ロボットの顔 [PDF:295 kB]

【ロボットの 顔 】
石黒
浩 先生 講演
大阪大学大学院 工学研究科 知能・機能創成工学専攻 教授
ATR知 能 ロボティクス研究所 客員室長 ロボットの見 か け
今日は私の 考えるロボットとはどういうものか、
な ぜ自分 そっくりのロボットを作ったのか、
とい
う話をさせていただきます。
工 場 で 働くロボットは速く正 確に 動くことが
重 要で すが、
日常生 活の中で 働くロボットは、
人
間が そのロボットを見てどう思うかが 非 常に重 要になります。
ですから
ロボットの顔を作るときに顔や外 見には、
非 常にこだわり、
悩んでいます。
今まで のロボットの 研 究 は、
動 かす研 究はたくさんありましたが、外
見をどう作るかという研 究はほとんどありませんでした。
そのため最初
は買ってきた部 品を寄 せ 集 めたようなロボットを作ったわけです。その
後 三 菱 重 工 が 同じようなコンセプトで、
もう少しきれいなデザインでロ
ボットを 作りました。
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硬いロボットは危 険 で日常 生活 で 使えないので、
軟らかいことが 絶
対条 件で す。皮 膚の 軟らかいロボットを作 ろうと、
皮 膚の 研 究をすると
同 時 に、軟らかい皮 膚の 形はどうすればいいかも問題にして、
アンドロ
イドを 作るようになりました。
他 人のアンドロイドを作るより、
自分 のアンドロイドを 作 った ほうが
いろいろと心 理 的な面もわ かるだろうと考え、
自 分 のコピーを 作 った
ので す。写 真だと分 かりにくいで すが、右がロボット、左が 私で す。
アン
ドロイドの ほうが 話しや すいと専らの 評 判で す。
今ご 紹 介したロボットはごく一 部で、
過 去にもう
数 体 ロボットを作 ってきました 。
アンドロイドの 研
究をする前は、
買ってきたカメラ2個をドラム缶の
上に 乗 せたようなロボットらしいロボットを作りまし
た。
このとき既にデ ザインや見 かけによってずいぶ
ん人の反 応 が 違うことが わかっていました。顔 は
ロボットにとっても重 要な要 素 で、
どんなデ ザイン
にしても、
周りが 満足しません。特に技術 者はこだ
わります。私が 適 当なデザインで 顔を付けると、
次
の日には 必ず 引き剥 がされています。
一旦 作ったデ ザインに慣れてしまうと、
そこから
なかなか 離れられないという不思議な感 覚があり
ます。開 発にはかなり時 間 が かかるので、技 術 者はこれに慣 れてしま
って、
ある種の 愛 着を持ち始 めているので、適 当なデザインの顔 が 付
けられることに満 足しないのだろうと思います。
その 後 作 ったロボットは、
なんとか 軟らかい皮 膚を入れましたが、
ポ
ンキッキに出てくるガチャピンみたいになってしまいました。
この写 真はデザイナーの喜多氏がデザインされ た三菱重工の wa
ka
mar
uで す。視 線をどうやって動 かすか 非 常に難しい問題になるので、
残 念ながら視 線が ありません。
われわれの 場 合は商品を作っているわ
けで はなく研 究 でロボットを作っているので、
むしろ視 線 が あったほ
うが 面 白いと考えています。ベースに無 理 やり2個カメラを 付けると、
なんとなく鼻 が 付けたくなって鼻を 付けました。
この鼻は評 判が良くて
みんな 触りに来るので、鼻が いいインターフェースになったりします。
あまり見かけにこだわってこなかった日本 のロボット研 究 に比べ 、
韓
国のロボット研 究 はさほど 盛んではなかったの にもか かわらず、
昨今
はデ ザイン先 行で、
いろいろなバリエーションのものを作 っています。
ロ
ボット研 究もこういう裸 のメカが 見える研 究から、
やっと少しきれいな
デザインのロボットになってきました。
下の 列は、
私が 作ってきたアン
