JPEC レポート JJP PE EC C レ レポ ポー ートト 第 30 回 2014 年度 平成 27 年 3 月 10 日 藻類によるバイオ燃料製造の最新状況 地球温暖化対策や将来のエネルギー源確 保のために、世界的に次世代型の再生可能 燃料であるバイオマスや藻類を原料とした バイオ燃料の研究開発が進んでいる。次世 代型の再生可能燃料の中でも将来の原料と 位置付けられる一つが藻類油であり、米国 を先頭にして量産化のための技術開発や商 業規模での量産システムの確立へ複数のプ ロジェクトの挑戦が進んでいる。 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 藻類油量産化への取り組み状況 ········ 1 Sapphire Energy, Inc. ························· 2 Algenol Biofuels, Inc.························· 4 Solazyme, Inc. ································· 5 Neste Oil········································ 6 Cellana, Inc. ···································· 8 Renewable Algal Energy, LLC (RAE) ····· 9 その他の会社······························· 10 今回報告のまとめ························· 12 今回の報告では、今まであまり取り上げていない米国以外の企業も含めて藻類油の生産 事業から藻類原油の使用者までに焦点を当て、 主要なプロジェクトの最新状況を報告する。 藻類油量産化への取り組み状況 藻類を原料とするプロジェクトは、米国エネルギー省(DOE)の補助事業としてはデモ 段階 1 件(Sapphire Energy) 、パイロット段階 2 件(Algenol Biofuels、Solazyme)の合計 3 件が 2009 年末に認定され、技術確立に向けての取り組みが行なわれてきた。しかし、DOE の補助事業以外にも複数のプロジェクトが米国内に存在し、世界各国でも多くのプロジェ クトが地道な取り組みを続けている。 1. DOE の補助プロジェクトも既に補助事業期間は過ぎ、事業内容は事業継続のために経済 性を考えた取り組みに変化してきている。補助事業以外のプロジェクトは、幅広く出資を 募りながら事業を継続している。いずれのプロジェクトも事業継続の資金確保が大きな課 題になっている。 生成油分含量の高い藍藻類を主に使用しているプロジェクトが多いが、単位面積当たり の油分収率の高い株種の選定、培養液の塩分濃度や温度などの生育条件、CO2 の供給方法、 培養した藻類の収穫方法やバイオマスと油分との分離方法などが微妙に異なり、それぞれ に特徴のあるプロセスを構成している。各プロジェクトの開始当初の目標はバイオ燃料の 量産であったが、最近は経営的な観点からより利益率が高い栄養補助食品などを目的製品 に加えるプロジェクトが多くなってきている。表に主な藻類バイオ燃料プロジェクト概要 を示す。 1 JPEC レポート 表 主な藻類バイオ燃料プロジェクト概要 企業名 事業場所 Sapphire Energy, Inc. ニューメキシコ州 Columbus Algenol Biofuels, Inc. フロリダ州 Fort Myers Solazyme, Inc. イリノイ州 Peoria アイオワ州 Clinton/Galva ブラジル Moema Neste Oil フィンランド共和国 Porvoo 市 採用技術 製造規模 特殊な藻類を用いて光 合成で藻類油を製造 2015 年計画は商業化デ モスケールで藻類原油 100 BPD の製造 特殊酵素で変性した藍 藻を用い光合成でエタ ノールを優先的に生成 再生可能植物由来の糖 類を原料とする変性 Algae/謙気性発酵 微生物によるリグノセ ルロース系糖類から油 脂製造、藻類油の水素 化改質 エタノール年産 1 万ガ ロン、バイオガソリン 等 藻類油年産 12.2 万ト ン。