電気通信利用役務の提供に対する消費税課税制度の見直し

Japan Tax Update
電気通信利用役務の提供に対する消費税
課税制度の見直し
Issue 109, March 2015
In brief
2015年3月31日、平成27年度税制改正法(「所得税法等の一部を改正する法律」及び「地方税法等の一部を
改正する法律」)が国会で可決されました。改正消費税法では、電気通信回線を介して行われる一定の役務
の提供が「電気通信利用役務の提供」と定義され、その役務提供の内外判定は、電気通信利用役務の提供
を受ける者の住所若しくは居所又は本店若しくは主たる事務所の所在地によることとされます。このような内外
判定基準の見直しの結果、現行では消費税の課税対象外とされている、国外事業者からのデジタルコンテン
ツの配信等が2015年10月1日以後は課税取引として取り扱われることになります。
国外事業者による事業者向けの電気通信利用役務の提供(「特定資産の譲渡等」)を受ける国内事業者は、
当該役務提供に係る消費税額、即ち課税仕入れに係る消費税額を「特定課税仕入れ」として、消費税の納税
義務を負うことになります(リバースチャージ方式)。国外事業者から事業者向けの電気通信利用役務の提供
を受けている金融機関等の課税売上割合が低い事業者では、改正法施行後の取引について、申告等の事
務負担が増えることが予想されます。
一方、国外事業者から受けた消費者向けの電気通信利用役務の提供に係る消費税は、当分の間、登録国外
事業者の登録番号等が記載された請求書等の保存等の要件を満たす場合以外は、仕入税額控除制度が適
用されません。従って、国外事業者から電気通信利用役務の提供を受けている場合には、国外事業者が登
録国外事業者か否かの確認も必要となります。
In detail
平成27年度税制改正の大綱(2015年1月14日閣議
決定)では、「国境を越えた役務の提供に対する消
費税の課税の見直し」として、以下の内容が明らかに
されていました。
① 「電気通信役務の提供」(仮称)に係る内外判定
基準の見直し
② 国外事業者が行う事業者向け電気通信役務の
提供に係る課税方式としてのリバースチャージ
方式の導入
③ 国外事業者が行う消費者向け電気通信役務の
提供に係る仕入税額控除の制限及び登録国外
事業者制度の創設
④ 上記制度導入に伴う経過措置規定(事業者免
税点制度、特定課税仕入れに関する申告等)
改正法(「所得税法等の一部を改正する法律」)によ
る新消費税法では、新たに「電気通信利用役務の提
供」の定義を設け、「電気通信利用役務の提供」の内
外判定基準や、役務提供を受ける者の納税義務、電
気通信利用役務の提供を行う国外事業者に係る登
録国外事業者制度等を規定しています。
以下では、新消費税法に基づき、電気通信利用役
務の提供に係る消費税の課税制度の概要を解説致
します。
www.pwc.com/jp/tax
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1. 制度の概要
国外事業者による「電気通信利用役務の提供」に係る課税制度は、下記の図表に示すように、国内の事業者向けの取
引か消費者向けの取引かにより、課税の方式が異なります。
(出所:
経済産業省資料 (平成 27 年度経済産業関係 税制改正について)より作成)
消費者向け電気通信利用役務の提供
対
象
取
引
国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のうち、「事
業者向け電気通信利用役務の提供」以外のもの
国外事業者申告納税方式
課
税
方
式
国外事業者(役務
提供者)
・ 消 費税の納税義
務を負う
・一定の要件を満
たす国外事業者
は、国税庁長官に
申請書を提出し、
登録国外事業者と
なることができる
(2015年7月1日より
申請可能)
役務提供を受ける国内事業者
・消費者向け電気通信利用役務の
提供に係る消費税については、当
分の間、仕入税額控除が認められ
ない
・ただし、消費者向け電気通信利
用役務の提供であっても、登録国
外事業者から役務の提供を受け、
登録国外事業者の登録番号等が
記載された請求書等の保存等が
ある場合には仕入税額控除が認
められる
事業者向け電気通信利用役務の提供
国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のう
ち、当該電気通信利用役務の提供に係る役務の性
