中国エネルギー産業の「徹底改革」の動向

JPEC レポート
2015 年度
第 21回
平成 27 年 11 月 19 日
中国エネルギー産業の「徹底改革」の動向
2013 年 3 月 第 12 期 全国人民代表大会で
習近平氏が現国家主席に選出された。
中国は、
前政権時に急激な経済成長を遂げ、
2010 年に
は名目 GDP で日本を追い越して、米国に次
ぐ世界第 2 位の経済大国となった。2012 年
以降同国は、GDP が 7%台となり安定成長に
移行したと考えられる。
1
2
3
4
5
6
徹底改革の新たな段階
エネルギー価格決定メカニズム
開放と再編
税制と金融
動向と展望
まとめ
1
3
6
10
11
12
中国では、前述した経済成長にともない歪も多く発生してきている。現指導部はこれら
の改善を目指し、改革・開放路線(1978 年に提唱)をさらに推進しようとしている。この
徹底改革は、完全に実施されれば、従来の改革計画よりもはるかに影響の大きいものにな
るであろう。今回は、中国エネルギー産業部門の徹底改革動向について報告する。
1 徹底改革の新たな段階
1-1 改革の緊急性
中国のエネルギー産業および市場では、他部門における劇的な変化と同様に過去数十年
間にわたる「改革開放」政策の遂行に伴って、改革および再編のための行動が行われてき
た。同国のエネルギー産業は、政府による全面的な管理・運営から自由化・商業化の方向
へと徐々に転換されてきた。
しかしながら、他の多くの部門と比較して中国のエネルギー産業は、改革開放の進捗が
大幅に遅れている。同産業は、未だに政府の厳しい統制を受けており、また大半を大手国
有企業が運営しており民間企業の参入は限定的である。エネルギー価格においても、一部
は国際市場と連動し部分的に自由化されてはいるものの、多くは政府によって管理・運営
されている。
政府によって支配されている中国のエネルギー産業は、効率が悪く改革が不十分な状態
にあり、同産業は他の経済部門と矛盾を起こしている。また、同産業は、将来における持
続可能なエネルギー開発を支える力が弱まっていると考えられる。
このように、中国のエネルギー産業は、緊急に徹底改革を実行する必要性に迫られてい
る。さらに、同産業は国際取引を伴うという性質上、さらなる改革の推進によって国際市
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場での競争力を維持するため体制変換を実施することも迫られている。
1-2 改革の方向性の堅持
2013 年 11 月 中国共産党 中央委員会の第 3 回全体会議(第 18 期三中全会)において、
「包括的かつ徹底改革の主要問題に関する決議」という歴史的決議が採択された。この決
議では、
「改革開放路線」政策から 35 年経た現在 同政策の成果が評価された。また、国
有企業を主体とする社会主義市場経済の方向性を堅持することを強調しつつ、さらなる市
場を重視した経済改革を継続的に強化する方針を打ち出している。なお、国有エネルギー
企業の徹底改革推進は、この決議で示された主要課題の一つである。
1-3 エネルギー戦略行動計画
2014 年 6 月 中国国務院は、
「エネルギー発展戦略行動計画(2014~2020 年)
」を承認
し発表した。同計画では、中国におけるエネルギー消費、資源、供給、環境および市場取
引には大きな制約があることを認識しつつ、将来の持続可能な開発を達成するために、中
国のエネルギー開発戦略行動指針を定めている。下記に各指針について紹介する。
・オープンで競争力のあるエネルギー市場の開放
・国有エネルギー企業の徹底改革
・エネルギー価格決定メカニズムの改革と強化
・電力網と石油・ガスパイプラインの分離・独立化の推進
・政府のエネルギー市場において管理から監督への移行
・エネルギー料金と課税システムの改善
1-4 エネルギー革命と商業化
「エネルギー発展戦略行動計画」の発表から 1 週間後、習近平総書記が議長を務める中
央財経領導総会において、エネルギー改革の重要性は「革命」とまで強調された。この発
表は、課題が深刻で差し迫っていることの表れである。発表では、エネルギーの消費、供