ドロイドで す。最 初に自分の子 供
似のアンドロイドを作ったときに、
結構クオリティの高いコピーが で
きました。子どもは性別に悩む必
要はなかったので、
ある意味 抵 抗
なく子どもの顔を作れたのですが、
その後大人を作るとき、
男にするか
女にするか非常に悩んで、
原島先
生の顔 学 会 のホームページにあ
るような中性的な平均 顔を参 考に造 形を起こして、
男にも女にも見える
ような顔にしました。
その 後、
愛 知 万 博 でどれだけ本人に近 づ けられるかというチャレン
ジをして作ったの が、NHKの 藤 井 彩 子さんのロボットで す。写 真に撮
って改めて見るとあまり似ていない 気 がしますが、
かなり似ていると評
判でした。藤 井 彩 子さんの 顔 は万 博までという約 束 だったので、
その
後は顔を変えました。
でも主に変えた部 分はか つらと目の形なんです。
他 は概ね同じですが、
もう藤 井 彩 子さんだと言う人は 誰一人いません。
低 予 算で 顔 が 変 えられて良 かったので すが、
目の 輪 郭 が 少し 変わる
だけでまったく別人になることに、驚きました。
最 後 は 私の 顔 で す。私の 顔 にしたのが 研 究として良い 面と悪い 面
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両 方ありました。技 術 的にはいろいろな意味 で 私の 顔 にして良かった
ので すが、
そもそも私 が人に怖 がられていて、外 国 人も含めて私に 話
しか ける人はほとんど いない の で、
その点でなかなか 心 理 実 験 が や
りにくい。もう少し普 通 の 、
たとえば 原島 先 生のような 顔を作らせて
もらったほうが良かったなと思っています。
このようにロボットの 顔については、
この10年間ぐらい 毎 年ロボット
を作る上で 常に問題となっています。
ロボットの未来
これからのロボットについて少し話をさせていただきます。将来は駅
で 道 案 内をしたり荷物を運 ぶような簡単なサービスに人 型ロボットが
現 実に使われ るようになると、私は思っています。例えば、
自 動販 売 機
等の機器が 苦 手なお 年 寄りや 子どもでも、
人には 話しか けることはで
きますから、
話しかけや すい 対 象として人間 型ロボットが 役 に 立つだ
ろうと思います。
もちろん 運ぶだけなら人間 型をしている必 要は ありま
せんが、
人間 の 脳 は人を認 識 するためにチューンナップされています。
人は関わる対 象を常に擬人化していて、
人 間らしいものに 興味を持つ
ように出 来ているので す。人間にとっていちばん自然 なインターフェー
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スは人間型ロボットやアンドロイドになると思います。難しい 対 話はで
きませんが、
簡単な情 報 提 供サービスの 分 野では、
こういうロボットが
働く日は 近いと思っています。
実 際に総 務 省のネットワークロボットというフォーラムで は、
まださほ
ど 進んだ 実 証 実 験 ではありませんが、
駅 でこういうコミュニケーション
支 援 型 のロボットがどう使 えるの かという研 究 が 進 められています。
私 が 作りたいロボットというのは、
まさにメディアで す。
メディアとい
うのは人と関わるデバイスで す。
たとえばパソコンも携 帯 電 話もメディ
アで す。
インターネットで 世の中 が ず いぶん 変わって情 報 化 社 会にな
りました が、
その 情 報 化 社 会と人をつなぐさまざまな道具がメディアだ
と思っています。
その 道 具の 一つに、
人間 型のロボットが なるわけで す。携 帯 電 話 の
あんな小さなキーボードでよくメール が 打 てるものだと感 心しますが、
コンピューターも携 帯 電 話も少なくとも誰でも使えるようなものではな