燃料油、食品添加 物などを製造 Cellana, Inc. ハワイ州 Kailua-Kona 特異性を持つ藻類の光 合成培養による藻類油 の製造 ω-3 EPA・DHA 油、動 物飼料、バイオ燃料(原 料)を年産数トン規模 Renewable Algal Energy, LLC (RAE) アリゾナ州 Tucson 遺伝子操作を行わない 天然の藻類株種による 藻類油の製造 2 エーカーのデモサイ ト、100 エーカー、年産 2,200 乾燥トンの後処理 可能 微生物プロセスは研究 開発段階、多様な原料 での再生可能燃料製造 2. Sapphire Energy, Inc. Website: http://www.sapphireenergy.com/ 本社:カリフォルニア州サンディエゴ 事業場所:ニューメキシコ州 Columbus 研究開発拠点:ニューメキシコ州 Las Cruces 採用技術:特殊な藻類を用いて光合成で藻類油を製造 製造規模:2015 年計画は商業化デモスケールで藻類原油 100BPD の製造 【事業概要】 Sapphire 社は 2007 年創業。DOE の補助事業(補助金枠 5,000 万ドル、2009 年 12 月)で デモ段階プロジェクトに取り組み、現在は商業化に向けて規模の拡大と製品用途の拡大に 取り組んでいる。米国農務省(USDA)から債務保証枠(5,450 万ドル、2009 年 12 月)を 得ていたが、2013 年 7 月に完済している。 本プロジェクトは、補助事業としては耕作非適地の培養池で藻類を育て、藻類原油を精 製してガソリン、ジェット燃料および軽油を製造し、将来の商業規模バイオリファイナリ ーの経済性検討を行うことが目的となっていた。第一フェーズ(約 20 エーカー:約 8.1ha) 2 JPEC レポート の建設は 2011 年 6 月から開始し、2012 年 5 月から連続試運転を開始、2012 年 8 月下旬に 本格運転を開始している。 2015 年には商業規模生産施設の操業開始、2018 年には 5,000BPD、2025 年までに 6.5 万 BPD の操業を目標としており、最終的な事業計画では培養池の規模 10 エーカー(約 4ha) 毎に仕切られた 100 エーカーを 1 区画とし、3 区画構成としている。 米国政府の法的支援もあり、Sapphire 社では DOE および USDA と次世代型の藻類バイ オリファイナリーの建設に向けて協同して取り組んでおり、DOE の共同ゲノム研究所(カ リフォルニア州) 、カリフォルニア大学サンディエゴ校、The Scripps Research Institute(カリ フォルニア州) 、タルサ大学(オクラホマ州)などの研究者との共同作業も実施している。 資金的には、The Wellcome Trust(英国本拠地の公益信託団体) 、ARCH Venture Partners(米 国のベンチャーキャピタル) 、ロックフェラー家の設立した Venrock (Venture+Rockefeller) 、 Bill GatesのCascade Investment や多国籍バイオ化学メーカーMonsant 社などの支援を受けて いる。ニューメキシコ州 Las Cruces に 22 エーカー(8.9ha)の R&D 施設を保有している。 Sapphire 社は、 栽培や工学的な研究面で国際化学メーカーの Linde Group (本社:ドイツ) 、 日本の DIC 社の米国子会社である Earthrise Nutritionals(本社:カリフォルニア州) 、Monsanto 社(本社:ミズーリ州) 、the Institute for Systems Biology(ワシントン州の非営利の生物医学 研究組織)と協力している。また、ビジネス面では Tesoro Corporation(テキサス州本社の 独立系大手石油会社)の子会社の Tesoro Refining and Marketing(本社:テキサス州) 、石油 精製販売大手の Phillips 66(本社:テキサス州) 、Sinopec(中国石油化工集団、本社:北京 市)と業務契約などを締結している。 Sapphire 社は技術の商業化のためにω-3 脂肪酸製品を含む複数の製品マーケットを通じ て藻類油の製造検討を進めており、今後は信頼性の高い原料のニーズが高まっている人間 用の栄養補助食品や動物・水産養殖飼料への再生可能藻類ベースの技術適用も進めていく 計画である。 【技術概要】 種蒔きから油分抽出まで平均で約 14 日間要する連続プロセスであり、グリーン原油の GHG 削減率は石油製品に対して約 70%である。