輸入価格を大幅に押し下げるユーロ安

景気循環研究所レポート
輸入価格を大幅に押し下げるユーロ安
2015 年 3 月 18 日
輸入価格が一段と下落
輸入価格の下落が鮮明となっている。2 月の貿易統計速報によると、同
月の輸入価格指数は前年比 7.8%下落した。前年比マイナスは 2 ヵ月連続
であり、かつマイナス幅は 1 月の 2.9%からさらに拡大している(図 1)。
輸入価格の下落ペースが輸入数量の増加ペース(前年比 4.5%増)を上回
った結果、2 月の輸入金額は前年比で減少しており(同 3.6%減)、輸出の
堅調(同 2.4%増)もあいまって、2 月の貿易収支(輸出-輸入)の赤字
額は 4,246 億円と、13 年 3 月以来約 2 年ぶりの低水準となった。
翌 3 月の輸入数量の前年比は、前年に発生した、消費税率引上げ前の駆
ユーロ安が主導
け込み需要の影響を強く受けることになる。その影響が剥落する 4 月以
降、輸入数量は前年比プラス圏で推移するとみられる。一方、輸入価格は
引き続き、下落基調で推移する見通しだ。最近の輸入価格下落の要因とし
て、ユーロ安・円高が挙げられるが、過去を見ると、輸入価格指数の前年
比変動率は、ユーロ・円レートの同変動率に追随するケースが多い(図 1)
。
ECB の量的緩和
欧州中央銀行(ECB)が 1 月 22 日に国債買入れ型の量的金融緩和の導入
を決定し、3 月 9 日に実際に購入を開始する中、ユーロ相場は対円・対ド
ルともに下落基調を強めている。国別貿易額ウエイトで加重平均した実効
為替レートをみると、ユーロは昨年末以降、急ピッチで下落しており、15
年中の利上げを織り込みつつ上昇する米ドルとは対照的な動きとなって
いる(図 2)
。日本や米国にとって、ユーロ圏からの輸入品は、価格競争
嶋中 雄二
景気循環研究所長
力の面で相対的に優位な立場にあるといえる。
図 1. ユーロ安は日本の輸入価格を押し下げる
宮嵜
浩
シニアエコノミスト
03-6213-6573
miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp
福田
圭亮
シニアエコノミスト
03-6213-2608
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ
き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。
景気循環研究所
80
(前年比、%)
(前年比、%)
ユーロ・円レート(右目盛)
60
40
20
40
0
20
-20
0
-20
日本の輸入価格指数(左目盛)
-40
06
07
08
09
10
11
12
13
14
-60
15(年、月次)
東京都千代田区丸の内 2-5-2 (資料)財務省「貿易統計」、日本経済新聞などをもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券
景気循環研究所作成
三菱ビルヂング
1
-40
2015 年 3 月 18 日
一方、日本円の実効為替レートは、ユーロの下落が始まった昨年末から今
円の実効レートは横ばい
年 2 月初め頃にかけて、いったん円高方向の動きをみせたものの、その後は
再び円安含みの展開となっている(図 2)。2 月の輸入価格の下落については、
為替レート以上に、原油や天然ガスといったエネルギー価格の下落が効いた
格好だ。原油相場の国際的な指標である WTI 期近物価格は、前年比の落ち込
みに未だ歯止めがかかっていない(表 1)。
ただ、原油相場の動向は、ユーロと無縁ではない。市場には、主に商品投
ユーロ・ドルと原油
資顧問業者(CTA)とみられる、原油相場とドル相場の高い「負の相関」に着
目した取引が存在する(図 3)。現在のように、米国の金融政策が引き締め方
向にあり、ユーロ圏が逆に緩和スタンスを強める局面では、ユーロ・ドルレ
ートは下落しやすいが、ユーロ安・ドル高の値動き自体が、原油の売り材料
視される可能性がある。米欧の金融政策が、市場における原油相場の値動き
を通じて、日本の輸入物価を押し下げる展開が今後も続くとみられる。原油
安による消費者物価指数の下振れは、日本銀行が想定している「一時的な動
き」(黒田日銀総裁、3 月 17 日)にとどまらない可能性がある。
図 2. 実効為替レートの比較
125
図 3. ユーロ安・ドル高が原油安に波及
(日経通貨インデックス)
(08年=100)
(ドル/ユーロ)
(ドル/バレル、対数目盛)
1.8
米ドル
120
1.6
ユーロ
115
1000
ユーロ・ドルレート(左目盛)
1.4
日本円
1.2
110
1.0
105
100
0.8
100
0.6
95
0.4
90
WTI期近物価格(右目盛)
0.2
85
13
14
10
0.0
15
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年、日次)
(注)98年以前のユーロはECU(欧州通貨単位)の為替相場より算出。
(資料)日本経済新聞社資料をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券
景気循環研究所作成
(年、月次)
(資料)日本経済新聞などをもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券
景気循環研究所作成
表 1. 最近の貿易統計および為替レート、原油相場の動向
貿易収支
(兆円)
14年2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
15年1月
2月
3月
-0.8
-1.5
-0.8
-0.9
-0.8
-1.0
-1.0
-1.0
-0.7
-0.9
-0.7
-1.2
-0.4
-
輸出(前年比、%)
輸入(前年比、%)
価格
価格
4.2
4.4
3.0
0.7
-0.3
2.9
1.7
4.0
4.6
6.7
8.6
5.3
4.7
-
数量
5.4
-2.5
2.0
-3.4
-1.7
1.0
-3.0
2.8
4.8
-1.7
3.9
11.1
-2.1
-
9.6
5.9
4.9
0.6
1.3
2.8
3.3
3.2
5.1
5.8
3.8
-2.9
-7.8
-
数量
-0.5
11.6
-1.3
-4.0
7.2
-0.4
-4.6
3.0
-1.8
-6.9
-1.8
-6.3
4.5
-
ユーロ相場
実効レート(08年=100)
(円/ユーロ)
(ドル/ユーロ)
139.32
141.47
141.63
139.77
138.75
137.84
137.13
138.38
136.97
145.09
147.14
137.27
134.78
131.10
1.367
1.383
1.381
1.374
1.360
1.354
1.332
1.289
1.268
1.248
1.231
1.161
1.135
1.081
米ドル
104.3
104.1
103.6
103.1
103.3
103.0
104.2
105.7
107.4
109.5
112.4
115.7
117.5
119.9
ユーロ
97.7
98.9
98.4
97.3
96.4
96.0
95.6
94.5
94.7
96.1
99.3
96.8
95.0
91.4
原油相場
日本円
100.5
100.2
99.6
100.2
100.1
100.2
99.4
96.5
96.8
91.1
90.4
92.9
93.4
92.8
(注1)貿易収支は差引(輸出-輸入)、原数値。輸出(前年比)および輸入(同)はいずれも貿易指数をもとに算出。
(注2)ユーロ相場は月平均値。実効レートは日経通貨インデックス、月平均値。原油相場はWTI期近物価格、月平均値。いずれも直近は3月17日までの平均値。
(資料)財務省「貿易統計」、日本経済新聞をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
(ドル/バレル) (前年比、%)
100.68
100.51
102.03
101.79
105.15
102.39
96.08
93.03
84.34
75.81
59.29
47.33
50.72
48.14
(以
上)
みやざき
ひろし
(15.3.18 宮嵜
巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
2
5.6
8.1
10.8
7.4
9.8
-2.2
-9.8
-12.4
-16.1
-19.3
-39.4
-50.1
-49.6
-52.1
浩)
2015 年 3 月 18 日
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引業協会
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巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
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