給、技術、法制度に関する革命の実行あるいは徹底改革が訴えられた。下記に各項目につ
いて紹介する。
・エネルギー消費革命:省エネを最優先とする
・エネルギー供給革命:持続的エネルギー供給とそれを担保するため多様なエネルギー
源の開発およびクリーン燃料の開発促進
・エネルギー技術革命:持続的成長が可能な未来のため新産業革命を行う
・エネルギー機関革命:エネルギー部門の徹底改革
1-5 経済改革の強化
2015 年 5 月 中国国務院は「2015 年 経済改革の強化に焦点を当てた作業指針」を承認
し発表した。この指針は、同年以降の中国の経済システムをより深く、より徹底的に改革
するための全体の枠組みを設けるものである。中国の経済成長は安定化、いわゆる「新常
態」の状態にあるため、中央政府は同国経済に新たな成長力と活力を与えるために必死の
努力をしている。
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同作業指針において、中央政府は以下の 4 項目を約束している。特に、国有企業の徹底
改革の推進を求めている。
・経済活動に対して義務付けられている政府の承認および干渉の削減
・民間投資、とりわけ官民協業の奨励
・さらなる市場を重視した価格メカニズムの導入
・全ての市場参入者による投資と取引の支援に向け、金融および課税システムの改革
1-6 国営企業の徹底改革
2015 年 8 月 共産党中央委員会および国務院は、合同で「国営企業の徹底改革に関する
指針」を発表した。この指針では、国有企業の徹底改革を遂行し、市場重視のメカニズム
を導入する方向性は継続する。しかしながら、国の所有こそが中国経済において引続き中
心的役割を演じ続けることを明確に述べている。この徹底改革を通じて、国有企業は開発
力と競争力を高めるであろうとも主張されている。
2 エネルギー価格決定メカニズム
中国における個別エネルギー源の価格決定方式は、市場重視型に向けた改革が進められ
ているが、その進捗度はエネルギー毎に異なっている(図 1 参照)
。
Reform Pro gress of China Energy Sector
参入自由
free entry
coal
Market participation
市
場
参
加
石炭
ガス下流
gas downstream
gas upstream
oil upstream
石油上流
ガス上流
electricity
oil downstream
電力
石油下流
独占
monopolized
市場重視
heavily regulated
規制重視
Pricing mechanism
market -oriented
価格決定メカニズム
図 1 中国エネルギー部門の改革進捗度
(出所:3E)
国産石油価格は、国際市場価格とリンクしているが、中央政府による価格調整が行われ
ている。天然ガスは、石油同様に国際市場と連動する改革措置が採用されているが、価格
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決定メカニズムは合理化道半ばである。国産石炭価格は、おおむね自由化されている。電
力価格は、まだ中央政府の強い統制下にある。
(表 1 参照)
。
表 1 エネルギー価格決定メカニズムと現状と目標
部門
現在の状態
変革の目標
石油
・月間原油価格は、国際価格にリンクしている
・国際市場にリンクし、国内石油価格は市場が決定する
・石油製品価格は、中央政府により 10 日毎に調整される ・中央政府は、パイプライン移送価格のみ設定する
天然
ガス
・中央政府が上流価格、シティゲート価格を設定する
・地方政府は、末端販売価格を設定する
・産業要価格は、国際市場価格と連動し決められる
・民生用価格は、価格決定メカニズムが適用される
・中央政府は、パイプライン移送価格のみ設定する
石炭
・一般には市場で決定する
・全て市場で決定する
電力
・完全政府管理
・発電および配電での競争力ある価格設定
・政府は、配電網価格を設定する
2-1 石油価格
2013 年 3 月 中国 国家発展改革委員会(以下 NDRC と記載、National Development and
