印 度學 佛教 學・ 研 究 第37巻 イ ン ド の 祖 霊 崇 拝/ブ 河 こ こ で は, 1.南 第2號 ー タ を め 野 亮 イ ソ ドの 祖 霊 崇 拝, ・ ワ ー ク と文 献 の 双 方 か ら論 究 し, て も 有 効 で あ る こ と を 示 す。3.そ 平 成 元 年3月 ぐ っ て 仙 英 雄 崇 拝, 神 の概 念 の問 題 を フ ィ ール ド 2.そ の 概 念 が ま た, 北 イ ン ドの 辺 境 に お い し て, それ は ブ ラ フマ ニズ ム の普 及 す る 以前 の イ ソ ドの 民 俗 宗 教 に お い て か な り共 通 す る 概 念 で は な い か と推 察 す る。 1. 南 イ ソ ドの 祖 霊 と 神 Kathleen Gougbの 調 査 に よる と ケ ー ラ ラ州 中 央 部 に は三 種類 の祖 霊 崇拝 の ス タ イ ル が 観 察 さ れ る。 a)サ ン ス ク リ ッ ト系 の バ ラ モ ン的 な 父 方 を 祀 る 祖 霊 祭。b)非 系 の 母 系 制 の ナ イ ル(Nayar)の 母 方 の 祖 先 を 祀 る 祖 霊 祭。 c)非 系 で 一 族 の 家 系 に は 属 さ な い も の(alien ナ イ ル の 大 家 族 制 の 家(taravad)に 変 死 し た 異 邦 人 の 霊 で, サ ソス ク リ ッ ト ghost)を 祀 る 祭 儀。 サ ソス ク リッ ト alien gbostと は 仕 え て い た 農 奴 や メ イ ド, あ る い は, 近 所 で pretam, piSaca, bb耐aと も 呼 ば れ, 彼 らを崇 らな い よ う に と 供 養 す る 特 殊 な 祭 儀 が 催 さ れ る。 b)やc)の 供 養 に よ っ て, 疫 病 を 免 れ, の 繁 栄 が 約 束 さ れ る。 ま た, や が て, c)の alien ghostが 家 蓄 の 増 殖 や 豊 作, 一 一家 の健 康 や 村 地 方 神 と し て 崇 拝 さ れ る よ うに な り, も っ と 大 き な サ ソ ス ク リ ッ ト系 の 神 格 と も 統 合 され る。 祭 儀 は, ケ ー ラ ラ 州 北 部, カ ル ナ ー タ カ 州 南 部 に お い て 特 に 発 達 し, 独 特 な お ど ろ お ど う し い 祭 礼 の 中 で 鬼 神 が 祀 ら れ る。 こ れ は, で あ る サ ソ ガ ム の 文 献 群(1∼6世 紀)に 古 代 タ ミル の 詩 文 学 描 か れ る 祭 儀 の 末 商 と 思 わ れ る。 ケ ー ラ ラ 州 北 部 で は テ イ ヤ ム, カ ル ナ ー タ カ 州 で は ブ ー タ と呼 ば れ る。 コ ー イ ル(kovil), カ ー ブ(kavu), お い て, 毎 年, ブ ー タ ・ス タ ー ナ(bhUta-sthana)と 2, 呼 ば れ る 祠, あ るい は 寺 院 に 3月 を 中 心 と し た 数 ヵ 月 の 間 に 祭 礼 と し て 供 養 が 行 な わ れ る。 ケ ー ラ ラ で は トー タ ム(tottam), カ ル ナ ー タ カ で は パ ッ ダ ー ナ(paddana)と 呼 ば れ る 神 の 来 歴 を 語 る 祭 文 に よ っ て 勧 請 し た 鬼 神 ・精 霊 ・獣 神 が シ ャ ー マ ン ・ダ ソ サ ー(ア ウ ト ・カー ス トの 持定 の家 系 の者)に と りつ き, 激 し い 舞 い を 舞 っ た 後, 村 人 に お 告 げ を し, 祝 福 し て 帰 る。 こ う し て 村 の も め 事 を お さ め, 村 人 の 健 康 や -976- (50) イ ン ドの祖霊崇拝 ブータをめ ぐって(河 野) 繁 栄 を約 束 す る。 南 イ ン ドの 民俗 で も 日本 の御 霊 の よ うに, 祖 霊 や 不 慮 の 死 を 逐 げ た英 雄, 産 褥 で死 ん だ女 な どは丁 寧 に祀 らない と崇 る こ とが あ る と され る。 そ うした 身 近 な人 物 が, や が て, 地 方 神 の生 れ 変 りであ る と 同一 視 され て, 最後 に は バ ラモ ソ系 の 大 きな神 格 と習合 してゆ く。バ ガ ヴ ァ テ ィ ー女 神 の 名 の も と, 不幸 な 死 に方 を し た 女, 地 母 神, 疸 瘡 神, 蛇 神 等 様 々 な神 格 が 統 合 され, ヒ ソ ドゥー教 で い うカー リー女神, す なわ ち, シ ヴ ァ神 妃 と習 合 し てい くの が 代 表 的 な 例 で あ る。 2. グ ジ ャ ラー ト州 の ブ ー タ と ヒー ロー ・ス トー ソ ケー ラ ラ とカ ル ナ ー タ カ の州 境 か らイ ン ド亜 大 陸 の 西 の 海 岸 線 を 千 キ ロ以 上北 上 した グ ジ ャ ラー ト州 に も よ く似 た ブ ー タの カル トが あ る こ と が 報 告 さ れ て い る。 産褥 で 死 ん だ 女 はvetra, 人, シ ャ ーマ ソ等 はbbutと Haku Shabの vetriと 呼 ぽれ, 不 慮 の死 を 逐 げ た 男, 英雄 や 狂 して木 偶 に祀 られ る カ ル トが あ る。 