2016年度大学入試センター試験(本試験)分析詳細 ■ベネッセ・駿台共催/データネット実行委員会 世界史B 1.総評 【2016年度センター試験の特徴】 文化史が大幅増加。2003年度本試以来となるグラフ問題が出題された。難易は昨年並 文化史の出題が大幅に増加し、2003年度本試以来となるグラフの読み取りを求める問題が出題されたが、難易は 昨年並であった。例年同様、幅広い時代・地域から網羅的に出題され、地図や年表・図版等の資料を用いた問題 が見られた。大問構成や解答数は変更なし。 2.全体概況 【大問数・解答数】 大問数4、解答数36は昨年から変更なし。 【出題形式】 4択での文章選択問題がやや増加(19→21)し、選択肢中の波線部の正誤を問 う問題は出題されなかった。年代整序問題は2設問でいずれも6択であった。語 句選択問題は昨年に引き続き出題されなかった。年表と地図を用いた問題は、 昨年同様いずれも2設問であった。また、2003年度本試以来となるグラフの読 み取りを求める問題が出題された。 【出題分野】 文化史の割合が大幅に増加した。地域では東アジアと西アジアからの出題が増 加し、西欧が減少した。時代は、近世と近代の割合がやや増加した。また、コ ソヴォ紛争やターリバーンなど、現代の国際問題に関連する問題が出題され た。 【問題量】 昨年並。 【難易】 昨年並。 3.大問構成 大問 出題分野・大問名 配点 難易 備考(使用素材・テーマなど) 第1問 「世界史上の宮廷や宮廷文化」 25点 標準 A カール大帝のアーヘン宮廷やイタリア諸都 市の宮廷 B 中央ユーラシアにおける遊牧民の君主の天 幕群 C ピョートル1世の宮廷ペテルゴーフ 第2問 「ユネスコに登録された世界遺 産」 25点 標準 A ベルギーのブルッヘ歴史地区 B イギリスのロンドン塔 C 山東省曲阜市の孔廟 標準 A ローマ帝国のバルカン半島への進出と後退 B 19世紀中頃以降の東アジア地域での戦争や 内戦 C ロベルト=ユンクの反核・反戦運動 標準 A イスラーム共同体と政治 B スペイン人によるキリスト教の布教とアメ リカ大陸先住民 C 19世紀後半のタイ国王モンクットと仏教 第3問 第4問 「世界史上の戦争とその影響」 「世界史上の宗教と政治」 25点 25点 4.大問別分析 第1問「世界史上の宮廷や宮廷文化」 ●Aではカール大帝のアーヘン宮廷やイタリア諸都市の宮廷、Bでは中央ユーラシアにおける遊牧民の君主の天 幕群(オルド)、Cではピョートル1世の宮廷ペテルゴーフについて出題された。 ●問2では、世界史上の税や税制について、幅広い時代・地域から問われた。ローマ=カトリック教会による十 分の一税の対象など、制度の内容に関する理解が問われた。 ●問3では、エラスムスの著作と彼の肖像画を描いた画家の組合せが、肖像画を用いて問われた。正答であるホ ルバインがドイツ出身であり、エラスムスと同時代に活躍した人物であることがポイントであったが、スペ イン出身の画家であるベラスケスとの判別に迷った受験生も多かったと思われる。 ●問4では、ティムールの本拠とした都市の名とその位置の組合せが地図を用いて問われた。サマルカンドとカ ラコルムという、中央ユーラシアの都市の位置についての地理的な理解が求められた。 ●問6では、ムガル帝国の時代にインドで起こった出来事について問われた。シク教徒がムガル帝国に対し反乱 を起こしたことの知識がポイントであった。 ●問7では、ピョートル1世の事績について問われた。ステンカ=ラージンの反乱の時期の判断はやや難しかっ たであろう。 ●問9では、ヨーロッパの文化について、ランケ、マキャベリ、モリエールの活躍した時期が年代整序形式で問 われた。文化史を苦手とする受験生にとっては、モリエールが17世紀、ランケが19世紀の人物であるとの判 断は難しかったと思われる。 第2問「ユネスコに登録された世界遺産」 ●Aではベルギーのブルッヘ(ブリュージュ)歴史地区、Bではイギリスのロンドン塔、Cでは山東省曲阜市の孔 廟をテーマに出題された。 ●問1と問8では、大問テーマに関連して、世界遺産や文化遺産について問われた。