期待インフレ率の低下に広がり - 三菱UFJ証券

景気循環研究所
鹿野達史の日本経済の視点
2015 年 4 月 7 日
期待インフレ率の低下に広がり
●期待インフレ率の低下は限定的との見方が大勢だが
日銀調査では、企業、
原油価格の下落などの期待インフレ率に対する影響が注目される中、日
家計の物価見通しは
銀「生活意識に関するアンケート調査(15 年 3 月)」、
「短観(15 年 3 月)」
横ばい、小幅低下に。
では、企業、家計の物価上昇率の見通しが横ばい、または小幅低下となっ
期待インフレ率の低
たことが示された。
下は限定的との見方
が大勢だが
個人を調査対象とした「生活意識に関するアンケート調査」の 1 年後、
5 年後の物価の見通し(平均値)は、それぞれ 4.8%上昇、年平均 4.0%
上昇で、上昇率は、ともに 14 年 12 月調査と同水準となった(図 1)。ま
た、企業が対象の「短観」の物価全般の見通し(前年比)をみると、全規
模・全産業で、1 年後が 1.4%、3 年後が 1.6%、5 年後が 1.6%となり、
嶋中 雄二
景気循環研究所長
12 月調査との比較では、1、3 年後の見通しが横ばい、5 年後が 0.1%ポイ
ントの低下となっている(表 1)。
「短観」の企業の物価見通しでは、今回初めて 5 年後の見通しが低下し
鹿野
達史
たものの、個人を含めたその他の見通しは、おおむね横ばいとなっている
景気循環研究所副所長
シニアエコノミスト
03-6213-5224
ことから、市場では、原油価格下落の影響も小さく、期待インフレ率の低
下は、今のところ限定的との見方が大勢となっている。
shikano-tatsushi1@sc.mufg.jp
宮嵜
浩
(%)
シニアエコノミスト
03-6213-6573
5.5
miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp
5.0
福田
圭亮
シニアエコノミスト
03-6213-2608
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
景気循環研究所
東京都千代田区丸の内 2-5-2
三菱ビルヂング
図 1. 生活意識に関するアンケート調査の物価見通し
1年後の物価上昇率の予想(平均値)
4.5
4.0
3.5
5年後の物価上昇率の予想(平均値)
3.0
12/3 12/6 12/9 12/12 13/3 13/6 13/9 13/12 14/3 14/6 14/9 14/12 15/3 15/6
(注)5年後の見通しは年平均の上昇率
(資料)日銀「生活意識に関するアンケート調査」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
2015 年 4 月 7 日
表 1. 日銀短観の企業の物価全般の見通し(前年比) (%、%ポイント)
15年
12月
14年
6月
9月
12月
3月
→3月
3月
全産業
1年後 製造業
非製造業
全産業
3年後 製造業
非製造業
全産業
5年後 製造業
非製造業
1.5
1.5
1.5
1.4
1.4
0.0
1.5
1.5
1.5
1.5
1.5
1.5
1.5
1.4
1.4
1.4
-0.1
0.0
1.7
1.6
1.6
1.6
1.6
0.0
1.7
1.7
1.6
1.7
1.6
1.7
1.6
1.6
1.6
1.6
0.0
0.0
1.7
1.7
1.7
1.7
1.6
-0.1
1.7
1.7
1.7
1.7
1.6
1.7
1.7
1.7
1.6
1.7
-0.1
0.0
(資料)日銀「短観」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
●物価見通し低下の業種が増加。上昇・低下をベースとしたDIの低下が続く
物価見通し(前年比)
ただ、「短観」の物価全般の見通し(前年比)を業種別にみると、見
が低下した業種は 14
通し(前年比)が上昇している業種よりも低下している業種の方が多くな
業種、上昇した業種
っている。3年後の物価見通しでは、14年12月調査から見通しが低下した
(5 業種)を上回る
業種は、30業種中(全規模ベース)、14業種となっており、一方で上昇し
た業種は5業種にとどまっている(その他は横ばい、図2)。
図 2. 日銀短観の企業の物価見通し(3 年後)の業種別動向
(%)
2.2
14.12→15.3 低下した業種 14業種
上昇した業種 5業種
15年3月調査
2.0
14年12月調査
1.8
1.6
1.4
鉱業など
対個人サービス
宿泊・飲食サービス
電気・ガス
対事業所サービス
通信
情報サービス
小売
運輸・郵便
その他の情報通信
(資料)日銀「短観」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所が作成
卸売
物品賃貸
建設
不動産
輸送機械
その他製造業
電気機械
業務用機械
はん用機械
生産用機械
食料品
金属製品
鉄鋼
非鉄金属
窯業・土石製品
