ナビエ・ストークス方程式 春日 悠 2016 年 2 月 23 日 目次 1 レイノルズの輸送定理 1 2 質量保存の法則 2 3 運動方程式 3 4 角運動量保存の法則 4 5 ニュートン流体の構成方程式 5 6 ナビエ・ストークス方程式 7 1 レイノルズの輸送定理 物体 B があるとする.時刻 t に B の占める領域を Ω とする.空間の位置ベクトルを x として, B 上のある量を ϕ( x, t) としよう.ϕ はスカラーでもベクトルでもテンソル でもよい.ϕ の体積積分の物質時間導関数を,次式で定義する. (∫ ) ∫ ∫ D 1 ϕ( x, t)dv = lim ϕ( x, t + ∆t)dv − ϕ( x, t)dv (1) Dt Ω ∆t→0 ∆t Ω′ Ω 図 1: 物体の運動 1 ここで Ω′ は時刻 t + ∆t において B が占める領域を表す (図 1).∆Ω = Ω′ − Ω とする と,Ω′ = Ω + ∆Ω なので D Dt ∫ ϕ( x, t)dv ) )} { (∫ (∫ ∫ 1 1 ϕ( x, t + ∆t)dv − ϕ( x, t)dv + ϕ( x, t + ∆t)dv = lim ∆t ∆t→0 ∆t Ω Ω ∆Ω (2) Ω 右辺の最後の項は, B の境界面 Γ 上の各点が ∆t の間に通過した体積に ϕ をかけたも のの総和に等しいと考えられる. B の速度を u とし,Γ の外向き法線ベクトルを n と すると,Γ 上の微小面積 ds が通過した体積は dv = u · ndtds と書けるので D Dt ∫ Ω ∫ ϕdv = Ω ∂ϕ dv + ∂t ∫ Γ ϕu · nds 右辺第 2 項にガウスの発散定理を適用して } ∫ { ∫ D ∂ϕ ϕdv = + ∇ · (ϕu) dv Dt Ω ∂t Ω (3) (4) 上式をレイノルズの輸送定理という. 2 質量保存の法則 物体 B の密度を ρ( x, t) とする. B の質量を m とすると ∫ m= Ω ρdv (5) 質量保存の法則は ṁ = 0 と表される.レイノルズの輸送定理 (式 (4)) を用いて ṁ = D Dt ∫ Ω ∫ { = Ω ρdv } ∂ρ + ∇ · (ρu) dv ∂t (6) =0 これより,次式が成り立つ. ∂ρ + ∇ · (ρu) = 0 ∂t 上式を連続の式という.これは次のようにも書ける. (7) Dρ + ρ∇ · u = 0 (8) Dt 非圧縮性流体の場合,流体の密度は時間的に変化しない (Dρ/Dt = 0) ため,連続の式 は次のように表される. ∇·u = 0 (9) 非圧縮性流体だからといって ∂ρ/∂t = 0 とは限らない (密度分布が一様である必要は ない) ことに注意。 2 運動方程式 3 物体 B にかかる外力 f は,表面力を t ,物体力を b とすると,次式のように書ける. ∫ f = ∫ Γ tds + bdv Ω (10) 応力テンソルを σ とし,B の境界面 S の外向き法線ベクトルを n とすると,コーシー の公式 t = σ·n (11) より ∫ f = = ∫Γ σ · nds + Ω ∫ Ω bdv (∇ · σ + b) dv (12) ガウスの発散定理を用いた. 運動方程式は,運動量を p とすると ṗ = f と表される.運動量 p は ∫ p= Ω ρudv (13) (14) であるので,レイノルズの輸送定理 (式 (4)) を用いて D Dt ∫ ρudv Ω { } ∫ ∂ = (ρu) + ∇ · (ρuu) dv = f Ω ∂t ṗ = (15) 式 (13) に式 (12) と (15) を代入すると,次式を得る. ∂ (ρu) + ∇ · (ρuu) = ∇ · σ + b ∂t (16) 上式の左辺は次のように変形できる. ∂ρ ∂u ∂ (ρu) + ∇ · (ρuu) = u+ρ + u∇ · (ρu) + ρu · ∇u ∂t ∂t ∂t { } { } ∂ρ ∂u = + ∇ · (ρu) u + ρ + u · ∇u ∂t ∂t Du =ρ Dt (17) 連続の式および以下の関係を用いた. ∇ · (uu) = u∇ · u + u · ∇u 3 (18) Du ∂u = + u · ∇u Dt ∂t 以上より,運動方程式は次のようにも書ける. ρ 4 (19) Du = ∇·σ+b Dt (20) 角運動量保存の法則 座標系の原点に関する物体 B の角運動量保存の法則は,次式のように表される. D Dt ∫ Ω x × ρudv = ∫ Γ x × tds + ∫ Ω x × bdv (21) ベクトル a, b の外積 a × b は,ϵijk をエディントンのイプシロン ϵijk 1 = −1 0 (i, j, k が 1, 2, 3 の偶置換) (i, j, k が 1, 2, 3 の奇置換) (22) (i, j, k のうちどれか 2 つが等しい) とすると,総和規約を用いて a × b = ϵijk a j bk ei と表される.ここで ei は座標系の基 底ベクトルである.式 (21) の右辺第 1 項は ∫ Γ x × tds = ∫ ∫Γ = Γ x × σ · nds ϵijk x j σkl nl ei ds = ϵijk ∫ ∫ Γ x j σkl nl dsei ∂ ( x j σkl )dvei Ω ∂xl ) ( ∫ ∂σkl = ϵijk δjl σkl + x j dvei ∂xl Ω ( ) ∫ ∂σkl = e dv ϵijk σkj ei + ϵijk x j ∂xl i Ω ∫ ( ) ϵijk σkj ei + x × ∇ · σ dv = = ϵijk (23) Ω ここで δij はクロネッカーのデルタ δij = 1 (i = j ) 0 (i ̸ = j ) である.また,ガウスの発散定理を用いた. 4 (24) したがって式 (21) は,レイノルズの輸送定理を用いて } ∫ { ∫ ∫ ∂ x× (ρu) + ∇ · (ρuu) dv = x × ϵijk σkj ei dv (∇ · σ + b) dv + Ω ∂t Ω Ω } ∫ { ∫ ∂ (ρu) + ∇ · (ρuu) − ∇ · σ − b dv = ϵijk σkj ei dv x× Ω ∂t Ω (25) 左辺は運動方程式によって 0 なので,次式が得られる. ∫ ϵijk σkj ei dv = 0 (26) ϵijk σjk = 0 (27) ϵijk σjk = ϵikj σkj = −ϵijk σkj = ϵijk σkj = 0 (28) ϵijk σjk = ϵijk σkj (29) Ω これから 上式より したがって 上式が成り立つには σij = σji でなければならない.つまり,応力テンソル σ は対称で ある. 5 ニュートン流体の構成方程式 せん断応力が変形速度に比例すると想定できる流体を,ニュートン流体という.こ こでは,ニュートン流体の構成方程式を導く. 変形速度テンソル D は,速度勾配テンソル L の対称成分を表す. L = ∇u D= 1 ( L + LT ) 2 (30) せん断応力テンソル τ と変形速度テンソル D の関係は,次式で表される. τij = Cijkl Dkl (31) 静止流体の場合,圧力を p とすると,静水圧の等方性より応力テンソル σ は次式のよ うに書ける. σij = − pδij (32) 運動する流体の場合は,上式にせん断応力が加わるから σij = − pδij + τij = − pδij + Cijkl Dkl 5 (33) 流体が等方であるとしよう.そのとき,テンソル C は等方テンソルである.4 階の 等方テンソル C の成分 Cijkl は,次式のように表すことができる. Cijkl = λδij δkl + µ(δik δjl + δil δjk ) (34) ここで,スカラー µ, λ はそれぞれ粘性係数,第 2 粘性係数と呼ばれる.