航空業界の再生可能ジェット燃料への取組状況(1)

JPEC レポート
平成 27 年 7 月 10 日
JJP
PE
EC
C レ
レポ
ポー
ートト
222000111555年
年
度
年度
度 第9回
第9回
航空業界の再生可能ジェット燃料への取組状況(1)
世界の航空分野での温室効果ガス
(GHG、Green House Gas)のCO2換算
排出量は、IATA(The International Air
Transport Association、国際航空運送協
会)の報告では2012年 6億8,900万トン、
2013年 7億500万トンで、世界のCO2全排
出量 約360億トンの約2%に相当する量
となり、2050年にかけてGHG排出量の増
加が予想されている。
1. 航空業界の GHG 削減への取組状況
1-1 ジェット燃料の需要
1-2 IATA の目標と戦略
1-3 IATA の代替燃料への取組
1-4 その他の世界的な取組状況
2. 再生可能航空燃料の概要
2-1 代替ジェット燃料への要求事項
2-2 ASTM のジェット燃料規格
2-3 ドロップイン型バイオ燃料
2-4 バイオジェット燃料の追加認証
3. 主要航空会社の取組状況
4. 前編まとめ
1
1
2
3
5
6
6
6
8
9
10
13
IATAおよび国連専門機関のICAO
(International Civil Aviation
Organization、国際民間航空機関)を総
合的な調整の場として、世界で多くの関
連機関が航空機の燃料効率向上およびGHG排出量の削減を目指し、導入が不可欠な再生
可能ジェット燃料の商業化および安定供給の確保に積極的に取組んでいる。
今回のJPECレポートでは、航空業界の地球温暖化への取組みと再生可能ジェット燃料
への取組状況に関して2回に分けて取り上げる。前編では、航空業界のGHG削減への取
組み状況、航空ジェット燃料の規格および主要航空会社の取組み状況に関して取上げる。
後編では、バイオジェット燃料の製造ならびに供給体制状況を報告する。なお、GHG削
減率は、特に断らない限り石油系ジェット燃料との対比である。
1. 航空業界の GHG 削減への取組状況
1-1 ジェット燃料の需要
米国エネルギー省(DOE)エネルギー情報局(EIA)のデータから、主要 10 ヶ国と
地域別の 2009 年から 4 年間のジェット燃料使用量の推移を表 1 に示す。
EIA のデータでは、2012 年 米国が世界の約 26%と圧倒的に多くのジェット燃料を使
用している。同年の欧州連合(EU)28 ヶ国の使用量合計は、約 113 万 BPD であり米国
1
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一国より少ない。地域的にみるとアジア・オセアニア地域の消費量の伸びが大きく、中南
米地域も伸率としては大きい。
2013 年 日本でのジェット燃料使用量は、約 22.5 万 BPD で前年からの伸率は約 11%
増である。なお、国土交通省の航空輸送年報の統計資料から、日本での国内籍機の使用量
(約 10.9BPD)を上回る。
表 1 主要国と地域別のジェット燃料使用量 (単位:万 BPD)
2009 年
主
要
国
別
地
域
別
日本
アメリカ
中国
ロシア
英国
ドイツ
フランス
シンガポール
ブラジル
オーストラリア
北米
中南米
欧州
アジア・オセアニア
ユーラシア
中東
アフリカ
世界計
2010 年
19.8
139.3
29.2
22.7
24.9
18.8
14.1
10.4
6.0
10.8
153.7
20.2
114.5
132.2
28.5
26.9
20.2
496.2
20.2
143.2
34.8
24.2
24.0
18.4
14.2
11.7
11.4
11.8
157.9
26.3
112.7
144.1
32.5
28.1
19.2
520.7
2011 年
19.5
142.5
35.4
27.2
25.0
17.7
15.1
12.6
12.0
12.0
157.5
27.4
115.4
150.0
34.8
28.5
19.2
532.8
2012 年
20.2
139.8
38.8
38.0
24.2
18.7
14.6
14.0
12.6
12.5
155.0
29.6
112.7
158.4
35.4
31.3
19.4
541.8
1-2 IATA の目標と戦略
IATAは、世界の航空会社の83%(約260社)が加入している国際航空運送事業に係る
企業の業界団体である。IATAでは、環境保全対策への世界的気運の高まりを受けて、2005
年に環境委員会を立ち上げ積極的な取組みを行って来ている。
2007年 IATA総会で環境部門の四本柱の戦略を採択し、多面的なアプローチを進めて
いる。また、この戦略は同年ICAOの総会にも報告され、航空業界の自主的な行動計画と
しても承認されている。
<IATA環境四本柱の戦略>
(1) 持続可能な低炭素燃料(代替燃料)の展開を含む技術革新の推進