Reform Commission)は、国産石油製品の価格決定メカニズムを調整ができるよう変更し
た。この改革措置の実施後、中国の石油製品価格は国際石油製品価格の変動に連動してい
る。これ以降、価格調整頻度は、従来の 22 日間から 10 日間に短縮された。
NDRC は、基準油種バスケット価格の 10 日間累積変化に基づき、主要な省および都市
におけるガソリンおよび軽油の上限小売価格を調整している。ただし、価格変化の計算値
がトン当たり 50 元(約 1,000 円)よりも小さい場合は調整を行わないとしている。また、
石油製品の卸価格および出荷価格は、石油取引業者が相応に調整することになっている。
ナフサの出荷価格設定は、
関連する国際価格を参考に大手国有石油企業が実施している。
ジェット燃料の出荷価格設定は、2015 年 3 月以降 NDRC から国有石油企業である中国石
油天然気集団公司(以下 CNPC と記載)および中国石油化工股份有限公司(以下 Sinopec
と記載)に移管された。しかしながら、前記価格は、政府が承認する算定方式に基づいて
決められている。なお、LPG および重油の価格は、おおむね公開市場価格により決められ
ている。
2-2 天然ガス価格
天然ガス価格は、従来コスト積上げ方式(生産コスト+輸送コスト+一定の利益マージ
ン)で決定されていた。2011 年末 NDRC は、
「広東省および広西チワン族自治区におけ
る天然ガス価格 決定方式改革の試行に関する通知」
を発表し、
天然ガス価格算定方式を
「市
場ネットバック方式」に移行した。
2013 年 6 月 NDRC は、
「天然ガス価格の調整に関する通知」を発表し、中国全土にお
ける天然ガスのシティゲート価格(パイプライン輸送会社から各地域の配給会社への卸価
格)設定に「市場ネットバック方式」を全面的に採用した。NDRC は、価格調整を容易に
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するため、国産天然ガスの利用は 2 カテゴリー(前年消費量、前年より増加分の消費量)
に分類した。増加分のシティゲート価格は、輸入重油(60%)および輸入 LPG(40%)の
価格と直接連動させ、既存消費量分については段階的に変動させるものとした。2015 年 4
月 前年消費量分の天然ガス価格は、増加分のガス価格と統合された。
ガス価格決定の改革プログラムでは、ガス供給企業と大口ガス消費者(パイプラインに
よる直接供給を受ける)との直接交渉による価格決定を奨励している。一方、民生用ガス
価格は、2015 年末までに全国で段階的価格決定メカニズムが採用される予定である。しか
しながら、いつ・どのように価格が調整されるかは中央政府の裁量に委ねられている。
2-3 石炭価格
中国の国産石炭価格は、2013 年
以前は完全自由化とはいえない状態
であった。2012 年 12 月 国務院総
局は、
「発電用石炭市場の改革強化に
関する指針」を発表し、主要石炭企
業と電力企業の間で
「重点電力契約」
に署名する慣習を廃止した。
原子力
1.2%
水力
22.4%
その他
13.4%
石炭
63.0%
この慣習では、政府の影響下にお
図 2 中国の電源構成(2013 年)
いて、石炭の販売および購入価格
を市場価格よりも低く設定すること
が常態化していた。今回の廃止により、石炭価格は、市場価格に一元化された。なお、同
国での石炭火力発電容量は 63%を占めており、最大のエネルギー源になっている。また、
石炭火力発電所は、全国の石炭需要の約半分の量を消費している(図 2 参照)
。
2013 年 上記慣習の廃止により石炭価格は、完全に市場に委ねられることになった。石
炭価格は、中央政府および地方政府による干渉を受けずに、供給者と購入者間の直接交渉
により価格決定されるようになった。
同指針では、石炭と電力の価格を連携させるメカニズムの確立を求めている。従来は、
6 ヶ月間の累積で石炭価格の変化が±5%を超えると、電力価格を同様に調整する仕組みが
発動する方式であるが、現実は 発電所側では石炭価格の変化を±30%(後に±10%に変
