KAMIYAMA Reports特別版

2015年3月
05
「21世紀の資本」時代の投資
第1回(全2回)
チーフ・ストラテジスト
神山 直樹
「21世紀の資本」時代の投資
「21世紀の資本」(トマ・ピケティ著)は、投資の観点からたいへん興味深い本だ。ピケティの主張は、格差拡大
を放置しては資本主義が危機に陥るとして、資本課税を中心とした政策を提案している。ここでは、ピケティの
示したファクト(r > g)について異なる理解(rは主にリスクの報酬である)をした上で、r > gを大前提とすれば、
格差拡大防止のために年金や投資信託の役割が大きくなることを主張する。我田引水のそしりを覚悟した上
で、rの分配を変えるべくプロフェッショナルが運用する金融商品提供の充実をNISAなどを通じて推進すること、
日本型401Kなどを含む年金制度を強化しより多くの人がrを享受できるようにすることが、資本蓄積に課税で
ペナルティを与えるよりもよいと考える。
第1回「21世紀の資本」:rとは何か
●ピケティはr > gと世襲資本主義の維持が資本主義の危機につながると訴えている
●しかし、rがリスクの報酬であって不労所得でないとすれば勤労者層もrに参加できる
ピケティの考えたこと
「21世紀の資本」は、そもそもマルクスの「資本論(Das Kapital)」と同じタイトル(Le Capital)で「21世紀の」と
小さく書いてあることは興味深い。このタイトルでピケティは、「資本主義の危機」について語りたいことを強く訴
えかけている。ピケティの主張では、資本主義の危機は収入格差の拡大からくる。この格差拡大は資本主義
が抱え込む r > gという性質によって常に進行してしまう。
マルクスと異なり、社会の矛盾が実際に革命的な行動が起こる契機となるのかを哲学的に検討した結果が述
べられているわけではない。逆にこの格差拡大メカニズムを意識して政策的な介入を行なわなければ、資本
主義が危ないというのがピケティの主張だ。つまり「資本論」というタイトルの衝撃の割に、政策としてはマルクス
というよりも(観点は違うが)ケインズに近いと言えそうだ。
この本が述べることをかなり乱暴に要約すると、次の3点となる。1)資本の収益率(r)は賃金などの成長率(g)
よりも高い傾向にある、2)このことは格差拡大的で社会不安などを通じて資本主義の危機を招く原因となる、
3)資産への課税を強化することで危機を避けるべき、だ。
資本の収益率とは、事業などを行なう時に建物や機械に投入する資金(株式や融資・社債に代表される)や
不動産などから得られる収益(リターン)だ。リターンは主に企業の利益からもたらされるはずだ。一方で資本
以外については、賃金の成長に代表される。賃金の成長は厳密には将来のt時点において受け取る賃金なの
で、いわばフロー(企業でいえばt期の利益)の表現であることに注意しておこう。
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
ある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むこと
があります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご
覧ください。
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続いて、高いrを得る人が固定的であるから、格差が拡大することをピケティは示す。一つには歴史的に「金持
ち」が固定化する傾向にあることを、主要国の相続税に関するデータなどから示す。また、例えば大学の資金
運用の成果を比較することで、規模が大きい資金ほどプロフェッショナルを雇い、機動的な商品選択(例えば
ヘッジファンド型の運用)を行ない、高いリターンを得る傾向にあることを示す(この指摘は重要だ)。つまり、多
くの資金を持つ人は、もともと親から相続し子孫に伝える傾向が強いうえに、規模のメリットを利用して事業拡
大や資産運用ができるだろうから、より高いリターンを得る傾向が強いと解釈できる。
ピケティは、数学的な意味での理論モデルを作り実証するのではなく、現代のみならず歴史資料や、時代を語
