東京女子大学 建学の理念を現代に生かす リベラル・アーツ教育を展開

 ● 特集 “自らを成長させ続ける装置”を埋め込む 教養教育の現在
事例③
建学の理念を現代に生かす
リベラル・アーツ教育を展開
に関係する科目は、卒業要件の単位と
【図表】全学共通カリキュラムの概要
して認めない。1年次で全学共通カリ
東京女子大学
リベラル・スタディーズ
アカデミック・スキル科目
専門領域を越えた学習により、幅広い視
野と深い見識を養い、現代の諸問題に向
き合う判断力を身に付ける
東京女子大学での勉学を完成するうえで
必要とされる基礎学力・学習方法を修得
する
キュラムの全ての単位を修得するよう
東京女子大学は、
「専門性を持つ教養人」の育成を目標に掲げ、
キリスト教を基盤とするリベラル・アーツ教育を推進している。
その根幹を支えているのが全学共通カリキュラムだ。
キリスト教学や女性学などで構成される科目を幅広く配置することにより
大学の特色を核にした、現代的文脈における教養教育を実現している。
な履修を避ける狙いである。
女性の自己確立の必要性を強く説く
女子教育も、「リベラル・スタディー
総合教養科目
ズ」の中に位置付けた。以前から多数
開講されてきた女性学やジェンダー関
女性の生きる力
しての生き方を学ぶことも教養の一部
ところが、全学共通カリキュラムに
科目」に大きく分類(図表)。「リベラ
であると明確に示した。
よる教養教育の成果は思うように上が
ル・スタディーズ」には、視野の拡張に
「アカデミック・スキル科目」は、グ
らなかった。同大学では、以前から自
資する総合教養科目とキリスト教学科
ローバル人材育成の視点から目的を明
東京女子大学は、キリスト教に基づ
己点検評価により改革の検証を行って
目を、「アカデミック・スキル科目」に
確にした。英語の必修科目は、入学時
くリベラル・アーツ教育を標榜し、開学
いるが、その結果からは次のような問
は、大学での学問に欠かせないリテラ
と2年次末に受験したTOFEL ITPテ
人間と自然科学
人間自身を知る
人間の知的生産
人間社会の
仕組みと問題
外国語科目
域に集中させることによって、女性と
女性の
ウェルネス
演習
海外教養講座
キリスト教学科目
第一外国語 英語
第二外国語 ドイツ語・フランス語・
スペイン語・中国語・
韓国語
ギリシア語・ラテン語
コア科目
必修科目
選択必修科目
当初から教養教育に力を入れている。
題点が浮上してきた。学部統合により
シーとしての語学力や情報処理能力、
ストのスコアを比較し、学習成果を可
同大学が推進する教養教育は、専門教
科目数は増加したものの総花的で、系
日本語力などを高める科目を置いた。
視化することにより、教育改善につな
教育理念である女性の自己確立を実現し、女性の生涯を支援する女子大学としての
特色を活かした 2 領域
育に対する一般教養教育という意味合
統的な履修ができていない、自分の専
とりわけ教育の基盤であるキリスト
げている。
人間とそれを取り巻く世界を学ぶ 4 領域
いではない。小野祥子学長は「専門性
攻に近い科目だけを履修する学生や、
教学科目では、単に聖書を学ぶだけ
教員は自分の専攻の科目のみを担当
を修得するのと同時に、幅広い視野を
1年次だけで必要単位数を修得し終
ではなく、建学の歴史と建学の精神を
するのではなく、他専攻の学生も履修
生に助言するケースも増えてきた」と
分の専門に拘泥せず、新しい分野を学
持った女性を育てていく。そのこと全
える学生が多い、いわゆる楽勝科目に
織り交ぜながら講義するなど、キリス
する全学共通カリキュラムの科目も担
語る。
び始められる力でもある。ハンドブッ
体が教養であり、本学の教育全体が教
一部の学生が集中している、などだ。
ト教を身近に感じてもらうよう工夫し
当することで、自分の専門領域をわか
養教育であると考えている」と語る。
学生からも「科目名からは何が学
ている。「自分の大学の授業や環境の
りやすく、面白く伝えることにチャレン
こうした考え方を明確に示したのが