Sapphire 社のコア技術は、オープンポンド で含塩水を用いて特殊な藻類を栽培し、光合成により生成した油分を多く含む藻類の収穫 を行うことである。グリーン原油 1 ガロン当たりの CO2 吸収量は 13~14kg と報告されて いる。藻類油は不飽和脂肪酸を多く含んでおり、石油燃料に混合して精製や輸送も可能と 報告しており、既存の石油系輸送燃料と同じ設備が使用可能である。 グリーン原油の藻類からの抽出は、熱と圧力をかけケミカルも用いて行う。残留固形バ イオマスは、バイオリファイナリーのエネルギー源として嫌気性消化プロセスによりメタ ンガスの製造に用いられ、一部は栄養剤として栽培池に戻される。 3 JPEC レポート 3. Algenol Biofuels, Inc. Website:http://www.algenol.com/ 本社:フロリダ州 Fort Myers 事業場所:フロリダ州 Fort Myers 採用技術:特殊酵素で変性した藍藻を用い光合成でエタノールを優先的に生成 製造規模:エタノール年産 1 万ガロン(0.65BPD) 、バイオガソリン等 【事業概要】 Algenol 社は 2006 年創業。DOE の補助事業(補助金枠 2,500 万ドル、2010 年 1 月)とし てパイロット段階プロジェクトに取り組み、事業場所のある Lee County の支援も受けて、 現在は商業化に向けた取り組みを行っている。Algenol 社の米国内の研究施設は 2010 年 10 月までにフロリダ州 Fort Myers に集約され、屋外のプロセス開発用設備は 2011 年 2 月完 成、パイロット規模設備は 2013 年に完成している。 パイロット規模の統合化バイオリファイナリーの製造能力は、エタノール年産 1 万ガロ ン(0.65BPD)で、36 エーカー(約 14.6ha)の敷地で商業化モジュールに特殊樹脂フィル ム製のフレキシブルパネルのバック状の光バイオリアクターを組んで設置し、燃料グレー ドの無水エタノールを製造する。光バイオリアクターは、小容量のものが 4,000 個、容量 を 4 倍に拡大したものが 7,400 個設置されている。2015 年 1 月には、Algenol 社の製品燃料 油が EPA により Advanced biofuel として承認されている。 最初の商業規模のバイオリファイナリーをフロリダ州に 2015 年から建設する計画(4 期 に分けて建設を行い 13 億ドル以上の投資)を 2014 年に発表したが、EPA との協議などに 時間を要しており 2015 年中に正式な発表を行う予定である。 Algenol 社は、海外展開にも積極的に取り組んでいる。2012 年にメキシコの BioFields S.A.P.I. de C.V. に技術ライセンスを実施するとともに、BioFields 社から 2014 年に 4,000 万 ドルおよび、 2015 年に2,500 万ドルの融資を受け入れている。 インドの Reliance Industries と は、インドの Jamnagar 製油所内にデモプラントを設置するなどの取り組みを行っている。 【技術概要】 光合成でエタノールを優先して生成する酵素を藍藻に結合させ、生成した過剰エタノー ルを細胞壁から培養液である海水中に溶解させて回収する。藻類の光合成で培養を行う 個々のバイオリアクターには、エタノールとバイオマス収集用の出口、CO2 と栄養分の補 給用の入口が設けられており、生成したエタノールは回収後にエタノール後処理装置に送 られ燃料規格を満足するように高純度化される。エタノール製造後の藻類は、乾燥後に有 機廃棄物処理に用いられる Hydrothermal liquefaction プロセスで処理されてグリーン原油 に変換される。 光バイオリアクターのシステム構成を縦型に変更することで、リアクター内の過熱防止 と酸素の除去が円滑に行われ、単位面積当りのエタノールおよびバイオガソリン、バイオ 4 JPEC レポート ジェット燃料、バイオディーゼルとなる藻類原油収量は当初目標の 1 エーカー(約 0.40ha) 当り年産 6,000 ガロン(350bbl/ha)を越えて現在は 8,000~9,000 ガロン(470~530bbl/ha) となっている。この結果、製造コストは 1 ガロン当り 1.30 ドル(34.3 セント/L)前後であ る。2013 年に記録したバッチ最高収量は、10,400 ガロン/エーカー(610bbl/ha)である。 