(2) 燃料効率を高める効率的な航空機の運用
(3) 航空路、航空管制および航空インフラの整備と改善
2
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(4) 国際的枠組みによる経済的手法
2009年 IATAは、気候変動の地球規模での課題に対処するため、新環境ビジョン「Vision
for the Future」において、航空輸送での温室効果ガスの1つであるCO2排出量軽減に向
け野心的な下記3項目の環境目標を宣言している。
<IATA環境目標>
(1) 2009年から2020年の間、平均年1.5%の燃料効率改善を行う
(2) 2020年までに航空業界の実質CO2排出量の上限を設定し、Carbon Neutral
Growth(炭素中立成長)を実現する(CNG 2020)
(3) 2050年までに2005年対比、航空業界の実質CO2排出量を50%削減する
具体的な推進にはIATAの他に、世界の航空産業に係る主要企業や業界団体が一堂に会
することが出来る世界で唯一の組織であるATAG(Air Transport Action Group、スイス)
が関与している。2020年を目標とする具体的行動計画として、IATAがCO2削減ロードマ
ップを作成した(図1参照)。
図1 航空業界のCO2削減ロードマップ(出典:IATA 2012年11月資料)
1-3 IATAの代替燃料への取組
IATAの戦略の「技術の革新」の具体的手段には、機材の更新(含む新軽量複合材料)、
航空タービンエンジンの改良、新管制と航空インフラの整備、省エネ運航および持続可
能な代替燃料の導入などが含まれている。
航空機用代替燃料の検討に関しては、CO2削減の観点から業界ではバイオ燃料が唯一
の選択肢と考え取組みを行ってきている。航空バイオ燃料への初期の取組みとして、2008
3
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年2月~2009年1月の1年間に、Boeing社を中核とした様々な試験飛行が行われ、試験成
果は航空機用代替燃料の規格承認のため基礎データとして使用された(表2参照)。
表2 航空バイオ燃料の飛行試験
試験時期
航空会社
使用バイオ原料
混合比率
2008 年 2 月
2009 年 1 月
Virgin Atlantic
Air New Zealand
Continental Airlines
20%
50%
50%
2009 年 1 月
日本航空
ココナッツ、ババス
ジャトロファ
ジャトロファ
カメリナ、藻類
ジャトロファ
協力企業
GE 他
Rolls-Royce、UOP 他
Sapphire Energy、UOP 他
50%
Pratt & Whitney、UOP 他
2008 年 12 月
その後も民間航空会社では、様々なテスト飛行やデモ飛行が行われた。2014年1月時点
で1,500フライト以上が混合燃料(石油系ジェット燃料とバイオ由来ジェット燃料)を使
用したと報告されている。その結果、2011年 ASTM(米国材料試験協会、2001年より
ASTM Internationalに名称変更)よりバイオ航空燃料の使用が承認された。
また、
米空軍および米海軍でも、2010年~2011年に掛けて軍用機
(A-10、
F/A-18、
C-17、
F-15、F-22、F-16、MH-60S、T-45)を使用して、様々なバイオ由来ジェット燃料を用
いたテスト飛行を実施している。
次世代型バイオジェット燃料単独では、
従来使用されている石油系ジェット燃料と比較
するとCO2発生量を最大で80%削減できる可能性があり、環境対策に非常に大きな役割を
果たすと位置付けられている。
IATAの代替燃料分野での主要な役割としては、持続可能な再生可能航空ジェット燃料
の商業化があげられる。特にバイオジェット燃料に関しては、中長期的に在来型のジェッ
ト燃料に対し価格競争力があり、かつ安定供給可能な燃料調達を追求することである。
2013年 IATAでは、「Sustainable Alternative Aviation Fuels Strategy、持続可能な
代替航空燃料戦略」を作成して、今後のCO2排出量の削減と代替燃料開発の取組みを行
っている。また、IATAでは、代替航空燃料分野での開発の進捗状況を「IATA Alternative
Fuels Report」を毎年発行し、最新の状況を関係者に報告している。
最近の次世代航空燃料に関するイニシアティブ、プロジェクトおよび航空会社の取組
み状況について、2014年 IATAの同報告書において報告されている(図2参照)。
2014年5月日本では、INAF(Initiatives for Next Generation Aviation Fuels、次世
代航空機燃料イニシアティブ)が発足した。同組織の中核構成メンバーは、東京大学、
Boeing、日本航空、日本貨物航空、成田国際空港会社、石油資源開発および経済産業省