い。誰 でも情 報 交 換できるようなメディアとしてのロボットを作りたい
と思っています。
インターネットが 均 一な情 報を大 量に配 信して、
世界中の人が 同じ
情 報を共 有する技 術をグローバライゼーションとすれば、
個人に 適 応
して個人との間 で 情 報を入 出 力しや すくする 技 術 が、
ローカライゼー
ションの 技 術 だといわれます。
今 は 主にコンピューターネットワークの恩 恵 に与 っていますが、
パソ
コンをマニアが いろいろ使っていた時 代 から、誰もが パソコン がない
とどうにもならない 今 の 状 態になるまでに10年ぐらい、パソコン が 広
く普及しだしてからは、
たぶん3、
4年くらいしか 経っていません。
こん
なにパソコンが 普及する社 会を、誰も予測しなかったわけです。
ロボットも似たようなものではないかと思います。
いろいろな可能 性
が あって誰もが 期 待 するけれど、何に使っていいかわ からない。
しか
しメールやウェブなど、非 常に便利なアプリケーションができてパソコ
ンが 普 及したように、
そのうちにロボットも、
アプリケーション次 第で
は 急 激 に普 及する時 代 が 来るかもしれません。
そういう問 題 意 識 で、工 場 や 特 殊 な 環 境 で 動くロボットで はなく
て、
人と関わるロボットを 作 ろうと、
1998年ぐらいからATR知 能ロボ
ティクス研 究 所で 作ってきたロボットが、
このコミュニケーションロボット
「 Robovi
e」です。当 時でも可能な技 術を全 部 導入して自律的に 動く
人 間 型 のロボットを 作ることが できたので す。
子どもは喜んで遊んで、
この 実 験 を 終わった 後にはいっしょに 帰るんだと言って 泣い たぐら
い、
ちゃんと感情 移入もできるようなレベ ル のロボットになりました。
いろいろな人にこのロボットと関わってもらうと、
やはり見か けという
の が、人のロボットに対する印 象に影 響を与えることがわかりました。
当 時ロボットの 研 究 者は見かけやデザインの問 題 はほとんど 研究 せ
ず、全 てデ ザイナー任 せでし た。
これでも十分人間は 擬人化で
きるの で すが、
人 間そっくりのロ
ボットが いたら、
たぶんもの すご
く受 ける印 象は 違うでしょう。だ
から見 か け の 問 題 はロボットを
動 かす問 題と同じくらい重 要で、
人と関わるロボットを作るとき、
見
かけの問 題をやらないと、
やるべ
き研 究 の 半 分ぐらいしていない
ような気 がしました。そ れでこのロボットが4歳の自 分 の 娘とちょうど
同じサイズだった ので、
この時しかないと、娘 のコピーを作ったのが、
この 研 究を始めたきっかけです。
アンドロイドを 作る まずどうやって人 間そっくりのロボットを作るか、お 話ししたいと思
います。
ヒューマノイドは人間 型 ですから、
人間 の 形 、
手 があって脚があ
ったらだ いたいヒューマノイドといいます。人間に 酷 似したものをアン
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ドロイドと呼ぶようにしています。
これはシリコンの皮 膚でできて
います。
シリコンの 素 材もいろい
ろ工 夫 が 必要です。
よく伸び 縮み
しないといけないし、
一方で耐久
性も必 要です。
一度 作ったロボッ
トが 数ヵ月で 使えなくなっては困
るの で、
2、
3年もつような 素 材を
使って、
どこまで人 間に近 づけら
れるかというチャレンジをしてき
ました。大 学の 研 究 室だけではできないので、
「
(株)
ココロ」
という、
博物
館の 恐竜や人 型の模 型を作っている有名な会 社といっしょに取り組ん
できました。
実 際に作ってみると、
ある程度 頭 蓋 骨の形は 復 元しないといけませ
んし、
人間について計 測するべき部 分 が いろいろありました。面 白か
った の は、
