インピーダンス整合とは 1.1

1.1
インピーダンス整合とは
1.1.1 インピーダンスとは
電気回路の勉強を始めると最初は直流回路、そして交流回路を学ぶ。そして
交流回路は低周波そして高周波へと展開する。 低周波というと電源などの
50Hz、60Hz の周波数がある。音声信号などのオーディオ信号はほぼ 20Hz か
ら 20,000Hz であり可聴周波数といって人の耳で聞こえる領域である。数十
kHz 以上では高周波の世界といえる。通常の回路設計の世界から、電波とし
て自由空間に放射される周波数領域でのインピーダンスも論じられる。
ここでインピーダンスを構成する 3 つの電気素子を考える。電気素子にはレ
ジスタンス、インダクタンス、そしてキャパシタンスがある。インダクタンス
やキャパシタンスは使用する周波数が異なるとこれらのリアクタンス値は異な
る。リアクタンスは周波数の関数である。電気素子のリアクタンス、インピー
ダンスを、表 1.1.1 に整理した。
インピーダンスを皮相抵抗と呼ぶこともある。抵抗とリアクタンスは直列で
扱うことも並列で扱うこともある。この相互変換は簡単である。図 1.1.1、図
表 1.1.1 電気素子のリアクタンスとインピーダンス
名 称
2
リアクタンス(Ω)
インピーダンス(Ω)
R
レジスタンス(Ω)
Z=R±j0
L
インダクタンス(H)
jxl = jωl
ωl = 2πfl
Z = r + jxl
Z = R//jXL
//:並列
C
キャパシタンス(F)
1
jωc
1
1
=
ωc 2πfc
1
ωc
1
Z = R//-j
XC
jxc =
Z=r-j
第 1 章 整合の基本
1.1.2 に抵抗と±のリアクタンス合成を示した。
インピーダンスは電力の世界では電源の内部インピーダンスやパーセント・
インピーダンスなどが使われる。オーディオの世界ではスピーカの入力インピ
ーダンスやアンプの負荷インピーダンスが使われる。高周波の世界では、伝送
路のインピーダンス、アンテナのインピーダンス、そして自由空間の電波イン
ピーダンスなどが使われる。インピーダンスは複素数の世界である。抵抗は実
数部で表現しリアクタンスは虚数部で表現される。虚数部には正と負がある。
X
x
Z
+j
0
r
Z=r+jx
=R//jX
Real part
Z
jX
R
R
−j
図 1.1.1 抵抗とインダクタンスの合成
Z
+j
0
r
Real part
R
−jX
R
−j
x
X
Z
Z=r+jx
=R//jX
図 1.1.2 抵抗とキャパシタンスの合成
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なお、インピーダンスには測定器で直接測れるインピーダンスと測れないイ
ンピーダンスがある。素子のインピーダンスやアンテナの入力インピーダンス
は測定できる。自由空間のインピーダンス、電波インピーダンス、伝送路の波
動インピーダンス、サージインピーダンスなどは直接測定できない。だから間
接的に測定するか構造的に算出する。特性インピーダンスは構造的、空間的に
決まると考えられる。線路の太さ、長さ、離隔距離、加えて空間の誘電率など
に支配されて決定される。
1.1.2 整合を必要とする世界
整合(matching)とは普段あまりなじみがない人も少なくないと思う。整
合を扱う代表的な項目をいくつか挙げる。
◎異なるインピーダンス回路を接続する整合
電気回路や電子回路を多段にスムーズに結合する技術。
◎送信機とアンテナとの整合
送信機などの信号源からのエネルギをフィーダ経由でアンテナに効率的に
伝送するための技術とその作業。
◎受信機と受信アンテナとの整合
受信アンテナで捉えた電波をマルチパスひずみがなく受信装置に伝送する。
◎伝送線路の保護としての整合
整合が取れていない線路上には電圧の強弱(VSW:定在波)が発生して、
最悪の場合には線路内で絶縁破壊を起こして伝送線路が過熱して燃えること
