)
図 5 カンボジアの燃料別エネルギー消費推移と予測
(出所:Lieng Vuthy , Ministry of Mines and Energy)
カンボジアの石油製品輸入額は、全輸入額の 9%を占めており、後発開発途上国である
同国にとって大きな経済的負担になっている。
なお、
輸入石油製品の販売事業は、
Chevron、
Total、PTT(タイ)
、Sokimex(同国)および Tela(同国)が行っている。同国の石油製
品需要は、経済成長に伴い今後も年率約 5%で拡大していくものとみられており、石油製
品の国産化が急務の課題となっている(図 6 参照)
。
図 6 カンボジアの石油製品需要推移(出所:EIA)
(EIA データより作成)
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1995 年以降 カンボジアの発電量は、年率平均 9.4%の高い伸びを示している。同国で
は、当初は全発電量を石油火力発電(主にディーゼルエンジンを利用した発電)で賄われ
ていた。2002 年 同国初の水力発電所が運転を開始し、さらに 2009 年には石炭火力発電
も加わった。なお、前述したように発電で使用する石油製品は全量輸入品であるため、同
国の電気料金は近隣諸国に比べ高くなっている。
2012 年の総発電量1.43TWhのう
ち、水力発電が約 36%、石炭火力発
電が約 3%となっている。同国の電
力需要は、4.0TWh 以上であり、ベ
トナムから約1.7TWhおよびタイか
ら約0.6TWhを電力輸入し不足分を
賄っている(図 7 参照)
。しかしな
がら、慢性的な電力不足で停電が頻
発しており、
2016 年よりラオスから
も輸入する計画である
図 7 カンボジアの燃料別発電量の推移と予測
(出所:General Department of Customs and Excise)
2035 年までにカンボジアの発電量は、年率 14.7%の増加率を示すと予想されている。
水力発電と石炭火力発電の増加に伴い、発電コストの高い石油火力発電は徐々に減少して
いくとみられている。
カンボジア政府は、国内電力需要の急増に対処するため、2020 年以降 同国で初の原子
力発電所の整備を目指して検討を開始していた。しかしながら、福島第1原子力発電所の
事故(2011 年)を受け、当面は同発電所建設計画を凍結し、水力発電および石炭火力発電
を両軸に電源開発を進める方針に変更をしている。
3 エネルギー資源
カンボジアには、石油、天然ガス、石炭などの炭化水素系エネルギー資源があり、また
水力やバイオなど再生可能エネルギー資源も豊富である。
3-1 石油・天然ガス資源
カンボジアでは、1960 年代にポーランドの地質調査で石油の埋蔵が確認された。その後
の複数の探査を経て、2004 年 同国沖の海洋鉱区で石油資源が発見された。同鉱区の埋蔵
量は、原油が約 37 億 bbl、天然ガスが 3~5 兆 cf と見込まれている。これが同国初の商業
規模の石油資源発見である。しかしながら、これまでの油田探査は限定的なもので、同国
の石油・ガス資源の埋蔵量について確定報告はない。
また世界銀行によると、カンボジア沖海底には少なくとも約 20 億 bbl の石油が埋蔵さ
れており、詳細な探査が進めば埋蔵量はさらに増加する可能性があると報告している。こ
のほか、タイとの領有権未解決海域(OCA)にある天然ガス埋蔵量は 10 兆 cf 近くに達す
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ると推定されており、コンデンセートも約 500 億 bbl 程度はあると推測されている。
3-2 石炭資源
カンボジアの石炭資源に関するデータはなく、戦乱による多くの地雷・不発弾の処理問
題があったため調査もあまり進んでいない。なお同国では、Phum Talat(Stung Treng
州)で埋蔵が確認されているほか、Anlong Veaeng(Oddar Meanchey 州)では小規模
な生産が行われている。
3-3 水力資源
Hydropower & Damsによると、カンボジアは18.1万km2の国土に年間1,300~1,500mm
の降水量がある。同国の包蔵水力は年間87.6TWhであり、うち34.4TWh が電源開発可能と
