特集/景観形成における色彩の効果と重要性 第1 7回グッド・ペインティング・カラー最優秀賞(新築部門)受賞者インタビュー 色とリブ幅の繊細なグラデーションで 自然豊かな環境との調和を図る — パーパス富士宮工場エコベストファーム 竹中工務店 東京本店 設計部 設計第 4 部門 設計 4 グループ 課長 中楯 哲史氏 朝霧高原の自然に囲まれた施設 まず、受賞作品の概要についてお教え下さい ― 「パーパス富士宮工場エコベストファーム」は、富士山 の西南西、山頂から約10㎞の場所にある、給湯器メーカー 「パーパス」の製造・開発施設です。周囲には朝霧高原が 広がり、牧場なども点在する自然豊かな土地で、年間を 「パーパス富士宮工場エコベストファーム」の 設計を担当した中楯哲史氏。 通じて北西からの風が吹くことも特徴です。 建築主であるパーパス様は、製造施設としてこの富士 宮と、駿河湾に面した富士市内の2拠点をお持ちなので すが、給湯器のメイン工場を富士宮にし、併せて2か所 「富士山軸」の採用に関しては、当初考えていた以上の効 果が得られたように思います。 に分かれていた開発施設も富士宮に集約する目的で、既 存の1号棟に加え、新たな工場棟、開発棟(テクニカル 外観の特徴はどのようなところですか ― センター)の設置を計画されました。 建物の形状としては、生産・開発施設という性格上、 工場の再整備にあたっては、最初にお話ししたように、 至ってシンプルなものになっています。外壁はALCの 朝霧高原という自然豊かな土地ですので、持続可能な環 塗装仕上げで、屋根は金属の折板屋根と、使用している 境配慮型の施設の構築をめざすというテーマがありまし 材料も特別なものはありません。 た。また一方で、富士山という環境資産が目の前にあり ただ、工場棟の外壁のALCについては、デザイン上 ますので、設計にあたっては、積極的にその恩恵を受け の工夫を施しています。このALCパネルにはリブが入っ るような計画をしていきました。 ているのですが、壁の上部に行くにしたがってそのリブ の幅を狭くしているのです。これは、地図で富士山を見 まっすぐに富士山を向く工場棟 た時に、等高線が山頂に向かうにつれて狭くなることを 元にしました。斜面の角度を変えながら富士山が高くの 富士山の恩恵を受けるために、まず「富士山軸」を採用 ぼっていくイメージを可視化したのです。大きな壁面で しました。これは、富士山の山頂と敷地の中心を結んだ すので、何か変化を与えたい。それも、この場所ならで 軸線に従って、建物を建てる考え方です。こうすると、 はのユニークな変化ということで、この方法を考えまし 新たに建てる工場棟が既存の1号棟と平行ではなくな た。 り、配置的に均整を欠くようにも思えますが、1号棟と 新設の工場棟の間に三角形のスペースが生じ、そこに開 リブ幅を徐々に狭くしたことで、壁の上部に行くほど 発棟を置くことができます。 陰影が出て、色が濃くなっているようにも見えます ― 建物を富士山と正対させることによって、眺望や光が はい、そのとおりです。それと、このリブ幅の変化は 取り込みやすくなります。また、建物内外の各所に、真 高さ方向のものですが、実は長さ方向にも微妙な変化を 正面に富士山を見ることのできる場所を設けることがで つけているのです。 きます。風についても、ダイカストの炉の排熱などに自 然換気をうまく利用することができました。このように 36 Vol.40 No.476 2015-3
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