もある。
◎伝送路からの電波放射と吸収を抑圧するための整合
伝送線路からの電波放射の抑圧、逆に外来電波を装置側に誘導させない。
1.1.3 電波と整合
ここでアンテナから電波が放射されることを少し考える。送信機のエネルギ
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第 1 章 整合の基本
が遠くの受信者に届くまでに空間や真空中を電波が伝送していくと考える。そ
のエネルギにはもちろん紐などははっていないので無線という。空気中であれ
ば音が空気を振動させて伝搬していく。水中でも音波が伝わるのは水が媒介す
るからである。それでは電波は何を振動させて伝搬するのか? 昔の物理学者
はエーテルという存在を探していた。電波が伝搬するにはエーテルを振動させ
ることが必要であると考えていたためであるが、エーテルは見つからなかった。
電波の伝搬を議論するにはマクスウェルが一役買う。マクスウェルの電磁方
程式を解くと、静電界、誘導電磁界、そして放射電磁界が出てくる。前者の 2
つは距離の 2 乗、3 乗に反比例するためアンテナなどの近傍には存在するがす
ぐ減衰する。放射電磁界は距離に反比例する項で減衰量は少ない成分である。
電波の伝搬ではこの放射電磁界の相互作用で説明される。
以下の式の展開は、マクスウェルの電磁方程式を解いた結果出てくる、静電
界、誘導電磁界、放射電磁界である。電波として扱うのは放射電磁界の世界で
ある。特別にアンテナ近傍の電磁界を議論するときには図 1.1.3 のようにこれ
らの成分のベクトル合成値として扱うことがある。
E 1 =
m
l:I
: 3
2rc
r
E 2 =
1 l:I
: 2
c
r
E 3 =-
1+3 cos 2 i sin ]~t-krg 静電界
1+3 cos 2 i sin ]~t-krg 誘導電界
2r l:I
:
sin i sin ]~t-krg 放射電界
mc
r
H1 = 0 静磁界
誘導電界
電流
放射電界
静電界
図 1.1.3 電磁波のベクトル関係
5
H 2 =
1 l:I
: 2 sin i sin ]~t-krg 誘導磁界
c
r
H 3 =-
2r l:I
:
sin i sin ]~t-krg 放射磁界
mc
r
1.1.4 電波の特性インピーダンス
電波の特性インピーダンスは、固有インピーダンスとか波動(サージ)イン
ピーダンスとか様々ないい方がされている。すなわち電波の伝送路のインピー
ダンスである。空間に特性インピーダンスを規定するイメージは描きづらいと
思う。電波の特性インピーダンス線路には、あらゆる周波数の電波がこの空間
を共有の伝送路として使用する。公の高速道路のような存在である。
電波の特性インピーダンは固有インピーダンス(波動インピーダンス)
電解 E[V/m]と磁界 H[A/m]の比は[Ω]の単位を有し、それを Z0 と
おき、真空中の誘電率εおよび透磁率μの値から、次のように定義できる。
Z 0 =
E
=
H
n0
] 120r ] 377 [X]
f0
/
(A・m)
]
ただし、n0=4r#10-7[H/m or(V・s)
f 0 ]
10 -9
/
[F/m or(A・s)
(V・m)
]
36r
この Z0 を真空中(近似的に空気中)の固有インピーダンス、または波動イ
ンピーダンスという。これは伝送線路における特性インピーダンスに相当する。
電波のインピーダンスを 120πと表現することもできる。これは 377Ω にな
る。アンテナには 3 つのインピーダンスが使われる。入力インピーダンス、特
性インピーダンス、そして放射インピーダンスである。アンテナの入力インピ
ーダンスは高周波信号が自由空間にデビューするための登竜門のインピーダン
スともいえる(図 1.1.4)。
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