新たな状況における中国のエネルギー動向

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レポ
ポー
ートト
第 29 回
2014 年度
平成 27 年 3 月 4 日
新たな状況における中国のエネルギー動向
1. 劇的に変化する状況
1.1. 中国経済-急成長の終焉
世界経済の変化に加え、原油価格の大幅な下
落等、世界エネルギー市場は新しい展開を迎え
ている。中国経済の数十年にわたる成長は鈍化
し始めている。
1. 劇的に変化する状況 ·················· 1
2. 変化する状況に対する
エネルギー政策の傾向 ··············· 3
3. エネルギー需要伸び率の減速······ 5
4. 展望 ········································ 7
5. まとめ ··································· 11
図 1 に示すように、
中国の 2009 年におけ
る GDP 成長率は、
2007
年のピーク時における
14%のちょうど半分と
なった。中国政府によ
る 4 兆元の投資という
大規模な救済策は、短
期的には経済成長率を
支える助けとなったも
のの、経済成長の鈍化
図 1 中国の GDP 成長率
を止めることはできな
かった。2014 年初めから、GDP 成長率は 7~7.5%の水準で推移している。
経済が緩やかな成長という新たなステージに入るにつれて、中国政府は投資に大きく依
存する従来の成長モードをあきらめつつある。それにかわり、微調整や、小規模で指向性
のある刺激策、根本的な改革といった、新しい政策構想を採用しつつある。しかしながら、
地方債務や高いレバレッジ、不動産バブル、デフレの脅威などといった、経済の潜在的な
リスクは依然として残っている。状況がさらに悪化すれば、政府は困窮した地方や部門を
支援するため、緩和政策に回帰せざるを得なくなるであろう。
1.2. 環境圧力
中国は、経済の拡大と世界の生産拠点としての働きの代償として、重大な環境問題に直
面している。深刻な大気汚染によるスモッグは国土の大半を覆って、経済活動や人々の日
常生活へ影響を与えている。
1
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主な大気汚染物質である PM2.5 及び PM10、NO2、SO2、CO、オゾンに関して国の環境
保護機関が収集したデータを表 1 に示す。多くの地域、特に開発の進んだ北京-天津-河
北地域、揚子江デルタ、珠江デルタにおいて、主な大気汚染物質の排出量が国の規制基準
をはるかに上回っていることが明らかになった。スモッグの原因となる大気中の主な大気
汚染物質である PM2.5 は、国家環境大気質基準をほとんど満たしていない(表 1 参照)
。
表 1 中国の先進開発地域における大気汚染(2014 年上半期)
地域
北京-天津-
河北地域
揚子江デルタ
大気汚染状況
PM2.5
100
68
PM10
174
102
NO2
51
41
SO2
63
26
CO
3.5
1.7
163
159
オゾン
国家環境大気質基準の適合率
PM2.5
0%
4.0%
PM10
0%
8.0%
NO2
23.1%
40.0%
SO2
53.9%
100%
CO
46.2%
100%
61.6%
84.0%
オゾン
3
3
単位:CO は mg/m 、その他はμg/ m
珠江デルタ
全国平均
44
63
42
18
1.6
133
70
115
44
36
2.2
142
9%
55.6%
84.0%
100%
100%
44.4%
4.1%
14.9%
29.2%
86.5%
86.5%
77.0%
データの出典:国家環境保護総局
最大のエネルギー消費国・CO2 排出国である中国は、気候変動に対する存在感を増して
いる。グローバル・カーボン・プロジェクトの報告書では、中国は 2013 年、世界の CO2
排出量の 30%近くを占め、米国とヨーロッパの合計よりも多いことが示された。さらに、
世界の CO2 排出量の増加量において、世界の中の中国の存在はより大きなものであった。
2015 年にパリで開催される気候変動サミットに向けて、気候変動に関する関心と議論はか
