薄い平行並板間の 3He-A 相の量子渦の理論 量子多体物理学 41420126 川上 拓人 多成分の秩序変数を持つ超流動 3He では,様々な量子渦状態が実現する.中でも渦芯に マヨラナ零エネルギー励起を内在するものが,近年注目を集めている.この励起は,その存 在がトポロジカルに守られており,非可換統計性に従うため [1],外部からの擾乱に対し て強固な量子計算機を実現するための基礎としても注目されている.この励起についての 研究は,カイラル p 波の対を形成する超流動体や超伝導体をはじめ,様々な物質系を舞台 として理論的に行われている. p 波超流動,超伝導体の中でも,3He-A 相の系は,物理パラメーターが明確で実際に実 験が行われている点で有利性がある.マヨラナフェルミオンの存在可能性が示唆されてい るのは,カイラル p 波の対称性を持つ超伝導体や超流動体で,3He-A 相においてその状態 が実現するのは, 薄い平行並板の間に閉じ込めたときである. そのような状況での実験は, 実際に東大物性研 (ISSP) 等の実験グループによってなされている[2]. 現行の実験をより定量的に評価し, マヨラナ準粒子励起を持つ量子渦を実現するために, 本研究では,より実験に即した理論計算を行う.具体的には,凝縮エネルギー,空間変化 のエネルギー,ダイポール相互作用,磁場との相互作用を含めた Ginzburg-Landau 理論 に基づき,量子渦の構造や,その実現領域について,定量的な計算を行う.特に織目構造 の外部磁場依存性に着目し,外部磁場の方向が並板に垂直な場合,水平な場合,それ以外 の傾いた磁場の場合についてそれぞれ計算を行った. 主な結果としては, 次の通りである. 外部磁場の方向が並板に垂直な場合と水平な場合については,マヨラナフェルミオンを内 在する渦が実現する.それらの渦状態が,現行の実験で制御可能な領域で存在している. また,傾いた磁場の場合については,図に示すような,非自明な織目構造を持つ. [1] D.A. Ivanov: Phys. Rev. Lett. 86 (2001) 268. [2] M. Yamashita, et al.: Phys. Rev. Lett. 101 (2008) 025302. 図.磁場を並板に対して傾斜した方向に加えた場合の,秩序変数の空間構造,左から, (a)p+|σσ> 対,(b) p-|σσ> 対, (c) p+|↑↓+↓↑> 対, (d) p-|↑↓+↓↑> 対 (σ = ↑ or ↓)のもの.(c) の秩序変数は,d-vector が量子化軸と垂直に振動しているこ とを示す.
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