る文学などを持ち出し、格差拡大による資本主義の危機を語る。資本主義は、そもそも持っている性格である
r > gゆえに格差拡大的だ。社会保障などだけでは不十分で、資産保有に課税するなどの工夫によって資本
主義を守るべきだと主張した。
ピケティが書いていないこと:rはリスクの報酬
ピケティのr > gは、投資理論の本を読んだことがある人なら心当たりがあるだろう。r - gはPERの逆数だ(マ
クロ経済と個別企業の違いはあるが後に説明する)。
一般に株価(P)は、無限の将来にわたる配当の現時点での価値と考えられる。ただし、無限の将来にわたっ
ては、すべての利益は配当になる(あるいは配当しない利益は将来の配当の原資だから長い目で見れば利益
はすべて配当されるはず)と仮定すると、株価は将来の利益(E)すべての現時点での価値(未来のことはだれ
にも分からないが、市場参加者が納得するこんなところだろうという値段)と考えることができる。スタート時点の
利益(E0)は毎年gの率で成長する。いまのところ、gはピケティの意味する賃金などの上昇率ではなく、(通常
それより高い)利益成長率だ。
一方で、t年後に手に入れる利益(Et)の現時点の価値は、Etより低いはずだ。今日100円貸す人は1年後に
103円で返してもらいたいだろう。逆に言えば、1年後に103円になるお金は、現時点では100円に割り引かれ
て貸し付けられる。お金を現時点で手放すからには、例えば返してくれないリスクや物価上昇で目減りするリス
クに応じたリターンを必要とする。ファイナンスの観点では、これがrだ。一般に1年後の100円は現時点の100
円よりも割り引かれる必要があるが、イールドカーブに示されるインフレ期待(一方で、デフレリスク、さらに言え
ばネガティブ金利)などが話を複雑にすることは否定しない。ただし、ここでは概念だけ把握しておきたい。
とりあえず被雇用者を忘れて企業だけを見ると、rとgがあることがわかる。つまり株主のリターンは、利益成長
率ではなくリスクに見合って要求するリターン(ここでは将来手に入る利益すなわち配当を得るために現時点で
納得して交換する値段)に依存する。言い換えると、価格システムに依存する資本主義社会では、rのレベル
は多数の貸し手(すなわち市場)が取引を通じて決めると考えることができる。毎年gで成長していくEがそれぞ
れt年先にEtになっていてrで割り引かれるならば、現時点での値段Pは、等比数列の和の公式に従い、P = E
/ (r – g)となる。ここで、r ≦ g では株価はマイナスか計算不能になってしまう。
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
ある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むこと
があります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご
覧ください。
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r= gすなわち株価が計算不能では困る
ピケティはr = gになることは理想だが現実には難しいと述べている。しかし、この「理想」が株価計算不能状態
を意味するとは思っていないように見える。確かに、rを受け取る人とgを受け取る人が異なり、固定的であるこ
とを前提にすれば、r > gが格差にかかわるかもしれない。しかし、世界的に株式会社中心の資本主義が一
般的である現代において、「株価が計算不能になる状態が理想的だ」と考えるのはどうも不自然だ。
もちろん、ピケティはある会社のr(要求利回り)とg(利益成長率)を比べたわけではない。しかし、利益の平均
成長率はピケティの想定するg(賃金などの成長率)より高いことが多いだろうから、リスクの価格が問題である
ことに変わりはない。少し単純化して異なる観点から見てみると、被雇用者は一人一人がgを獲得する企業だ
と考えることができる。被雇用者は、労働そのものを蓄積できない(この意味で労働は時間の切り売り)ので、労