調 査 したSurat地 き さ のペ ンキ を 塗 った石(kbatru)に 方 の あ る村 で は, 普 通 は, 漬 物 石 く らい の大 祖 霊 を 祀 り込 む。 と ころ が, 異 常 死 者 や 曰 く因 縁 の あ る者 は, 占い に よ って数 十 セ ソチ く らい の 大 き さの木 偶 に祀 り込 む こ とを決 め る。 英 霊 とそ の木 偶 の 両 者 を ブ ー タ と呼 ぶ。 彼 らは, 普 通 の祀 り方 をす る と, 村 を荒 し, 村 人 に危 害 を 加 え る と信 じ られ る。 グジ ャ ラー トの他 の地 区 で は, 一 メ ー トル 半 の 浮 き彫 りの板 碑 に 祀 った り, ヒ ー ロー ・ス トー ンと総 称 され る顕 彰 碑 的 な石 碑 に祀 る伝 統 を持 つ。 この ヒー ロー ・ス トー ンにつ い て は, 南 イ ン ド古 典 詩文 学 に お い て も記 述 が あ り, natukalと 呼 ぽれ る石 に英 雄 の霊 を 祀 り込 ん で, 羊 の 首 を は ね, 血 を捧 げ て供 養 した こ とが 分 か って い る。 3. この ヒー ロー ・ス トー ソ, サ テ ィー ・ス トー ン, また は メモ リア ル ・ス トー ソの カル トは, イ ソ ド各 地 に広 範 囲 に見 られ る もの で あ る。 そ して, 妻 が夫 に従 って殉 死 す る風 習 は今 日 も北 イ ソ ドで 行 な わ れ, 日本 の新 聞 を も賑 わ す が, 崇 ら な い よ うに そ の場 に祠 を建 て, 次 第 に村 の女 として の 個 性 を な く し, サ テ ィー女 神 と して 崇拝 され, 村 人 の悩 み ご とを 解 決 し, 病 気 を 治 す 神 とな る。 ダ ーキ ニー も, 産 褥 で死 ん だ女 の霊 と説 明す る こ とが あ り, 祀 ら ない と崇 る鬼 神 だ。 つ ま り, 先 に 南 イ ソ ドの神 の概 念 が 祖 霊 や 英 霊 と密 接 に結 び つ い て い た こ とを 示 した が, これ は 現 代 の イ ソ ド各 地 に お い て も見 られ る 民俗 的 な 神 の 概 念 で あ る。 イ ソ ドは サ ソス ク リッ ト化 に よ って 同 じ文 化 の色 を 持 つ よ うに な った が, ブ ラ フマ ニズ ム到 来 前 の イ ン ドに お い て も, か な り, 共 通 した カル トが各 地 で 行 な -975- イ ソ ドの 祖 霊 崇 拝 ブ ー タを め ぐって(河 野) (51) わ れ て い た の で は な い か と筆 者 は 推 察 す る。 参 考文献 Martha Bush Ashton, "S pirit Cult Festivals in South Kanara" in The Drama Review, Vol. 23, Number 2, 1979. New York University, School of the Arts. Eberhard Fischer and Haku Shah, "Vetra ne khamba /Memorials for the Dead." Gujarat Vidy apith, 1971. E. Kathleen Gough, "Cults of the Dead Among the Nayars" in Traditional India ed by Milton Singer. Jaipur: Rawat Rublications, Reprinted in 1975. George L. Hart, "The Poems of Ancient Tamil / Their Milieu and Their Sanskrit Counterparts. California: University of California Press, 1975. S. Settar and G. D. Sontheimer, "Memorial Stones" Institute of Indian Art History, Karnatak University, " 1982. U. P. Upadhyaya and S. P. Upadhyaya, "Bhuta Worship / Aspects of a Ritual Theatre" Udupi : M. G. M. College, 1984. 河野亮仙 「南 イ ソ ドの シ ャー マ ソ」 『印度 学 仏 教 学 研 究 』 第 三 十 三 巻 二 号 昭 和60年 「南 イ ソ ドの ヒ ン ドゥー教 」 『大 正 大 学 大 学 院 研 究 論 集 』 第 十 号 昭 和61年 「イ ン ドの 儀 礼 絵 画 」 『密 教 図 像 』 第 五 号 「南 イ ン ドの神 概 念/テ イ ヤ ム と ブ ー タ」 『宗 教 研 究 』275号 「カ タ カ リ万 華 鏡 」 平 河 出版 社 く キー ワ ー ド〉 昭 和62年 昭 和62年 昭和六十三年 祖 霊 崇 拝, ナ イル, ブ ー タ (大正 大 学 綜 合 仏 教 研 究 所 研 究 員) -974-
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