兵馬俑が始皇帝の陵墓近く から出土したことや、アロー戦争で円明園が破壊されたことなど、基本的な内容についての出題であった。 ●問2では、歴史上の職業団体やその集会所について問われた。フランス革命でギルドが廃止されたことや、中 世ヨーロッパの同職ギルドの構成員の資格など、社会・経済史に関するやや詳細な知識が問われ、判断に迷 った受験者も多かったであろう。 ●問3では1630年から1799年にかけてのオランダ・イギリス・フランスのアジアに向かう船舶数のグラフが示さ れ、二文正誤形式で問われた。グラフから船舶数の変化を正しく読み取ったうえで、七年戦争終結とフラン ス東インド会社再建の年代を正確におさえている必要があり、判断に迷った受験生も多かったと思われる。 各国の船舶数の推移から当時の国際関係をうかがい知ることができる良質な素材であった。 ●問4では、イギリスで立憲王政が確立した時期が年表を用いて問われた。名誉革命でウィリアム3世とメアリ2 世が即位した後、権利の章典によって立憲王政が確立されていくという大きな流れをおさえているかが求め られた。 ●問5では、第一次世界大戦後に起こった出来事について問われた。第一次世界大戦後、フーヴァー=モラトリ アムが、世界恐慌によるヨーロッパ諸国の財政危機に対して行われたことを理解していれば判断できた。 ●問6では、牢獄や投獄に関連して、審査法とバスティーユ牢獄襲撃について二文正誤形式で問われた。審査法 と人身保護法の内容を正確に区別できているかで差がついたと思われる。 ●問9では、改革・解放政策の下で人民公社の解体が始まった時期が年表を用いて問われた。戦後中国史につい て、周恩来と毛沢東の死後に文化大革命が終了し、改革・解放路線へ転じる流れの理解が求められた。 第3問「世界史上の戦争とその影響」 ●Aではローマ帝国のバルカン半島への進出と後退、Bでは19世紀中頃以降の東アジア地域における戦争や内 戦、Cでは20世紀のジャーナリストであるロベルト=ユンクの反核・反戦運動をテーマに出題された。 ●問2では、世界史上の国家が征服地に対して行った政策について、幅広い時代・地域から問われた。イスラー ム教徒の軍営都市(ミスル)についての知識が問われた。 ●問4では、19世紀にイギリスが清から割譲させた領土の名とその位置の組合せが地図を用いて問われた。イギ リスが南京条約で香港島を獲得したことがポイントであった。 ●問5では、中国の国民政府の外交政策について問われた。関税自主権が回復された時期はやや難しいが、他の 選択肢にある出来事が国民政府時代の政策ではないことがわかれば判断できた。 ●問6では、第二次世界大戦後に形成された国際社会の新たな枠組みについて問われた。太平洋安全保障条約 (ANZUS)など、戦後史の知識が問われた。 ●問8では、20世紀の科学史について問われた。アインシュタインが相対性理論を発表したことは、基本事項の ため判断しやすかったと思われる。近現代の科学史についてはしばしば出題されるため、確実におさえてお きたい。 ●問9では、空爆が用いられた戦争について、年代整序形式で問われた。コソヴォ内戦におけるNATOのセルビア 空爆など、現代の国際関係と関連の深い事項が扱われた。 第4問「世界史上の宗教と政治」 ●Aではイスラーム共同体と政治、Bではスペイン人によるアメリカ大陸へのキリスト教の布教と先住民への影 響、Cでは19世紀後半のタイ国王モンクット(ラーマ4世)と仏教について出題された。 ●問1では、イスラーム世界の君主について問われた。カリフやスルタンなど、イスラーム君主の称号につい て、基本的な内容が問われた。 ●問2・5・7では、大問テーマに関連して、宗教について幅広い時代・地域から問われた。アメンホテプ4世に よる一神教の創始や、キリスト教徒のカタコンベでの礼拝、玄奘が仏典を持ち帰った国など、いずれも基本 的な内容が扱われた。 ●問3では、イスラーム法の担い手や、イスラーム世界における政治運動について問われた。イブン=サウード がアラビア王国を建てたことは基本事項であり判断し易かった。