「空き家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」 と課題 本論は、2 月 26 日に決定された「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するた めの基本的な指針」について、その概要と課題を整理したものである。なお、本文は以下 のとおり(国は特別措置法に「空家」と表記しているのが、ここではすべて「空き家」と 表す)。 1 基本的指針の概要 1. 空き家等に関する施策の実施に関する基本的な事項 1 本基本指針の背景 (1)空き家等の現状 (2)空き家等対策の基本的な考え方 ①基本的な考え方 ・所有者等に第一義的な管理責任 ・住民に最も身近な市町村による空き家等対策の実施の重要性等 ②市町村の役割 ・空き家等対策の体制整備 ・空き家等対策計画の作成、必要な措置の実施等 ③都道府県の役割 ・空き家等対策計画の作成・実施等に関する市町村への必要な援助の実施等 ④国の役割 ・特定空き家等対策に関するガイドラインの策定 ・必要な財政上の措置・税制上の措置の実施等 2 実施体制の整備 (1)市町村内の関係部局による連携体制 (2)協議会の組織 (3)空家等の所有者等及び周辺住民からの相談体制の整備 3 空き家等の実態把握 (1)市町村内の空家等の所在等の把握 (2)空き家等の所有者等の特定及び意向の把握 (3)空き家等の所有者等に関する情報を把握する手段 ・固定資産税情報の内部利用等 4 空き家等に関するデータベースの整備等 5 空き家等対策計画の作成 6 空き家等及びその跡地の活用の促進 7 特定空き家等に対する措置の促進 ・ガイドラインを参照しつつ、「特定空き家等」の対策を推進 8 空き家等に関する対策の実施に必要な財政上・税制上の措置 (1)財政上の措置 (2)税制上の措置 ・市町村長による必要な措置の勧告を受けた「特定空き家等」に対する固定資産 税等の住宅用地特例の解除 2. 空き家等対策計画に関する事項 1 効果的な空き家等対策計画の作成の推進 2 空き家等対策計画に定める事項 (1)空き家等に関する対策の対象とする地区及び対象とする空き家等の種類その他 の空き家等に関する対策に関する基本的な方針 ・重点対象地区の設定、空き家等対策の優先順位の明示等 (2)計画期間 ・既存の計画や調査の実施年との整合性の確保等 (3)空き家等の調査に関する事項 ・対象地区、期間、対象など調査内容及び方法の記載等 (4)所有者等による空き家等の適切な管理の促進に関する事項 (5)空き家等及び除却した空き家等に係る跡地の活用の促進に関する事項 (6)特定空き家等に対する措置その他の特定空き家等への対処に関する事項 (7)住民等からの空き家等に関する相談への対応に関する事項 (8)空き家等に関する対策の実施体制に関する事項 ・各部局の役割分担、組織体制、窓口連絡先などの記載等 (9)その他空き家等に関する対策の実施に関し必要な事項 ・対策の効果の検証、その結果を踏まえた計画の見直し方針等 3 空き家等対策計画の公表等 3.その他空き家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するために必要な事項 1 空き家等の所有者等の意識の涵養と理解増進 2 空き家等に対する他法令による諸規制等 3 空き家等の増加抑制策、利活用施策、除却等に対する支援施策等 2 今後の課題 1.市町村内の関係部局による連携体制 <基本指針> 空き家等がもたらす問題を解消するには、防災、衛生、景観等多岐にわたる政策課題に 横断的に応える必要があることから、市町村においては、それら政策課題に対応する建築・ 住宅・景観・まちづくり部局、税務部局、法務部局、消防部局、防災・危機管理部局、環 境部局、水道部局、商工部局、市民部局、財政部局等の関係内部部局が連携して空き家等 対策に対応できる体制の構築を推進することが望ましい。 <市区町村では> たとえば練馬区では 2015 年度に「空き家・ごみ屋敷の全戸調査と対策の検討」を予算化 している。そのために、建築課(実態調査)、環境課(総合窓口)、企画課(利活用の仕組 みの検討)の3課を連絡先としている。今後の連携に注目したい。 23 区は固定資産産税が都税であるため税務課は加わっていないが、市町村では税務担当 課も当然ながら検討組織に入る必要がある。また、地域包括ケアシステムの構築を展望す れば、福祉関係の担当課も加わる必要がある。 2.協議会の組織 <基本指針> 市町村は、法第7条に基づき、空き家等対策計画の作成及び変更並びに実施に関する協 議を行うための「協議会」を組織することができ、その構成員としては「市町村長(特別 区の区長を含む。)のほか、地域住民、市町村の議会の議員、法務、不動産、建築、福祉、 文化等に関する学識経験者その他の市町村長が必要と認める者をもって構成する。」ものと されている(同条第2項)。 <市区町村では> 協議会は「できる規定」である。防災対策だけでなく活用も考えることが必要であるの で、地域の団体や市民、さまざまな事業者が参加することが重要である。当面、市長、市 役所内の方針が課題である。 3.空き家等対策計画の作成 <基本指針> 空き家等対策を効果的かつ効率的に推進するためには、各市町村において、空き家等対 策を総合的かつ計画的に実施するための計画を作成することが望ましい。 