など産官学46組織で構成されている。INAFは、2020年までに代替航空燃料のサプライ
チェーン(原料調達、製造および供給体制)の確立について6種の原料毎にロードマップ
を策定している。
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図 2 IATA に関連する世界の代替燃料への取組み状況(出典:IATA)
1-4 その他の世界的な取組状況
世界的にはICAOの働きかけもあり、航空業界に関連する多くの組織が情報の共有化や
地域毎の課題を解決するための組織を作り、相互に絡み合った組織構成になっている。主
な組織を記載する。
バイオ燃料の持続可能性の第三者認証基準の作成に関しては、生産者、企業、政府関係
者、国際機関が集まり円卓会議(RSB、Roundtable on Sustainable Biomaterials)が2007
年に結成されている。
結成当初は、
持続可能な輸送用液体バイオ燃料を対象にしていたが、
2013年 バイオマスを原料とする幅広いバイオマテリアルに対象範囲を拡大している。
航空バイオ燃料のユーザー団体としては、SAFUG(Sustainable Aviation Fuel User’s
Group)があり、持続可能なジェット燃料の導入推進を図っている。なお、SAFUGには、
日本航空および全日本空輸も傘下している。
米国では、2006年からCAAFI(Commercial Aviation Alternative Fuels Initiative)が
官民一体の組織として活動しており、代替燃料の使用促進による航空産業のエネルギー安
5
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全保障と環境維持の強化に取り組んでいる。
2014年5月 米国政府監察院(GAO、Government Accountability Office)は、連邦政
府の活動報告書「Alternative Jet Fuels」を出している。このレポートによれば、2012年
度に米国連邦航空局(FAA:Federal Aviation Administration)は「2018年から米国内
で、民需と軍需を合わせた代替ジェット燃料使用量を年間1億ガロン(約38万kℓ )とする」
目標を設定し、代替燃料の商業生産の強化を図っている。この量は、同年のジェット燃料
需要予測の約5%に相当する。
欧州では、ITAKA(Initiative Towards Sustainable Kerosene for Aviation)が代表的
機関で、EUからの補助を受け欧州での再生可能航空燃料の商業化と使用をサポートして
いる。同機関には、再生可能ジェット燃料の原料から製品供給までに係る多数の会社が参
加している。2020年までに年間200万トン(約250万kℓ )の再生可能ジェット燃料を欧州
内の空港に納入することをゴールとしている。
Boeing社は、2016年までに世界中で消費されるジェット燃料需要量の1%相当となる6
億ガロン(約230万kℓ )を持続可能なバイオ燃料で賄うことを目標としている。同社は、
目標達成のため世界各地でのバイオ燃料導入促進団体で推進役として活動している。
2 再生可能航空燃料の概要
2-1 代替ジェット燃料への要求事項
IATAが求める石油系ジェット燃料の代替燃料開発に関しては、現在は持続可能でカー
ボンフットプリント(CFP、Carbon Footprint of Products)が小さいものが求められて
いる。CFPとは、商品やサービスに関して原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの
ライフサイクル全体を通して、排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して、商品
やサービスごとに分かり易く表示する仕組みのことである。
持続可能な代替ジェット燃料に関する要求事項を下記する。
① ドロップイン燃料:石油系ジェット燃料と同様の性状を有し、航空機への混合使
用が可能で、既存の燃料供給設備が利用でき、航空機やエンジンの改良およびイ
ンフラの変更が不要な燃料である
② 石油系在来型ジェット燃料と同じ要求仕様を満足し、特に低流動点(Jet A:-40℃、
Jet A-1:-47℃)と発熱量(最低42.8 MJ/kg)が必要である
2-2 ASTMの航空ジェット燃料規格
ASTM Internationalでは、航空ジェット燃料に関して下記の品質標準を作成して要求仕
様を定めている(表3参照)。
6
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○従来のジェット燃料:民間航空機用はASTM D1655で規定。
D1655:Specification for Aviation Turbine Fuels、日本ではJet A-1に相当
○代替ジェット燃料(含む合成炭化水素):2009年からASTM D7566で規定。
