半無限系を含む第一原理計算 First-principle

半無限系を含む第一原理計算
First-principle calculations of electronic structures of semi-infinite systems
大阪大学大学院工学研究科
佐々木孝、小野倫也、広瀬喜久治
T. Sasaki, T. Ono and K. Hirose
Graduate School of Engineering, Osaka University
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今後の躍進が期待される分野において、界面・表面・欠陥付近に局在する特異な電子状態
の評価が重要性を増している。例えば、MOS デバイスの小型化に伴い、絶縁体膜厚が数ナノ
メートルの領域に到達しているため、トンネル効果によるリーク電流の影響を調べることが
必要である。このような系について原子・電子レベルで物性をシミュレーションする上で、
電子輸送特性の計算や界面・表面付近の電子状態を計算するために固体表面のような深さ方
向に無限に続く結晶のような半無限系を正確に取り扱いたいという要請がある。第一原理計
算により電気伝導計算を行う手法は多数開発されているが、電気伝導計算を正確に行うため
には半無限に続く結晶に隣接した状態での電子状態計算が必要であるにもかかわらず、これ
までに行われてきた伝導計算ではこの影響を厳密に取り入れていない。我々は上記の独自に
開発した手法を応用して従来法では扱うことの難しかったこのような半無限に広がった結晶
表面を計算モデルに含めることを可能にした。特に半導体中に欠陥を入れた構造中の電気伝
導計算は難しいため、他の手法では真似できない独自性を持っている本手法を用いることに
よりこれまで信頼性の有る評価が難しかったデバイス中のリーク電流について正確な知見を
得られることが期待される。
本手法の有効性を確認するために、シュレディンガー方程式を解析的に解くことができる
単純な 1 次元モデルに対して本手法を適用し、結果を解析解と比較した。モデルは周期的に
無限に続く井戸型ポテンシャルにポテンシャル一定の領域が挟まれたもの用いた。本手法の
計算結果を解析解と電荷密度について比較すると、解析解と近い分布が得られ、このことに
より本手法の有効性が確認された。
この手法を用いて無限に続くシリコン電極に挟まれた酸化シリコン薄膜の電子状態計算を
行った。欠陥の影響を調べるために、欠陥の無いモデルと、境界付近の酸素原子が 1 個水素
原子で置換されたモデルを用いた。計算の結果、電極と電極間のナノストラクチャーの仕事
関数の違いにより電荷の移動が起こった。どちらのモデルにおいても電子がシリコン電極側
から間に挟まれた酸化シリコンのほうに移動し、欠陥の有る場合のほうが電子を強くひきつ
けることが分かった。