【 巻 頭 言 】建設ロボットの普及促進に向けて

巻 頭 言
建設ロボットの普及促進に向けて
立命館大学理工学部 教授
建山和由
TATEYAMA Kazuyoshi
一昨年、政府主導でロボット革命実現会議が開催さ
策工事が急がれたが、いつ起こるかわからない火砕流
れた。少子高齢化社会の流れの中で人手不足やサービ
の危険から作業従事者を守る必要があったため、無人
ス部門における生産性の向上という日本が抱える課題
化施工技術が導入された。以来、20年以上にわたり実
の解決の切り札にすると同時に、世界市場を切り開い
用技術として工事プロジェクトの中で開発が続けられ
ていく成長産業を育成していくことを目指してのこと
てきた。前述の福島の事故の際、この技術がスムーズ
である。この会議でまとめられた「ロボット新戦略」
に導入されたのは、雲仙普賢岳における実用技術の開
を受けて、昨年5月には、ロボット革命イニシアティブ
発の積み重ねがあったからである。普段使いの技術と
協議会が発足した。ここでは、
「製造現場から日常生活
して開発されてきたがゆえに、いざというときに速や
のさまざまな場面でロボットを活用することにより、
かに稼働できたと言える。
利便性と富をもたらす社会を実現する」ことを掲げ、
この意味から、建設ロボットの普及には、いざとい
多様な分野の組織が連携してその実現に向けた取り組
うときに備えるということだけではなく、一般の工事
みを進めることが謳われている。建設分野もその中に
でも建設ロボットを使った工事プロジェクトが必要と
含まれており、この動きを受けて建設ロボットの普及
言える。しかしながら建設ロボットは既往の手法に比
促進が加速的に進められることが期待されている。
べると高価であるため、工事の中の一部の作業をロボッ
建設ロボットの開発をふりかえると、技術開発はこ
ト作業で置き換える部分最適の手法では工事のコスト
れまでも行われてきた。既に実際の現場で有効に活用
が大幅に増となるため、よほど特異な工事でないと導
されているものも多く、2011年の東日本大震災で被災
入が難しいのが現状である。
した福島第一原子力発電所において瓦礫や建物の解体・
一方でロボットを利用すると「これまでできなかっ
撤去作業で使われている無人化施工技術もその一つで
たことができるようになる」ことや「作業の効率、
精度、
ある。これらの技術の多くは、研究の成果として開発
信頼性が画期的に向上する」といった新たな視点を見
されたというよりも、実際の工事プロジェクトの中で、
い出すことができる。今後、建設ロボットの導入を進
その合理化を図るために開発された物が多い。これは、
めるには、これらの長所を最大限活かし、ロボットの
建設分野においては一般製造業に比べ、研究開発費が
導入を前提とした工事の方法やプロセス全体を見直す
極単に少なく、実際の工事プロジェクトの予算を使っ
全体最適に基づく方策を確立することにより、従来と
て開発せざるを得ないという事情を反映しているため
同等かそれ以下のコストでも工事を行うことができる
である。このような事情から、ここで開発される技術
方法を模索していく必要がある。
はその工事に直接的に役に立つことが求められ、結果
これにより、一般の工事プロジェクトの中でも建設
として極めて実用的な技術として開発されることが多
ロボットの導入と活用に関する技術開発のスキームを
かった。雲仙普賢岳周辺の砂防事業で開発された無人
動かすことができ、ロボットが汎用的に利用される場
化施工技術はその代表的な事例である。
面を増やしていくことができる。今後、この種の改革
1990年に噴火した雲仙普賢岳により周辺の島原半島
の流れが大きくなることを強く期待している。
は大きな被害を受けた。さらなる被害を防ぐための対
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