D7566:Specification for Aviation Turbine Fuel Containing Synthesized Hydrocarbons
代替ジェット燃料(含むバイオ燃料)に求められる重要な点は、飛行時に安全上および
技術的問題を生じないことである。
表3 ジェット燃料のASTM規格一覧表
D1655
D7566
D7566
FT-SPK
D7566
HEFA-SPK
全酸価 mgKOH/g
0.10 以下
同左
0.015 以下
0.015 以下
芳香族炭化水素分 vol%
25.0 以下
8 以上
0.0030 以下
同左
0.30 以下
同左
0.0015 以下
0.0015 以下
10%留出温度 ℃
205 以下
同左
同左
同左
終点 ℃
300 以下
同左
同左
同左
ASTM 規格
wt%
メルカプタンイオウ分
全イオウ分 wt%
蒸留点
10~50%留出温度差 ℃
15 以上
10~90%留出温度差 ℃
40 以上
22 以下
22 以下
蒸留残油量 vol%
1.5 以下
同左
同左
同左
蒸留減失量 vol%
1.5 以下
同左
同左
同左
38 以上
同左
同左
同左
0.730~
0.770
-40 以下
0.730~
0.770
-40 以下
引火点 ℃
析出点 ℃
0.775~
0.840
-47 以下
動粘度 (-20℃) mm2/sec
8.0 以下
同左
42.8 以上
同左
25 以上
同左
煙点
+ナフタレン分 vol%
18 以上
+3.0 以下
同左
試験温度 ℃
260 以上
同左
325 以下
325 以下
25 以下
同左
同左
同左
3 未満
同左
同左
同左
15 以下
15 以下
密度 (15℃) g/cm3
真発熱量
MJ/kg
煙点
燃焼特性
熱安定度
圧力差
mmHg
管堆積物
環状パラフィン wt%
同左
同左
脂肪酸メチルエステル ppm
C 分+H 分
5 未満
wt%
99.5 以上
(注意)2-3項にて詳細記載
7
99.5 以上
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ジェット燃料油規格として、ASTM D7566に準拠して製造された燃料は、同D1655の要
件を満たすものと規定されている。ASTM D7566策定に当っては、米国の航空産業の多数
の機関が加入しているCAAFI(Commercial Aviation Alternative Fuels Initiative) が支
援している。なお、日本のJIS規格も、ASTMの規格に準拠している。
2-3 ドロップイン型バイオジェット燃料
ドロップイン型のジェット燃料とは、航空機、エンジンおよび給油設備に何ら改修する
ことなく、従来の石油系ジェット燃料と混合使用できる燃料である。この燃料は、航空機
の改修に費用と時間を省くことができる為、航空業界が導入を望んでいる燃料である。現
在、従来型燃料への混合が認められているドロップイン型のバイオジェット燃料は、下記
の通りである。
① Fischer-Tropsch(FT) based on biomass (BTL FT-SPK)
FT合成ジェット燃料は、
ASTM D7566 Annex1において2009年に規格が承認済み
であり、50%混合まで認証されている。原料は、各種バイオマスであり、製造さ
れるBTL(Biomass to Liquid)燃料は、大きなGHG削減効果が得られる。現在
承認を受けているバイオマス原料は、木質系(セルロース系)バイオマス、都市
ゴミ、農業残渣および林業残渣である。
製造方法は、バイオマスを熱分解などで前処理して合成ガス(主に一酸化炭素と
水素)を製造する。得られた合成ガスをF-T合成反応処理することにより製造さ
れた合成油は、SPK(Synthesized Paraffinic Kerosene)またはFT-SPKと呼ば
れる。
② Hydroprocessed Esters and Fatty Acids(HEFA、Bio- SPK)
HEFAは、幅広い植物油などの水素化処理により製造される合成パラフィン系ケ
ロシンである。HEFAは、ASTM D7566 Annex2において、2011年7月に規格が
承認されて50%までの混合が認められている。現在承認を受けている原料は、ジ
ャトロファ、カメリナなどの非食用植物油、食品業界からの廃棄食物、植物油精
製時の副生物および微細藻類油である。
製造方法は、前記原料を水素化精製することにより主にバイオディーゼル燃料が
得られる。更に水素化分解により軽質化し分留することで、同燃料留分の収率を
増加させることが一般的である。HEFAは、Bio-SPKとも呼ばれる。
追加認証に当っては、新たに熱安定性、蒸留範囲、微量成分量などの項目が追加
された。さらに50/50混合品に関して、潤滑性、蒸留範囲、組成などの要求が追加
された。UOP社のカメリナ原料SPKのデータを次頁に別表に記す(表4参照)。
