第二次世界大戦後の復興と安定-東アジアを中心に-

政治経済学・経済史学会 2015 年度秋季大会
共通論題報告
趣旨説明
第二次世界大戦後の復興と安定-東アジアを中心に-
従来、第二次世界大戦後の復興と安定は、 1940 年代末から 50 年代初めのマーシャル・
プランやドッジ・ラインを中心に論じられてきた。マーシャル・プランについては、その
役割は限定的であり、それ以前にすでに西ヨーロッパの復興は果たされていたという 説も
唱えられている。たしかに、経済活動の戦前水準への回復に着目するならば、ドイツや日
本を除く先進国では朝鮮戦争以前に経済復興が達成されていたと見ることもできる。しか
し、生産活動の戦前水準突破をもって復興の完了とみなすのは狭すぎるように思われる。
第二次世界大戦と冷戦によって大きく変貌した国際経済関係に 適合するような形で、経済
構造・産業構造・貿易構造が再編されることによって、はじめて各国の国民経済は安定し
たと言うことができるのではないだろうか?
対外的側面だけでなく、各国の国内経済について見ても、1949 年以前に安定化が達成さ
れたとは言えない。第二次大戦直後の激しいインフレやインフレの萌芽は、49 年までにい
ったんは抑え込まれた(48 年ドイツ通貨改革、49 年ドッジ・ライン、49 年西欧通貨の一
斉切下げ)。しかし、朝鮮戦争期には多くの国でインフレは再燃し、物価安定は 50 年代前
半にようやく実現した。また国内経済の安定は、インフレ鎮静化だけでなく、より広く労
資関係の安定や生産性の向上をも視野に入れる必要があるだろう。その際には、第 1 次世
界大戦後の「安定化の挫折」との比較も重要になる。
何をもって復興・安定の完了と考えるか については、多様な意見が存在するであろう。
本共通論題報告において、第二次世界大戦後の復興と安定を、西欧諸国に限定せず、東ア
ジアを加えて考察すること、対象時期も第二次大戦直後に限定せず、1950 年代まで含めて
検討することにより、新たな視角からのアプローチの可能性を提示することができれば、
本共通論題報告の役割は果たせるものと考える。
最近約 30 年間に研究が著しく進んだ西ヨーロッパと較べて、東アジアに関する研究は
いまだに非常に遅れた状態にある。したがって、過去の豊富な研究蓄積を活かして東アジ
アの全体像を描くことはできない。この共通論題報告では、西欧に関する豊富な研究蓄積
を踏まえつつ、個別具体例の検討を通じて、第二次世界大戦後の東アジアの復興と安定の
全体像を探ってみたい。アジアにおいては、復興と安定の問題は、西欧とは大きく異なっ
ていた。朝鮮戦争の影響を直接に受けた韓国や中国においては、朝鮮戦争停戦(1953 年 7
月)後に初めて復興と安定の課題に直面することになった。 東南アジアの場合には、第二
次世界大戦後、植民地からの独立が相次いだが、ほとんどの国は依然として旧宗主国の経
済圏に包摂され続けていた。先進国でありながら、東アジアに位置する日本の場合は、 西
欧とはやや様相を異にする。西欧の場合には、遅くとも 50 年代前半には復興・安定が達
成されたと見ることができるが、アジア諸国の復興と安定はいつ実現したと考えられるの
だろうか?50 年代末から 60 年代半ば頃にかけて各国で成立した権威主義的体制を1つの
メルクマールとすることも可能と思われるが、この点については議論を待ちたい。
本共通論題報告は以下のように構成される。 基調報告「第二次世界大戦後の復興と安定
1
の歴史的位相」
(浅井良夫)においては、第二次大戦後の復興と安定を歴史的に位置づける
とともに、東アジアの復興と安定の歴史的特徴を示すことにより、本共通報告全体の問題
提起の役割を担う。第 1 報告「戦後復興期における IMF とマーシャル・プラン」
(西川輝)
では、第二次大戦後の東アジアの復興と安定の参照軸として、西欧の復興プランであるマ
ーシャル・プランを取り上げ、戦後世界秩序の枠組み構築の目的にそって安定政策を推進
した IMF との関係を、主として IMF の側から検討する。第 2 報告「日本の復興と農業に
対する世銀融資
-
愛知用水を中心に
-」
(永江雅和)では、世銀借款の対象となった
愛知用水を取り上げて、日本の復興を検討する。農業政策は、飢餓状態からの脱出を目的
とした戦後初期の「食糧増産政策」から、国内食糧自給率の向上や国際収支の均衡の達成
(=「経済自立」)を目標とする「食糧増産 5 か年計画」に転換したが、そうした歴史的
推移のなかに、戦後開拓から愛知用水への開拓・開墾事業の展開を位置づける。第 3 報告
「1950 年代韓国経済の復興と安定化
-
合同経済委員会を中心に
-」(林采成)は、
1960 年代以降の韓国の「開発時代」の歴史的前提である 50 年代の復興と安定を、合同経
済委員会(CEB)を中心に検討する。CEB は復興援助プログラムや財政安定計画など経済
全般にわたる包括的決定を行った韓米両国による委員会である。CED の場における韓国と
アメリカとの対立と協調を通じて 50 年代末に経済安定化を達成し、60 年代の「開発年代」
の基礎が築かれたことを明らかにする。なお、コメンテーター(西川博史)は、米中関係
史の専門家の立場から、40 年代後半から 50 年代の中国の経験を紹介するとともに、東ア
ジア全体に関するコメントを行う。
共通論題全体を通じて、比較的豊富な研究蓄積のある西欧についての研究を踏まえつつ、
東アジアを視野に収めることにより、第二次世界大戦後の復興と安定の歴史像に広がりを
持たせ、新たな視野を提示することを目標としたい 。
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