マーケットウィークリー・821号 産業ニュース 2015.3.27 「ロボット新戦略」発表、サービス分野で普及へ 作成者:冨ケ原信久 日本政府は「ロボ ット新戦略」を発 表。普及本格化へ 15年2月、日本政府は内閣総理大臣下のロボット革命実現会議が取り まとめた「ロボット新戦略」のアクションプラン(5カ年計画)を閣議 決定した。5年間で官民が1,000億円規模の投資を行い、20年の国内ロ ボット産業の市場規模を現在の約2倍の2.9兆円へ拡大を目指す。14年6 月に改訂版「日本再興戦略」でロボットによる新たな産業革命を掲げ、 同年9月に立ち上げたロボット革命実現会議の協議を経て、一定の方向 性を示した。安倍首相は新戦略について「新たな時代に日本が世界の 中心で輝くための道筋を示すもの。今年をロボット革命元年としたい」 とコメントした。11年に米国が発表した、約7,000万ドルの予算を投じ ロボットの開発と利用を加速する「国家ロボットイニシアティブ」や、 同年ドイツが方針を示したITを活用した工場のスマート化である 「インダストリー4.0(第4次産業革命)」の深化。さらにグーグルの ロボット事業進出などを意識した発言といえそうだ。 計画遂行のため の組織体制や数 値目標を掲げる 閣議に先立ち開催された日本経済再生本部では人材育成、次世代技術 開発や国際展開を見据えた規格化・標準化等の分野横断的取組みのほ か、①ものづくり、②サービス、③介護・医療、④インフラ・災害対 応・建設、⑤農林水産業・食品産業の分野別取組みを行う担当閣僚を 定めた。また、ロボット関係者のニーズ・シーズ等のマッチングの推 進、解決策の創出や、国際標準の戦略的な立案・活用等を行うロボッ ト革命イニシアティブ協議会の立ち上げを決定。各ワーキンググルー プや外部機関、諸外国との調整などで主導役となるよう位置付けた。 実現に向けた各分野の取り組みも数値目標を設けたほか、20年にロボ ットオリンピック(仮称)の開催を決定した。16年までに具体的な開 催形式や種目を決定し、18年にはプレ大会を実施する計画だ。 ロボットの領域 はヒトと共存す る分野まで拡大 ロボット革命実現会議で、ロボット革命を「センサー=感じること、 人工知能(AI)=考えること、駆動=動くこと、などの技術進歩に より、従来はロボットと位置付けられてこなかったモノまでロボット 化し、製造現場から日常生活までロボットが活用され、社会課題の解 決やモノづくり・サービスの国際競争力の強化を通じて、新たな付加 価値を生み出し利便性と富をもたらす社会を実現すること」と定義し た。日本のロボット産業は人が嫌がる3K(危険、汚い、きつい)の 労働、例えれば自動車の溶接や塗装や人の介在が不必要な半導体製造 装置などモノを扱う産業分野の領域で成長してきたが、ロボットの活 動する領域はヒトと共存する分野まで広がることを示した。経済産業 省の市場予測よるとサービス分野の市場規模は15年の3,733億円に対 し、20年には1兆円超、35年に約5兆円まで拡大する見通しだ。 日本では高齢化 対策で介護分野 の開発を優先 日本は少子高齢化が進み、生産年齢人口の減少や社会保障費の増大 など社会問題を抱えており、ロボットが労働現場での人手不足や生産 性向上などの問題解決に貢献することが期待されている。特に政府が 注力するのは高齢者増が顕著な介護の分野だ。13年度に「ロボット介 護機器開発・導入促進事業」を実施し、ロボット技術を活用した介護 機器の開発を推進。15年3月現在では移乗介助機器の装着型ではCYB ERDYNE(7779)がロボットスーツ「HAL」、菊池製作(3444) がマッスルスーツ。非装着型ではトヨタ(7203)、富士機械(6134)、 マーケットウィークリー・821号 2015.3.27 パナソニック(6752)。移動支援機器ではアズビル(6845)、日精工 (6471)、ナブテスコ(6268)、ミツバ(7280)、THK(6481)。 排泄・入浴支援機器では積水化(4204)、TOTO(5332)。見守り 支援機器では住友理工(5191)、クラリオン(6796)などが製品化し た。15年3月には経済産業省がつくばで企業が開発したロボット介護機 器の成果発表会を開催。定員は介護事業者120名、ロボット介護機器開 発事業者120名で、今後は介護現場での普及が焦点となろう。 様々なサービス 分野でロボット の導入進む 人間と会話するコミュニケーションロボットもユニークな存在だ。 