研究室の紹介

非線形地殻物理学研究室
波多野恭弘(数理系研究部門・准教授)
[email protected]
www.eri.u-tokyo.ac.jp/hatano
twitter.com/takahiroHATANO
本研究室では、固体地球科学におけるさまざまな課題を統計力学的なアプローチで考え
ています。地震とか火山とかマントルとかコアとかの、細かい「ジャンル分け」はあまり
気にしていません。その折々で興味を持った問題を気が済むまで考えるということをして
います。ただし、地震波伝播などのいわゆる「グリーン関数の世界」には関わっていませ
ん。どちらかというと、マグマや泥がドロドロと流れたり、砂がギシギシ変形したり、岩
がバキバキ壊れたりする現象の数理的な理解に興味を持っています。ですから、研究内容
を一語で表すのなら「流動と破壊の基礎物理」あたりに落ち着くのかもしれません。以下
ではもう少し具体的に研究の問題意識を解説します。
「ミクロとマクロをつなぐ」
地球科学の面白さは、地球規模の非常に大きな現象を考えることにあると個人的には考
えています。これは空間スケールだけでなく、時間スケールに関しても同じことが言えま
す。いわゆる「地質学的タイムスケール」です。そのような、人間スケールとは大きくか
け離れた現象について、人間が何かもっともらしいことを言えることに素直に感動しま
す。ただし、「時間・空間ともに人間スケールより
も全然大きい」ことは「実験が出来ない」ことも同
時に意味します。精密な実験の繰り返しこそが自然
科学を発展させてきた面がありますから、この「面
白さ」はとりもなおさず「難しさ」も意味している
わけです。この困難をいかにクリアするか?それは
実験室で起きている現象を地球スケールまでつなげ
るロジック・数理を考えることです。 たとえば地震
は断層のすべり摩擦ですが、実験室での岩石のすべ
りと何が同じで何が異なるのか?実験室におけるマ
断層破砕物の変形シミュレーション。速
グマの性質から実際に火道中にあるマグマの挙動を
く動く粒子(青)と遅く動く粒子(赤)
が勝手に空間構造を形成する。
理解出来るのか?そのような根本的かつ重要な問い
に、統計力学的な考え方を武器にアタックしていま
す。 (統計力学は「スケールの異なる現象を数理的・論理的につなぐ」理論ですから、
このような問題に対するほとんど唯一の武器です。)
「地震の統計法則の背後にある物理過程」
地震は大変複雑な破壊現象ですが、地震の「場所・時間・規模」だけに注目すると、非
常にシンプルな統計的法則がいくつか成り立つことが知られています。これら統計法則に
含まれるパラメターは断層帯の力学的状態(いつ地震が起きそうか)を定量的に反映して
いる(かもしれない)という観測結果がいくつかあります。これが本当ならば、直接には
測定できない断層帯の情報を、統計量をモニターすることによって間接的に知ることがで
きるようになります。しかしそのためには、それら統計法則がなぜ成り立つのか、断層帯
の力学から定量的に説明できないといけません。モデルの数値シミュレーションや解析
解、統計モデルなどを用いて、地震の統計法則の背後にある「なぜ」の部分を解明し、地
中深くにある断層の物理量を推定する理論の構築を目指しています。 なお、ここでの相
手は統計性ですから、やはり統計力学的な考え方が重要な武器になり得ます。
面白いことに、地震と類似の統計法則は、脳/社会/経済/インターネットなど地震以
外の様々な分野でも成立しています。この研究を通じて、これら他分野とのつながりを考
えることもまた楽しいでしょう。
「非平衡統計力学の理論」
上の二つの項目では統計力学がいかにも万能の武器であるように書きましたが、実は統
計力学は平衡熱力学と整合性を持つように作られた理論であり、熱平衡に無い系では非常
に限られた応用性しかありません。とくに地球現象では熱平衡とみなせる系は少ないです
から、どうしても(非平衡系に適用出来る)統計力学の理論そのものを作り出す必要に迫
られます。本研究室ではそのような理論物理学の研究も行っています。
「志望学生への注意事項」
2015年度では博士課程の学生が3名在籍しています。基本的には物理学的アプローチで
地学現象に切り込む研究室ですので、物理と数学が好きで、理論的なことに興味のある学
生が向いてるでしょう。
これは重要なことなのですが、(実験・観測と比較すると) 理論の研究では指導教員
が学生の研究を助けられる部分は少ないです。もちろん細かい知識・ノウハウなどは教え
ますし、研究の進め方について適宜アドバイスはしますが、問題解決のための具体的アイ
ディアは自分からどんどん出して困難を自分で乗り越えることが必要です。というより、
それが研究です。(そうでないと学生の研究なのか指導教員の研究なのか分からなくなっ
てしまいます)。「具体的アイディアは指導教員が出して学生はその指示に従っていれば
いい」というものでは全然ないので、その点注意して下さい。ですから、自力で道を切り
開くようなタフさもある程度必要とされます。