働資本のリスクの報酬は存在できない(ピケティは奴隷制度があった時代について言及しているが、ここでは簡
易化のために現代についてのみ考える)。労働への報酬は企業でいえばその時々の利益Etしかないので、等
比数列で価値計算はできない。
つまり、これで少々雑だがマクロ経済とこの問題をつないだつもりだ。マクロ経済では雇用者報酬に代表される
付加価値と営業余剰に代表される付加価値が生み出される。この加重平均がGDP成長率あるいはピケティ
の言うgの源泉だ。よく知られているように雇用者報酬の金額比率はどの経済でも大きい(例えば70%など)の
で、経済成長率は雇用者報酬の成長率に近い。これは農業中心の社会ですらそうだったとピケティは示して
いる。一方で、資本の収益の源泉である営業余剰(税引前)は、一般に雇用者報酬の成長率gよりも高い。被
雇用者がいなくて企業だけの社会(すべての人が企業の所有者で、持っている資金を労働のみならず設備や
不動産に投入する社会)があるとすれば、gは企業収益の成長率になるだろう。企業収益の多くの部分がリス
クの報酬を含んでいるからだ。労働だけを投入する人々が多数である現実の社会では、gはさらに低くなる。
本当の問題は「勤労者層がrに近づけるのか」
フローでしか供給できない「労働資本」にrがないことは重大な問題だが、だからこそ労働提供者がrを獲得する
ために証券に投資するべきとの結論に影響しない。賃金は変動が小さい(ケインズによれば「下がりにくい」ので
目に見える変動よりも感覚的リスクは小さいかもしれない)一方で、事業リスクは高いことをr > gという結果が
示していると解釈できる。現代において、賃金は、短期的には経営者が決めるが長期的には経営者が好き勝
手に決められない(原則として、労働市場で決まるうえ、組合など組織や社会制度の影響もある)ので、下方
硬直的で安定的である状態が維持されている。一方、資本の集中がrの貰い手を固定することは格差拡大的
なので、労働提供者側がrに近づけるかが本当の問題と考えるべきだ。
マネーの論理側から見ても、賃金をもらって家に帰り休息し食事をしてまた再生産される労働は、労働提供者
自身が何かに「先払い」して投資する対象になりにくい。洗濯機の購入は労働再生産のための投資、という考
え方もあるそうだが、一般に耐久消費財を労働再生産のための投資と考えている人は多くない。消費のため
の労働と考えるほうが一般に受け入れられそうだ。
一方で、工場を建て鉄を作り線路を敷いて鉄道を走らせることは、収入獲得まで数年に及ぶ長期の資本財へ
の資金投入が必要となる。現時点で消費せずに将来の消費のために資金を投入する人(投資家)は、リスク
に応じたリターンを要求する。改めて、gはフローの成長率であることに注意したい。企業であれば毎年の利益
フローの成長率であり、被雇用者であれば賃金の上昇率だ。この観点では、rは将来に受け取るフローの期待
を値段(利回り)で表現したものだから、 現時点での将来の分配を対象とした交換レートを示しており、gは将来
受け取る分配そのものとみることもできる。
つまり、 r = gが理想と考えることの不自然さの理由は、そもそもファイナンスの理論でr > gである理由が「rは
リスクの報酬」だからだ。r - gの幅は経済情勢によって変わるかもしれないが、「同じになるべきだ」と言ってし
まうと、「事業リスクが非常に低くなる」ことになり適切な資源配分に不安が出てくる。未来のことは誰にも分から
ないのだから、アイデアがある誰かがアニマル・スピリッツを持って事業を起こす。このことの報酬がリスクに応じ
て支払われない社会を想定することは難しい。つまり、rに税金をかけてアニマル・スピリッツの報酬にペナル
ティをかけることは、株式会社中心の資本主義を維持する前提では良い手に思えない(ピケティは資本の逃
避を抑えるために、世界中でこれを導入しないといけない点で現実的に難しいと言っている)。
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ここまでの議論で、リスクの報酬を考えに含めることは、そもそもr > gであること自体を説明することになると主