つてなく高まっていくだろう。
1.3. 原油価格の急落
需要の減少およびシェール革命による供給の急増等、各種要因が影響した結果、原油価
格はわずか数か月の間に 40%以上押し下げられた。2015 年に向けて、この傾向は続く模様
である。世界のエネルギー市場と地政学に根本的な変化が起ころうとしており、その影響
は大規模かつ広範に及び、中国も例外ではない。原油価格の下落は中国経済及び国内消費
者に恩恵をもたらしている。
国内の石油製品価格は昨年 7 月以来 10 回にわたって調整が行
われた。その一方で、中国のエネルギー及び環境に関する動向に、多大な影響と課題が表
れている。
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2. 変化する状況に対するエネルギー政策の傾向
2.1. 総合的なエネルギー戦略の策定
新しい状況は、中国の経済やエネルギー、環境に関する一連の戦略調整や政策変更、さ
らにその影響を受ける行動に拍車をかけている。2014 年は、中国において総合的なエネル
ギー・環境戦略が確立された。その戦略は、長期的な視点に立ち、大胆な提案がなされ、
より実際的な手法が取られている。
2014 年 9 月にニューヨークで開催された国連気候変動サミットで、中国政府は GDP あ
たりのエネルギー消費量とCO2 排出量を2020 年までに2005 年比で40~45%削減すること
を表明した。11 月 12 日に北京で開催された APEC サミットでは、中国政府は米国との共
同声明で、2030 年までに CO2 排出総量に制限をかけると発表した。11 月 19 日には、中国
国務院が「国家エネルギー開発戦略行動計画 2014~2020」を承認した。これらのことと、
国家第 13 次エネルギー5 か年計画(2016~2020)の一般指針及び枠組みによって、中国の
エネルギー戦略と政策の全般的性格と方向性がまとめられた。
こうして確立された政策には、
「環境保全・クリーン・安全」という明確な原則と、最優
先課題としての省エネルギーの基本指針、
国産資源を中心とした低炭素でクリーンな開発、
制度の刷新と根本的な改革といった方向性が与えられた。
2.2. 環境保護に関する喫緊の課題
汚染物質の規制と削減は今や中国の最優先課題であり、
法規制や政府の政策、
工業基準、
市場活動、消費行動に変化が生じている。中国の環境保護法が 1989 年に公布されて以来、
状況の変化に伴い、多くの規定が時代にそぐわなくなった。だが、より厳しい条項が含ま
れた改定案の施行は、
深刻なスモッグが発生するまで、
長年にわたって実現できずにいた。
改定された環境保護法は 2014 年 5 月、議会で承認された。汚染物質の監視及び規制、違反
者への刑罰、行政上の説明責任、公的な監督に関する厳格な項目が数多く追加された。後
に大気汚染防止法も改定され、新たに PM2.5 の規制及び削減、大気汚染に対する地域の共
同行動に関する項目が追加された。
2014 年 9 月、中国国務院は大気汚染規制と削減に関する行動計画を発表した。この計画
では、全ての主要都市において、PM2.5 の監視及び、重度汚染気象早期警報のシステムを
確立することが求められ、また、都市の大気質ランキングが定期的に発表されることにな
る。さらに、PM2.5 濃度を、北京-天津-河北地域では 25%、揚子江デルタでは 20%、珠
江デルタでは 15%、その他の大都市では 10%低下させることが求められている。
2.3. 経済成長モデルの転換
中国は、経済成長と社会の発展モデルを改めるという課題に直面している。工業化の面
では、急速な経済成長を支えきた重化学工業の成長が鈍化を始めている。資源型・エネル
ギー集約型・高汚染型産業への参入及び拡大への認可が厳格化され、鉄鋼、セメント、ガ
ラス、電解アルミニウム等における老朽化した設備能力を削減する努力が強化される。都
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市化については、
公共交通システムに高い優先順位を与えることが強調されている。
特に、
北京、上海、広州等大都市においては、自動車の保有台数が規制の対象となっている。
2.4. エネルギー消費及び炭素排出の抑制