更)まで吸収することが求められていた。
このように、石炭と電力の価格転嫁メカニズムは、完全には実施されてこなかった。電
力価格の調整は、あまりにも多くの関係者が存在し利害対立が生じる上、経済および国民
の日常生活に大きな影響を与えると考えられているためであると考えられる。
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2-4 電力価格
中国の電力価格は、今でも中央政府の強い統制下にある。2002~2003 年 既に国務院は
「電力システム改革計画」を、NDRC は「電力価格改革計画」をそれぞれ発表している。
これらの計画では、電力価格を 4 カテゴリー(民生用、農業用、商工業用、その他)に
分類し、
電力網への供給価格および末端消費者価格は自由化して市場競争で決定すること、
送電および配電価格は中央政府の統制下に置くものとしていた。しかしながら、関係団体
の間で既得権益の衝突が生じ、計画の遂行は停滞した。特に国有電力網は、引き続き独占
的地位を維持し、送電および配電価格を管理している。
共産党中央委員会及び国務院は、経済の徹底改革という最終的な目標を掲げ、電力部門
の本質的な徹底改革を推進している。2015 年 5 月 これら 2 つの最高権威は、
「電力シス
テム徹底改革のさらなる推進に関する指針」を発表した。競争原理をさらに導入し、電力
価格決定メカニズムの現状を根本的に改革することを目指している。
前記指針が公式に発表される前から、電力価格に関しては部分的な改革が実施された。
2012 年 7 月 民生部門においては、段階的な価格決定メカニズムの適用が始まった。2013
年 5 月 大口消費者による電力の直接購入契約に対し、行政の承認義務付け手続きが廃止
され、多くの省で電力の直接購入取引が急激に増加した。
2014 年 11 月 NDRC は
「深圳市における送電および配電価格改革の試行に関する通知」
を発表した。この通知により送電部門は独立し、送配電の料金は運転費に適正な利益を乗
せた算定で決定する方式に変更されることになった。
電力システム全体の徹底的な制度改革がなされなければ、石炭-電力価格の関連付けも
困難であることは明らかである。特に、石炭価格が上昇した時は、電力価格の上方修正を
強いられる可能性もあったが、2004 年以来 石炭-電力価格の関連付けメカニズムによる
電力価格の改定はごく限られた回数しか実施されていない。
3 開放と再編
中国共産党および中央政府の計画によると、エネルギー部門の徹底改革の主な目標は、
既存エネルギー部門を再編し、同産業の効率化と競争力を高めることである(表 2 参照)
。
具体策としては、下記 3 点が挙げられている。
・国産エネルギー市場をさらに開放し、より多くの参入企業数と投資資金を増やす
・市場メカニズムをさらに取り入れる
・政府の監督や干渉を受けないよう独立性を高める
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表 2 エネルギー産業の徹底改革
部門
石油
天然ガス
石炭
電力
現在の状態
変革の目標
・上流側とパイプラインは、国有企業の独占
・石油精製と販売は、国家支配
・在来ガスとパイプラインの国有企業独占
・いくつかの非在来型ガスの開放
オープン
国有企業が優位
・上流側のいくつかを開放
・独立系パイプライン会社
・競争力ある石油精製企業
・販売の混合所有
・いくつかの在来型ガスの開放
・全非在来型ガスの開放
・独立系パイプライン会社
オープンだがより連携する
発電と配電への自由参入、独立系配電
3-1 市場開放
中国のエネルギー市場は、未だに国有企業が独占または大半を占めている。今回の改革
プログラムの主要課題の一つが、エネルギー産業以外の企業、特に民間投資家への同部門
の開放である。
【上流部門】
石油および天然ガス資源の探査・開発という上流部門では、従来からの外国との協力事
業における生産物分与契約(PSC)で実施されている。一例として CNPC は、新疆ウイ
グル自治区の一部区画を、外部投資者による合同資源探査開発への先駆的開放活動の一環