こういうものをまず 外 見 から制 約しながら設 計を起 こして
いくと、
ちょうど 皮を剥いた 後 が ハリウッドの 映 画のようになりました。
このときはまだ 体 にはアクチュエーターというか モーターは 入っていま
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せん。頭だ けで す。
そのときに、
皮 膚のセンサもいっしょに 作りました。皮膚には当 然 感
覚が 必要で す。人間の 皮 膚は単 に 軟らかい だ けではなく、触られたと
きにどう触られたかが わ かる、非 常に敏 感な皮 膚を 持 っているので、
ピエゾというセンサをシリコンで サンドイッチにするようなか たちで 作
っています。
そうして出 来 上 が ったロボットは、
盲人の方 に「こんなに 安 心して
触れるロボットは今までなかった」
と言わ れて、
たい へん 感 動しました。
ここで言いたいのは、
皮 膚というのが 視 覚と同じぐらい 複 雑 な 情 報
を持 っているということで す。おとなが ロボットに 抱きつ い たときのセ
ンサの出 力を、
センサ 番 号・時 間・出力量を軸 にして見てみると、皮 膚
というのは単にオン・オフで はなく、
たくさんの複 雑な 情 報を 生み出し
ていることがわかります。
これは 皮 膚だけで人の姿 勢 がどうなっている
かを推 定 するロボットで す。
カメラが 付いていますがカメラは使ってい
ません。
この 距 離でカメラを使っても、
体 の 一 部 分だ けが 見 えて、
人の
全 体 像を捉えることはできないわけで す。
このロボットは、触られ たその 手 の 方 向など から、お そらくこういう
ふうに立って いるだろうとそ の人の 姿 勢を 推 定して、人の顔を見てか
ら視 覚を使 います。つまり人との 距 離 が 短いところでは、
こういう皮 膚
感 覚が 非 常に重 要だということで す。
ロボットの 皮 膚開 発 が 今どういうレベ ルに 来ているかというと、
セ
ンサ自身は 小さいのですが、この ベースになっている半 透 明のシリコ
ンの 板 は 伸 び 縮 み が できて、
200%ぐらい 伸 びます。その中 の 配 線
も伸 びます。簡単に言えば、
コンピューターの 中を開けたら出てくるあ
の 硬いプリント基 板を、全 部シリコン で 作っているのと同じです。
こう
いうもの ができると、非 常に高 感 度なセンサを持った人間に近い、
軟ら
かい 皮 膚ができるようになるので、
いちおう試 作 はできたというところ
まできています。
これでまず人間らしい 姿 形を作 るという部 分 の 話は終 わりですが、
人 間らしい 姿 形 はできても、
実 際 に動かしてみるとすごく不 気 味で す。
問 題 は、
体 の 動 かす 部 分 にアク
チュエーターが入ってい な い の
で、眠 いという動 作ぐらい は 自
然でいいので すが、
うな ずくとゾ
ンビみ た いになってしまいます。
アクチュエーターはモーターと同
じで す。
実 際に子どもに見せると怖 が
って、
「もうパ パ の 学校には行か
ない」
と言わ れました。他 の子ど
もも同じで す。
自 分 のコピーだ から嫌 がっているわけではなく、
このよ
うに 少し人 間 から離 れ たものに対して子どもはすごく敏 感で す。年を
取るとだんだん許 容 範 囲 が 広くなって何 でもよくなります が、
3、
4歳
の 子どもが人 間らしさに非 常に敏 感なのには 驚きます。
これはコンセプチャルであまり
厳密な話ではありませんが、
横軸
は簡 単なロボットから限りなく人
間に 近 いロボットで す。
ロボット
がだんだん複 雑 になると印 象も
よくなります が、
ロボットが 非 常
に人 間に 近 づ いた、
そ の 少し手
前 で ちょっと人 間と 違うという
ところが、たい へ ん悪 い 印 象を
持 た れてしまう。
「 不 気 味 の 谷」