中国は、個々の地域あるいは産業において、エネルギー消費と総エネルギー消費量の両
方を抑制し始めている。こうした規制は、関連する経済・社会・エネルギー開発の長期計
画の中で規定されている。北京-天津-河北地域、揚子江デルタ、珠江デルタでは、石炭
火力発電所の新設を完全に禁止し、
代わりにガスによる火力発電と熱供給を奨励している。
2020 年までの目標として、一次エネルギー総消費量の上限は 48 億標準炭トン(石油換算
6,760 万 BPD)
、石炭の最大消費量は 42 億トンで総エネルギー消費量の 62%までと設定さ
れている。
石油需要を抑制・合理化するため、2014 年 11 月下旬と 12 月中旬の 2 度にわたって石油
製品の消費税が増税され、ガソリンは 40%、ディーゼル燃料は 37.5%となった。
2.5. 自動車燃料の品質向上
大気汚染の原因として、自動車燃料の品質と排ガスが指摘されたことに対応し、中国国
務院は特別会議を開催して、自動車燃料品質基準の向上を急ぐよう求めた。2014 年初から
ガソリン品質基準の「国 4」
(Euro4 自動車燃料基準に相当)が全土で施行されており、2015
年初めからは自動車用ディーゼル燃料の「国 4」基準が施行される。
「国 5」
(Euro5 相当)
ガソリン及びディーゼル燃料基準は 2018 年 1 月 1 日から実施される予定である。
北京及び
上海、江蘇省・広東省の主要都市では、先行して「国 5」自動車燃料基準を適用している。
北京は、
「国 6」燃料品質・排ガス基準の策定も検討している。
2.6. 非化石燃料・クリーン燃料の採用の加速
国家計画では、非化石燃料やクリーン燃料の開発を加速して、中国の総エネルギー供給
量に占める非化石燃料の割合を、2020 年には 15%、2030 年には 20%にすることを求めて
いる。2020 年までに、一次エネルギーの 10%を天然ガスとし、さらに、発電設備の能力は、
水力 3.5 億 kW、風力 2 億 kW、太陽光 1 億 kW、原子力 5,800 万 kW、バイオマス 3,000 万
kW、太陽熱利用 8 億 m2、地熱利用は 5,000 万標準炭トンに達する計画になっている(表 2
参照)
。
天然ガスは、大気汚染の軽減に大きな期待がかけられている。計画されている年間天然
ガス供給量 4,000 億 m3 のうち、国内の従来型ガスが 2,000 億 m3、炭層メタンとシェールガ
ス由来はそれぞれ 300 億 m3 である。
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表 2 2020 年までの中国のエネルギー目標
エネルギー消費量
一次エネルギー
十億標準炭トン
石炭
十億トン
総一次エネルギーに占める割合
石炭
非化石エネルギー
天然ガス
-非化石エネルギーの発電能力
水力
百万 kw
風力
百万 kw
太陽光
百万 kw
原子力
百万 kw
バイオマス
百万 kw
太陽熱
百万 m2
地熱
百万標準炭トン
中国政府の各項計画から抽出
4.8
4.2
62%
15%
10%
350
200
100
58
30
800
50
3. エネルギー需要伸び率の減速
3.1. 工業製品生産量の不振
中国では、経済の落ち込みによりエネルギー需要の伸び率も低下しており、2014 年初め
から、より顕著になっている。収束しつつある市場需要を反映して、エネルギー集約型の
工業原料及び製品のいくつかが、生産量の不振に転じている。エネルギー集約型の工業製
品の大半が、2014 年以降、顕著な軟調化あるいは減少していることが、中国の統計データ
からわかる(表 3 参照)
。
表 3 中国の主要工業製品生産量の成長率
メタノール生産量の大幅な伸
びは、石炭化学製品が伸びてい
る一方、従来の消費部門におけ
る石炭需要は非常に小さくなっ
ている傾向を反映している。
2014 年
9月
-1.0%
-0.5%
0.0%
-2.2%
-6.5%
12.2%
-2.0%
-0.6%
34.0%
製品
コークス
鉄
粗鋼
セメント
ガラス
精製錬銅
アルミナ
尿素
メタノール
炭化カルシウ
4.4%
ムカーバイド
4.1%
電力
-5.5%
火力発電
国家統計局データ
5
2014 年第 1~
第 3 四半期
-0.4%
0.4%
2.3%
3.0%
3.8%
11.0%