AIを持ちクラウドと接続できる富士ソフト(9749)の「パルロ」や NEC(6701)の「パペロ」が製品化。特に「パルロ」は老人ホーム などで介護ロボットとして活躍し、介護従事者の評価が高い。 15年2 月にはソフトバンク(9984)が「ペッパー」を開発者向けに発売した。 新たなアプリを加え、利用価値の向上を図るようだ。建設現場の人手 不足、熟練工不足の解決策として、コマツ(6301)が15年2月に「スマ ートコンストラクション」サービスを開始した。無人ヘリで造成現場 の測量を行い、完工までの最適な施工を提案。作業にはICT建機を 使う。工程全体で効率を2~3割高めることができ、面白い取り組みと いえよう。警備ではセコム(9735)、ALSOK(2331)が警備ロボ ットを開発し、サービスを開始した。警備要員不足が懸念される20年 東京五輪で、活躍する場面がありそうだ。 危険な場所での ロボットの活躍 にも期待 福島原発では三菱重(7011)、日立(6501)、東芝(6502)などの ロボットが活動。廃炉に向けた作業の経験は、インフラや災害などの 分野で応用されそうだ。15年6月に米国防省が主催する「ロボティク ス・チャレンジ」の決勝が開催される。人間が立ち入れない過酷な災 害現場で救済活動するロボットの開発を促すのが目的で、自動運転、 悪路踏破など8つの種目がある。日本からは東京大学など5チームが参 加する。日本の現時点の技術レベルを確認するいい機会となろう。 ◇35年に向けたロボット産業の将来市場予測 製造分野 将来市場予測(億円) 15年 20年 25年 10,018 12,564 15,807 ロボテック製品 1,771 4,516 8,057 35年 27,294 15,555 農林水産分野 467 1,212 2,255 4,663 サービス分野 3,733 10,241 26,462 49,568 15,990 28,533 52,580 97,080 合計 (出所)経済産業省資料を基にCAM作成 ◇ 主なロボット関連銘柄 コード 2331 3443 3444 3681 6134 6324 6383 6506 6701 6752 6954 7267 7272 7779 9735 9749 9984 会社名 ALSOK 川田TECH 菊池製作所 ブイキューブ 富士機械 ハーモニック ダイフク 安川電 NEC パナソニック ファナック ホンダ ヤマハ発 CYBERDYNE セコム 富士ソフト ソフトバンク ロボット製品 警備ロボット「Reborg-X」 双腕ロボット「NEXTSTAGE」 介護用ロボット「マッスルスーツ」 ドローン 移乗介護用サポートロボット 減速機 物流ロボット 歩行アシスト装置「ReWark」 小型ロボット「PaPeRo petit」 ベット型介護ロボット「リショーネ」 ロボット「Robot i」 人型二足歩行ロボット「ASIMO」 ドローン ロボットスーツ「HAL」 警備ロボット「セコムロボットX」 人型会話ロボット「パルロ」 人型会話ロボット「Pepper」 (出所)各社資料等を基にCAM作成 ◇20年までのロボット分野別の普及目標 ものづくり 組立プロセスのロボット化率向上(大企業25%、中小企業10%) 次世代のロボット活用ベストプラクティスを年30例を収集・公表 サービス 相互運用可能なハードウェア1000製品以上開発、市場投入 ピッキング、仕分け・検品に係るロボット普及率約30% 飲食・宿泊業や卸・小売業における集配膳や清掃等のバック ヤード作業を中心にベストプラクティスを収集(100例程度) 介護・医療 20年の介護ロボットの市場規模を500億円に 介護をする際に介護ロボットを利用したい割合(60%)を80%に 介護を受ける際に介護ロボットを利用してほしい割合(65%)を 80%に ロボット技術を活用した医療関連機器の実用化支援を5年間で 100件以上 インフラ・災害対応・建設 生産性向上や省力化に資する情報化施工技術の普及率3割 重要・老朽化インフラの20%はセンサー、ロボット、非破壊検査 等の活用により点検・補修を高効率化 農林水産業・食品産業 20年までに自動走行トラクターの現場実装を実現 農林水産業・食品産業分野において省力化などに貢献する新た なロボットを20機種以上導入 (出所)政府「ロボット新戦略」資料を基にCAM作成
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