といわ れ るものだろうと思います。たぶんうちの 子どものアンドロイド
は、
この 不 気 味の 谷 のどん 底 にいて、動く死 体 のように見えているわ
けですね。
これは父親としてはなんとかしないといけない のです が、簡単な解
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決 策は 顔の表 情なども含めて、
人 間のような動 作と知 覚 を 作 れ ば、
よ
り人 間らしいもの になるだろうということで す。
それで 子どもの 体では小さいので、
いろいろな 理 由から NHKの藤
井さん に モデルになって いただ いて、大 人のアンドロイドを 作りまし
た 。体 に は、
普 通のロボットの 数 倍 の、たくさん のアクチュエーターを
入れます。普通 のロボットはロボットらしくしか 動 か ない ので すが、
アン
ドロイドの 場 合はある程 度 人間の 筋肉 の 動きや 骨格 の 構 造を真似
しないといけない ので、
たくさんの 数 のアクチュエーターが 必 要で す。
大 事なのは、動いていないと一 瞬にして人 間で はないとわかってし
まうことで す。
これ が 少しでも動くと、今 度 はまた 極 端に人 間らしくな
ります。今日ご 講 演され た 他 の 先 生 方 の 話 は動 かない 顔の 話 で す
が、
こういうロボットを 作 ると、顔 の 動き方もまた 研 究 の 材 料 になる
のではないかと思います。
内部のメカニズムは結 構ターミネーターに 近い で す。上 半 身を30か
ら40本 の エアーシリンダーで 動 かしています。私 のアンドロイドは 脚も
動 きます が、
これは 脚は 動きません。
モーターを使うと、
モーターのギー
ギー音 が 体 から鳴って 不 気 味で すから、
音 のしないエアーシリンダー
を使 います。
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次 に 表 情 はどう作るかで す。
このアンドロイドはしゃべります から、
しゃべったときの 唇の動きが 非 常に大 事です。実 際にしゃべらせてみ
てわかったのは、
英 語と日本 語 で は、
英 語 の ほうが 遥 かに楽で す。他
の 研 究 者も同意 見ですが、英 語は舌をよく使うので、単 純な口の開け
閉めでも、唇の動きと声が 合っているような 気 がしますが、
日本 語 は口
の 形 がよりシビアに関 係します。この 周りにはアクチュエーター が4つ
入っています。
顔だ けで17アクチュエーターを入れ ています。特にこの目の 動きは、
「
(株)
ココロ」が ずっとノウハウを積み重ねてきた結果ですが、
かなりよ
くできていると思います。人間は顔、特 に目の 動きや口のあたりに敏感
なの で、多 少 大きな動 作は犠 牲にしても不自然 ではないように作 ろう
と、
このあたりは 特に 慎 重に調 整しています。
メカができたら、
今 度は 体 全 体をどう自然に動 かすかで す。無 意 識
の動 作ということも考えなければい けません。皆さんは 座っているとき
も絶対に止まっていません。止まっていたら死んでいるかロボットかど
ちらかですから、
すぐにわかります。人はその自然 な 動きに 非 常に敏 感
で す。顔 の 表 情も完 全 に止まったら、
すぐにそれ が人 間であるかない
か、
区 別が 付くと思います。
これは 実 際の 妻と、
ロボットを比べ た 映 像です。妻の ほうが人 間らし
い。
ロボットの ほうは、脳 外 科 の 先 生に見せるとぎこちなくて 脳 障害の
ようだと言 わ れました。ただ、
一旦 動 かしてみるとすごく人 間らしくな
る。
し ばらく観 察すると、僕らでもどこかおかしいの はわかるけれど、
な
ぜお かしい か はよくわからない。
もう専 門 家 の 力を 借りないとわから
ない。要するにロボット屋 が 今までの 技 術の延 長 でロボットを 作 るだ