されている。電力供給が不安定(停電が多発)なことおよび電力料金が高いことが、経済発
展の障害として大きな問題となっている。同国政府は、今後 水力発電を中軸に電力開発を
進める方針である。
2002年 カンボジア初の水力発電所が運転を開始して以降、中国企業を中心に水力発電プ
ロジェクトが進められてきた。また韓国やロシアも参入してきており、日本も水力開発や送
電網整備計画や省エネルギー事業などに協力している。
3-4 バイオ資源
カンボジアは、
熱帯モンスーン気候帯に属しており、
バイオマス資源は豊富に産出する。
過去から同国では、薪、木炭、稲わらといったバイオ資源が民生用エネルギーとして使用
されており、精米工場からのもみ殻、カシューナッツ殻、バガス(サトウキビ搾汁後の残
渣)などの植物廃棄物や都市ゴミも燃料として利用されている。このうち木質バイオマス
が全体の 90%以上を占めている。
またカンボジアでは、
「タピオカでん粉」の原料とし
ての需要が増えているキャッサバの生産も多く、バイ
オエタノールの供給余力も高くなっている。同国の農
地面積は、約 556 万 ha と国土面積の 30%以上を占め
ており、作付面積約 354 万 ha のうちキャッサバの作
付面積は約 37 万 ha、生産量は 800 万トン以上あると
されている(写真参照)。
(写真:キャッサバのイメージ)
4 石油開発
カンボジアの石油・ガス資源探査は、長期の戦乱で 1990 年代に入るまでほとんど実施さ
れていなかった。本格的な探査は、1991 年に「Petroleum Regulations 1991」に基づい
て入札を実施して以降のことである。しかしながら、この入札各鉱区では、成果を挙げる
ことができず開発会社は撤退した。
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1998 年 石油産業を育成すべくカンボジア石油公社(CNPA:Cambodian National
Petroleum Authority、現 カンボジア国家石油庁)が創設され、Chevron および三井石油
開発が 2004 年に油田の発見に成功した。この油田発見が同国初の商業規模の石油資源発
見となった。
4-1 海洋鉱区
A鉱区は、面積4,709 km2で、
Sihanoukville市から約150kmの
海洋に位置し、カンボジア・タイ
領有権未解決海域(OCA)の東
側に接している。
Sihanoukville
2004年 Chevronは試掘を実施
し、300~400BPDの産出を確認
した。2010年 カンボジア鉱業エ
ネルギー省は、商業規模の油田で
あることを宣言した。同新油田は、
Apsara油田と名付けられ、埋蔵
量は4~5億bblに達すると見込ま
れている(図8参照)。
図 8 カンボジアの油田・ガス田開発 (出所:MME)
Apsara油田に続いて近隣海域でも探査が続けられており、今後 追加埋蔵量が発見される
可能性もある。2002年に契約した当時の権益は、Chevronが70%、三井石油開発が30%で
あったが、その後、Chevronが資本参加しているGS Caltex(韓国)がChevronから15%、
KrisEnergy(インドネシア)が25%の権益譲渡を受けて参加した。2014年8月 KrisEnergy
は、Chevronから残る権益30%も買収した。
現在 KrisEnergyは、Apsara油田の開発・生産に向けて政府認可を申請している。また、
Apsara油田は、天然ガスも産出するがユーザーの確保とパイプライン敷設が必要で、当初
は油田に再圧入により戻されるとみられる。
B鉱区は、A鉱区に隣接しており2005年 PTTEP(タイ)が契約し、Resourceful Petroleum
(マレーシア)と共同で探査を実施した。2008年から探査井を掘削して、石油および天然ガ
ス資源の埋蔵を確認しているが、商業規模の判断になる程の埋蔵量には達していない。F鉱
区(面積:7,000km2)は、2007年 中国海洋石油総公司(CNOOC)が取得し、2011年末
に試掘を開始した。2013年 BおよびF鉱区は、Resourceful Petroleumに譲渡された。
このほか、C鉱区を香港保利達石油公司(Polytec Petroleum)が、D鉱区を神州石油科技
公司(China Petrotech)と珠海振戎公司(Zhuhai Zhenrong Corp)が、E鉱区をMedco
