本を読もう!

本を読もう!
大阪大学
仲野
徹
前総長の鷲田清一先生に、
「君は医学部の教授のくせに縦書きの本を読むのか」と冗談めか
して驚かれたことがある。たしかに、理系の割には本を読む方かもしれない。しかし、読
むといっても、たかだか年に百数十冊というところだ。これまでに読んだ本をすべてあわ
せても、5 千冊にはとどかない。
知り合いのうちで、いちばんたくさん本を読んでおられるのは、敬愛する出口治明さん(ラ
イフネット生命会長)だ。すでに二万冊を読破しておられるとかいう噂である。その出口
さん、つねづね「人間は『人から学ぶ、本から学ぶ、旅から学ぶ』以外に学ぶことはでき
ない」と言っておられる。まったく同感だ。
なかでも、いちばん手軽なのは本から学ぶことである。旅に出るには時間もお金もかかる
し、人から学ぶには良き人に巡り会わなければならない。しかし、本ならば、いつでもど
こでも手にとって学ぶことができる。それも、先人たちの智恵をなんら遠慮することなく、
自分のペースで学ぶことができるのである。
おもしろい統計が、
『検証・学歴の効用』
(浜中淳子著、勁草書房)という本に載っていた。
大学を卒業してからの人生にとって重要なのは、学歴や大学時代に得た知識そのものでな
く、自己学習ができるかどうかにかかっている、というのだ。インターネットや映像など
もあるけれど、自己学習と言えば、なんといっても読書だ。
さらにくわしく調べられていて、おおむね『読書に熱心だった人ほど、人材としての価値
が高くなる』ことが明らかになっている。ただし、マンガと趣味・娯楽書の二ジャンルに
ついては、読書量と所得との間に負の相関、すなわち、たくさん読んでいた人ほど所得が
低くなる傾向があるから、注意したほうがいい。
大学時代に学ぶ習慣を身につけた人は、その後も学び続けてキャリアアップしていける。
それだけでなく、読書の習慣も持続するというのだから、いいことづくめだ。社会人にな
ってからにくらべると、大学時代というのは、なんといっても時間的な余裕がある。その
間に、マンガや娯楽書を読むのではなく、まともな本を読んで、読書を習慣づける。それ
こそが、将来まっとうな人生を歩むため、大学生がとるべき正しい道なのである。
本を読めと言われても、何を読んだらいいのかわからない、という学生君たちも多いだろ
う。そんなとき役に立つのはよき指南役だ。この『ブックコレクション』などは絶好の読
書ガイドになっている。それに、本好きというのは、えてして、自分が読んで面白かった
本を勧めたがる。本に興味がない人には迷惑なことかもしれないが、それを利用しない手
はない。
かくいう私も、本を勧めるのが好きで、面白いノンフィクションをレビューするというグ
ループ HONZ の一員として、定期的にレビューを書いている。最近発行されたおもしろいノ
ンフィクションは、その HP(http://honz.jp/)を見るとすぐにわかるので、ぜひ覗いてみ
て欲しい。メンバーはみな読書家であるだけでなく、文章もうまいので、時にはレビュー
だけで本を読み終えたような気分になることもあるほどだ。
最初は、とっつきやすくて面白いと思える本を読めばいい。しかし、そんな本ばかりや、
新しい本、売れ筋の本だけを読んでいればいいという訳ではない。やはり、古典も読むべ
きだ。古典というのは、何十年、場合によっては何百年もの間、読み継がれてきた、すな
わち、人から人へと勧められ続けてきた本なのである。時代の試練を経た本につまらない
本があるはずがない。
古典には、難しくてちんぷんかんぷん、歯が立たないこともあるだろう。しかし、チャレ
ンジして絶対に損はない。かくいう私も偉そうなことは言えない。読みかけてギブアップ
してしまった本が何冊もある。大学に入学した時に買ったままの本もある。しかし、そう
いう本は、本棚の目につく場所に置くことにしている。そんな本の背表紙を眺めては、い
つか理解できる日が来るのではないかと夢見るだけでも、けっこう楽しかったりするので
ある。