化学
石油・石炭製品
紙・パルプ
繊維
1.0
木材・木製品
1.2
物価見通し低下の業
また、物価見通しの低下した業種が2業種増えた一方(14年12月:12業
種が増加。上昇・低下
種→15年3月:14業種)、上昇した業種は3業種減少している(同8業種→
をベースとしたDIは
5業種)。こうした動きは、規模別(大・中堅・中小)・業種別(30業種)
50%割れ、低下が続
でみた90分類でも同様で、物価見通し(前年比)の上昇・低下をベース
いている
としたDI(50%が横ばい)を作成してみると、30業種、90分類ともに、
DIは50%を下回り、低下している(図3)。5年後の物価見通しを90分
類でみても、見通しが低下した業種が上昇した業種を上回り、DIは同
様に50%割れとなっており、低下が続いている(図4点線)。
巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
2
2015 年 4 月 7 日
図 3. 物価見通し(3 年後)の上昇・低下DIの推移
図 4. 物価見通しの上昇・低下DIの推移(90 分類)
(DI、「上昇」-「低下」、ポイント)
(DI、「上昇」-「低下」、ポイント)
55
60
規模別・業種別
(90分類)のDI
55
50
50
45
45
5年後の物価見通しのDI
40
40
業種別(30業種)のDI
3年後の物価見通しのDI
35
35
30
30
14年6月
9月
12月
14年6月
15年3月
9月
12月
15年3月
(注)物価見通しの前期比上昇、低下を基準としたDI、50が横ばいを示す
(注)物価見通しの前期比上昇、低下を基準としたDI、50が横ばいを示す
(資料)日銀「短観」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所作成
(資料)日銀「短観」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所作成
●期待インフレ率低下に広がり、CPI低下でさらなる拡大も。望まれる追加緩和
期待インフレ率の低
物価全般の見通し(前年比)の全体の平均値は、横ばい、小幅低下にと
下が広がっており、C
どまっているものの、業種別にみると、期待インフレ率の低下が広がっ
PIが前年比マイナス
てきているといえる。一方、足元のコアCPI(生鮮食品を除く総合)
に転じる中、こうした
の前年比は、15年2月に消費税率引き上げの影響を除いたベースでゼロ%
動きが強まる可能性
まで低下し、3月以降、マイナスに転じることが視野に入ってきている。
も。早期の追加金融
CPIが前年比マイナスとなる中で、期待インフレ率の低下が、さらに
緩和が望まれる
広がり、全体の期待インフレ率の低下が明確となることも十分に考えら
れる。
また、足元の景気が、ややもたついた動きとなっているほか、ECB
の量的緩和の観測や緩和の実行、さらに各国の利下げの動きがみられる
状況の下、隠れた円高が進行していることもある。14年12月上旬以降、
円の対ドルレートは横ばい圏で推移しているものの、円の名目実効レー
トは5%程度上昇している(図5)。日銀の早期の追加金融緩和が望まれ
る状況にあるといえよう。
鹿野達史のプロフィール
(14年12月8日=100)
107
1987 年慶応義塾大学経済学部卒
106
業。山一証券経済研究所入社。98
105
年三和総合研究所(現・三菱 UFJ リ
104
サーチ&コンサルティング) 副主
103
任研究員。2001 年同 主任研究員。
102
07 年、三菱 UFJ 証券(現・三菱 UFJ
101
モルガン・スタンレー証券)景気循
100
環研究所 シニアエコノミスト。13
年、内閣府 大臣官房審議官(経済
財政分析担当)。15 年 4 月より現
99
14/11
円実効レート・日経
円実効レート・日銀
対ドルレートの直近の安値
14年12月8日=100
14/12
15/1
15/2
← →円安
シニアエコノミスト
図 5. 円レートの推移
円高
鹿野達史 景気循環研究所副所長
108
円対ドルレート(東京終値)
15/3
15/4
(注)円実効レート・日経、円対ドルレートの直近の安値の14/12/8を100として指数化
(資料)日銀、日経資料をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
職。景気循環学会理事、10 年度 景
(15.4.7
気循環学会中原奨励賞受賞。
巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
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鹿野 達史)
2015 年 4 月 7 日
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引業協会
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