けで は、
もうこの 先 へ 進 めないわけ で す。
同じことが、
反 応する動 作 にも言えます。
ロボットは 先 ほど の 皮 膚セ
ンサを持 っていれ ば、
非 常に敏 感 に反 応 することが できます。気 配だ
けでも感じることが できます。皮 膚センサ感 度を上 げると、
人 間の静電
気に反 応するので、
1センチぐらい 近 づ い ただ けでひゅっと反 応します。
びっくりするぐらい人 間らしく振 舞うことはできます。ただ、人間は何回
か 叩か れたらそのうち 怒り出します が 、
ロボットは 怒り出さない ので、
実 際に 何 度もこの 動 作も繰り返してしまいます。
ですから人間が いかに複 雑 かということで す。
どんなに頑 張って人
間に近 づ けようとしても、
やはり人 間とは 違う何か が 見えてしまう。
そ
れ が 非 常に深いところで見えてくるので、人間に 近 づ けることが 果て
しない 距 離のように感じます。
ロボットの 技 術 が いくら 進 ん
でも、
ロボットの目の中にカメラを
入れたり耳にマイクを入れたりで
は、
やはり画像 処 理や音 声 認 識
の限 界 が すぐに来てしまいます。
いちばん良いのは、周りにセンサ
やカメラをたくさん 並 べ ることで
す。たとえば人がどこにいるのか、
ロボットの センサで 見るより、床
をセンサにしてしまった ほうが
早いわけで す。
これからのロボットは全 部こうなると思います。今 のロボットもそうで
すが、
人間 が 外 部からの 助けなしに生きてい けないのと同じで、
ロボッ
トも 外 部からの 助けなしには 生きて い けません。わからないことがあ
れば 周りに聞か ないといけません。
ロボットは、
ユビキタスやセンサネッ
トワークの 技 術と共に 研 究 開 発されていくの が、
自 然な 流 れだと思い
ます。
つまりロボットがいきなり単 体 で 街を歩いて勝 手 にしゃべ るという
時 代 が すぐに来るわけではなく、街 中に 備え付 けたセンサやカメラと
連 動してロボットは 動くので す。
非常に狭い範囲ですが、
人が 来たら、
どこに人がいてその人が 何をしゃ
べったか がわかり、
一通り動 かすことができたので、
万 博で 展 示しまし
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た。先に作った子 供アンドロイドを見せるとみんなすごく嫌 がりますが、
最 新 技 術 で 作ったアンドロイドは子どもに見せてももう怖 がりません。
もちろん見ていれ ば人間と違うとすぐにわ かるし、
なんとなく変な感
じはしますが、
少なくとも子 供アンドロイドのような不 気 味 感はありませ
ん。
しかしやればやるほどロボットの 研 究は、
いかに人間が 複 雑かを思
い 知らされることになります。
認知科学とロボット工学の融合
顔の 問題は、
たぶんコンピューターグラフィックスのテクノロジーと顔
を研 究されている科 学 の 先 生とが 共 同で 研 究されていると思います
が、
ロボットでもまったく同じことが 言えます。
われわれもロボットをさらに良くしていくには、
認 知 科 学 や心理学の
知 見をどんどん 取り込まないといけません。逆にアンドロイドが 認知科
学や心 理 学 の制 御可能な人間としてのテストベッドになって仮 説を検
証するというように、
ロボット工学も単に 工学者だけの 研 究ではなくて、
科 学と工 学の融合した新しい 研
究 分 野に 育っていかないといけ
ないと思っています。
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認知 科 学からも今 いろいろ面
白い 話がありますが、触りだけお
話しします。ある実 験 で、
被験者
にアンドロイドを2秒 間だけ見せ
たときにその人はどう思うか。見
かけは人間そっくりの 静止したア
ンドロイドを見せて、
