- 1 - 【ロシアの輸出規制懸念の背景】 2014/15年度の

【ロシアの輸出規制懸念の背景】
図-1
ロシア管区地図
2014/15年度のロシアの穀物生産は、小麦、大麦を始めとして豊作となり、穀物全体の生産
量は104百万トンと、前年度の92百万トンを大きく上回る見通しである。しかしながら本年12
月に入り、ロシアが穀物の輸出規制を行うのではとの思惑から、シカゴ商品取引所では小麦の
先物価格が上昇している。
ロシアの需給状況や、輸出規制が市場関係者の間でささやかれている背景について見てみる。
1 概 要
ロシアでは、原油価格の下落に伴う経済の減速やクリミア半島併合に端を発する欧米の対ロ制
裁長期化を背景に、10月から12月にかけてルーブルの為替相場が下落した結果(ロシア中銀は11月
10日から機械的な為替介入制度を廃止、ルーブルが変動相場制に移行)、特に穀物輸出地帯である
南部連邦管区などでは、ドル建て決済の国際穀物取引に引きずられて穀物価格が上昇したことで
インフレが加速し、全国に波及している。国内の製粉・畜産業者らは、年末年始の連休を前に在
庫を確保する必要に迫られ、ある程度の高値でも購入せざるを得ない状況にある。また、ロシア 表-1 ロシアの小麦・大麦の国内価格(単位:ルーブル/トン)
東部では、今期は品質が悪く、良質な穀物が不足気味であり、食用を中心とする供給不足も価格
小 麦 3等
小 麦 4等
大麦
地域
11月 7日 12月 5日
11月 7日 12月 5日
11月 7日 12月 5日
を押し上げている。
増減
増減
増減
9700 11775
2075
9260 11300
2040
7600
8150
550
このような事態を背景に、連邦動植物衛生監督局が輸出穀物の品質基準厳格化や、農業省が国 北カ フカス
黒土 地帯
8600 11060
2460
7900 10185
2285
5860
7350
1490
内市場に十分な量を流通させることを目的として穀物の輸出量を抑制する方向で検討しているこ 沿ヴ ォルガ
8115
9800
1685
7610
9200
1590
5300
7550
2250
とが報じられ、ロシアが穀物の輸出規制をするのではとの懸念が、小麦を中心に穀物の国際相場 ウラ ル
8500 10770
2270
7800
9500
1700
5680
6740
1060
シベ リア
8100 10440
2340
7550
9570
2020
4750
6200
1450
に波及している。
資料:ロシア農業市況研究所
2 穀物需給を取りまく状況
2014/15年度のロシアの穀物生産は、生育期間を通じて温暖な天候となり、秋蒔き作物や春蒔き
大麦は例年に比べ10日から2週間早く完熟期を迎え、収穫時期の気象条件も作業に適した天候の日 図-2 ルーブルの対米ドル・日本円レートの推移
が多かったことから、穀物全体の生産量は104百万トンとなり、2012/13年度の71百万トン、2013/
14年度の92百万トンを大きく上回る見込みである。穀物全体の輸出量も、2012/13年度の16百万ト
ン、2013/14年度の26百万トンに対し、2014/15年度は32百万トンが見込まれている。
一方、2015/16年度は、南部連邦管区のロストフ州、クラスノダル地方、スタヴロポリ地方では
積雪が少なく、スノーカバーがない状態で夜間の気温が-10℃まで下がっており、こうした気候
条件は秋蒔き作物に悪影響を与え、播種地の20~30%が枯死するのではと危惧されている。この
ことも、ハイペースで進む穀物輸出により国内供給量が不足するのではとの懸念となっている。
民間調査会社では、枯死面積が多くなる可能性は確かに高いが、秋蒔き穀物の播種面積が当初見
込みよりも大きく、必ずしも悲観する必要はないと指摘している。
また、2014/15年度の国家備蓄在庫の買い入れは9月30日にスタートしているが、12月10日時点
の買入れ数量は合計28万トンに留まっている。買入れの実施機関である国営「統一穀物会社」によ
れば、今期は最大で500万トンを買い入れる用意があるが、10月以降のルーブル安による穀物価格
資料:ロシア中央銀行公式レート
の上昇で、買い入れのペースは低調と見られている(特に食用)。
- 1 -
3 穀物輸出抑制の動き
11月27日、連邦動植物衛生監督局は、輸出向け穀物と加工製品の衛生状態が大幅に悪化してい
