派遣報告書

東京外国語大学組織的若手研究者等海外派遣プログラム
「国際連携による若手アジア・アフリカ地域研究者の海外派遣プログラム」
派遣報告書
平成 24 年 6 月 1 日
ITP-AA 委員会 殿
所属機関
東京外国語大学
アジア・アフリカ言語文化研究所
職・氏名
日本学術振興会特別研究員(PD)
横田 祥子
業務を下記のとおり行ったので、報告いたします。
1.派遣先
インドネシア共和国ジャカルタ市、西カリマンタン州シンカ
ワ市および周辺地域、ポンティアナック市
2.派遣期間
平成 24 年 1 月 8 日~ 平成 24 年 3 月 7 日
3.派遣の概要について
今回の派遣では、インドネシア共和国西カリマンタン州出身の女性が国際
結婚を機に台湾、香港、マレーシア、シンガポールに移住している現象に関
して、送出社会側の要因、世帯毎の戦略を調査することを目的としていた。
派遣にあたり、西カリマンタン州ポンティアナック市のタンジュンプラ大学
社会学部の Ema Rahmaniah 氏に受け入れ教官となっていただき、調査につ
いてアドバイスをいただいた。
1 月上旬、インドネシア科学院、ジャカルタ市中央統計局等において、主な
調査地となるシンカワン市の地区別年鑑、生活水準に関する資料、地図を購入
し、聞き取り調査に備えた。これらの資料を検討し、国際結婚を通じて経済上
昇を図っていると思われる比較的貧困な地域を調査地に選定した。
1 月中旬にポンティアナック市へ移動し、タンジュンプラ大学を訪問した。
同大学の社会学部大学院図書館、歴史文化図書館、地域密着型の出版社である
スタインプレス社において、西カリマンタン州の華人研究、エスニシティ研究、
に関する資料を入手した。
続く 1 月下旬から 3 月上旬までは、西カリマンタン州シンカワン市に滞在
し、
本研究課題に関連する実地調査を行った。
現地では、
中国語および客家語、
インドネシア語に堪能なアシスタントを雇用し、調査補助をお願いした。調査
は、シンカワンの中でも、特に多数の移住者を輩出しているシンカワン南区の
複数の村で、家族、結婚、教育、就業、収入、成員の国内および国外移住の実
態について、約 50 軒の世帯調査を実施した。
4.派遣の成果及び今後の課題について
今回の調査成果としては、次の六点を挙げることができる。第一に、当地で
国際結婚が 30 年以上に渡り継続していることと、1967 年、マラヤ共産党掃
討作戦の一環で起きたダヤック人による華人の虐殺事件とそれを受けて多数
の華人が難民化したこととの関連が明らかになった。元難民キャンプ村では、
多数の世帯が一人ないし二人以上の女性を海外へ輩出していた。これは、事件
から 35 年経った現在でも経済的上昇が進まず、国際結婚が重要な経済的上昇
の数少ない機会となっているためである。第二に、国際結婚配偶者輩出世帯で
は、世帯内部で年齢の高い女性から順に国際結婚をしており、両親に代わり扶
養義務を果たしていた。第三に、多くの世帯で複数の女性が国際結婚をしてお
り、男性成員よりもむしろこうした女性たちが、送金で出身家族を経済的に支
えていた。また送金の期間は長期間にわたっていた。第四に、送出社会の婚姻
市場において、華人女性との結婚には、多額の婚資を準備する必要があるため、
男子は自らの結婚準備に追われ、両親の扶養を負担できないケースが多々見ら
れた。このことから、家族内部のジェンダー別役割として、娘に親を扶養する
義務がより重く割り当てられていることとが分かる。第五に、現地の婚姻市場
では、華人男性がダヤック人女性と結婚する場合、極めて小額の婚資で済み、
一方ダヤック人にとっても華人男性との結婚は社会上昇を意味するため、両者
の通婚が進んでいる。第六に、現地では女性の単純労働に対して支払われる賃
金が極めて安く、このような低賃金もまた女性を海外移住へ駆り立てる要因と
なっていた。今回の派遣においては、以上の点について明らかになった。
今後の課題としては、一、再生産労働の国際分業化時代の進展に伴う国際結
婚が、愛情を基盤にした近代家族像が席巻している今日、台湾―インドネシア
双方において、労働観、家族観をいかに再編しているのか、二、国際結婚を通
じて台湾、インドネシア双方の家族の福祉がいかに保持されているのか、特に
女性は出身社会、移住先社会の双方に持つ家族の福祉を支えるアクターとして
いかなる実践をとっているか、という二点について、より詳細な分析をしてい
く必要がある。