4.8%
-2.0%
30.9%
2013 年
8.1%
6.2%
7.5%
9.6%
11.2%
13.5%
14.6%
10.1%
9.1%
10.8%
10.7%
4.4%
0.7%
7.6%
6.9%
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3.2. 最終エネルギー需要の減速
中国では近年、
経済成長率の鈍化と省エネルギー・温室効果ガス排出削減が進んだ結果、
最終エネルギー(産業部門、民生部門、運輸部門などの各部門で実際に消費されるエネル
ギー)の量需要の伸びは
次第に鈍化している。中
国における最終エネルギ
ー需要増加率は、13%に
迫っていた 2010 年のピ
ーク時から、2011 年は
9.3%、2012 年は 5.9%、
2013 年は 5.0%と鈍化し
ている。2014 年には過去
出典:3E データベース
20 年の最低値である
図 2 中国における最終エネルギー消費量
3.3%になると見込まれ
ている(図 2 参照)
。工業
生産高の低成長が主な原因である。2014 年の中国における最終エネルギーの総消費量は、
石油換算で 6,100 万 BPD(標準炭換算で 43.6 億トン)と見込まれており、これは世界の総
消費量の 23.5%に相当する
3.3. 石炭消費量の減少
2014 年の中国における総石炭消費量は 41.2 億トンと見込まれており、
過去数十年で初め
て需要が減少(-0.5%)に転じた。工業活動の不振に加えて、火力発電量の低下が総石炭
消費量減少の主因である。水力、原子力、風力発電の大幅な増大及び総電力需要の低下に
よって、火力電力の必要性が大きく低下した。水力及び原子力発電は 2014 年に 20%以上
増加すると見込まれている。主な石炭多消費産業のうち、コークス、アンモニア、ガラス
は 2014 年の生産量が減少し、鉄鋼及びセメントの生産量は微増にとどまる見込みである。
中国の一次エネルギー消費量における石炭のシェアは、
2014 年は僅かに減少して 68%以下
に、総発電量に占める石炭火力の割合も 47.4%に低下する。見込みである。
石油需要の低迷
2013 年以降、中国の石油需要増加の
伸びは鈍化傾向にあり、2014 年にはその
傾向はさらに強まった。これは主にディ
ーゼル燃料需要収束したことに起因する。
中国の総石油需要は、2014 年は 5.3 億ト
ンを上回る見込みで、2013 年に対して重
量比で 2.1%の増加、容積にしてほぼ
1,170 万 BPD、年 3.2%の増加となる。
3.4.
表 4 中国の石油製品消費量(2014 年)
消費量
製品
増加率
(千 bpd)
LPG
9,457
16.1%
2,420
11.0%
ガソリン
1,556
6.0%
ナフサ
525
8.7%
灯油
3,519
-0.2%
ディーゼル燃料
429
-1.6%
燃料油
11,686
3.2%
石油全体
出典:3E データベース
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石油製品需要は、種類ごとに伸び率が大きく異なり、ガソリンと LPG は二桁の高成長を
保ち、ジェット燃料の需要の伸び率も 10%に迫った。ガソリンとジェット燃料の需要が大
幅に伸びた理由は、自動車、旅行及び運送市場の活況にあり、ファインケミカルでの消費
が急増し、LPG 需要を急激に押し上げた。2014 年のナフサ(中国では軽質化学原料に分類)
需要の回復は限定的であった。一方で、2014 年第三四半期の後半までディーゼル燃料消費
は前年比減を続け、この結果、年間を通じても微減となった(表 4 参照)
。
3.5. 天然ガス需要は引き続き堅調
天然ガスの堅調な需要は 2014 年も続いた。都市化の進展と、環境保護のためにクリーン
な燃料が求められたためである。ガスの主な用途は、従来から引き続き、住宅、商業、公
的サービス、工業、ガスを燃料とする自動車及び船舶、都市暖房などの部門であった。し
かし、電力需要の低下とガス価格の上昇により、発電用へのガスの利用は減少し、天然ガ
ス需要の全体の伸びは減少した。2014 年の天然ガス総消費量は 1,850 億 m3(日量 178.5 億
cf)に達する見込みである。年間の需要増加率はわずかに低下して 8.8%となり、過去 10
