第71回 法律事務所のセキュリティ環境 高橋洋平

弁護士が狙われる時代─弁護士業務妨害への対応
第71回
法律事務所のセキュリティ環境
弁護士業務妨害対策特別委員会委員 高橋
洋平(63 期)
1 事務所のセキュリティ環境の整備
に救助を要請するとともに,事務所外のテナント等に
近時,法律事務所において,弁護士や事務員が来
も救助を要請することも検討すべきである。日頃から
訪者から被害を受ける事件が少なからず発生しており,
他のテナントの者と挨拶をしたり,声を掛け合ったり
事務所のセキュリティ対策が不十分ならば,弁護士も
することを習慣化しておくとよいであろう。
使用者として安全配慮義務違反を問われかねない時代
また,妨害者と対峙している間は身動きがとれない
となってきた。
こともあるから,防犯ベルやブザーの設置も検討すべき
事務所のセキュリティ対策の理想は,妨害者を事務
である。
所に入れないことである。しかし不運にも妨害者が事務
所に侵入したり,依頼者や紛争の相手方が事務所内で
3 人的セキュリティ環境の整備
妨害者に変貌する場合もある。本稿では,そのような場
物的セキュリティ環境の整備だけではなく,弁護士
合において妨害者による妨害行為を最小限に抑えるため
や事務員の安全を第一に考える意識改革が大切であ
の物的,人的セキュリティ環境の整備について述べる。
り,人的セキュリティ環境の整備も極めて重要である。
2 物的セキュリティ環境の整備
⑴ 情報の共有
妨害行為が予測される案件については,弁護士や事
事務所内にいる妨害者の妨害行為を最小限に抑え
務員が来訪者の情報を共有しておくべきである。情報
るためには,物的に凶器となる物を妨害者が容易に手
の共有があれば,万が一の事態が発生した場合にも,
の届く場所に置かないことや避難経路の確保,周囲へ
迅速な対応が可能になり,妨害者の妨害行為を最小
の救助要請が極めて重要である。
限に抑えることが可能となる。
⑴ 事務所の入口付近
⑵ セキュリティ教育の実施
傘立てには置き傘を置かない。飾り物のオブジェ等
セキュリティの心がけは一朝一夕に身に付くもので
も来訪者の手の届かない場所に置くように配置を工夫
はない。日頃から,弁護士や事務員が危険に遭遇した
する。
場合の対処法について,事務所におけるセキュリティ
⑵ 応接室
ルールの確認や避難訓練の実施等を行うべきである。
テーブルの上には,凶器となり得るような備品は置か
⑶ セキュリティに関するハンドブックの設置
ない。例えば,分厚いガラス製の灰皿,花瓶,置き時計,
当委員会作成の「弁護士業務妨害対策ハンドブッ
ハサミ,カッター,大型のホチキス,穴あけパンチ等は,
ク」が大変参考になる。弁護士や事務員が見やすい
来訪者から容易に手の届く場所に置くべきではない。
位置に設置しておくべきである(上記ハンドブックは,
また,テーブルは幅の広いものを選ぶとよいであろう。
東京弁護士会事務局業務課(6 階)にて無料で配布し
幅が広ければ,妨害者が身を乗り出して攻撃を加えて
ている。但し,配布対象は東弁会員のみ)
。
きても届きにくい(理想の幅は 130 ㎝以上)
。
なお当委員会は,本年度,法律事務所のセキュリ
⑶ 避難経路の確保
ティ対策に特化したハンドブックを出版する予定であ
事務所内に裏口等の避難経路があることが理想であ
る。ご期待いただきたい。
るが,そうでない場合も,窓から逃げられるかどうか
確認しておくべきである。
⑷ 周囲への救助要請
緊急時においては,事務所内の他の弁護士や事務員
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LIBRA Vol.15 No.4 2015/4
*問い合わせ先:弁護士業務妨害対策センター
TEL.03-3581-3332(業務課)