質又は当該役務の提供に係る取引条件等から当
該役務の提供を受ける者が通常事業者に限られる
もの
リバースチャージ方式(国内事業者に納税義務を転
換する)の導入、国内事業者の「特定仕入れ」が課
税対象、「特定課税仕入れ」が納税義務の対象
国外事業者(役 役務提供を受ける国内事業者
務提供者)
役 務 提 供 を 受 ・課税売上割合が95%以上の課
け る 国 内 事 業 税期間においては、当分の間、
者が、リバース リバースチャージ税額と特定課
チャージの対象 税 仕 入 れ 税 額 を 同 額 と み な し
取 引 に 係 る 消 て、申告対象から除外
費 税 の 納 税 義 ・課税売上割合が95%未満の場
務者となる旨を 合はリバースチャージ税額と特
表示する
定課税仕入れ税額を申告
2. 課税取引としての「電気通信利用役務の提供」
改正により、新たに定義が設けられた「電気通信利用役務の提供」は資産の譲渡等のうち、電気通信回線を介して行
われる著作物の提供(著作物の利用許諾取引を含む)その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供とされます。
但し、通信設備を用いて他人の通信の媒介を役務として提供する場合や、他の資産の譲渡等の結果の通知や他の資
産の譲渡等に付随して行われる役務の提供は除かれます。しかしながら、具体的にどのような役務提供が「電気通信
利用役務の提供」に含まれるのかは十分明確ではありません。
電気通信利用役務の提供の内外判定は、役務の提供を受ける者の住所、居所、本店若しくは主たる事務所の所在地
等により行われます。国外事業者とは、非居住者である個人事業者および外国法人とする定義も設けられています。
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新たに課税取引の対象となるのは、国外事業者から「電気通信利用役務の提供」が行われる場合ですが、役務提供が
消費者向けか事業者向けかにより、課税方式が異なっています。事業者向け電気通信利用役務の提供とは、国外事
業者が行う電気通信利用役務の提供のうち、当該電気通信利用役務の提供に係る役務の性質又は当該役務の提供
に係る取引条件等から当該役務の提供を受ける者が通常事業者に限られるものとされ、広告の配信やクラウドサービ
ス(取引相手を制限しない、一般消費者向けの物を除く)等が含まれると考えられます。
事業者向け以外の電気通信利用役務の提供は、すべて消費者向けとして取り扱われ、電子書籍や音楽の配信等が
含まれると考えられます。消費者向け電気通信利用役務の提供は、通常の「資産の譲渡等」として課税対象に含まれ
ますので、役務提供者である国外事業者が申告納税義務を有することになります。消費者向け電気通信利用役務の
提供を受ける国内事業者は税込みの対価を国外事業者に支払いますが、国外事業者が登録事業者でない限り、仕入
税額控除は認められません。
一方、事業者向け電気通信利用役務の提供(「特定資産の譲渡等」)は、当該役務の提供を受ける国内事業者の仕入
取引(「特定仕入れ」が課税対象とされ、国内の課税事業者が「特定課税仕入れ」として申告納税義務を有することに
なります。従って、国内事業者は税抜きの対価を国外事業者に支払うことに留意が必要です。事業者向けに電気通信
利用役務の提供を行う国外事業者は、当該役務提供がリバースチャージの対象である(役務提供を受ける国内事業者
が消費税の納税義務を有する)ことの表示の義務を負うことになりますが、このような表示の有無にかかわらず、国内事
業者は申告納税義務を有することには変わりません。
現行
改正後(赤字が改正内容)
課税の対象
・国内において事業者が行った資産
の譲渡等
・外国貨物の保税地域からの引き取
り
・国内において事業者が行った資産の譲渡等(特定資産の譲渡等を除
く)
・特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等)
・外国貨物の保税地域からの引き取り
取引の内外
判定(課税・
不課税の判
定)
・資産の譲渡又は貸付け:譲渡又は
貸付けが行われる時において当該資
産が所在していた場所
・役務の提供:役務の提供が行われ
た場所
・資産の譲渡又は貸付け:譲渡又は貸付けが行われる時において当該
資産が所在していた場所
・役務の提供(電気通信利用役務の提供を除く):役務の提供が行われ
た場所
・電気通信利用役務の提供:役務の提供を受ける者の住所若しくは居