として開放している。PetroChina は、中国東北部の老朽油田を合同所有による操業を実
施している。
また、天然ガス資源の開放は、非在来型ガスから始まっている。中国 国土資源部が実施
したシェールガス探査区画の一般競争入札において、民間企業を含む外資に参入が呼びか
けられた。
【下流部門】
近年まで石油精製産業の輸入原油は、CNPC や Sinopec のような自前の石油精製計画を
有する大手国有石油会社にのみ「原油輸入権」が供与されていた(図 3 参照)
。
2015 年 2 月 NDRC は、一定の条件を満たした独立系小規模製油所(いわゆる Teapot
Refinery、地煉)に輸入原油を処理することが可能になる方針「いわゆる輸入原油使用権」
を発表し、自社のプラント操業に利用することができるよう大胆な改革・開放に踏み出し
た。
従来、独立系小規模製油所は、主に地元で産出される原油の処理および重油を再処理し
石油製品を製造していた。そのため、一般に大手国有石油会社に比べ製品品質は悪いとさ
れていた。
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今回の NDRC の発表の背景として下記
項目が挙げられる。
その他
426
・独立系小規模製油所での処理原料不足や
精製マージン確保困難
・石油事業分野にも民間資本の進出を促進
する政府の基本政策
・需要増・国産原油生産量の制約により輸
入原油への依存が高まっている状況
・民間投資による高性能(低エネルギー消
費)で環境性能が高く、経済性を重視した
製油所の起用で、国内精製量の効率的な
拡大を図る
中国の
石油精製能力
1,546万BPD
延長
40
Sinopec
596
CNOOC
84
CNPC
400
図 3 中国の石油精製能力(2013 年)
(CNOOC:中国海洋石油有限公司
延長:峡西延長石油集団公司) (出所:3E)
さらに 2015 年 7 月 中国商務部は、一定の条件を満たす独立系小規模製油所に原油の輸
入を認める政策「原油輸入権」を発表した。前後 2 回の発表により、条件付ではあるが一
部の前記製油所では、
国有企業なみの権利が開放されたことになる。
すでに同年 8 月には、
両方の権利を取得し、活動を開始している企業も出てきている。
3-2 電力網とパイプラインの独立
2015 年 3 月に発表された「電力システム徹底改革のさらなる強化に関する指針」では、
配電および電力販売事業を完全自由化するよう求めている。多数の地方電力企業および投
資家に対して、配電および電力販売の免許取得を呼びかけるものになっている。この電力
自由化試験は、広東省、安徽省、湖北省、雲南省、貴州省、内モンゴル自治区および寧夏
回族自治区といった地域で実施している。
電力部門徹底改革プログラムの最重要点は、幹線送電網を独立させ、電力の購入、配電
および市場から完全に分離することである。この改革プログラムにより、国の監督の下、
独立した送電網は送電料金のみで運営されるようになる。
第三者が自由に参入できる主要な石油およびガスの輸送パイプラインの独立運営も、近
い将来実施される石油・ガス部門の徹底改革プログラムの主な要素である。2014 年 5 月
CNPC は、西気東輸パイプラインの第 1・第 2 幹線を中核資産から分離し、CNPC 東部気
管有限公司として独立させると発表している。その意図は、同パイプライン全資産を外部
投資家に売却することにあったが、この計画は頓挫した模様である。
3-3 政府の役割と監督
中央政府による強力な統制および許認可制度は、中央計画システムの主要な構成要素に
なっていた。それゆえ、経済の徹底改革における主要課題となっている。過去 2 年間に中
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央政府の承認を必要としていた数百~数千項目が、廃止あるいは地方政府に権限委譲され
ている。
エネルギー部門では、行政の許認可の対象であった項目の約 30%が廃止された。廃止さ
れた項目の一例を下記に示す。
・石炭の採掘および炭鉱の運営免許