法第6条第1項に基づき、市町村が空き家等対策計画を定める場合、同計画には①空き 家等に関する対策の対象とする地区及び対象とする空き家等の種類その他の空き家等に関 する対策に関する基本的な方針、②計画期間、③空き家等の調査に関する事項、④所有者 等による空き家等の適切な管理の促進に関する事項、⑤空き家等及び除却した空き家等に 係る跡地の活用の促進に関する事項、⑥特定空き家等に対する措置その他の特定空き家等 への対処に関する事項、⑦住民等からの空き家等に関する相談への対応に関する事項、⑧ 空き家等に関する対策の実施体制に関する事項及び⑨その他空き家等に関する対策の実施 に関し必要な事項を定めるものとする(同条第2項)。 <市区町村では> 空き家等対策計画の作成は、 「望ましい」規定である。しかし市区町村では条例を策定し、 空き家等対策計画を策定することが重要である。いずれにしても、市区町村でどう対応す るのかが課題になる。 4.空き家等及びその跡地の活用の促進 <基本指針> 空き家等対策を推進する上では、各市町村がその跡地も含めた空き家等を地域資源とし て利活用すべく、今後の空き家等の活用方策を検討することも重要である。このような観 点から、法第13条は「市町村は、空き家等及び空き家等の跡地に関する情報の提供その 他これらの活用のために必要な対策を講ずるよう努めるものとする。」と規定されている。 <市区町村では> 空き家、跡地活用は「努力規定」である。いずれにしても、「条例化」して対応すること が望ましい。 5.特定空き家等に対する措置(公権力の行使)の促進 <基本指針> 法第9条第2項に基づく立入調査及び法第14条に基づく措置は、いずれも「特定空き 家等」の所有者等にとっては強い公権力の行使を伴う行為を含むものである。このため、 国土交通大臣及び総務大臣は、どのような空き家等が「特定空き家等」に該当するか否か を判断する際に参考となる判断基準や市町村長が「特定空き家等」の所有者等に対して必 要な措置を助言・指導する段階から最終的には代執行を行うに至る段階までの基本的な手 続の内容等について記載したガイドラインを、法第14条第14項に基づき定めることと している。各市町村長は、必要に応じてこのガイドラインを参照しつつ、各地域の実情に 応じた「特定空き家等」に関する対策に取り組むこととする。 なお、「特定空き家等」に対して立入調査や必要な措置を講ずるに当たっては、市町村に おいては、建築・住宅・景観・まちづくり部局、税務部局、法務部局、消防部局、防災・ 危機管理部局、環境部局、水道部局、商工部局、市民部局等の関係内部部局間の連携が一 層求められる。 <市区町村では> 当面、国のガイドライン策定を待つことになるが、すでに条例において末尾<参考>の ように代執行等の規定を設けているところがある。代執行は特措法にもとづいて行うこと ができるが、やはり条例を策定すべきだと考える。 6.条例化の課題 条例化は、都内ではこれまで 9 条例にとどまっている。また「活用」を規定したのは品 川区の条例のみであり、跡地(空き地)を条例の対象にしているのも、国分寺市と品川区 のみである。 特措法ができたとしても、積極的に対応するには条例策定が重要である。条例策定済み の市区も条例改正の課題がある。その課題は前述の課題(項目)のとおりであるが、再掲 しておきたい。 1.市町村内の関係部局による連携体制 2.協議会の組織 3.空き家等対策計画の作成 4.空き家等及びその跡地の活用の促進 5.特定空き家等に対する措置(公権力の行使等)の促進 なお、空き家対策等に関する国の財政上の措置や、住宅用地に係る固定資産税及び都市 計画税の課税標準の特例措置の対象から除外する措置などの課題もあるが、ここでは触れ ない。 <参考> 都内の条例 条 例 名 策定年月 改正 足立区老朽家屋等の適正管理に関する条例 2011 年 10 月 大田区空き家等の適正管理に関する条例 2012 年 12 月 ○(代執行)) 小平市空き家等の適正管理に関する条例 2012 年 12 月 八王子市空き家等の適正管理に関する条例 2012 年 12 月 新宿区空き家等の適正管理に関する条例 2013 年 6 月 墨田区老朽建物等の適正管理に関する条例 2013 年 7 月 台東区老朽建物等の適正管理に関する条例 2014 年 3 月 国分寺市空き地及び空き家等の適正な管理に関する条例 2014 年 3 月 品川区空き家等の適正管理等に関する条例 2015 年 11 月 都内の条例の規定事項 実 態 調 査 立 入 調 査 助 言 ・ 指 導 勧 告 命 令 公 表 代 執 行 緊 急 安 全 措 置 安 全 代 行 措 置 助 成 必 要 な 支 援 警察等との連携等 有 効 活 用 足立 ○ 大田 ○ 小平 ○ 八王子 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 新宿 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 墨田 ○ ○ ○ ○ 台東 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 国分寺 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 品川 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
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