グリーン原油の回収量は 1 エーカー当り 1,100~1,300 ガロン(65~76bbl/ha) 、各留分の収 量は概ね軽油 500 ガロン(29bbl/ha) 、ガソリン 380 ガロン(22bbl/ha) 、ジェット燃料 315 ガロン(18bbl/ha)と報告されている。この原油は次工程で水素化改質され、軽油、ガソリ ン、ジェット燃料になる 参考:http://www.psc.state.fl.us/utilities/electricgas/EPAcarbonrules/AlgenolBiofuels.pdf http://www.nrel.gov/docs/fy14osti/60552.pdf 4. Solazyme, Inc. Website:http://solazyme.com/ 本社:カリフォルニア州 South San Francisco 事業場所:イリノイ州 Peoria、アイオワ州 Clinton/Galva、ブラジル Moema 採用技術:再生可能植物由来の糖類を原料とする変性 Algae/謙気性発酵 製造規模:藻類油年産 12.2 万トン(2,440BPD) 。燃料油、食品添加物などを製造 【事業概要】 Solazyme 社は 2003 年創業で NASDAQ 上場、DOE の補助金をパイロット段階プロジェ クトとして 2009 年に 2,180 万ドル受けている。昨年第 3 四半期の収益の伸びが対前年比で 約 65%増と株式市場関係者の予想を大きく下回ったことなどから株価は大幅に低迷して いる。原油価格の下落により採算が厳しくなっている燃料油用途から高付加価値製品用途 へと生産の重点の切り替えを行うと発表している。しかし、この方針変更によりブラジル の合弁会社の稼働率が上がらない、2015 年の売上見込みが予想を大幅に下回る可能性があ るなどから、今後の経営の厳しさを取り上げる記事が多くみられる。 Solazyme 社は、製品の高付加価値用途へ幅広い展開を進めており、2011 年にはフランス のデンプン関連大手の Roquette Freres と合弁事業を立ち上げて栄養食品マーケットに参入 し、さらにスキンケア商品などに取り組んでいる。2013 年 2 月には三井物産との間で高付 加価値油脂製造の 4 年間の研究開発委託契約を締結し、Archer Daniels Midland(ADM、本 社:イリノイ州) 、Unilever(本社:オランダ) 、ENI(本社:イタリア)などとの取り組み も行っている。Solazyme 社は、パーソナルケア分野、工業化学分野、食品分野、燃料分野 の 4 分野で製品展開を図るとしている。 当初のパイロット段階プロジェクトはペンシルベニア州 Riverside で行われたが、2012 年夏に最初の商業スケールのバイオリファイナリーをイリノイ州 Peoria に設置し年産 2,000 トン(40BPD)で稼働、アイオワ州 Clinton にある ADM の工場内に年産 2 万トン (400BPD)の設備(最終的には年産 10 万トンの計画)を 2012 年末に完成し 2014 年初頭 5 JPEC レポート から製造開始、ブラジルの合弁会社の年産 10 万トン(2,000BPD)の設備は 2014 年 5 月か ら稼働している。Clinton 工場で製造した藻類油の後処理は、同じアイオワ州の Galva にあ る American Natural Products(本社:アイオワ州)の工場で行っている。 【技術概要】 Solazyme 社の技術は、原料として多彩な再生可能植物由来の糖類(スクロース、ブドウ 糖、セルロース誘導体など)を用い、ステンレス製培養容器内で特殊な微細藻類の株種を 用いて光合成を用いずに油分含量の高い藻類を生成することが特徴である。培養容器の容 積当りの油分生産量は非常に多く、経済的に光合成を用いるプロセスよりも優れていると している。 藻類により生成したトリグリセライドは植物油に性状が似ており、一日当りの生成油量 は培養槽の容積と同程度と報告されている。藻類から高収率で回収された油分はエステル 転移反応によりバイオディーゼル油へ、水素化処理により再生可能ディーゼル油やジェッ ト燃料となる。 【参考情報】 Solazyme 社は、世界第 2 位の砂糖商社である Bunge Limited(本社:ニューヨーク州)の 100%子会社である Bunge Global Innovation LLC と合弁会社 Solazyme Bunge Renewable Oil を設立し、Bunge 社のブラジル Moema にある砂糖工場に年産 10 万トンのバイオリファイ ナリーを建設し、計画より半年遅れで 2014 年 5 月から商業運転に入っている。