張した。資本を(所有者ではなく金額として)集中させ大規模な投資を行なう現代の株式会社中心の資本主
義社会では、r > gの継続は不可思議ではない。株式会社制度は、リスクを小口化し分散することで事業を
大規模化する制度だと考えることができる。将来のことはだれにも分からないので、rがgに近づくようにアニマ
ル・スピリッツにペナルティを設ける政策が適切とは思えない。格差問題は、リスクの報酬の受け取り手が集中
し、かつ固定されることだ。すでに制度的な機会の平等が存在する現代社会では、被雇用者もgからrへシフト
することが可能だ。
ピケティが考えるrとは:レント
ピケティは「資本のすべてがそういうリスクをとっているわけではない」(2月1日付日本経済新聞インタビュー)と
述べて、r > gであることをリスクの報酬としてだけで説明できないと述べている。ピケティは同じインタビューで
「資本全体の収益率が経済成長率を上回っていることを、リスクテークだけで説明するのは無理がある」とした。
例えば、ロボット技術など資本集約的な技術の発展が、労働に置き換わっていることを指摘した。確かに、r >
gの差が加速・拡大する理由はこれで説明できる部分がある。
しかし、「21世紀の資本」に戻ると、そもそもピケティの考えるrの源泉は「レント」だ。レントとは一般に家賃・地代
を意味する。ピケティの以下の説明は大変興味深い。資本というものは、初めのうちは起業精神(アニマル・ス
ピリッツ)にあふれているが、十分蓄積が進むと「必ずレントに変わろうとする」性質がある、としている。つまり、ピ
ケティは、アニマル・スピリッツの発揮が十分であればrがリスクの報酬だとしてもいいが、現実には「レント」に
なっているので社会不安定につながると考えているようだ。
レントシーキングという言葉は、経営者が株主の利益を最大化しないで個人的な利益を獲得しようとする「エー
ジェンシー問題」(経営者が株主のエージェントとして必ずしも適切に行動するとは言えない利益相反問題)に
おいてすでに使われていた。レントは、ここでは「与えられた役割を利用して個人的に便益を獲得すること」とさ
れている。例えば、株価連動報酬を減らして株主の利益に近づかないようにする一方で、多額の給与と退職
金を準備する、会社でプライベートジェットを購入し家族旅行に使う、名誉のために無理なM&Aで会社を大き
くする(エンパイア・ビルディング)、などが考えられる。
興味深いことに、経営学ではこのレントシーキングをそれほど「悪いこと」と決めつけていない。株主は分散投資
でリスクを分散することができるが、経営者は企業特殊的なリスクを負っており、少なくともそのキャリアについ
て分散はできない。それゆえ、株主は妥協的に経営者にレントシーキングを許すことが合理的だと説明された。
ここでは経営者はrの獲得者ではない。
ピケティのレントは「不労所得」のことであり「悪い」という意味のようだ。ピケティは「モノを所有する利点は、労働
なしに消費を続けられることだ」と言う。「労働なし」の利益が労働で得られるよりも大きい、しかもその受け取り
手が固定的で集中していれば、格差が社会を破壊するリスクが高まるという主張に説得力はある。ピケティの
レントは、どうやら親からもらった不動産の家賃収入で寝て暮らす、というイメージでとらえてよさようだ。たしかに、
そこにアニマル・スピリッツはない。しかも、家賃のrは(gよりも)一般に高い傾向にある。
しかし、仮に資本の所有者がアニマル・スピリッツを失い、低いリスクで高いレントを獲得することを「性質として
持っている」と認めたとしても、通常それは長く続かないはずだ。なぜなら、そのような「労働なし」で「高いリター
ンを得る」機会は(その所有権も市場取引の対象となる前提では)裁定の対象となり、長期的にはなくなる可
能性があるからだ。あるいは、寝て暮らす所有者はより良い投資機会を見送るか見失っている(機会損失)は
ずだ。例えば、日本の大手の「大家」はおおむね大手不動産業者であり、そのような企業はビルの魅力を高め
るために様々な手を打ち、良い土地を獲得する努力を怠ってはいない。資本はその性質としてより高いリター