ることを理由として、輸出穀物の品質基準を厳しくする旨通達。穀物だけでなく、倉庫や搬出・
運搬設備、加工製品等を含めた衛生状態の追加調査も行う模様。同局はまた、穀物ロットの国内
運搬時に衛生証明書の付帯を義務化。これに対し、全国農産物輸出者協会は、連邦動植物衛生監
督局によって穀物輸出が制限されることに懸念を示し、穀物在庫量は逼迫しておらず、国内市場
への供給を考慮しても3200~3300万トンの輸出が可能と指摘。
11月28日、ユリエフ農業省次官は、今シーズンにおいて穀物輸出の制限を行う可能性は検討し
ていないと述べ、現時点で関税の見直し等施策の必要性も検討されていない旨発言。
12月1日、連邦動植物衛生監督局は、農業省に対しオフショア地域(税制が優遇されている地域)
を通じたロシア産穀物の輸出禁止を提案。穀物の主要輸出相手国はトルコ、エジプト、イスラエル、
グルジア、スーダン、南アフリカ共和国、イラン、韓国だが、こうした国々への輸出はオフショア
経由で行われることが多く、同局はロシアの税収増につながらないと強調。
フョードロフ農業相は、12月11日の下院の農業問題委員会において、ロシアからの穀物輸出の
禁止は行われないが、穀物輸出量の拡大の傾向については懸念すべきであり、農業省は輸出を抑
制するために、禁輸以外のあらゆる可能性を検討する旨発言。また、同相は12月15日、「禁輸は損
失が大きく利益が少ない」として禁輸を行う可能性は検討していないと強調した上で、2014/2015
年の穀物輸出量の予測は3000万トン程度である旨発言。
穀物市場関係者等の情報によれば、12月16日朝、連邦動植物衛生監督局が穀物輸出業者に対し
て衛生証明書の発行を停止。停止された穀物の種類や停止の原因について公式の説明はないが、
ドヴォルコヴィチ副首相に事態改善の嘆願書を送った全国農産物輸出者協会によれば、エジプト、
トルコ、インド、アルメニア以外へ輸出される全品目の穀物が対象の模様。しかし、12月19日、
グレンコア、カーギル等も加盟する上記協会は市況及び「市民としての責任」を理由に、国内相場
が落ち着くまでは輸出用の穀物買付を見合わせる旨発表。
なお、12月22日、ロシア農業省は小麦の最低買入価格の引き上げを発表。
4 結 び
連邦税関局の統計によれば、11月の穀物輸出量は299万トン(うち小麦は205万トン)で、同月と
しては過去最高水準となった。そのうち小麦の占める割合が10月の72%から68.5%に減少し、ま
たトウモロコシの割合も減少する一方で、大麦の割合は上昇している。現地調査会社によれば、
関税引き上げ又は輸出制限を行う懸念の高まりを背景に、12月初めには輸出業者の買付が一時止
まったが、12月を通してみればある程度の数量は輸出される模様。
なお、国際穀物理事会(IGC)によれば、世界の輸出余力は依然として十分な状況だが、ロシア
からの輸出の不確実性を背景に、小麦の国際市場では価格変動幅が大きくなっている。
ロシアは、過去にも2007年に輸出税の導入、2010年に輸出禁止等の規制を行っていることもあ
り、今後、どのような対策が講じられるのか、市場関係者はその動向からしばらくは目が離せな
いようである。
- 2 -
表-2
ロシアの消費者物価指数(食品)
2014年11月
食品
前月比
前年末比
前年同月比
2014年1-11月
の前年同期比
食品(アルコール
飲料を除く)
102,3
111,6
112,5
109,1
パン類
100,7
105,5
105,8
105,3
穀粒及び豆類
115,3
120,7
120,5
104,7
パスタ
101,3
104,3
104,3
102,0
99,8
118,4
118,2
108,2
水産品
101,8
114,7
116,4
112,3
牛乳・乳製品
101,0
112,5
114,3
117,1
バター
101,1
112,8
115,4
121,3
ヒマワリ油
102,2
98,8
97,6
94,6
卵
107,8
91,3
90,8
109,2
砂糖
108,5
122,4
120,8
112,1
野菜・果物
108,7
108,1
111,1
107,4
アルコール飲料
100,5
112,9
113,4
112,5
肉類
資料:ロシア連邦統計局
写真
南部連邦管区
ノボロシースク港
黒海に面し、外洋港としての規模拡張が進められている。