上式を用いて, 応力と変形速度の関係は次式のようになる. { } σij = − pδij + λδij δkl + µ(δik δjl + δil δjk ) Dkl = − pδij + λδij δkl Dkl + µ(δik δjl Dkl + δil δjk Dkl ) = − pδij + λDkk δij + µ( Dij + D ji ) (35) = − pδij + λDkk δij + 2µDij テンソル形式で表示すると σ = − pI + λ(trD ) I + 2µD (36) ここで I は単位テンソル,trD = Dii は D のトレースである.上式を速度で表すと σ = − pI + λ(trL) I + µ( L + L T ) { } = − pI + λ∇ · uI + µ ∇u + (∇u) T (37) ここで trL = ∇ · u を用いた. 平均垂直応力 σkk /3 が体積ひずみ速度 Dkk と無関係であると仮定すると σkk 1 = − p + (3λ + 2µ) Dkk 3 3 (38) 3λ + 2µ = 0 (39) より これをストークスの仮説という.これより次式を得る. 2 λ=− µ 3 これを式 (37) に代入すると { } 2 σ = − pI − µ∇ · uI + µ ∇u + (∇u) T 3 (40) (41) ところで,偏差応力 σ′ は 1 σij′ = σij − σkk δij 3 1 = − pδij + λDkk δij + 2µDij + pδij − (3λ + 2µ) Dkk δij 3 2 = − µDkk δij + 2µDij 3 } { 2 ′ σ = − µ∇ · uI + µ ∇u + (∇u) T 3 (42) つまり,ストークスの仮説は,せん断応力が偏差応力で表されると仮定するというこ とである. 6 6 ナビエ・ストークス方程式 運動方程式 (16) に構成方程式 (41) を代入すると,次式が得られる. ( ) [ { }] ∂ 2 T (ρu) + ∇ · (ρuu) = −∇ p + ∇ · µ ∇u + (∇u) −∇ µ∇ · u + b ∂t 3 (43) 上式はニュートン流体の支配方程式であり,ナビエ・ストークス方程式と呼ばれる. 粘性係数 µ が場所に依存しないとすると,∇ · σ の成分は { ( )} ( ) ∂σij ∂u j ∂ 2 ∂ ∂uk ∂ui ∂ =− ( pδij ) − µ + µ δ + ∂x j ∂x j 3 ∂x j ∂xk ij ∂x j ∂x j ∂xi ( ) ( ) ∂u j ∂p 2 ∂ ∂uk ∂ ∂ui =− − µ +µ + ∂xi 3 ∂xi ∂xk ∂x j ∂x j ∂xi ( ) ( ) ∂u j ∂ 2 ∂ ∂2 u i ∂p ∂uk − µ +µ 2 +µ =− ∂xi 3 ∂xi ∂xk ∂xi ∂x j ∂x j ( ) ∂p 1 ∂ ∂uk ∂2 u =− + µ + µ 2i ∂xi 3 ∂xi ∂xk ∂x j これより 1 ∇ · σ = −∇ p + µ∇(∇ · u) + µ∇2 u 3 (44) (45) これを運動方程式 (16) に代入すると 1 ∂ (ρu) + ∇ · (ρuu) = −∇ p + µ∇2 u + µ∇(∇ · u) + b ∂t 3 (46) 非圧縮性流体の場合,連続の式 (9) を式 (43) に適用し,両辺を密度で割ると,次式 が得られる. [ { }] 1 ∂u 1 + ∇ · (uu) = − ∇ p + ∇ · ν ∇u + (∇u) T + b ∂t ρ ρ (47) ここで ν = µ/ρ を動粘性係数という.粘性係数 µ が定数なら,式 (46) より ∂u 1 1 + ∇ · (uu) = − ∇ p + ν∇2 u + b ∂t ρ ρ 参考文献 [1] Y.C. ファン:連続体の力学入門 改訂版,培風館 (1980). [2] 久田俊明:非線形有限要素法のためのテンソル解析の基礎,丸善 (1992). [3] 石原繁:テンソル -科学技術のために-,裳華房 (1991). 7 (48)
© Copyright 2024 ExpyDoc