年で初めて 10%を下回ることになる。
3.6. 低下する電力需要
2014 年の中国の電力需要はきわめて軟調であった。2014 年の総電力消費量は 3.5%増加
し 5,510 億 kWh になると見込まれる。工業界、とりわけエネルギー集約型の重化学工業に
おける需要の低下が、総電力消費量の増加率を押し下げているものの、実際に電力需要の
増加率が最も小さかったのは住宅部門であることが、2014 年の第三四半期までの統計から
明らかになった。2014 年の夏は、比較的涼しかったので空調使用量が減少し 8 月及び 9 月
の電力消費量が低下した結果、
9 月までの住宅部門における累積電力消費量はわずか 2%の
増加であった。また、段階的な電力料金の仕組みが施行されたことにより、電力需要が多
少抑制された可能性もある。
展望
2015 年は、パリで開催される世界気候変動サミットで、京都議定書を前進させる新しい
協定が成立するか否かという疑問は残るものの気候変動に決定的な影響を与える年になる
と思われる。中国自体は、環境保護の強化、省エネルギーの推進と炭素排出量の削減、さ
らにクリーンエネルギーの開発が、2015 年のメインテーマになる。
4.
原油価格は低下しているものの、
現時点でOPEC は、
原油の減産の兆候を見せていない。
さらに、世界の石油需要成長の伸びは鈍化しており、この結果、2015 年における世界の原
油価格は引き続き低迷、若しくはさらに低下する可能性もある。
4.1. 中国経済の継続的鈍化は不可避
中国経済が二桁の高成長に再び転じる事は考えにくい。中国政府が最近発表した政策的
手法は、主として内需拡大を狙ったものである。しかし、消費主導型の経済への移行には
長い時間を要し、即座に経済を刺激する効果はほとんどない。一般的に、原油価格が低い
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ことは国内の消費者と経済には有利である。2015 年におけるこのほかの新たな要素として
は、大幅な改革プログラムの実施、環境保護の取り組みの強化、汚職防止運動といったも
のがあるが、影響の大きさに差はあるものの、いずれも経済成長を鈍化させる要因になり
得る。
雇用及び社会の安定は、今後も中国政府が経済成長の鈍化にどれだけ耐えられるかを左
右する重要な鍵である。2015 年は中国経済の停滞が進むリスクが高いため、脆弱な産業や
地域、あるいは国全体を支えるために、何らかの緩和政策と刺激策が採用されることにな
るであろう。中国経済の成長率はさらに低下すると見込まれ、おそらく 2015 年には 7%を
切るであろう。
4.2. 環境保護施策の強化
2014 年は中国にとって、環境保護に関する一般的指針となる原則及び戦略を確立した年
であり、2015 年はその戦略を強化・実施する重要な年になると思われる。中国では経済の
拡張とともに、世界に台頭する勢力であるという自覚が育っている。中国は、省エネルギ
ーや温室効果ガス排出の抑制、クリーン燃料の開発において飛躍的に前進すると見込まれ
る。2015 年における環境保護の工程としては、汚染監視の完全なネットワークの構築、新
しい環境保護法の施行推進、エネルギー及び環境に関する説明責任を担保する仕組みの確
立、炭素取引市場の設立といったことが考えられる。
自動車燃料品質向上計画によると、2015 年初めからディーゼル燃料の「国 4」基準が施
行された。また、2015 年は第 12 次 5 か年計画の最終年度であり、エネルギー及び環境に
関する計画目標の達成度に対する監督と行動が強化されるととのに、
第 13 次 5 か年計画を
立案する上で重要な年でもある。中国政府による公約や、詳細な目標と手法が立案され、
実行可能な計画になっていく。これらは全て、パリで開催される気候変動サミットの開催
に先立ち、中国における環境保護の高まりにつながるものである。
4.3. エネルギー需要の伸びは鈍化
2015 年に入っても、エネルギー集約型産業は引き続き厳しい状況と見込まれる。鉄鋼部
門は引き続き不況が続きかねず、これによりコークス産業も落ち込む。不動産不況はセメ
ントとガラスにも影響を与える。何年にもわたり急成長を続けてきた非鉄金属は生産設備