「人間でした
か、
人間じゃなかったで すか」
と聞くと、
7割 の人 が「なんかお かしい。
人間じゃなかった」と答え、
逆 に自 然 な 動 作 を入れて見 せると7割 の
人 が「人間だった」と答えました。
これを3秒、
4秒とやって、
もちろん時 間が 長くなれ ば アンドロイドに
気が つく人は増えますが、
いかに無意識の 動 作 が 大 事 かということと、
アンドロイドの 技 術のクオリティを示している実 験 結 果 だと思います。
この 実 験 で 興 味 深 かったことは、
30歳 以 上の人よりも20歳 の人の
ほうが 多く気 が 付いたことです。エピソードで すが、
90歳ぐらいのお年
寄りでは、
アンドロイドの目の前に立って「アンドロイドはどこですか」
と
聞くほど です。
話しは変わって、
人間は無意 識に視 線を動かしますが、
人間のアンド
ロイドに 対 する無 意 識 の 認識はどうであるか。人 間 が人間を見るとき
の目の 動きと、
よくできたアンドロイドを見るときの 動きはほとんど いっ
しょで すが、
ロボットを見るときはか なり違 います。要 するにこのアンド
ロイドは人間そのものを十 分に表していると言えるかなと思います。
ところが 問 題は、
いくら人間らしい見か けと動きと知 覚を作り出して
も、
それは 非 常に限られたものです。普通に1時 間 話して、
アンドロイド
だと気づかないというようなことにはなりません。脳の部 分は人間とは
まったく違 いますから、
人間と1時 間ちゃんと対 話 できるロボットは、
今
の 技 術では無 理です。結 論は、遠隔 操 作 にするしかありません。要する
にある程 度は自動 化しても、
どうしても克 服できない人間の 脳とコンピ
ューターの 差は、
遠隔 操 作 でごまかすしかないということで、
遠隔操作
のシステムを作りました。
そのときに自分をモデルに自分 が 遠隔 操 作できるロボットを作れ ば、
わざわざ 遠くへ 出かけていかなくてもすみます。
これからのロボットは、
ほとんどこういう遠隔 操 作 機 能を備えたものになると思います。人とや
り取りするロボットは、
ある程度のことはできても、
ほんとにややこしい
ことには 対 応できません。
でも、
1人のオペレーターが10台ぐらいのロボ
ットの面 倒を見れるなら十 分 役に立ちます。おそらく現 実 的な解として、
当分10年、
20年の間はそういうロボットが、
人と関わるロボットになる
だろうと思います。
私のアンドロイドは、女の人の 体よりも手 足 が 太 いのでたくさんアク
チュエーターを埋められます。
50本アクチュエーターを埋め込んで、
脚
も動くようにしています。脚 がピクピク動くと、非 常にリアリティが 強く
なります。
これは遠隔操 作して実 際に話
している様 子です。唇の動きを捉
える装置を使って、
ナマの声と唇
の 動き、
それ から右に向く、左に
向くという簡単なコマンドを送っ
ています。技 術的には送る情 報は
いろいろ変えられますが、
どこが
難しいかというと、
長い間しゃべる
ことが 難しく、
声はそのまま送った
ほうがいいですね。
実 際にはインターネット越しの 操 作 なので 時 間の遅 れ が 出ますが、
アンドロイドとしゃべる人は、
5分ぐらいで 慣 れます。最初この人は私が
モニターしている2つのカメラを見ていますが、
しばらくすると普 通 にア
ンドロイドの顔を見るようになりました。
このアンドロイドは今 のところあまり動きません。
可能 性としてはもっ
と動 か せますが、私もこのモニターをずっと見て動 かしていていると、
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アンドロイドに制 約されて自分 の 体 がこわ ばり、非 常に奇妙 な感 覚に
なります。要 するに 対 話という非 常に強いコンテキストに互いに引き込
まれてしまうと、見 か けはこの 程 度 で 十 分 か なと思います。