所又は本店若しくは主たる事務所の所在地(これらの場所がないとき
は、国内以外の地域で資産の譲渡等が行われた(役務提供を受けた)
ものとする)
・特定仕入れ:役務の提供を受ける者の住所若しくは居所又は本店若
しくは主たる事務所の所在地
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課税標準
・課税資産の譲渡等:課税資産の譲
渡等の対価の額
・保税地域からの課税貨物の引き取
り:関税定率法による算定金額に関
税等の額を加算した金額
・課税資産の譲渡等:課税資産の譲渡等の対価の額
・保税地域からの課税貨物の引き取り:関税定率法による算定金額に
関税等の額を加算した金額
・特定課税仕入れ:特定課税仕入れに係る支払対価の額
納税義務者
・国内において課税資産の譲渡等を
行った者
・外国貨物を保税地域から引き取る
者
・国内において課税資産の譲渡等を行った者
・特定課税仕入れを行った者(事業として他の者から受けた特定資産
の譲渡等を行った課税事業者)
・外国貨物を保税地域から引き取る者
3. 「電気通信利用役務の提供」に係る申告納税
(1) 事業者向け電気通信利用役務の提供を受ける場合
「事業者向け電気通信利用役務」では、役務提供を受ける国内事業者が特定課税仕入に係る申告納税を行います。
特定課税仕入れに係る消費税の課税標準は、特定課税仕入れに係る支払対価の額とされ、消費税額から控除する課
税仕入れ等の税額は、特定課税仕入れに係る消費税額を含めて計算した金額とされます。
特定課税仕入れを行う事業者の新消費税法適用日(2015年10月1日)を含む課税期間以後の各課税期間において課
税売上割合が95%以上である場合には、当分の間、当該課税期間中に国内において行った特定課税仕入れはなかっ
たものとされますので、課税売上割合が95%未満の事業者に限り、2015年10月1日以後に受ける事業者向け電気通信
利用役務提供について申告納税が必要となります。
(2) 消費者向け電気通信利用役務の提供を受ける場合
2015年10月1日以後に、国外事業者から消費者向け電気通信利用役務の提供を受ける場合は、登録国外事業者から
の役務提供を除き、当分の間、仕入税額控除制度は適用されません。登録国外事業者から役務提供を受けた場合で、
当該登録国外事業者の登録番号等が記載された請求書等の保存等の要件を満たす場合には、仕入税額控除制度の
適用が認められます。
4. 国外事業者の申告納税義務等
国内で、消費者向け電気通信利用役務の提供を行う国外事業者は、事業者免税点制度の適用がない限り、2015年10
月1日以後の役務の提供に係る消費税の申告納税義務を負います。
(1) 登録国外事業者の登録
電気通信利用役務の提供を行い、又は行おうとする国外事業者は、2015年7月1日以後、納税地を所轄する税務署長
を経由して国税庁長官に登録の申請ができます(登録を受けるためには下記の要件が必要です)。
 国内において行う電気通信利用役務の提供に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地が国内に
あること又は消費税に関する税務代理人があること
 納税管理人を指定していること(国税通則法第117条の規定の適用を受ける場合)
 国税の滞納がないこと及び登録国外事業者の登録取消しから1年を経過していること
登録国外事業者の名称・本店等は、国税庁長官からインターネットを通じて公表されます。登録国外事業者が、登録を
受けた日の属する課税期間の翌課税期間以後は、事業者免税点制度の適用を受けることはできません。
(2) 国外事業者に係る事業者免税点制度の適用
事業者免税点判断で、基準期間における課税売上高には、リバースチャージ方式によることとなる「事業者向け電気通
信役務の提供」に係る対価の額(特定課税仕入れの対価の額)は含まれません。
(注)経過措置における特例
事業者の課税期間の基準期間の初日が2015年10月1日前であるときは、当該基準期間の初日からこの制度の見直しが行われてい
たものとして事業者免税点制度の規定を適用します。ただし、これに困難な事情があるときは、2015年4月1日から同年6月30日の期
間に制度の見直しが行われていたものとして計算した課税売上高を代用し、これを4倍して適用することもできます。
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