の整理統合に向かい、2015 年は限定的な投資と慎重な生産の年になる見込みである。電力
インフラへの投資による銅及びアルミニウムへの追い風は限定的なものであろう。アンモ
ニアは 2015 年に比較的堅調な増加を見せる数少ない部門となる可能性がある。
潜在的な推
進要因としては、石炭火力発電所における排煙脱硝の義務付けや、ディーゼル自動車の排
ガス浄化のための自動車用尿素の大量使用といったことが考えられる。水力、原子力、風
力、その他の非化石燃料による発電の高成長は続き、石炭火力の割合は低下する。石炭を
原料とするメタノール、オイル、ガス、オレフィンは、従来の石炭消費部門と比べて引き
続き堅調ではあるが、化学製品用として消費される石炭の総量は小規模にとどまり、全体
としては、2015 年も石炭需要はわずかに減少すると見込まれる。
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2015 年における電力需要の伸び率は 2014 年をわずかに上回りそうである。産業部門に
おける電力消費量は引き続き低調であるものの、この夏も住宅部門における電力使用量は
平年と同様であろうという前提に基づいている。
自家用車及び運輸部門は、2015 年も引き続き石油需要の主たる推進役となり、かつ、原
油価格の低さも、石油消費を後押しする。LPG の工業利用も引き続き拡大するものの、消
費税の課税対象が拡大されて全ての液体燃料が対象となり、ガソリンブレンド用途も充足
しつつあるため、LPG の利用目的はプロパン脱水素装置(PDH)のような石化原料を作る
方向に傾斜している。LPG 需要の増加率は 2014 年をわずかに下回ると見込まれている。
エチレンの設備能力と生産高の増加率は、主として石炭ベースのオレフィン事業に依って
いるため、ナフサ需要の増加率も限定的と考えられる。
環境圧力が高まり、国のエネルギー戦略も確立されたことから、2015 年にかけて天然ガ
スの利用はさらに促進され、
天然ガス消費量の増加率は二桁に復帰することが見込まれる。
一方で、原油価格の低下と国内でのガス価格の上昇は、天然ガスの需要、とりわけ発電及
び自動車部門に影響が及ぶ可能性もある(表 5 参照)
エネルギー
石炭
石油
天然ガス
電力
最終エネルギー
表 5 2015 年の中国のエネルギー需要予測
2014
2015
単位
数量
増加率
数量
増加率
4.115
-0.5%
4.112
-0.1%
10 億トン
530
2.1%
545
2.8%
100 万トン
3
184.7
8.9%
208.7
13.0%
10 億 m
5.51
3.5%
5.71
3.7%
兆 kWh
61.4
3.4%
63.3
3.1%
百万 bpd
出典:3E データベース
4.4. 天然ガスの役割の広がり
急速に進む都市化や、緊急を要する大気汚染の抑制、エネルギー様式最適化の必要性と
いった要因から、天然ガスの独自の役割が次第に注目されるようになっている。エネルギ
ーと環境に関する中国の戦略及び計画では、天然ガスの貢献が不可欠とされている。今後
数年で、天然ガスの市場開放や産業構造、価格決定メカニズムを改革する打開策が見いだ
されることは、十分に予想できる。天然ガスはまた、他のエネルギー部門における大改革
を導く役割を果たすとも考えられている。
代替燃料とのリンクや段階的価格を含むガス価格の改革は、2015 年までに完了する計画
になっている。長い間延期されてきた第三次シェールガス開発権入札が実施され、パイプ
ラインの独立に関する議論も加速されると考えられる。これらすべてによって、より開放
的で競争的、かつ健全な天然ガス産業の基盤が築かれていく見込みである。
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4.5. 改革の推進
改革と共同所有操業の導入により、エネルギー部門、とりわけ大規模な国営石油企業が
成長を遂げている。CNPC は吉林石油と遼河石油を分離する準備をしており、これにより
運営が独立し、民間石油企業との合弁事業による油田開発や生産も可能となる。Sinopec
は独立した石油小売企業を設立し、株式の 30%を数十社の戦略的・産業パートナーに売却
している。CNOOC は広東省恵州市における年産 100 万トンのエチレン事業について出資