製造ライン には 62.5m3 の発酵槽があり、1 年から 1 年半を掛けて計画能力まで製造量を上げていく計 画と発表していたが、最近の情報では生産量の見直し縮小により、フル生産は 2016 年から 2017 年にかけて達成される見込みである。 参考:http://www.forbes.com/sites/kenkam/2014/11/21/time-to-sell-solazyme/print/ http://www.biofuelsdigest.com/bdigest/2015/02/08/solazyme-biofuels-digests-2014-5-minute-guide-2 / 5. Neste Oil Website:http://www.nesteoil.com/ 本社:フィンランド共和国 Espoo 市 事業場所:フィンランド共和国 Porvoo 市 採用技術:微生物によるリグノセルロース系糖類から油脂製造、藻類油の水素化改質 製造規模:微生物プロセスは研究開発段階、多様な原料での再生可能燃料製造 【事業概要】 Neste Oil は、石油系燃料に混合する再生可能燃料の製造のために、アップグレード設備 として水素化改質を行う NEXBTL プロセスを開発して使用・展開している。再生可能燃 料用の原料の調達と価格安定のため、戦略的に再生可能原料種類の多様化に取り組んでい る。更に将来的な観点から、温室効果ガスの削減効果が高い藁や藻類から生成するリグノ セルロース系の糖類を酵母や微生物菌で処理して油脂や微生物生成油に変換する研究開発 6 JPEC レポート に取り組んでいる。 2012 年に 800 万ユーロを投資して、Porvoo の Technology Center 内に、廃棄物や残渣物を 原料とする微生物生成油(Microbial Oil)のパイロットプラントを設置している。Dong Energy(本社:デンマーク)との共同技術開発により、Dong Energy の Inbicon 技術をプロ セスの前半部分に用いて農業残渣原料などからセルロース系糖類を生成し、後段に Neste Oil の微生物生成油技術を用いて再生可能ディーゼルや再生可能航空燃料などの原料油を 製造する研究開発に取り組んできていた。 Neste Oil は 2014 年 10 月、微生物生成油プロセスを用いて再生可能ディーゼルを製造す る場合、 リグノセルロース系原料は現状では工業規模の原料としては経済的競争力が無く、 微生物生成油プロセスの商業規模での製造は機が熟していないと報告している。今後は、 農業や林業で出てくる廃物や残渣を原料とする研究に重点を移すと報告している。 藻類油に関しては、オランダとオーストラリアで量産化の共同開発に取り組んでおり、 自社でも海水を用いてフォトバイオリアクターやオープンポンドでの製造調査に取り組ん でいる。藻類油の最適な精製方法に注力して取り組んでおり、2016 年頃を想定して藻類油 の購入が可能になったら対応できるように準備している。藻類油生産者である Cellana(本 社:カリフォルニア州)と 2013 年 6 月に非排他的な長期供給契約(off-take agreement)を 既に締結済みであり、2014 年 6 月には藻類バイオマス生産者の米国の Renewable Algal Energy(RAE)とも藻類油の非排他的な長期供給契約を締結している。 【参考情報】 Neste Oil は、オーストラリアのクイーンズランド(QLD)州政府が支援する微細藻類か ら持続可能な燃料などを開発する国際的な研究協力プログラムに参加しており、このプロ グラム遂行のために Solar Biofuels Research Centre が Brisbane 市に設置されている。本プロ グラムには、QLD 州政府と Neste Oil のほかに米国の KBR(本社;テキサス州) 、ドイツの Siemens(本社;ドイツ) 、Cement Australia(本社;QLD 州)の企業と、地元の The University of Queensland、ドイツの University of Bielefeld、ドイツ最古の工業大学である Karlsruhe Institute of Technology の各大学が参加している。 