ターリバーンなど、現代の国際問題として 近年の事項も扱われた。 ●問4では、ヨーロッパ諸国の海外植民地について問われた。ニュージーランドがイギリスの植民地であること は基本事項であるが、国旗変更についてのニュースや報道に接していればより身近なこととして判断するこ ともできた。 ●問6では、アメリカ大陸の文明について、空欄に当てはまる語句の組合せが問われた。マヤ文明で二十進法が 使用されたことなど、やや詳細な知識が問われた。 ●問8では、宗教をめぐる対立について、空欄に当てはまる語句の組合せが問われた。新文化運動や仇教運動の 内容など、中国における文化的な運動の内容について正確な知識が問われた。 5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値) 年度 2015 2014 2013 2012 2011 平均点 65.64 68.38 62.43 60.93 61.46 6.センター試験攻略のポイント ●世界史Bでは、教科書にある内容をそれぞれ丁寧におさえておくことが欠かせない。一つの地域や時代の枠内 で重要事項をきちんと整理し、それぞれの時代の特徴を把握したうえで、同じ時期のヨコのつながりや、時 代の枠組みをこえたタテのつながりを意識した学習が重要である。同時期にほかの地域で起こった出来事が 結びつくように、世紀ごとに世界を見渡すことに慣れておきたい。それぞれの出来事を各世紀の前半・後半 に分類できるように備えておくとよいだろう。近代以降は、さらに短いスパンでおさえておくことが求めら れる。学習を進める度に、図説などの「○○世紀の世界」として示されたページと、地域ごとに配列された 年表を活用しながら、既習事項との関連をおさえ、理解をより深めるようにしたい。 ●ヒトやモノの移動、社会史的なテーマ、生活に身近なモノから見た歴史や接触と交流など、複数の地域が絡 む事項については、相互の関係や時代背景、その後の影響などを丁寧に整理しておきたい。また、東南アジ ア・朝鮮半島・中央アジア・ラテンアメリカ・アフリカなど、教科書で分散して扱われる地域については、 中国や西欧、アメリカなどの動きに並行させて民族・王朝・国家などの時期を把握しておくよう注意した い。なお、これらの地域についても、戦後史を含めて、必ず歴史の流れを整理しておくことが必要である。 ●各事項が該当する時期・地域を確認するとともに、その背景・原因となった事象や、その後の社会に与えた 影響など、有機的な関連性を意識して、日頃から学習を進めたい。また、個別の事項の詳細に踏み込みすぎ ず、歴史の流れを大局的にとらえることも心がけたい。 ●主要な王朝・国家・都市は、関連事項とその位置を地図で確認しながら学習を進めるようにしたい。同時期 のヨコのつながり、王朝・国家の支配領域についても、同時期に存立していた王朝や隣接する王朝などにも注 意しながら、図説などの地図を活用して視覚的におさえておくことが欠かせない。なお、地図を見るときに は、教科書本文で触れられる主要な河川や半島などの位置もあわせて確認し、位置をおさえる目安として補 っておくことが望ましいだろう。 ●今年は2003年度以降の本試では出題のなかったグラフを用いた問題が出題された。新学習指導要領では「諸 資料の活用」が重視されており、今後も年表や図表、文献資料や図像資料などさまざまな資料の読み取りを 求める出題がなされる可能性がある。日頃から教科書や図説などに掲載されている資料を活用して、資料か ら必要な情報を読み取り、歴史上の出来事と関連付けて理解するように意識したい。また、新学習指導要領 では世界の歴史を日本の歴史と関連付けながら理解することが重視されている。今年は日本史に関する内容 を直接的に問う設問は昨年より減少したが、リード文中には日本での出来事に触れる記述が散見された。世 界と日本の歴史や文化におけるかかわりを意識する視点は、今後も引き続き重要である。
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