・天然ガスおよび炭層メタンの開発と活用に関する外国企業との協同契約
・天然ガスを利用した分散型エネルギーシステム構築のための投資事業
・大口電力消費者の直接売買契約
・風力発電への投資
・契約締結されたエネルギー管理サービスへの財政補助
中央政府は、エネルギー投資や操業への行政許認可や直接的な干渉から手を引く一方、
その役割を市場での監督業務へと移行しようとしている。そのため国家能源局は、大半の
省に地方監督事務所を設置した。このように国のエネルギー監督事務所網は、徐々に整備
されており、市場監督活動は広がりつつある。なお、国家能源局は、エネルギー行政、価
格調整に関する提案、業界管理および基準作りなどを行う部署である。
3-4 エネルギー商品取引場
中国は、2010 年から世界最大のエネルギー消費国であり、2014 年 世界第 2 位の石油
輸入国でもある。同国は、世界のエネルギー市場への影響力を年々増しているが、国産の
石油およびガスの価格は、未だに国際市場の動向に追従している。そのため同国は、市場
メカニズムのさらなる導入を通じて、国内市場における価格決定メカニズムの確立を目指
そうとしている。
さらに、十分に機能するエネルギー商品取引場を確立しなければ、健全なエネルギー市
場は確立できない。中国の石炭市場は、おおむね自由化されており、同国各地の産炭地お
よび消費地において石炭取引場は活発に活動している。
1990 年代初頭 石油部門では、中央政府が同部門の開放を試験的に始めた際、数社の石
油取引場設立が進められた。しかしながら、市場の混乱を受けて、中央政府はすぐに石油
部門を再度 中央集権化し、初期に設立された石油取引場は機能不全に陥った。
現在 石油およびガス部門における改革プログラムの進展により、
エネルギー商品取引場
の再建が進んでいる。2015 年 7 月 新たに上海石油天然ガス取引場が設立され、正式に操
業が始まった。同取引場は、まずパイプラインによる天然ガスと LNG の取引を開始して
いる。また同取引場では、原油先物取引も 2015 年内に始める予定である。同様の石油天
然ガス取引場は、北京、深圳、寧波および大連等の都市でも設立されている。
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4 税制と金融
金融と税制制度の改革は、中国経済改革計画全体の中でも重要な部門である。また、エ
ネルギー部門の徹底改革と整合させることも重要である。これらは全て、
「総合的徹底改革
の主要課題に関する決議」で明確に定義されている。
4-1 資源税
2010 年 財政部と国家税務総局は、
「新疆における原油および天然ガス資源への課税改革
に関する規定」を発表し、資源税の改革に踏み出した。石油およびガス資源の開発には、
其々の価格から算出される資源税(税率 5%)が課されるようになった。なお、資源税は、
地方政府が徴収することになっている。
新疆における 4 年間の資源税の試行期間を経て、2014 年 10 月 財政部、国家税務総局
および NDRC は、資源課税を他の地域にも拡大するとともに石炭も課税対象に加えた一
連の通知を発表した。この通知により原油および天然ガスの資源税率は、5%から 6%へと
増税された。また石炭は、採炭企業には 2~10%の税率が適用された。なお、資源税の増
税への埋め合わせとして、原油、天然ガスおよび石炭に従来課税されていた 1%の資源補
償費は廃止になった。
また、
一部の低品質または老朽炭鉱に対しては減税措置も取られた。
4-2 消費税
「エネルギー保全および環境保護に関する指針」は、石油消費量の急増に制限をかけ、
大気汚染の軽減、環境保護および代替エネルギーの開発を目的としている。中国政府は、
同指針に従い2014 年末~2015 年初頭にかけて3 度にわたり石油製品の消費税を増税した。
その内訳は、ガソリン、ナフサ、溶剤および潤滑油は、1 kℓ 当たり 1,000 元 ⇒ 1,520 元
へ、軽油、ジェット燃料および重油は 1kℓ 当たり 800 元 ⇒ 1,200 元へと増税された。な
お、ジェット燃料の消費税の徴収は、今のところ一時的に延期されている。
4-3 革新的金融手段