参考:http://www.biofuelstp.eu/advancedbiofuels.htm http://www.solarbiofuels.org/sbrc/index.php 7 JPEC レポート 6. Cellana, Inc. Website: http://cellana.com/ 本社:カリフォルニア州サンディエゴ 事業場所:ハワイ州 Kailua-Kona 採用技術:特異性を持つ藻類の光合成培養による藻類油の製造 製造規模:ω-3 EPA・DHA 油、動物飼料、バイオ燃料(原料)を年産数トン規模 【事業概要】 Cellana は 2004 年に HR Biopetroleum として創業。2007 年に Royal Dutch Shell(本社:オ ランダ)と HR BioPetroleum が合弁で Cellana LLC を立ち上げたが、2011 年 1 月に HR BioPetroleum の完全子会社に変更した半年後に HR BioPetroleum の社名を Cellana, Inc.に変 更した。 ハワイ州の Kona Demonstration Facility は 2009 年から操業を開始しており、 海洋微細藻類 を用いて光合成によりω-3EPA(エイコサペンタエン酸)および DHA(ドコサヘキサエン 酸) 、動物飼料およびバイオ燃料(原料)などを製造している。ハワイ州の Kona 事業所に は 6 エーカーの敷地に生産設備と研究設備があり、 今まで 20 トン以上の藻類を生産してい る。Cellana の生産システムは、投資コストの安いオープンポンドと高コストのフォトバイ オリアクターをシリーズで組合せ、他の菌株のコンタミ無しに多様な微細藻類の菌株を用 いて経済的に目的製品の連続生産が可能である。 技術開発には今までに 1 億ドル以上の投資を行っており、資金はエンジェル投資家、政 府の助成金(DOE、USDA、国防総省 DOD)と受託契約、戦略的パートナーや合弁事業に よる資金調達、技術ライセンスにより得ている。将来的には Cellana の量産技術の展開に より、世界で年産 10 万トン以上の藻類バイオマスの生産を行いたいとしている。 Cellana は 2013 年 6 月に Neste Oil と長期供給契約を締結しており、2014 年 6 月にはイス ラエルの Galil Algae Cooperative Agriculture Society Ltd.と水産養殖用として価値の高い藻類 製品の製造に関する提携契約に調印している。 【技術概要】 目的製品により、低コストで生産性も高い製造が出来るオープンポンドと、使用藻類以 外の藻類のコンタミを生じないパイプ状の閉鎖系光バイオリアクターを組合せ使用する生 産システムである。収穫した藻類は後処理装置で抽出分とバイオマスに分離され、抽出分 は藻類油、プロテイン/炭水化物に分留される。藻類油は栄養補助即品のω-3 脂肪酸類とバ イオ燃料に使用され、プロテイン類は水産養殖や家畜飼料として使用される。バイオマス は、高栄養価の家畜飼料や水産養殖に使用される。 使用する藻類は、ハワイ大学から提供される特異性を持つ天然の藻類株や、ハワイで収 集した操業条件下で藻類油の生産能力が高く生長の早いものが使用されている。株種の選 8 JPEC レポート 定と操業条件の決定に当っては、目的製品によって培養液の塩分濃度、pH、温度などを様々 テストしている。 7. Renewable Algal Energy, LLC (RAE) Website: http://www.rae-energy.com/ 本社:テネシー州 Johnson 市 事業場所:アリゾナ州 Tucson 採用技術:遺伝子操作を行わない天然の藻類株種による藻類油の製造 製造規模:2 エーカーのデモサイト、100 エーカー、年産 2,200 乾燥トンの後処理可能 製造製品:藻類原油、プロテインパウダー、ω-3 製品類、動物飼料、栄養補助食品類 【事業概要】 RAE は 2007 年創業。2010 年 9 月、DOE の Small Business Innovative Research Phase III Xlerator program(対象は 33 社)でバイオマス技術領域から唯一選ばれ、300 万ドルの補助 金を受けている。補助事業の対象は、革新的な収穫方法と水産養殖システムによる藻類バ イオディーゼルの製造である。 