「グレイトフル・デッド」にマーケティングを学ぶ

Bomb Marketing
アール・リサーチ News Letter
102 号
文責
柳本信一
120116
「グレイトフル・デッド」にマーケティングを学ぶ
拝復 二週間のご無沙汰でした。つい先日、除夜の鐘を聞き、初参りに出かけたかと思うと、もうすで
に 1 月も半ば。うかうかしていられませんね。というわけで、新年第二弾は「グレイトフル・デッド」にマーケ
←とにかく不気味が信条(笑)。
ティングを学ぶ、と題してお届けをします。
よほどロックにお詳しい方でないと知らないバンドだと思います。私も名前だけは知っていま
したが「デス系」のヘビメタバンドかと思っていました。外れ(笑)。アメリカのロックバンドで
す。デビューが 1965 年、リーダーのガルシアが 1995 年に亡くなるまで 30 年間に 2300 回もの
コンサートをしたバンドです。なぜ、日本では知名度が低いかというと、彼らの独特のスタイル
を知る必要があります。彼らはレコード(CD)を出していますが、基本的にライブバンドであ
この写真はまだいいほう。単なるおっさんバンドに見えます→
って、ほとんどの収益をコンサートから得ています。
彼らのコンサートは独
特のお祭りのような気分にさせてくれます。1960 年代からの米国のヒッピー文化との触れ合い
がないとよくわからないバンドなのです。ましてや英語圏ではない日本では人気がないのは当然
です。
ウィキペディアによると
グレイトフル・デッド (The Grateful Dead) は、アメリカのロックバンド。1965 年にカリフォ
ルニア州サンフランシスコで結成された。グレイトフル・デッドの音楽はロック、フォーク、ジ
ャズ、ブルーグラス、カントリー、ブルース、サイケデリック・ロックなど様々な要素を内包し
ている。ライブの長時間にわたる即興演奏を信条としていた。1960 年代のヒッピー文化、サイ
ケデリック文化を代表するアーティストである。デッドヘッズと呼ばれる熱狂的な追っかけファ
ンが多く、ヒットチャートとはほとんど無縁の存在ながら、毎年のようにスタジアム・ツアーを
行い、常にアメリカ国内のコンサートの年間収益では一、二を争う存在だった。日本では知名度
が高くないが、本国アメリカではアメリカを代表する伝説的バンドとして認識されている。
やはり、普通のバンドではありません。
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およそ日本とは縁がなさそうですが、最近彼らの知名度が日本でも上がりました。一冊の本
です。
「Marketing lesson from The Grateful Dead」(グレイトフル・デッドにマーケティング
←写真が沢山、文字も大きいので読みやすい本です。
を学ぶ)がそれです。
自らも Dead ファンである二人のマーケティング企業のトップ
が書き下ろした本です。日経 BP 社 1700 円(税別)
。既に解散をして 15 年も経つヒッピーバ
ンドに何を学べばいいのか。非常にユニークなアプローチですが驚くべきことに現代の最新のマ
ーケティングを先取りしていたとしか思えないのです。順を追ってみていきましょう。
Dead の教え その一、新しいビジネスモデルを開拓せよ。
グレイトフル・デッド(以下 Dead)はレコード・セールスから言えば超一流とは言えません。
彼らの活動のほとんどはライブ・ツアーに当てられます。30 年間にわたって 2300 回の公
演を行なっていますが、これは驚異的な数字でしょう。多くのアーティストは新しいアルバム
(レコードや CD)を作り、そのセールスのためにツアーに出かけるというのが主流でした。だ
からどこのコンサートに行ってもほぼ同じ構成できっちりと決められた台本通りコトが進みま
す。Dead のコンサートは違う。気ままに始まり気ままに終わる(笑)。何を歌うのか、演奏をす
るのかはメンバーのアドリブです。気に入ったフレーズにぶつかると時として一曲に一時間くら
どこの球場か分かりませんが 10 万人くらい入っていそう→
いをかけたりします。コンサートの最長時間はなんと8時間。
考えられません。二度と同じ演奏がない「一期一会」が彼らのスタイルです。ですからファ
ンはどんな体験ができるのかを楽しみにして毎日でも出かけます。彼らの主な収益はコンサート
チケットの売上です。レコードや CD ももちろん発売はしていますが、主たる収益源はコンサー
トなのです。
Dead の教え その二、フリーミアム
フリーミアムとは「フリー」を書いたクリス・アンダーソンが唱えた新しいサービスの提供の仕
方です。例えばケータイゲームの会社 GREE のゲームは基本ただで出来ることになっています。
しかし、ある釣竿を買えば大物マグロを仕留めることができるのですが、こいつは有料です。フ
リーとプレミアムを掛け合わせたマーケティング手法を「フリーミアム」と名付けました。実は
Dead はこの「フリーミアム」に近いことを 40 年以上も前に実施していました。彼らのコン
サートは「録音」
「録画」が自由です。Dead はあろうことか録音に適したスペースまで
作って録音マニアたちのリクエストに応えたのです。録音した音楽はカセットでダビングをする