自分の 最 初のコピーを作ったときの 気 持ちはというと、
これは鏡みた
いなものでした。ただ、鏡は視 線をはずせ ば自分 の 嫌 な顔を見なくて
済みますが、
自分そっくりのアンドロイドはずっとそこにいて、
しかも見た
くない 後 頭 部まで見えてしまうので、大 変 気 分 が 悪かったで す。
アンドロイドの 動きは 、スタッフや 学 生 が 私をビデオに 撮って、
モー
ションキャプチャーを付 けてその デ ータを取りながら 動きを再 現しま
す。みんな僕 にそっくりだと笑うので すが、私 だ けはそう思わない。鏡
の 前で1日中自分 がどう動くかなんて見たこともないし、
自分 の 癖もよ
くわかっていないわけで す。
自分 がこうだと思っている自分と、他人が
見る自 分 は ずいぶん 違うなと驚きました。
アンドロイドは 少し 動 か すのにもプログラム開発 が 大 変なので、
今
のところまだ 制 約 が ありますが、私 が アンドロイドの 真 似をしますと、
そっくりになります。ある範 囲である動 作に限 定 すると、
すごく似てい
るところ が 出てきます。
アンドロイドとの 会 議は実際に
42
できます。
いっしょに研 究している
東 大の開 先 生と30∼40分、
この
アンドロイドを使ってどんな 研 究
をするか 話をしましたが、
みんな
自然 にこの状況に慣れて普通に
話が できました。
論 文チェックまで できるか なと
思ったので すが、私 が 論 文を見
ながら操 作 することはできない
ので、
それは無 理でした。
アンドロイドを使った 対 話は、
非 常に強く引き込まれます。
どれぐらい
強いかというと、
対 話 相 手 が アンドロイドをいじくり回 すことが あります
が、
これ が 操 作する側にとってはたいへん屈辱 的で す。他 の人のアンド
ロイドでも同じ感 覚 が 出ます。
相 手 が 遠 慮なくツンツン 突くと、
その 触 覚の 情 報 が 私に送り返され
ていなくても、私はモニターを観ながら操 作しているだけで、
やはり触
られている感じがしてとても嫌 で す。
逆にきれいな秘書さんが 触ると、
互いにドキドキします。
それはちゃん
と話をしてこの 状 況に引き込まれ 、
互いに適 応した 場 合で す。学 生に
コントロールさせれば、
自分と自分でも話 が できます。人格がミックスさ
れて、
半 分自分 の奴と話しているわけで す。
まとめですが、
アンドロイドの開 発 は、
人間らしい見かけ、動き、
知 覚、
それから不 気 味 の 谷と、
人 間らしさの 研 究 でした。
ジェミノイド
( 遠隔
操 作 型 実 在人間アンドロイド )
になって、
自分 に 対 する自 分 の 認 識と
他 人の 認 識 はどう違うの か、対 話 によって異なる身 体 へ 適 応できる
の かと、
単なる人間らしさから人間の 存 在 へと問 題 が 変わってきたか
なと思います。
今 までロボットの 題 材になかったわけで すが、
自 分 型のアンドロイ
ドが できる 時 代 になると、心と体 が 分 離可能 なものになり、たとえば
自分 の 存 在とは 何か、人の 権 威とは 何か自我とは 何かといった問題
に 取り組む 題 材に、
ロボットが なりうるので はない かと思います。科 学
的にこの点が 新たな 研 究 分 野になっていく可 能 性 が あると思います。
ここまで 一般 的なロボットからジェミノイドに至るまで、
ロボット研 究
の 現 状を話してきましたが、顔というのは 重 要 な要 素であるというこ
とがおわかり頂けたと思います。
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女 性アンドロイドRe
pl
i
eeQ2は 大阪大 学と
(株)
ココロの共同 研 究で開
発されました。
石黒氏のコピーであるGe
mi
noi
dHI
1
はATR知能ロボティクス研究所
で開発されました。