2014 年 7 月、RAE はスイスに本社を置く多国籍企業 ABB(旧 Asea Brown Boveri)と統 合化藻類製造システムの事業化に関して協力して取り組むと発表した。 目的とする製品は、 藻類ベースの栄養補助食品、動物栄養飼料、再生可能燃料で、発表時点の計画では 2014 年第 4 四半期からの製造開始を予定している。ABB は製造システムの制御技術を提供する ことで、複数の製造場所でも少人数で経済的に生産管理を行えるとしている。 RAE は 2014 年 6 月、Neste Oil と非排他的な供給契約を締結している。RAE は北米に 5,000 エーカー(2,023ha) 、藻類バイオマスの生産量としては年産 14 万乾燥トン以上となる商業 規模製造サイトの建設を検討している。RAE の本社は、East Tennessee State University の新 規事業サポート機能を持つ Innovation Lab に設置されている。 【技術概要】 RAE では、環境保護の観点から遺伝子操作を行わない天然の藻類株種に焦点を当ててい る。藻類の成長には海水が適した溶液であるが、様々な条件の水溶液を使用できるように なっている。操業当初と同様の状況での藻類養殖を維持するため、製造プロセスでは殺虫 剤、除草剤のほか有害な薬品は使用していない。 培養にはオープンポンド方式を採用し、CO2 は大気から直接取り入れる方法をとってお り、10 日毎に収穫する計画である。収穫や藻類油の抽出技術は水産養殖で一般的に使用さ れる技術を用いているが、新たに革新的な収穫・脂質回収技術を開発済みである。 9 JPEC レポート 8. その他の会社 8.1. BioProcess Algea LLC BioProcess Algea は、Clarcor Inc.(NYSE) 、BioHoldings, Ltd.と Green Plains Inc(本社:ネ ブラスカ州 Omaha、NASDQ)の合弁会社。目的製品は、家畜飼料、栄養補助食品、輸送 用燃料の原料となる藻類油である。 現在はアイオワ州 Shenandoah にある Green Plains 社のメタノール工場敷地内で、2009 年 10 月からデモプラントを連続運転しており、 2012 年には同工場の 5 エーカーの土地に新た な藻類製造設備を建設し、バイオマス年産 200 トンが可能と発表している。 2,014 年 10 月に公開された画像では、温室内で光合成が進むように表面積の大きなバイオ フィルムに藻類を付着させたバイオリアクターを使用しているが、量産設備は屋外との情 報もある。当初の計画では、メタノール工場からの CO2 割合の高い排ガスを接続供給する ことになっている。 8.2. Muradel Pty Ltd Muradel(オーストラリア連邦南オーストラリア(SA)州 Maylands)は、2010 年 12 月 にアデレード大学、マードック大学(西オーストラリア(WA)州パース)およびインド の ABAN グループの Aban Australia Pty Ltd が主要出資者である SQC Pty Ltd(SA 州)が 500 万豪ドルのプロジェクト費用で設立した合弁企業であり、オーストラリアの地の利を生か して採算性のある大規模での藻類事業の遂行が目的である。パイロットプラントは、イン ド洋に面した WA 州 Karratha に設置されている。 技術的には、オープンポンドで含塩水を用いて藻類を培養し、CO2 源として近隣の発電 所からの排ガスを使用する。収穫した藻類から抽出した糖類はエタノールに変換し、主製 品の藻類原油は輸送用燃料や他の製品の製造に使用される。抽出工程からの残留バイオマ スは、動物飼料に用いられるほか、謙気性発酵でメタンガスを発生させ残留物は藻類の肥 料として使用される。また、廃水処理装置からのバイオ固形物も使用する。 2011 年 3 月時点の計画よりは遅れたが、2014 年 10 月から SA 州 Whyalla に 1,070 万豪ド ルを掛けて設置したデモプラント(藻類原油年産 3 万 L:0.5BPD)の運転を開始したと発 表した。今後デモプラントから順調に商業規模までスケールアップできた場合は、生産量 は 2019 年までに 1,000ha の面積で藻類原油年産 80 万 kL(約 1.4 万 BPD)になるとしてい る。