Energi/Kuwait Energy/JHL Petroleumが契約したが、いずれも成果は出なかった。
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4-2 陸上鉱区
カンボジアの陸上鉱区は、長期の戦乱で多くの地雷・不発弾が残され、海洋鉱区に比べ探
査はあまり活発ではない。
PetroVietnam(ベトナム国営石油会社)は、2016年内にXV鉱区で探査井を掘削する計画
である。また、XII鉱区をMedcoEnergi(インドネシア)が、XVI鉱区を石油天然ガス・金属
鉱物資源機構(JOGMEC)が契約した程度での動きである。なお、3鉱区ともトンレサップ
湖の周辺に位置している。
4-3 タイとの共同開発鉱区
タイ側の領海では、大規模なエネルギー資源開発プロジェクトが実施されている。また、
ベトナム側およびマレーシア側でも大型ガス田が発見されている。
カンボジアとタイの領海未
確定海域(OCA)には、天然
ガスが12~14兆cf、コンデンセ
ートも500億bbl程度はあると
推測されている。両国の共同開
発によってOCAにおいて天然
ガスが生産されれば、すでにタ
イ側海域にはパイプラインが
敷設されていることから輸送
には大きな投資を必要としな
い。
この海域からの商業生産が
開始されれば、ミャンマーから
天然ガスを輸入しているタイ
にとって、安価なエネルギー資
源を得ることが可能になると
いわれる(図9参照)。
図 9 カンボジアとタイでの石油開発状況 (出所:PTTEP)
カンボジアは、1997年に外国企業グループとの間でConditional Petroleum Agreement
(条件付き契約)に調印した頃からタイへの働きかけを強め、2000年にはOCA共同開発に
向けた新提案を作成した。同新提案には、採掘規約、生産分与契約のモデル、課税規約およ
び開発規約などが盛り込まれていたという。
これまでに OCA 海域では、外国企業がタイおよびカンボジアとそれぞれ探査契約を交
わしている。タイ側では、第 5 および第 6 鉱区は BP と出光興産が、第 7~9 鉱区は BG
と Chevron が、第 10 および第 11 鉱区は Chevron、三井石油開発、PTTEP が、第 12 お
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よび第 13 鉱区が Unocal と三井石油開発が契約した。このうち 2002 年 BP は権益を
Unocal に売却して撤退した。
カンボジア側では、1995 年 第 1~4 鉱区の入札が発表された。第 1 および第 2 鉱区は
Conoco と出光興産が、第 3 鉱区は Enterprise Oil と BHP が、第 4 鉱区は国際石油開発
と BHP が契約に調印した。
2011 年 タイの選挙では、Yingluck 氏率いる「タイ貢献党」が過半数を獲得し、両国間
の OCA 共同開発交渉に前進の兆しが出てきた。同年 Yingluck 首相の命により外相がカ
ンボジアを訪問し、Hun Sen 首相と会談した。この会談により、OCA 共同開発に向けた
協議を再開することに原則合意した。
その後、2015 年 12 月には、Hun Sen 首相は 12 年ぶりにタイを訪問し、Prayuth 首相
(Yingluck 前首相の後任)らと会談し、2国間貿易の拡大や両国の首都を結ぶ鉄道の運行
開始など両国間の協力強化に合意しており、OCA 共同開発に関する話し合い再開が期待
されている。
5 製油所建設計画
カンボジアでは、1969 年に ELF(現 Total)が 1 万 BPD の製油所を建設したが、3 年
後に戦乱により破壊された。同国は、国内で必要な石油製品をシンガポール、タイおよび
ベトナムからの輸入に依存している。
2003 年 東洋エンジニアリング(TOYO)が 5 万 BPD の製油所建設に関する FS を実
施した。2011 年 カンボジア国家石油庁(CNPA)は、カンボジア石油化学会社(CPC)
との間で FS に向けたフレームワーク合意文書に調印し、製油所建設の調査を続けてきた。
5-1 Kampong Som 製油所建設計画
2012 年 CPC は、Sinomach China Perfect Machinery Industry(中国)から 23 億 US
