●労働生産性の向上と潜在 GDP の関係 POINT7-1 (7-2)式の生産関数で労働生産性を表すαが改善すると,自然失業率は低下するのであろうか。 常識的に考えると,労働生産性の改善に伴って自然失業率が低下するように思える。しかし,図 7-5 が示すように,労働生産性の改善に伴って,完全雇用水準における実質賃金( α )の上昇で 賃金設定関数が上方にシフトするとともに,潜在雇用水準における実質賃金( α 1+ µ )が同時に 上昇するので,所与の完全雇用量に対して,「潜在雇用量が増加するのか」 ,その結果, 「自然失 業率が低下するのか」をにわかに判断することができない。 そこで,以下では,(7-1)式の実質賃金設定関数を以下のように想定して,労働生産性の改善 が自然失業率に及ぼす影響を考察してみよう。 G (= N ) β Nθ +υ ただし, θ > 0 , υ ≥ 0 と仮定する。なお,正値の定数項 υ は,失業水準の高低にかかわら ず,社会的に求められる最低限の実質賃金水準と考えることができるかもしれない。 図 7-4 や図 7-5 の説明では, θ = 1 として, 線形の実質賃金設定関数を想定している。また, 練習問題 7-4 をトライすればわかるが,補論 2 や補論 3 でフィリップス曲線を導出する場合に は, υ = 0 を仮定している。 実質賃金は,完全雇用水準( L )で α ,潜在雇用水準( N p )で α 1+ µ が成り立たなければな らないので,次の 2 つの関係が成立しなければならない。 β Lθ + υ = α α β N θp + υ = 1+ µ 自然失業率は, 1 − Np L と表されるので, Np L の減少関数である。上の 2 つの式からは, θ Np 1 α − υ − µυ = L 1+ µ α −υ を求めることができる。 先述のように,完全失業率は, 辺に現れる Np L の減少関数であるので,上の式で θ が正値の下では,右 Np α − υ − µυ の α に関する微分が正であれば,労働生産性の改善とともに, L α −υ 上昇し自然失業率は低下する。 7 が α − υ − µυ の α に関する微分の結果は,以下の通りである。 α −υ α − υ − µυ ∂ µυ −υ α= ≥0 2 ∂α (α − υ ) すなわち,実質賃金設定関数のパラメーターである υ が正値であれば,労働生産性の改善 とともに,自然失業率が低下する。υ がゼロに等しい場合には,自然失業率は労働生産性の 変化にいっさい左右されない。 8
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