デモプラントの建設には、2013 年 2 月に豪州政府の再生可能エネルギー庁から 440 万 豪ドルの補助を受けたほか、Whyalla 市や SA 州政府などから経済的な支援がされている。 参考:http://www.muradel.com/Muradel-ARENAmediarelease.pdf http://ussc.edu.au/s/media/docs/other/110302_Avalon_Clark.pdf 10 JPEC レポート 8.3. Aurora Algae, Inc. Aurora Algae(本社:カリフォルニア州 Hayward)は、低コストで藻類を生産してバイオ オイルを製造することを目的に 2006 年に Aurora Biofuel,Inc.として創業。デモ設備をオース トラリア連邦の西オーストラリア州に設置して 2013 年 12 月までに 3 年間各種検討を行っ ていたが、現在はテキサス州南部のメキシコ国境に近い Rio Hondo に商業化を見据えたテ ストサイトを建設中である。 豪州のデモ設備では、面積 1 エーカー(約 0.40ha)の六つのオープンポンドを用いて最 大で月間 15 乾燥トンの生産を実施していた。テキサス州のテストサイトは、面積 1 エーカ ーのオープンポンドを四ヶ所設置して 2015 年の早い時期にスタートする予定で、更に 204 エーカー(約 82.6ha)まで拡大しバイオマス月産 500 トン以上の生産まで検討している。 8.4. Algae.Tec Limited Algae.Tec(本社:オーストラリア連邦西オーストラリア(WA)パース)は、2007 年創 業でオーストラリア証券取引所ほか上場。藻類の量産により持続可能なバイオ燃料やプロ テインなどの製品製造を目指している。 ニューサウスウェールズ(NSW)州 Sydney の南南西 125km の Nowra 市に製造技術(プ ロジェクト名;Shoalhaven One)紹介用の設備を設置し、2012 年 5 月からコミッショニン グを開始し 2012 年 8 月に開所式を実施した。設備は、食品メーカーで豪州最大のエタノー ル生産者である Manildra Group(本社;NSW 州 Auburn)の工業設備に隣接して設置され ており、エタノールの発酵槽から発生する二酸化炭素ガスを回収して藻類製造設備の原料 として供給している。 Algae.Tec と戦略的パートナーシップを締結しているのは、Manildra Group、Lufthansa(本 社:ドイツ) 、Holcim Lanka Ltd(本社:スリランカ)および Shandong Kerui Group Holing Co. Ltd(本社:中国)で、技術面では the University of Wollongong がサポートしている。 11 JPEC レポート 今回報告のまとめ 次世代型のバイオ燃料として期待されている藻類油は、2010 年頃には各国政府の資金的 な支援もあり多数の研究開発プロジェクトが立ち上がり商業化を目指している。 9. 最近の原油価格の急激な下落もあり、藻類油を輸送用燃料として本格的に使用するには 製造コストの面で厳しい環境にあるが、各プロジェクトともに藻類油製造事業の安定化の ために高付加価値な副製品の商品化に取り組んでいる。特に、藻類油は農薬や殺虫剤の影 響を受けずに培養できること、副製品のバイオマスは水産資源の保護や穀物飼料の節減に 寄与するなど副次的な効果も大きいことなどから、燃料用途以外の期待感も大きい。 最近の傾向として、インターネットの youtube に各種画像を公開するプロジェクトが多 く、最新の製造設備の状況も画像で確認出来るプロジェクトが多い。各社の採用技術の違 いを容易に理解できるため、各社のホームページから youtube の画像を参照願いたい。 以上 以上 本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析 したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected] までお願いします。 Copyright 2015 Japan PetroleumEnergy Center all rights reserved 次回の JPEC レポート(2014 年度 第 31 回)は 「ブラジルの石油・エネルギー産業」 を予定しています。 12
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