今回の徹底改革を通じて、市場の潜在力がさらに開放されることにより新しい事業機会
が生まれ、幅広い参入企業が引きつけられる。この結果、投資家の多様化や資金供給経路
の拡大、革新的かつ柔軟な金融手段の創造などが求められるようになる。
2014 年 11 月 国務院は、
「主要分野における革新的金融メカニズムの創出および社会投
資の奨励に関する指針」を発表した。同指針では、社会投資、特に民間投資の機会を増や
すため市場の開放をさらに推進する一方で、革新的金融手段によって潜在的な投資需要に
応えるための、金融システム改革の必要性を訴えている。
社会基盤、公共サービス、資源開発および環境保護分野では、官民協業方式が特に好ま
れている。経済的に成熟した国々で活用されている自己資本調達、負債金融、収益事業債、
譲渡可能社債、担保付き融資や期待収益融資および資本リース等といった様々な金融手段
が、中国でも探求されるようになった。
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5 動向と展望
中国共産党と中央政府が確定した徹底改革への論調および一般指針ならびに様々な改革
プログラムの実施状況から、エネルギー部門における徹底改革の現状における重要動向を
読み取り予測することができる。
過去 35 年間にわたって実践してきた「改革開放路線」政策を受けて、現在の中国指導
部は改革の方向性を忠実に守っている。この改革により、経済システムは中央による計画
経済から市場経済重視型へと次第に変化し、継続的な生産性の向上を通じて経済は成長し
た。一方で同指導者部は、国有企業が中国経済における中心的地位および重要な役割を担
っていることを繰り返し主張している。
5-1 市場重視の価格
中国では、全てのエネルギー資源において価格設定の改革は今後も強化・加速されるで
あろう。数年のうちに、同国における大半の国産エネルギー価格は、最終的に市場で決定
される方式に移行する。ただし、送電価格および石油ガスパイプライン使用料金といった
独占部門価格は、従来通り政府が決定する。
5-2 民間企業参入の増大
中国のエネルギー産業は、民間企業にも開放されている。特に、天然ガスの開発および
利用への投資(在来型および非在来型ガスの両方)は奨励されている。電力部門では、徹
底改革プログラムにより、配電および電力販売事業においてエネルギー産業以外の企業や
民間投資家に新しい事業機会が提供される可能性がある。
2014 年 2 月 Sinopec は、販売部門に 30%までの民間資本の参入を発表し 25 社が選定
された。また、2014 年 3 月 CNPC は、シェールガスなどの資源開発で民間資本からの出
資を発表した。
5-3 国有企業の整理統合
国有エネルギー企業は、
今後 国際市場において民間企業の市場参入と競争激化になって
も、その力を維持・拡大すると考えられる。中国では、エネルギー部門である石油・石炭
および電力は、今後も影響力ならびに牽引力を増強する基幹分野に位置づけられている。
そのため国有エネルギー企業の影響力を高めるために、今後整理統合による競争力強化が
行われる。
中国国内市場では、国有企業の支配的地位が民間企業によって大きく脅かされることは
おそらくないであろう。これは石油およびガス資源開発の上流部門、石油精製および石油
製品販売の下流部門においても同様であり、最近はこれらの部門の大胆な開放さえ認めら
れる。
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5-4 独立した電力網およびパイプライン
中国では、幹線送電網および石油ガスパイプラインを独立運営とすることに国民的合意
が得られたようである。
また同部門の分離分割が加速される可能性もある。
しかしながら、
これら部門は、独立運営に移行しても引続き国有事業であり続ける可能性が高い。
5-5 政府は監督の役割へ移行
中国政府は、投資事業の許認可、エネルギー価格の設定、各産業の運営への干渉といっ
た業務活動から手を引く一方で、市場の監督業務を強化する方針である。しかしながら、
