null

窒化ガリウム系トランジスタの表面状態解析
Surface State Analysis on GaN-based Transistor
舘野泰範(住友電気工業株式会社)、吹留博一(東北大学)
Yasunori Tateno (Sumitomo Electric Industries Ltd), Hirokazu Fukidome (Tohoku Univ.)
Ids (normalized)
窒化ガリウム (GaN)を材料として利用した光デバイス、電子デバイスは1990年代半ばより盛
んに研究が進められている。すでにLEDやレーザー、高周波用トランジスタなどが実用化され、
世の中に広く用いられているが、さらにアプリケーション範囲を拡げる研究や製品開発がますま
す活発に繰り広げられている状態である。
GaNをチャネル層として利用するトランジスタ(GaN-HEMT)については、AlGaN/GaNのヘ
テロ界面に形成される二次元電子ガスが高い移動度、高い飽和速度を持つことに加えて、ヘテロ
界面に誘起されるピエゾ電荷によって電子ガス濃度が非常に高い値をもつことから、高周波高出
力用素子として、非常に優れた特性を有している。そのため、携帯電話基地局用や航空管制レー
ダー、気象レーダー、衛星搭載用高出力増幅器などに広く用いられている。さらに、より高い周
波数特性、より高い効率を実現するための研究開発
も継続して進められているが、その際、GaN-HEMT
1
固有の問題の解決が必要とされている。
GaN-HEMT固有の大きな問題として筆頭にあげ
0.8
られる電流コラプスについて、図1に示す。図はト
ランジスタのドレイン電圧(Vds) 対 ドレイン電流
(Ids)特性であり、ドレイン電圧を0Vから少しずつ
0.6
増加させて(電圧スイープさせて)測定した結果を
黒線、瞬間的に高電圧ストレス(20V)を印加し、そ
の直後に所定のドレイン電圧を与えて電流を測定
0.4
することを繰り返して得られた特性を赤線で示す。
電圧ストレスを与えた直後の電流が大きく減少し
ていることが分かる。
0.2
電流コラプスの原因についてはよく分かってい
ないが、高電圧ストレス印加によってゲート電極近
傍に電子がトラップされることによって生じるも
0
のと推定されており、GaN表面状態を解明すること
0 2.5 5 7.5 10 12.5 15 17.5 20
が電流コラプスの解決につながるものと期待され
Vds (V)
ている。
そこで、今回、BL07LSUの3D nano ESCA装置
を用いて、GaN-HEMTの表面状態の解析を試みた。 図 1. GaN-HEMT の電流コラプス。電圧を
徐々に変化させて測定した結果を黒線、
評価したサンプルの構造図を図2に示す。ゲート
瞬間的に高電圧ストレス(20V)を印加し
電極を形成するため、その領域のSiNをドライエッ
た直後に電流を測定した結果を赤線で示
チにより除去するが、SiNが除去されてGaNがむき
す。
出しになった領域の表面状態と、SiNがついている
(a)
領域の表面状態を比較した。
open
得られたGa2p3/2スペクトルを図3に示す。スペクトル
フィッティングによりGa-NとGa-O、Ga-Ga結合が存在
することが分かった。また、SiN直下の領域では、SiN
開口部と比べてGa-O結合量が多く、さらにGa-N束縛エ
ネルギーが低くなっていることが分かった。これは、
GaN上部にGa2O3が形成されること、および表面準位の
形成により、エネルギーバンドが表面近傍で下に凸に曲
がっていること、SiN開口部では、ドライエッチにより、
Ga2O3や表面準位形成層がある程度除去されることで、
バンド曲がりが小さくなっていることを示唆する。
このほか、SiN開口部長さを変えた評価や、深さ方向の
スペクトル変化評価も行った。講演では合わせてそれらの
結果を示す。さらに、現在進めているGaN-HEMTのオペ
ランド顕微観察から得られた興味深い結果についても紹介
under SiN
したい。
Source
Drain
Open
SiN
n-GaN
n-AlGaN
i-GaN
i-AlGaN
Substrate
図2. 評価サンプル構造図。ゲート電極が形
成される領域の SiN 膜をエッチングしたもの。
(b)
図3. Ga2p3/2 スペクトル。(a)SiN
開口部、(b)SiN 直下