ドルの融資を受け新製油所運営の合弁会社を設立した。
さらに同年 CPC と中国機械工業集団公司は、製油所建設に関する契約に調印した。新
製油所は、原油処理能力は 500 万トン/年であり、Apsara 油田で生産された国内原油およ
び輸入原油を使用する予定である。同新製油所の主な設備としては、下記があげられる。
・常圧蒸留設備:500 万トン/年(10 万 BPD)
・減圧蒸留設備:500 万トン/年
・流動床水素化分解設備:120 万トン/年(米 KBR の Veba Combi Cracker 技術)
・接触改質設備:240 万トン/年
・軽油水素化精製設備:100 万トン/年
カンボジアは、この製油所建設で Euro-5 基準のガソリンおよび軽油を生産する計画で
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ある。同国は、国内石油製品需要を賄うとともに、Euro-5 基準の石油製品であるため余剰
分は ASEAN の周辺国に輸出する計画である。長期的には原油処理能力を 1,000 万トン/
年にするとともにエチレンプラント(100 万トン/年)を建設し、石油化学製品、合成ゴム、
化学繊維、化学肥料などの化学プラント建設も視野に入れている。
2013 年 Hun Sen 首相の訪中により、中国輸出入銀行から 16.7 億 US ドルの融資を受
けることが決定された。その後、パートナーとして中国石油化工集団公司(Sinopec)が
参加することも検討されたもようである。
しかしながら、現時点で製油所建設は、目立った進展が確認できていない。CPC による
と、基本計画の策定は完了したが、プラントの基礎工事が部分的に行われただけでインフ
ラの詳細計画が遅れているという。特に、大型タンカーが入港可能な港湾整備、水害対策
設備、大型車両が通行可能な道路などの詳細計画が不足しており、今はこれらの計画作成
に取り組んでいるとのことである。
なお、
新製油所の操業開始は、
2018 年の予定だという。
5-2 その他建設計画
カンボジアは、イランとの間で 2011 年に石油事業に関する協力覚書に調印している。
同覚書では、新製油所でイラン原油を処理して、中国および韓国へ輸出するという計画が
ある。その後 この覚書は、対イラン経済制裁で進展はみられなかった。
2015 年 9 月、カンボジア政府(外務省)はイランとの石油・ガス分野の協力協定を早期に
締結したいと述べている。同経済制裁解除(2016 年 1 月)で何らかの動きが起きる可能
性が出てきている。
また、2012 年 PTT(タイ)は、ASEAN 地域での事業拡大に向けて、域内の国営石油
会社と協力して石油事業を推進する計画を打ち出している。同社は、マレーシア、インド
ネシア、ベトナム、ミャンマーと並んで、カンボジアでの製油所・石油化学プロジェクト
について FS を実施すると発表している。
石油備蓄に関しては、2015年11月 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、カ
ンボジア鉱業エネルギー省(MME)と「石油備蓄に係る法令ニーズ調査の実施」に関する
協力覚書を締結した。同機構は、MMEと協力し同国石油備蓄マスタープラン策定に必要な
データや政策オプションを提言した。2015年度の二国間協力として、日本の石油備蓄に係る
法制度の知見の共有により、同国の石油備蓄体制整備における課題である法制度の構築に向
けた協力を行う。
6 バイオエタノール
2012 年 出光興産は、カンボジア農林水産省およびカンボジア地雷対策センターとの覚
書に調印した。同社は、東南アジア地域においてバイオ燃料事業への取り組みを進めてお
り、その一環として同国でキャッサバを原料とするバイオエタノール生産の FS を実施し、
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2020 年代初頭に年産 20 万 kℓのエタノール製造を目指している。
キャッサバ生産は、200万トン(2013年)から翌年約400万トン(9.7万haのキャッサバ農
園に相当)に倍増した。この時点で出光興産は、100ha分を契約しているが、1.5万haのキ
ャッサバ農園と契約できれば事業化のメドがつくという。第2段階の調査では、工場の建設