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表4 ジェット燃料規格の主要項目とSPKの性状例
規格
JET A-1
ASTM 規格
JIS 規格
英国規格
芳香族炭化水素分 vol%
全イオウ分 wt%
メルカプタンイオウ分 wt%
ASTM D-1655
JIS K2209-1991-1
DEF STAN 91-91
25.0 以下
0.30 以下
0.0030 以下
10%留出 205.0 以下
終点 300 以下
38.0 以上
210 以上
0.7750~0.8400
-47 以下
8.000 以下
42.80 以上
25.0 以上 or19.0 以上
蒸留点 ℃
引火点 ℃
発火点 ℃
密度(15℃)g/cm3
析出点 ℃
動粘度(-20℃) mm2/sec
真発熱量 MJ/kg
煙点
熱安定度
圧力差 (260℃)mmHg
配管堆積物
25 以下
3 未満
カメリナ原料
SPK
0.3 未満
0.001 未満
163
242
42.0
0.753
-63.5
3.33
44.0
0.0
1 未満
③ Synthesized Iso-Paraffinic Fuel(SIP)
SIPは、Amyris(米)とTotalの共同開発による技術で、サトウキビなどを原料
に変性酵素と微生物を用いて発酵により得られたFarnesene(C15H24)を水素処
理して、再生可能ジェット燃料Farnesane(C15H30)を製造する。DSHC(Direct
Sugar to Hydrocarbon)とも呼ばれており、2014年6月に規格がASTM D7566
Annex3 に追加された。同燃料の最大混合率は、10%に制限されている。
原料は、発酵可能な糖類で、セルロース系バイオマスやサトウキビの圧搾残渣の
バガスなどである。SIPのGHG削減率は、50%以上で最大80%と報告されている。
2-4 バイオジェット燃料の追加認証
欧州では2009年に発効した再生可能エネルギー指令により再生可能エネルギー使用量
の達成目標が設定されており、HEFAの基材となる脂肪酸メチルエステル(FAME)がデ
ィーゼル油に混合使用されている。
2011年7月 FAMEの水素化処理製品であるHEFAがジェット燃料油の混合部材として
承認されたが、HEFAジェット燃料油の価格は欧州でのバイオディーゼル需要やパーム油
などの天然植物油の価格に連動する可能性が大きいため、より安い原料からの代替燃料製
9
JPEC レポート
造が望まれている。
2014年6月 SIPのASTM承認後、ASTMではHydrogenated Pyrolysis Oils(HPO)と
ATJ(Alcohol to Jet Fuel)に関して認証の検討を行っている。
3. 主要航空会社の取組状況
2011年7月 植物油や廃油脂の水素化精製により製造される合成パラフィン系ケロシ
ン(SPK、Synthesized Paraffinic Kerosene)がASTMに民間機用航空ジェット燃料の
50%ブレンド基材として認証(ASTM D7566 Annex2)された。これにより、世界各国
でバイオジェット燃料の使用は加速している。
IATAの報告によれば、2014年末時点で21の航空会社が商業運航にバイオジェット燃
料を使用している。最近の動向としては、複数の航空会社で同燃料の長期購入契約を行
っている。以下に最近の主要航空会社における、バイオジェット燃料の導入取組み状況
を報告する。
(1) United Airlines (米国、約700機保有)
United Airlinesは、業界の中でも早い時期からバイオ燃料の導入を推進してきてお
り、2009年 藻類由来のジェット燃料を使用して米国初の旅客便を運航した。翌2010
年 バイオ燃料と合成燃料による米国初のデモフライトを、さらに2011年には、米国
初の非食物由来のジェット燃料による商用便の運航実施し、米国でのバイオ燃料導入
の牽引役となっている。
また、2012年 United Airlinesは、航空機用バイオ燃料の開発を推進するMASBI
(Midwest Aviation Sustainable Biofuels Initiative )を設立している。MASBIの
中核構成メンバーは、同社、Boeing、Chicago Department of Aviation、Clean Energy
TrustおよびHoneywell’s UOPであり、航空燃料の供給者やバイオ燃料の生産・供給
者を含めて航空業界に係る30社以上が参加している。
2013年 United Airlinesは、米国の航空会社として初めて商業規模での代替燃料の
購入を発表した。2009年からAltAir Fuels Refinery(米国)と提携しており、2013
年 同社は、バイオ燃料を通常燃料に30~40%混合したジェット燃料を、今後3年間に
1,500万米ガロン(約5.7万kℓ )購入する契約をAltAirと締結しており、2015年の第2
