第 1 回・第 2 回 細胞検査士会ワークショップ 「口腔・咽頭の病理診断、細胞診断」 公益財団法人 がん研究会有明病院 病理部 佐藤由紀子 頭頸部領域で提出される細胞診検体は当院で 2010~2015 年で、全細胞診検体の約 5%で ある。その内訳は甲状腺 31%、リンパ節 26%に次いで口腔が 19%と多い。リンパ節の中 には悪性リンパ腫以外に癌の転移が含まれることから、 ぞれぞれの部位の癌の特徴を理解し ておくことが重要である。口腔の検体の中では舌が最も多く 31%、頬 10%、口蓋 10%、歯 肉 5%、口腔底 5%などとなっている。粘膜病変の際に擦過細胞診は必ずしも全例に実施さ れるわけではないが、おおよその発生頻度と一致する。初回以外にも再発時の後の残存病変 の検索に用いられる機会も多い。 扁平上皮の上皮内病変の組織診断は変革期にある。 口腔については、口腔癌取扱い規約(口 腔腫瘍学会) 、頭頸部癌取扱い規約(頭頸部癌学会)の2つの規約が存在し、咽頭において は消化器内科が内視鏡的切除を行うことから、食道癌取扱い規約(食道学会)との関連もあ り複雑化している。現在、前者二つの規約の改定をすすめている段階にあり、まだ定まって いない状況にあるため、今回は扁平上皮癌に限った内容とした。 頭頸部に発生する腫瘍のほとんどが扁平上皮癌であるが、 それぞれ部位ごとの特徴を示す。 1)舌癌 口腔のなかで最も多い癌で若年者にも発生する。 頭頸部領域の癌が多発する人 の例も多い。今回は 2 例提示する。 2)頬粘膜癌 比較的高齢者に多い。 3)口底癌 食道癌に合併する癌としては、下咽頭癌に次いで多い。粘膜以外の唾液腺、 軟部、リンパ節、稀に顎骨を原発とする腫瘍が口腔底から採取されることがある。 4)歯肉癌 分化の良い癌が多く、 表層の角化細胞のみでは悪性という判断が難しい場合 が経験的に多い。 5)口蓋癌 唾液腺型腫瘍の好発部位でもあり、 上皮の真の腫瘍性の異型かどうか難しい 場合がある。また、唾液腺癌の特殊なものも可能性として挙がる。 6)中咽頭癌 お酒、たばこ以外の原因として特に側壁(扁桃など)では HPV の感染が 確認される。原発不明頸部扁平上皮癌の原発巣の大部分が中咽頭との報告もある。外 科的切除が基本であるが、HPV 関連腫瘍の場合は治療への反応が良いため、外科以 外の治療が選択される場合も多い。ルーチンで p16 の染色を施行し、選択に役立て ることもある。舌根では稀に喀痰でみつかることもある。今回は HPV 関連と非関連 の腫瘍を 2 例提示する。 7)下咽頭癌 圧倒的に男性に多い。食道癌との重複癌が多い。梨状陥凹が好発部位で、 早期にみつかれば、内視鏡的に切除が可能である。進行例であれば咽頭喉頭全摘とな るが、失声が許容されなければ放射線化学療法が選択されることもある。輪状後部の 場合は貧血の女性に発生する。今回は梨状陥凹部 2 例、輪状後 1 例を提示する。 8)上咽頭癌 アジアに多く EBV 関連の発生が多い。外科的切除が困難であり、基本的 には放射線化学療法が施行される。耳下腺においても、EBV 関連癌は耳下腺にも発 生するが、日本人に稀である。EBV 関連癌の原発部位として参考までに挙げる。 9)篩骨洞癌 副鼻腔の一つで扁平上皮癌の発生が多い。今回は NUT midline carcinoma(NMC)と診断した 1 例を供覧する。NMC は頭頸部のみならず胸腺、 肺などの正中に発生する高度侵襲性の腫瘍である。抗 NUT 抗体で核に陽性を示し、 NUT の split apart FISH 陽性にて確定診断となる。相方が複数あり、FISH が診断 上は有用である。放射線治療への感受性が高い可能性が示唆されている。 以上のように頭頸部では扁平上皮癌という同じ組織型であっても、発癌原因が異なることに より治療の選択が異なるというユニークな使い方がなされている。特に HPV 関連の有無な どはより早い段階(穿刺吸引細胞診検体)で解ることは臨床的な意義も大きいと思われる。 組織所見においては形態的にある程度の振り分けが可能であり、 細胞診検体での検討も求め られている。今後、このような検討が進み、適切な治療が必要な症例に実施されるよう一層 検討を進めていきたいと考えている。その際には前癌病変の検討も加え、機会があればご紹 介したい。今回、スライドで提示した症例の実際の標本を検鏡し追体験いただくことで、 実臨床に活かしていただければ幸いです。
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