エネルギー産業の役割は、経済的・地政学的に非常に大きいため、中央政府は国有エネル
ギー企業の所有者として引続き最終決定権限を保有している。
5-6 活発な貿易金融市場の確立
市場原理による価格決定、産業部門へ参入企業の増加および競争の激化は、中国のエネ
ルギー市場の透明性と活力の増大を後押している。この結果、リスクヘッジおよび投機的
な商品取引に対する防護対策が必要になってきている。同国のエネルギー取引場は、徹底
改革の推進に伴って急速に拡大することが予想され、エネルギー金融およびデリバティブ
取引の拡大も促進されると考える。
6 まとめ
2013 年 11 月 中国政府は、生産性の制約を緩和し、経済成長の原動力を取り戻すため
「包括的徹底改革の主要問題の解決策」を発表し徹底改革に着手した。この徹底改革は、
完全に実施されれば従来の改革プログラムよりもはるかに影響力を及ぼすものになるであ
ろう。その中でもエネルギー部門は、徹底改革の中核となる部門であると位置付けられて
いる。
しかしながら、中国のエネルギー部門は、他の経済部門と比較して改革開放の進展が大
きく遅れている。多くのエネルギーの価格は、政府の管理下にあり、大半のエネルギー市
場は国有企業に支配されているためである。石炭価格は完全に自由化されているが、石油
およびガス価格は国際市場と密接にリンクしている。
【近年のエネルギー産業部門の改革・開放項目】
・ 全てのエネルギー産業は、外部投資家に開放するものとされた
・ 国有エネルギー企業は、混合所有への移行が求められているが、その進行は遅い
・ 独立系小規模製油所に「輸入原油使用権」および「原油輸入権」を条件付ではある
が開放された
・ 活発なエネルギー商品取引および先物取引が推進されており、各地に石油天然ガス
取引所が設置された
・ 幹線送電網および石油ガスパイプラインは、国の管理下で独立させる計画である
・ 中央政府は、エネルギー市場の日々の運営の直接管理や干渉から手を引き、監督へ
の役割に移行するようになる
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JPEC レポート
・ 2014 年 資源税は、石炭、石油およびガスに対し全国で課税されるようになった
・ 2014 年末から石油製品の消費税が増税された
・ 官民協業(PPP)および革新的金融手段は、とりわけエネルギー基盤施設に関して
奨励されている
今回の徹底改革プログラムの実施により、今後数年にわたるエネルギー部門の流れが形
成される。同部門では、さらなる改革・開放が実施され、より多くの参入企業、価格市場
メカニズムのさらなる導入および競争の奨励が行われるであろう。すべてのエネルギー部
門の役割および価格市場メカニズムは、さらに明確かつ透明になると考える。
一方で、中国政府は、徹底改革を提唱してはいるが、国有エネルギー企業は今後も影響
力ならびに牽引力を増強する基幹分野に位置づけられており、整理・統合によりさらに体
力が強化され競争力をつける政策である。
中国は、改革・開放を提唱ならびに実施してはいるが、一方で石油などの基幹産業では
国有企業をさらに強化するという相反する動向が認められる。しかしながら、同国は、世
界第 2 位の経済力を有する隣国であり、日本などアジア諸国にも大きな影響がおよぶため
今後注視が必要である。
<参考資料>
・本報告書中のデータは別途特記されている場合を除き、すべて 3E データベースから
得たものである。
・中国中央政府の各部門、地方政府の各部門の HP を参照
本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析
したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]
までお願いします。
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次回の JPEC レポート(2015 年度 第 22 回)は、
「ベネズエラの石油産業動向」を予定し
ています。
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