四半期からBoeing 757に使用する予定である。
2015年7月 United Airlinesは、Fulcrum BioEnergy(米国)に出資し、1.8億米ガロ
ン/年分(68万kℓ/年)をFulcrum社と共同で開発することに合意した。またUnited Airlines
は、Fulcrum社から都市ゴミ由来の持続可能燃料 9,000万米ガロン/年(34万kℓ/年)を石
10
JPEC レポート
油系ジェット燃料と競合できる価格で10年間購入することを協議している。
(2) Southwest Airlines (米国、約 680 機保有)
2014年9月 Southwest Airlines は、Red Rock Biofuels(米国)から年間約300万
米ガロン(約1.1万kℓ )の低炭素再生可能ジェット燃料(FT-SPK)を購入する契約
を締結した。同社では、2016年からの使用開始予定である。
(3) Cathay Pacific Airways(香港、約150機保有)
2014年8月 Cathay Pacific Airwaysは、Fulcrum BioEnergy(米国)への出資を発
表した。
更に同社は、
現在の航空燃料使用量の約2%に相当する3億7,500万米ガロン
(約
142万kℓ 、10年分の使用量相当)の長期購入契約を締結した。また、2015年3月
Dragonair(同社グループ)が、廃調理油由来のバイオ燃料50%ブレンドを使用して
Airbus A330にてデモ飛行を実施した。
(4) Air France(フランス、約400機保有)
2011年 Air Franceは、HEFAが承認されたのを受けて、HEFA BioKeroseneを
使用開始している。使用燃料としては、再生可能航空バイオ燃料と石油系ジェット
燃料との50%ブレンド品である。使用したバイオ燃料は、廃調理油を原料としたも
のである。
Air Franceは、2014年10月~2015年9月の1年間、国内線で週一回バイオ燃料を
使用したフライトを実施中である。このフライトは、航空機業界の今後の開発デー
タ採取のデモ飛行の位置付けでもある。使用している燃料は、サトウキビ由来のバ
イオ燃料をジェット燃料に10%混合したものである。なお、燃料はSkyNRG(オラ
ンダ)が供給したもので、バイオ燃料製造はNeste Oil(フィンランド)が実施して
いる。
(5) KLMオランダ航空(オランダ、約110機保有)
2012年 KLMは、「KLM Corporate Biofuel Programme」を開始し、2013年3月
SkyNRGより供給されたバイオジェット燃料を使用して、国際線で週1便 Bowing
777を利用して商業飛行を実施している。
2014年5月 KLMは、SkyNRGより供給されたバイオジェット燃料を使用して、国
際線で 6ケ月間に渡り延べ20便 Airbus A330を利用して商業飛行を実施している。
なお、Air FranceとKLMオランダ航空は、2004年 経営統合されAir France-KLM
として現在共同運営されている。
11
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(6) British Airways(英国、約270機保有)
British Airwaysは、Solena Fuels (米国)が推進する「GreenSky London」プ
ロジェクトにパートナーとして参加している。2017年からSolena社が生産するジェ
ット燃料基材全量の年間5万トン(ロンドンHeathrow空港の使用量の2%に相当)
を購入する予定である(図3参照)。
(7) Lufthansa航空(ドイツ、約280機保有)
Lufthansa航空は、2011年7月からNeste Oilの航空燃料をAirbus A321の商業飛
行に使用している。当初国内線1日4便で、片側のエンジンに50%バイオ燃料混合燃
料を用いた。2011年の6ヶ月間で、約1,200便の次世代航空ジェット燃料を使用して
商業飛行を実施し、エンジンなどに与える長期的な影響を調査した。
2015年1月 同社は、Statoil Aviation(ノルウェー) との間で、2015年3月から1
年間、BioKerosene(ASTM承認済) 250万米ガロン(約9,500kℓ )をOslo空港(ノ
ルウェー)に納入する契約を締結した。なお、このバイオジェット燃料は、同社グ
ループ各社で使用される予定である。
(8) Qantas Airways(オーストラリア、約210機保有)
Qantas Airwaysは、2013年にShell Australiaと共同で再生可能ジェット燃料の
検討を実施した。
豪州内では、安価なHEFAの原料となる天然植物油は数量が少ない
ため、藻類由来油および同国北部で栽培されているポンガミア(Pongamia、非食
用マメ科植物)を原料としてのバイオ燃料研究内容を報告している。なお、ポンガ
ミアの実は油分が40%有り、1haの面積で生産されるバイオディーゼルは5トン/年
