朝 、食堂 でスウプを一 さじ、すっと吸 ってお母 さまが、 「あ」 と幽 かな叫

斜陽
あさ
太宰治
しょくどう
(日文朗讀乙組)
ひと
す
かあ
朝、 食 堂 でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、
「あ」
かす
さけ
ごえ
あ
と幽かな叫び声をお挙げになった。
かみ
け
「髪の毛?」
なに
はい
おも
スウプに何か、イヤなものでも入っていたのかしら、と思った。
「いいえ」
かあ
なにごと
な
ひと
お母さまは、何事も無かったように、またひらりと一さじ、スウ
くち
なが
こ
かお
よこ
む
かって
まど
まんかい
プをお口に流し込み、すましてお顔を横に向け、お勝手の窓の、満開
やまざくら
しせん
おく
かお
よこ
む
の 山 桜 に視線を送り、そうしてお顔を横に向けたまま、またひら
ひと
ちい
くちびる
すべ
こ
りと一さじ、スウプを小さなお 唇 のあいだに滑り込ませた。ヒラ
けいよう
かあ
ばあい
けっ
こちょう
な
ふじんざっし
リ、という形容は、お母さまの場合、決して誇張では無い。婦人雑誌
で
しょく じ
かた
ちが
などに出ているお 食 事のいただき方などとは、てんでまるで、違っ
おとうと
なお じ
さけ
の
あね
わたし
ていらっしゃる。 弟 の直治がいつか、お酒を飲みながら、姉の 私
むか
い
こと
しゃくい
きぞく
に向ってこう言った事がある。「爵位があるから、貴族だというわ
しゃくい
な
てんしゃく
も
けにはいかないんだぜ。爵位が無くても、 天 爵 というものを持っ
りっぱ
きぞく
しゃくい
も
ている立派な貴族のひともあるし、おれたちのように爵位だけは持
きぞく
せんみん
っていても、貴族どころか、賤民にちかいのもいる。」
http://koenoizumi.art-studio.cc/EXMICDazaiOsamu_SHAYOU_1_1.mp3