を受け付けている。
中央政府の示した決定により、2015 年には共同所有改革のさらなる推進が見込まれる。
しかしながら、固有の制度や既存の産業構造の強い抵抗を考えると本質的に何が達成され
得るのかは不確実である。一般に、国の優位や独占を構造的に改革する場合、その歩みは
緩やかで時間がかかる。2015 年に進捗する可能性があるその他の改革計画は、原油輸入許
可制度や新資源や新エネルギー開発への投資に対する民間投資のある程度の緩和である。
4.6. 深刻な設備過剰
中国経済成長の鈍化により、エネルギー部門を含めた中国の多くの産業部門で大規模な
設備過剰が生じている。採炭能力の過剰は 2014 年から深刻化している。主要な採炭業者が
2014 年半ばから産出量を 10%削減したにもかかわらず、石炭の在庫は増大を続け、石炭価
格は下降を続けている。2015 年に入っても、石炭市場の回復はほとんどなく、炭鉱の閉鎖、
合併、吸収の増加が見込まれる。
石油精製能力の過剰はさらに深刻化し、長引くであろう。中国のトッパー能力は合計で
8.4 億トン/年(1,680 万 bpd)を超え、2014 年時点で平均稼働率は 60%に低下している。燃
料品質基準の強化、より厳しい環境保護法の施行及び監督の強化といった圧力が高まって
いる。中国の石油精製部門においては、企業合併の推進が不可避と考えられる。
4.7. 地域格差
沿岸部を先行させた開放政策の副作用として、中国の各地域での経済及び社会の発展の
不均衡や、発展段階の格差が生じている。地域格差の内容としては、資源の認可、エネル
ギー様式、経済構造、国際市場との結びつき、市場メカニズムの導入度合いと利用のしや
すさ、環境意識などがある。
地域ごとに経済格差があれば、異なる政策処置が必要となる。中央政府は全般的で大規
模な景気刺激策をやめており、経済成長がごく低い水準まで急落した中国東北部では投資
中心型の救済策を導入している。少数民族が多く居住する地域では、社会の安定を目的と
して、資源依存型やエネルギー集約型の投資が今でも認められている。沿岸東部では石炭
の燃焼が厳格に規制されているため、数多くの石炭化学事業が石炭資源の豊富な省で認可
を取得している。
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JPEC レポート
地域の経済格差が原因で、エネルギー戦略及び環境政策の実施にも差がついている。た
とえば、大都市や東部の先進地域では、高度な自動車燃料品質基準の実施が比較的円滑に
徹底できているが、地方や西部各省、小規模な地方製油所を多数抱える地域では軽視され
ている。一般に、沿岸部の最も発展した地域では、市場メカニズムを重視する要望が強く、
導入もしやすい。資源の豊富な地方については、市場開放と自由参入を期待する民間投資
家の関心が高まっている。こうした地域はいずれも根本的改革プログラム実施のモデル地
区となり得る。
5. まとめ
・ 中国の経済、エネルギー及び環境は新しい発展段階に入りつつある。経済の成長の鈍
化が不可避になりつつある今、中国のエネルギー及び環境はこの先、これまでにない
課題に直面することになる。
・ 経済政策エネルギー及び環境戦略、根本的改革の施行は、既存の不合理なシステムの
存在や慣習的な利害の対立、地域格差を考えると、円滑に進むことはあり得ない。一
般に、沿岸部の発展した地域では市場重視のメカニズムに対する要望が強く、導入も
しやすい。資源の豊富な地方については、市場開放と自由参入を期待する民間投資家
の関心が高まっている。こうした地域は根本的な改革プログラム実施のモデル地区と
なる可能性を持つ。
以上
本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析
したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]
までお願いします。
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次回の JPEC レポート(2014 年度 第 30 回)は
「藻類によるバイオ燃料製造の最新状況」
を予定しています。
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