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ことを提唱されます。ファンの間で交換も OK。禁止するのはそれを販売することだけです。フ
ァンにとってはこんなにうれしいことはありません。こうして多くのテープがファンからファン
に広がっていきます。Dead ファンは友人や知人まで巻き込んで Dead のことを宣伝してくれま
す。アナログの時代ですからテープはダビングをするたびに音質が劣化します。その頃を見計ら
ってライブ・アルバムを発売します。彼らは「クチコミ」の重要性に気がついていた
としか思えないのです。
Dead の教え その三 ファンを大切にする
彼らは非常にユニークなチケットの販売をしていました。なんと自分たちが全て仕切っていたの
です。チケットを封入する返信用の封筒とコンサートチケットの代金を郵送してもらい、彼らの
オフィスでそれを捌きました。何のためにそんなことをしたのか。それは自分たちのコアな
ファンを大切にすることでした。直販をすることによって中間業者の搾取を省き、通常
はコンサート関係者でなくては取れないようなプレミアムチケットを熱心なファンにあてがい
ました。パソコンもない当時、どのように管理をしていたのかは不明ですが、何らかのロジック
があったようです。「ひょっとしたら最前列で見られるかもしれない」ファンの期待は膨らみ、
彼らはそれに応えます。また、ネットがない時代にファンクラブを作り会報誌を年間に数回発行
していたといいます。会報の中にはファンクラブのメンバーでなければ知り得ないとくダネが用
意されました。実はこのファンクラブも Dead に近いファンが主催していました。
Dead の教え その四、ファンを巻き込め
上記にもあるようにファンクラブや会報をファンが自主的に活動をしていました。何らかの報酬
はあったでしょうが、商売ベースではありません。Dead と直接触れることのできる特別な喜び。
それは以前の News Letter で書いた「宝塚歌劇団」のファン組織にそっくりです。Dead はまた
自分たちのロゴマークさえ自由に開放していました
。考えられませんよね。決まり
はひとつだけ「それを商売で売ってはいけない」
。ファン同士で交換するのはライブ音源同様む
しろ奨められていました。こんなバンド、他にありますか?ファンたちはますます夢中になり、
いつしか「エヴァンゲリオン」(福音)として Dead のために多くの時間とお金を使うようにな
るのです。彼らのことは「Dead heads」と呼ばれ、ツアーに帯同するものも少なくなかったと
聞きます。
Dead の教え その五、本当に自分が好きなことだけをやる
既に書きましたが、彼らのコンサートはほとんど即興で曲順も何を演奏するのかさえ事前には決
められていませんでした。つまり彼らはやりたいことをやる、「覚悟しておいてね」(笑)と、あ
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らかじめ宣言をしているようなものです。彼らは常に自由でした。この辺がヒッピー文化を
背負っている所以です。実際彼らのコンサートはお酒とマリファナをステージ上でも客席でも自
由に楽しんでいたそうです。「一緒に気持ちよくなろうぜ」が共有されていたのです。時として
というかしばしば歌詞を忘れたり、演奏を途中でやめたりすることもあったそうですが、ファン
ファンはそういう Dead が大好きなのです。
はこれを許しました。人間だもの。
Dead の教え その六、ハイテクを駆使する
彼らのコンサートは自由奔放なものでしたが、最新技術の導入には非常にこだわりがあった。
「ウ
ォール」と呼ばれる巨大スピーカー。8 年間に及ぶ自主開発したシステム。55 台のマッキント
←一時間に 23 万w使ったそうです。
ッシュのパワーアンプ
(Apple ではありません)が 600 以上のスピーカーを鳴ら
す。私は聞いたことがありませんが、非常にクリアな音だそうです。ただし、コストが高すぎて
普通のミュージシャンでは使えない。バンドのあり方は変わらないのだが、最新技術の導入には
余念がない。毎回コンサートに行くのが楽しみになる。地元で行われるコンサートは年に一回
のお祭りであり Dead head たちが旧交を温め、情報交換をする場でもありました。
Dead の教え マーケティングの先駆者
・ ネーミングですが奇抜ですね。
「Grateful Dead」ですよ。死者に感謝される旅人のこと
だそうですが、アルバム・ロゴには骸骨が散りばめられ、一度聞くと忘れない名前です。
・ 理屈より感応、共感、共創
・ 常に進行形 新しいものをどんどん取り入れました。曲も機材も。
・ 完成しない何か これこそが Dead の真骨頂
以上がこの本を通じて私が感じ取った Dead の教えです。解散が 1995 年ですからパソコンがま
だ全然普及していない時期です。彼らは手作りながらも現在のマーケティングに直結しています。
私?Dead については YouTube で何回も見ましたが、全然好きになれません。背景の文化がわ
からないし、チンプン、が正直な感想です(笑)。ガガ様の方が好きです^^;。
さて、次回は 2 月上旬。テーマはまだ EU が残っていたら経済について書きます。
ブログも毎日更新しています!(週休二日で)
(笑)→
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