ンを求めるはずだから、労働を求めるほうが高いリターンであれば、レントに甘んじることはない。そうでなければ、
すべての投資機会のリターンが総じて低くなるはずだ。
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リスクプレミアムは「本来あるべき水準より高すぎる」(プレミアムパズル)問題が指摘されているが、これを「資
本の所有者が性質として志向する」から維持されるというのは奇妙だ。みんながそう思ったからそうなるのでは
なく、裁定が働くことで、みんながそう思うからそうならないはずだからだ。将来のことは分からないから心理的
にリスクの報酬が高く求められる、と考えるほうが説得的だ。もちろん土地などの相続がある程度税制で制約さ
れ、レントに甘んじない社会が必要ではある。
そう考えると、資本の所有者が性質としてレントを志向するからr > gであるとのピケティの論理は、経済社会で
常に相続の力が強い(市場機能が不十分)という市場の不完備性がr > gを維持する本質的な力だと主張し
ていることになる。ピケティは、rはリスクプレミアムだとの反論にこの問題はもっと複雑だと答えている。そうであ
れば、技術革新による労働の疎外なども含まれねばならないし、時代によって理由が違うとも考える必要はあ
る。だがピケティの考えるrとは、主に市場機能が不完全であることにより起こるので、rにペナルティをかける税
制でr = gになるまで取り上げるべきと考えることになる。
しかし、ピケティはある時期(いわゆる1900年前後のベル・エポック)に経済成長率が低いにもかかわらず安全
資産のリターンが大幅に高い時期があったことに言及した。これは一時的に資本の「代替の弾力性が高い」
ケースだったと理解できる。機械など資本を投入すると労働に置き換え(代替)られる。機械の量をどんどん増
やしても最初の1台に比べると利益の伸びは小さい(収穫逓減)。機械の量が増えるに従ってrは低下すること
になるが、資本増の比率に比べてrの低下率が同じか低い場合、弾力性が高いことになり、資本の収益率は
高止まりする。資本分配率は高くなり、かつ格差拡大的だ。ただし現代の代替の弾力性は低い傾向にあると報
告されており、説得力は十分ではない(竹森俊平「ピケティ神話を剥ぐ」中央公論2015年4月号)。
ここまでで、ピケティの発見であるr > gについて、rがリスクの報酬であることが重要な理由である可能性を指
摘したが、ピケティ自身は、rはレントの部分が大きい(さらに技術革新による労働の付加価値の低下の可能性
など複雑である)と主張していることを報告した。さらにリスクプレミアム(金利すなわちインフレリスクを差し引い
た事業リスクの報酬)について考えを深めておきたい。rがリスクの報酬であるとの考えに自信を持つことが、
「21世紀の資本」の時代の投資を考えるにあたり重要だと思うからだ。rが事業リスクの報酬であるならば、税制
でつぶしてしまうことは誤った政策になる。
リスクの報酬は「おいくら」か
そもそもリスクプレミアムとは何か。ある時点t(例えば10年後)において受け取るキャッシュフロー(例えば100
万円)は、現時点でいくらと交換するだろうか。まず100万円を現時点で預けてまったくリスクなく受け取る金利
(リスクフリ-金利Rf)が比較対象となる。10年国債利回りが1%であれば(本来はスポットレートにすべきだが、
ここでは簡易化する)、10年後の100万円は、現時点ではおよそ99万円となる。さて鉄道や鉄鋼など事業リス
クを負う資金を提供する投資家は、国債と同じ利回りでは満足しないだろう。建設が順調に進まないリスクや
事業が始まっても利益が上がらないリスクを10年にもわたり取ろうと思えば、例えば10%程度儲からないと「割
に合わない」と思うだろう。これが要求利回りだ。
要求利回りにはリスクフリー金利が含まれる。そこで、リスクなく受け取るRfを除いた要求利回りについて考えよ
う。これをリスクプレミアム(リスクに対する対価)と呼ぼう。
高いリスクを持つ鉄鋼や鉄道に新規投資する人が「例えば10%」程度儲からないと「割に合わない」と考えるこ