で、パーム油(食用油)と同等だと報じられている。
(9) Virgin Australia(オーストラリア、約80機保有)
Virgin Australia は、同国内の複数のバイオ燃料会社と共同開発の覚書を締結し
開発を支援している。原料としては、サトウキビ、ポンガミア、藻類などが検討対
象となっている。
(10) 日本航空(約220機保有)、全日本空輸(約230機保有)、日本貨物航空(13機保有)
2009年1月 日本航空はBoeing 747を、2012年4月 全日本空輸はBoeing 787を、
2012年7月 日本貨物航空はBoeing 747を使用して、バイオ燃料を用いたデモ飛行を
実施している。
日本航空と全日本空輸は、2008年9月設立の国際的な持続可能な航空燃料のユー
ザーグループであるSAFUG(Sustainable Aviation Fuel Users Group) の一員と
して活動中である。また日本国内では、産官学46組織の航空関連企業が集まって作
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JPEC レポート
られた次世代航空機燃料イニシアティブ(INAF) において、日本における次世代
航空燃料の導入に関するロードマップが2015年7月に報告された。
2015年7月 日本政府と日本航空や全日本空輸などの業界団体と官民協議会を設
立した。次世代バイオジェット燃料の生産、貯蔵ならびに供給体制を2020年の東京
オリンピック・パラリンピック開催までに整備ことが期待されている。
(11) Alaska Airlines(米、約120機保有)
2015年5月 Alaska Airlines は、Gevo社よりATJ(Alcohol-to-Jet)燃料を購入
した。デモ飛行は、ATJ 燃料がASTMの承認を受けた後になるため2015年後半予
定である。なお、ATJ 燃料については、後編の5-4にて詳細を報告する。
(12) Etihad Airways(UAE、約100機保有)
2014年1月 Etihad Airwaysは、自国産の塩生植物由来のバイオ燃料を使用して
デモ飛行を実施した。この開発には、Masdar技術研究所(アブダビ)を中心Boeing
およびUOPがSBRC(Sustainable Bioenergy Research Consortium)を作り検
討を行っている。
(13) GOL Airlines(ブラジル、約120機保有)
2014年初頭 GOL Airlines は、サッカーワールドカップ期間にBoeing 737に
Amyris製 SIP(Synthesized Iso-Paraffinic)
燃料を用いてテスト飛行を実施した。
(14) LAN Airlines(コロンビア、約150機保有)
2013年8月 LAN Airlines は、Gevoのナタネ原料のバイオ燃料を33%混合した
ジェット燃料を使用してテスト飛行を実施した。
4. 前編まとめ
世界のCO2排出量の約2%を占める航空業界の温室効果ガス(GHG)削減対策は、IATA
およびICAOが目標と戦略を明確にして取り組みが進んでいる。
航空業界の目標であるCarbon Neutral Growth(CNG2020)やCO2削減の取組みは、再
生可能ジェット燃料、特にバイオジェット燃料の導入使用が必須である。しかしながら、
原料の安定調達面、製造面、供給面および価格面などの各種課題もあり、本格的な使用開
始はこれからである。
既にASTMでは、商業運航で使用するバイオジェット燃料規格(ドロップイン型)を作
成し、すでに3分類を認証している。同燃料を製造するメーカー各社も、更なる種類の追
加認証取得に向けて取組んでいる。
なお、新たな燃料のASTM承認取得には、ドロップイン型燃料としての安全性データ採
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JPEC レポート
取時に使用される、大量のテスト用燃料を準備する必要がある。その為、航空機メーカー
および関連業界(バイオ燃料推進団体や各国政府機関)の支援など、幅広い普及推進の取
組みが行われている。
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本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、
分析したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは
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次回のJPECレポート(2015年度 第10回)は「航空業界の再生可能ジェット燃料への取
組状況(2)」を予定しています。
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