べるのか分からない」「履修したい科
ルーツを知る授業は学生からも高評
ジする。そうすることにより教員だけ
2009年度の改革である。文理学部と現
目同士が、同じ時限に開講され、どち
価を得ており学ぶ姿勢もポジティブに
ではなく学生も学べる世界が広がる。
代文化学部を4学科12専攻から成る現
らかを諦めざるを得ない」との声が上
なったようだ」と小野学長は話す。
そのために教員は教育の工夫が必要に
代教養学部に再編統合すると同時に、
がった。そこで2013年度、全学共通カ
総合教養科目は何年次でも履修で
全学共通カリキュラムを導入した。狙
リキュラムを全面的に改革した。
き、10科目18単位を修得する。総花的
いは、時代に合わせた教養教育の刷
新、女子教育の意義の明確化、キリス
ト教主義教育の強化の3点にあった。
学部統合によって、学部教育全体を広
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情報処理科目
連の科目を、総合教養科目の「女性の
生きる力」「女性のウェルネス」の2領
学部統合で明確になった
教養教育のシステム
日本語科目
6領域を確実に学ばせる
総合教養科目を設置
クは、そうした自主的な学びを起動す
アセスメントを行い
教養教育の可視化に挑む
るためのツール」と説明する。実際、図
学生が履修しやすいように、全学共
増加しており、学習意欲の高まりがう
なる。加えて、総合教養科目はそれま
通カリキュラムのハンドブックも作成
かがわれる。
で3分の1は非常勤教員が担当してい
した。カリキュラムマップを明示し、
一連の改革の検証も始めている。
とされた反省に立ち、現代社会を生き
たが、できるだけ専任教員が担当する
全科目にナンバリングを施し、どの科
2014年度に選定された「大学教育再生
る上で不可欠な学びとして、「人間の
方針をとった。
目でどんな能力がつくのか、学生がき
加速プログラム」で、教養教育の成果
知的生産」や「人間社会の仕組みと問
小野学長は「教員の反発も予想され
ちんと理解した上で履修できるように
を可視化する試みをスタート。客観的
題」など、学問分野を横断する6領域
る改革だったが、自己点検評価に基づ
工夫した。関心に応じた推奨科目も示
基準に基づいた可視化モデルを構築
書館の利用回数やインターネット上の
学習教材へのアクセス数は以前よりも
義の教養教育と捉えた上で、全学共通
この改革では、全学共通カリキュラ
に分類した。重複する科目を削減し全
いた客観的なデータがあったため、さ
し、履修の仕方についてのアドバイス
する計画だ。そのための専門職員も採
カリキュラムを狭義の教養教育と位置
ム導入当初の3つの目的を確実に達
体のスリム化を図った。一方で、日本
ほど抵抗はなく受け入れられた。むし
も豊富に記した。小野学長は「教養を
用した。小野学長は「教養教育の成果
付け、幅広い視野の獲得をめざす教育
成し、自己点検評価で判明した課題を
語科目を設置した。専攻を越えて学べ
ろ、多くの専任教員が関わることによ
『学ぶことを学ぶ力』だと捉え、学生
を測定できる可能性が広がり、本学の
システムを構築した。併せて、全学共
解決することをめざした。まず、全学
る演習科目や、海外教養講座も配置し
り全学共通カリキュラムへの理解が進
が主体的に自分の学びを組み立ててい
次の改革につながるだけでなく、他大
通教育センターや全学共通教育部長の
共通カリキュラムを「リベラル・スタ
た。幅広い学びを促すため、すべての
み、専攻の教員がその専門分野を学ぶ
く力を育成することこそが教養教育だ
学の教養教育の構築にも貢献できるは
ポストを新設した。
ディーズ」と、「アカデミック・スキル
領域で2科目を必修とし、自分の専攻
上で履修が望ましい科目について、学
と考えている。その力は、卒業後も自
ず」と期待する。
2015 8-9月号
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