哺乳期の「胃作り」 一般の方に牛の特徴を尋ねられたら、 「胃が 4 つある」ではなく「第一胃がある」と答えます。第一胃 は、牛という動物が硬い草を食料にするために作り上げたすばらしい発酵タンクであり、内部には多種の 微生物を養う環境が絶妙に整えられています。 皆様の農場には「腹が弱い牛」いませんか?すっきりした腹まわりで、餌が変わると下痢しがちな。こ のような牛は育成期に第一胃の発育がうまくいかなかった可能性があり、本来の能力を十分発揮できて いないことでしょう。体格が小さく、繁殖、泌乳、肥育成績に悪影響を及ぼすため農場経営に大きく関与 します。 そこで、見聞きしてきた中で哺乳期の胃(第一胃)作りについて紹介させて頂きます。尚、黒毛和種に ついてのお話ですので、酪農家の方は子牛の月齢を 1 ヶ月ほど早めてご理解下さい。 まず「図 1」をご覧下さい。牛を擬人化してみました。生まれたての子牛はほぼ人間と等しく、ミルク (代用乳)が唯一の栄養源となります。哺乳しながらスターター、草、水を内部の微生物に餌として与え て第一胃という袋を大きく強く作り上げ、最終的には微生物自体やその消化産物を主な栄養源として生 きていくようになります。 そのために哺乳期においてまず大事なことは、 発育に必要な栄養を満たしてあげることです。 「図 2」は黒毛和種子牛をハッチで単独飼養し、 乾草、スターターを自由給与した場合の摂取量 を測定した報告です。スターター摂取量は 2 ヶ 月ころから急増し、乾草の摂取量が上がるのは 離乳が完了する 3 ヶ月ころからです。つまり 3 ヶ月齢までは、 「図 3」上段のように、大きくな るにつれて栄養要求量も増える子牛に対し、初 期に十分量のミルクを与えることと、なるべく 早くスターターに慣らし利用できるようにする ことが重要です。ミルクが不足したり( 「図 3」 中段)スターターの慣らしが遅れたりすると(同 下段) 、発育が停滞し病気にもなり易くなること から胃作りの失敗に繋がります。 スターター 乾燥 ミルク また、早くからスターターを給与することは第一 胃の発達を直接促します。内部表面の絨毛という突 起物が長くなり、表面積を広げることで吸収能力が 上がることは良く知られていますし、微生物にせっ せと餌を与えることで、その増殖と適応が早まりま す。うまくいけば子牛は順調に発育し哺乳期間の短 縮も夢ではありません。 しかし「理屈は解るが、やっても食べない」とお困 りの方も多いのではないでしょうか。牛は草を食べ る動物ですので、本来の食べ物ではないスターター 等の濃厚飼料に慣らすためには、誰かが教えなけれ ばいけません。そのためのコツを幾つか挙げてみま す。 ○ 親付けの場合、先輩子牛が教える 食べたい時に自由に食べることができる数頭の群 れを作れば、一緒に飼槽に頭を入れ自然と食べるよ うになります。子牛部屋を作ることが理想ですが、 「通路を走り回るチビ達が一輪車のエサを勝手に食 ってる」もこれにあたります。 ○ 人工哺乳の場合、 哺乳後まだ欲しがる時に口の中へ お母さんである哺乳者が教えてあげてください。 手間かもしれませんが、まもなく置いてあるものを 自分で食べるようになるはずです。往診に来た獣医 師が、興味本位で嫌がる子牛の口にねじこんではい けません(失敗談) 。 ○ 乾草、糖蜜、粉ミルク等を混ぜ込んで誘う 草は教えなくても食べるので、人工哺乳の場合、細かくして混ぜ込むとスターターもついつい口にして しまいます。他のものも好感触だと聞きますが、コストや衛生面、そして後々への慣らしのために私は乾 草の利用をお勧めします。 ○ 何日も置きっぱなしにしない 牛は自分のよだれがついたものは好みません。次回までに食べ切る量を給与し、食べ残しは食べたがる 他の牛に与えれば良いのです。変敗した飼料は第一胃内微生物の負担になりますし、下痢の原因になるか もしれません。 まとめますと「ミルク、草、水は適度に与え、なるべく早くスターターに慣らす」ことが哺乳期の胃作 りだと考えます。しかしこれを実現する具体的な方法は各農場により異なるはずです。時間がかかって も構いません。自分なりのやり方を一つ一つ作り上げて下さい。
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