窒化物半導体ナノ構造のキャリアダイナミクスと集団配列効果 江馬一弘 (上智大学理工学部) 1.研究概要 本研究では、窒化物半導体 GaN ナノコラム構造での、動的電子相関効果とダイナミクス、およ び、ナノコラムが多数配列したときのマクロな光学応答、の 2 点に着目した。GaN ナノコラムとは、 図1に示すように、直径 100 nm 程度、高さ 1 µm 程度の柱状結晶である[1]。このナノコラムの中に InGaN の量子井戸を形成することで、可視域全体 にわたる良好な発光が得られたので、発光特性と キャリアダイナミクスを詳細に調べた。また、ナ ノコラムのサイズは可視光の波長と同程度であ るため、集団での配列の仕方はマクロな光学応答 に大きな影響を及ぼす。したがって、ナノコラム が多数配列したときの集団効果を解明した。 2.緑~赤領域の InGaN/GaN ナノコラムの光学特性 GaN(バンドギャップ:~ 3.4 eV)と InN(バンドギャップ: ~ 0.7 eV)の混晶 InxGa1-xN では、In 組成 x を変えることで、可 視域全体をカバーするバンドギャップを得ることができる。し かし、青色領域の発光効率は十分に高いが、In 組成を増やして 緑→黄色→赤色領域にしていくと、欠陥の増加やピエゾ電界の 増加によって、発光効率は格段に落ちてしまう。ナノコラムは、 これら発光効率を落とす要因が抑えられており、赤領域まで効 率良い発光が得られる。図2に、異なるコラム径の InGaN/GaN ナノコラムの PL スペクトルを示すが、赤色領域まで良好な発 光特性が見られることがわかる[2]。コラム径による発光波長の 変化は量子効果ではなく、InGaN 量子井戸への In の取り込み 方に変化があるためと考えている。 本研究では、緑から赤領域に注目して、InGaN/GaN ナノコラ ムの発光特性、特に、内部量子効率、発光寿命、発光緩和過程 などの詳細を研究した。内部量子効率の具体的な値など、詳細 は講演で述べるが、黄色や赤色領域でも青・緑色領域に匹敵す る大きな値を示している。また、発光特性は、いくつかの局在 準位からの発光であることを反映して、単一指数関数ではなく、図3に示すような拡張指数関数で 表されている[3]。ここで、βは発光寿命の分布の指標である。これらパラメータの励起密度依存や 温度依存性を解析して、局在準位間の移動を含めた発光緩和機構の詳細を解明した。 3.ナノコラム集団の配列効果 コラム径数 100nm のナノコラムは可視光領域に対してミー散乱共鳴を起こす。したがって、ラン ダムに配列したナノコラムでは、光のアンダーソン局在が起き、ランダムレーザーとして発振する 可能性がある。実際に GaN ナノコラムを用いて、いくつかの試料で強く光励起すると、ランダム レージングが観測された。実際のサンプルにおけるナノコラムの配置から、光局在の程度を計算し たところ、局在とランダムレージングが明確に対応していることが確認された[4]。さらに,ランダ ム配列を人工的に作成することで,システムサイズ・充填率などのパラメータとランダムレージン グとの関係を実験的にも詳細に調べることも可能となった。 光局在については、詳細な数値解析を行い、光局在の全体像を示す擬ギャップマップの作成や、 単一パラメータスケーリング則に従うことなどを明らかにした[5-7]。さらに、GaN ナノコラムの上 部に配置した InGaN 量子井戸を光局在のアンテナとして利用し、そこからの発光を近接場顕微鏡で 測定することにより、光のアンダーソン局在を直接観測することにも成功している[8]。図4が直接 観測の例であり、所々に光強度が強く現れるスポットが、光 局在に由来していることを統計的解析により確認した。 また、ナノコラムを規則配列すると、2 次元フォトニック 効果を利用した誘導放出および光励起レーザー発振も観測で きる[9,10]。図5は、三角格子に規則配列した試料を光励起し た発光スペクトルである。弱励起では、In 組成ゆらぎに由来 するブロードな発光が観測されるが、 励起を強くしていくと、 フォトニックバンド端からのレーザー発振が観測される。図 6はレーザー発振しているときの時間分解スペクトルである。 これは、ナノコラムでもフォトニック効果を利用した面発光 レーザーが実現できることを示唆しており、黄色から赤色領 域での電流注入型レーザー発振に期待を持たせる成果である。 参考文献 [1] M. Yoshizawa, et al., Jpn. J. Appl. Phys. 36, L459 (1997). [2] H. Sekiguchi et al., Appl. Phys. Lett. 96, 231104 (2010). [3] J. Naka, et al., Phys. Stat. Solidi C, in press (2012). [4] M. Sakai, et al., Appl. Phys. Lett. 97,151109(2010). [5] Y. Inose, et al., J. Phys. C 193, 012055(2009). [6] Y. Inose, et al., Phys. Rev. B 82, 205328(2010). [7] Y. Inose, et al., Proc. SPIE 7946, 794629(2011). [8] 酒井,他,光学 39 巻 9 号,437(2010). [9] T. Kouno et al. , Optics Express 17, 20440(2009). [10] T. Kouno, et al., Electronics Lett. 46, 644(2010).
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