用地や建設業務を含めた事業性評価を実施する。同工場が完成すれば、現在、タイへ輸出を
行なっているカンボジアの農家は、タイのキャッサバ市場に影響を受けることなく、安定し
た収入を得ることができることになる。
7 まとめ
現在、カンボジアの石油産業は離陸前の状況が続いている。油田探鉱事業に関しては、原
油価格低迷が大きな影響を与えており、Apsara油田の発見に続く成果はない。同油田につ
いても、政府の開発承認はまだ出ていない。これまで同国の石油産業は、石油製品の輸入と
国内販売のみで総合的なノウハウの蓄積がない。同国では、技術者を含む人材の育成、法制
面の整備および組織体制の構築などが課題となっている。
こうした課題に対処するため、カンボジア政府は国営石油会社の創設と石油法制定を進め
ている。石油法の草案は、2015年末までに作成するとしていた。しかしながら、カンボジア
鉱業エネルギー省は、2015年12月にその作業の遅れを認めている。同省は、草案作成作業
の80%は完了したが、法案に盛り込む国営石油会社設立と石油生産による収益の管理につい
て知見が乏しく時間をかけているという。
カンボジアの石油産業には、資金面で優位性のある中国、共同開発海域を抱えるとともに
ASEAN域内への進出に積極的なタイ、石油・ガス開発と次期製油所建設が進行中のベトナム
などがアプローチしており、石油法制定や国営石油会社設立が引き金となって、一気に発展
する可能性がある。
日本は、カンボジアの復興支援に続いて車両、機械、食品、金融など多岐にわたる企業が
進出している。またエネルギー分野でも、探査、貯蔵、輸送、バイオ燃料、発電などの面で
多くの協力可能性があるとみられる。また、海洋油田の探鉱開発が本格化すれば、プラット
フォームなど海洋構造物や圧送設備、タンク、パイプラインなどのエンジニアリングサービ
スやハードの供給などで事業機会が出てくる可能性がある。
近年アジア域内では、中国が石油製品の余剰分を輸出に振り向け始めている。また、中
国市場への石油製品輸出が困難になった韓国石油企業も、東南アジアおよび豪州をターゲ
ットに輸出攻勢をかけている。一方、大量の石油製品を輸入していたインドネシアも国内
需要の充足を目指して、大規模な石油精製能力増強計画を打ち出している。さらにマレー
シアでも新規製油所建設計画があり、石油製品需要の少ないブルネイでも本格的な製油所
建設が計画されている。以上のようにアジア・オセアニア地区では、石油製品需給バラン
スが大きく変化しようとしている。
11
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このため、カンボジアの製油所建設計画が、どのようなテンポで進むことになるかは、
周辺国に影響を与えることが予測される。日本としても、今後の同国を含むアジア・オセ
アニア地区の石油関係動向に注視が必要である。
<参考資料>
・U.S. Energy Information Administration(EIA) http://www.eia.gov/
・Cambodia Energy Situation
https://energypedia.info/wiki/Cambodia_Energy_Situation#Oil_and_Gas_.5B5.5D
・Energy Outlook and Energy Saving Potential in East Asia. ERIA Research Project Report
・東アジアの石油産業と石油化学工業 各年版(東西貿易通信社)
・East & West Report 各号(東西貿易通信社)
・Partnership with Petrovietnam
本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分
析したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]
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次回の JPEC レポート(2015 年度 第 30 回)は、
「米国エネルギー関連における環境規
制動向」を予定しています。
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