分科会G2 全ての子どもに情報活用能力を身につける巡回授業プロジェクト 柏市教育委員会 教育研究所 ICT支援員 田中香穂里 キーワード : 情報リテラシー,情報活用能力,巡回授業,情報モラル 1.はじめに 柏市では、平成11年度より国の緊急雇用対策事業 でICT支援員事業を実施し、平成17年度からは市 で予算化し、現在まで事業を継続している。業務内容 は、授業支援と校務支援、教育委員会支援を行ってい る。授業支援については、近年は要請された学校に出 向き、学校の希望に応じた支援を行ってきた。コンピ ュータ室だけでなく、普通教室や体育館における授業 支援や、タブレット端末を活用した授業支援への要請 も増えており、ICT支援員による授業支援の守備範 囲が広がってきている。 ICTを一人で使える割合(図2) 100 80 80 72.1 60 40 27.1 43.5 30.4 48.8 78 71.4 49.3 55.4 上 位 校 20 0 小2 小3 下 位 校 小4 小5 小6 3.プロジェクトの概要 2.プロジェクト発足の経緯 分科会G2 学習指導要領解説では、小中学校で行うべき情報教 育の内容として、小学校の段階では「基本的な情報機 器の操作」や「適切な情報活用の学習活動」、「情報モ ラル」を行い、中学校では「適切かつ主体的、積極的 な情報活用の学習活動」および「情報モラル」を充実 させるとなっている。しかし、現状を見ると、全ての 学校の全ての学級において、情報教育が適切に実施さ れているとは言いがたい。 柏市独自で実施している「学習状況調査」の結果を 見ると、自分一人でICTを使えると答えている児童 生徒は6割程度にとどまっている(図1)。これらの状 況から、柏市児童生徒の情報活用能力の育成に関して は、十分に達成されているとは言いがたく、学校や学 級によって格差が見られる(図2)。このことは、 「情報 モラル」に関しても同様の傾向が見られ、学校や教師 の意識に温度差を感じていた。 そこで、ICT支援員が柏市内全小中学校(62校) に出向き、 「基本的な情報機器の操作」や「適切な情報 活用の学習活動」、「情報モラル」に関する授業を実施 することで、柏市内全児童生徒31、438名に対し て最低限必要な知識や技能、態度を身につけさせるこ とができると考えた。 (%) ICT機器活用の意識調査(図1) 80 I CT 授業は わかり易 い I CT 授業は 好き 60 I CT を使うの は好き 40 I CT を1人で 使える 100 柏市教育委員会の指導主事とICT支援員が協力し て、各学年に応じた授業モデルパッケージの開発を行 った。内容については、 「コンピュータの扱い方」や「文 字入力」といった基本的な操作を習得することや、 「プ レゼンテーション」のように様々な学習活動に活用で きるものを系統的に扱っている。情報モラルについて は、小学校では機器を利用する際に留意する基本的な 態度を、中学校ではSNS利用によるトラブルやネッ ト依存等の情報化の進展に伴う新たな課題等を扱う。 これらの授業については、文部科学省作成のコンテン ツや自作教材等を活用している。また、指導案や教材 についてはパッケージにして柏市立教育研究所から公 開する予定であるため、他市で活用してもらうことも できる。ICT支援員による授業は、それぞれの学年 の導入段階であるため、次からは各学級の担任が授業 を受け持つことになる。そのことは、ICT活用に消 極的であった教師に対して、意識や技能を高めさせる ねらいもある。 授業内容の詳細は下記の通りである。 学年 小1 (1H) 小3 (2H) 小5 (1H) 小6 (1H) 小2 小3 小4 小5 小6 中1 中2 中3 中2 (1H) − 106 − 内容 ◆はじめてのPC ログイン(ID、PASS)・マウスの練習 127 学級 4,790 人 ◆ローマ字入力 ホームポジションによるローマ字入力 112 学級 4,260 人 ◆プレゼンテーション作成 パワーポイントの基本操作の習得 116 学級 4,400 人 ◆情報モラル インターネット・携帯のルールとマナー 118 学級 4,480 人 ◆情報モラル ネット依存・SNSでのトラブル 94 学級 3,570 人 JAPET&CEC成果発表会 4.授業パッケージ作り 授業パッケージの内容を作成する上で、下記の事を 重要視して考えた。 ①分かり易い内容にするために、授業の中で使用 する、教材やコンテンツを考える。 ②ICT支援員5名の全員が、同じ授業を行う事が できる組み立てにする。 そのために、詳細なタイムスケジュールを作成し、授 業のシミュレーションを何度も行った。また、実際の 授業を行う中で気がついた改善点などをミーティング で話し合い、何度も内容の見直しを行った。 説明スライド クイズ 5.各授業内での使用しているコンテンツ 1年生 ◇自作コンテンツ:子ども達が楽しんでマウス練習が できる様なソフトを作成(JavaScript)。WEB公開し ているので、先生方にも自由に利用してもらっている。 情報モラルビデオ アンケート 6.成果と課題 ダブルクリック ドラッグ 0% 20% 40% 60% 80% 100% 児童の目標到達度合は? 今後の授業に役立ちますか? 授業の内容はどうでしたか? 今後も巡回授業を希望しますか? とても満足 指の位置の練習 ワークシート 5生生:コンテンツの利用なし 書式・画像挿入・デザイン・画面切り替え・スライ ドショーなどプレゼンソフトの基本操作を説明 (「わたしの好きな物」をテーマに3スライドを作成) 6年生・中学2年生 ◇スライド:説明用のパワーポイントを作成 (内容の一部はグリー株式会社より提供) ◇クイズ:パワーポイントで作成(マクロ) ◇ビデオ:情報モラルビデオ(文科省 委託事業) ◇アンケート:授業支援ソフトアンケート機能 (ネット使用状況についてなど) おおむね満足 あまり満足でない 満足でない 今回の全校巡回の情報モラル授業を行った後の教師 アンケートに、 「外部の人間が来て授業を行う事で、子ども達が真剣 に内容に取り組んでいて良かった。」 という内容のものが多数見られた。情報モラルの様な 内容に関しては、ICT支援員が行うという事の効果 も期待できると思われる。 子ども達を取り巻くネットの環境は、年々状況が変 化している。現在柏市では、各部署がそれぞれ対策を 行っている。今後は、教育委員会、補導センター、消 費者センター、ICT支援員など、各部署の職員が協 力し、子ども達へより効果的なアプローチを行ってい ける仕組みを作って行きたいと考えている。来年度に 向けて、さらに新しい取り組が開始している。 − 107 − 分科会G2 3年生 ◇画像素材:ホームポジションの指の位置練習用 ◇ワークシート:文字の入力練習用(Word ファイル) ◇WEBコンテンツ:キーボー島アドベンチャー (3年生以上の全児童のアカウントを登録) 情報活用の実践力をつけるために、導入部分をIC T支援員が受け持つ事で、この後の“活用”につなげ る授業を各学級担任に取り組んでもらえる様になって きた。また、市内全校を対象とする事で、少なくとも 2年に1回は市内児童が必ず巡回の授業を受ける事と なり、学校間格差の改善が期待できる。教師アンケー トの結果から、リテラシー到達目標の達成度合や満足 度も高く、この事業を継続する事で学年が上がった際 への成果も期待できる。
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