2015 年 5 月 29 日 特許権存続期間延長に関する知財高裁大合議判決について 日本ジェネリック製薬協会 知的財産研究委員会 新薬承認事項一部変更承認に関わる特許期間延長を巡って争われた知財高裁大合議判決(2014 年 5 月 30 日判決1、アバスチン事件)については、学者や法律実務家から既に多くの評釈や論考 が出され、産業界からも意見表明がされている2。現在最高裁にて審理中の同事件の帰趨はジェネ リック医薬品業界に看過できない影響を及ぼす恐れがあることから、以下に当委員会の意見を申 し述べたい。 ジェネリック医薬品の発売時期は、通常、新薬(先発医薬品)の特許権の存続期間満了時期に 照準を合わせて設定され、そこから逆算して開発が進められる。このため、ある特許権について、 それが存続期間延長の対象となるか否か、存続期間が延長されたとしてその効力範囲がどこまで 及ぶかは、ジェネリック医薬品企業にとっても極めて重要な関心事項である3。 アバスチン事件の知財高裁判決は、このうち、延長された特許権の効力範囲について、承認を 受けた医薬品の「成分(有効成分に限らない。)、用法、用量、効能、効果」によって画されると しつつも、その均等物や実質的に同一と評価される物にも及び、存続期間延長の対象となる特許 発明の範囲と延長された特許権の効力範囲とは常に一致するわけではないとして、効力範囲の外 縁を曖昧・不明確なものとした。当委員会としては、かかる法解釈について懸念を表明せざるを 得ない。 もしも、延長された特許権の効力範囲が明確にされなければ、ジェネリック医薬品の承認の可 否や承認の時期が定まらず、ジェネリック医薬品企業の経営判断を妨げ、ジェネリック医薬品の 開発・製造・販売に対する事実上の参入障壁が生じるに等しい。これは、結果的に国民のジェネ リック医薬品へのアクセスを確実に遠ざけることになる。 他方、先発医薬品企業にとっても、延長された特許権の効力範囲が不明確であることは、ジェ ネリック医薬品企業との無用な争いを避ける意味においてマイナスに作用するだけでなく、予見 性ある安定した事業展開を妨げ、ひいては新薬開発のインセンティブを享受しにくい状況に陥る 恐れもあろう。 ジェネリック医薬品は、患者の経済的負担の軽減および医療保険財政健全化の切り札の一つと して政策的に使用促進が行われており、その存在意義は大きい。特許期間延長制度の運用が、か かるジェネリック医薬品の普及を妨げ、社会保障制度の安定的持続を妨げることがあってはなら 1 平成 25 年(行ケ)第 10195 号等 2 製薬協 HP http://www.jpma.or.jp/information/intellectual/institution/pdf/150105.pdf http://www.jpma.or.jp/information/intellectual/institution/pdf/150414.pdf 3 当委員会では、従来から、一の特許につき最初の薬事承認についてのみ 1 回限りの特許期間延長を認める制度に改めるべき であるとの主張を行っている。 1 ない。 当研究委員会としては、延長された特許権の効力範囲は明確でなければならず、 薬事承認によって禁止が解除された特許発明の範囲と、延長された特許権の効力範囲と を明確に一致させること が、最も適切であると考える。 以上 2
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