とは現実的だ(Rfの水準は問題ではない)。しかし、実は厳密にどのくらいであるべきかを理論化することは難し
い。有名な理論であるCAPMは、市場リスクプレミアムおよび市場と個別銘柄との相関(ベータ)が観測される
ことを前提にしている。つまり、リスクプレミアムが「本来どの水準か」を述べる理論ではない。また、理論では真
のリスクプレミアムは「観測不能(歴史的に観測される数値は本来あるべき値のひとつ)」とされているので、概
念的な存在と考えることもできる。市場価格から推定する試みは多くあるが、結果はしばしば異なる(2%から
8%などまでだがピケティの指摘と大きく異なるわけではない)。
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一方で、リスクプレミアム・パズルという問題が金融経済学で長らく指摘されている。歴史的に観測されてきたリ
スクプレミアム(株式の国債などに対する超過リターン)は、理論的なリスク回避度から見て高すぎるという問
題提起だ。パズル(奇妙なこと)とは、上述のリスクプレミアムの水準について、投資家の消費の効用など仮定
したうえで、過去の株価リターン(実績としてのリスクプレミアム)が高すぎるという意味だ。つまり、理論が想定
するよりも投資家が極端にリスク回避的か、何かほかの理由で会社が与えるリターンに弱気になっているせい
で、継続的に結果としてのリターンが理論の想定するところより高くなってしまっている。
このようにリスクの報酬はどのくらいか本当はよくわかっていないのだが、少なくともかなり大きな部分が(人々が
未来にリスクを感じる限り)リスクの報酬で説明できると考えるべきだ。その残りがピケティが言うような理由(例
えば、技術革新が継続的に驚くほどの幅とスピードで起こる)で説明できるかもしれない。
しかし、rがレント(不労所得)だと切り捨てるべきでもない。不動産は分かりやすい例だ。個人所有の小さな貸
家は必ずしも合理的な運営のもとにあるとは限らないし、よりよい使い道があるとしても個々の都合で収益の低
い用途になっているかもしれない。それでも借主退去の後に次の借り手が見つからないリスクや探す手間、借
り手の信用、火災、破損のリスクも負うことになる。しかも、そのリスクはリターンを要求し、他に高いリターンを生
む資産があれば、不動産を売って他の投資に切り替えることができる。
さらに、大規模な不動産は、テナント獲得のためかなり厳しい競争にさらされるし、大規模企業が効率的に運
営しようとするだろう。逆に人気のある小売ビルはテナントを選んでできるだけ高い家賃を維持することができる。
生ぬるい運営で惰眠をむさぼるレントシーキングな「大家さん」は経済の主要な部分を占めているように思えな
い。格差が生じていることも、格差とr > gが関係あることも否定しているわけではなく、レントはrの主要な部分
を構成していないと主張するにすぎない。資本提供者のエージェントである経営者がアニマル・スピリッツを発
揮していると考えることは自然だ。ただし、エージェント問題がrの低下を起こしている日本(ピケティはドイツや日
本のrの低さの理由が株主中心的ではなかったからだと説明している)をアニマル・スピリッツの弱体化とレント
シーキングの結果とみなすことは、これまでの企業ファイナンスの研究成果の一部と整合的になる。
リスクの報酬を考えに含めると、r > gであること自体よりも、rを受け取る人がgを受け取る人と固定的に異なる
こと(格差が固定的であること)こそが、ピケティの意味する資本主義の危機とされるべきだ。相続への課税や
社会保障や教育の充実などがこの問題を緩和するとの意見には賛成できる。しかし、r > gが「起こるべきで
はない」こととして資本主義の根本問題とすることに違和感がある。rとgの分配が固定的で格差を拡大するこ
とこそが問題なのだ。
PDFファイルおよびバックナンバーは、日興アセットマネジメントのホームページでご覧いただけます。
http://www.nikkoam.com/products/column
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